高強度コンクリートの種類と特徴による施工方法の違い

高強度コンクリートの種類と特徴による施工方法の違い

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高強度コンクリートの種類と特徴

高強度コンクリートの基本情報
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定義

一般的に設計基準強度が36N/mm²を超えるコンクリートを指し、100N/mm²以上は超高強度コンクリートと呼ばれます

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主な用途

高層建築物の柱部、橋梁などの土木構造物、広い居住空間を確保したい建築物

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メリット

部材断面の縮小化、スパンの長大化、部材の軽量化、施工の省力化、高い耐久性

高強度コンクリートは、一般的なコンクリートよりも高い圧縮強度を持つコンクリートのことを指します。日本建築学会の建築工事標準仕様書・同解説JASS5では、設計基準強度が36N/mm²を超えるコンクリートと規定されています。ただし、分野によって定義が異なり、土木分野では土木学会のコンクリート標準示方書で設計基準強度50~100N/mm²のコンクリートを高強度コンクリートとしています。

 

日本工業規格のJIS A 5308では、呼び強度50、55、60が高強度コンクリートとして定められており、これらは普通コンクリート(呼び強度18~45)よりも強度が高い特殊なコンクリートとして位置づけられています。

 

高強度コンクリートの種類と強度区分

高強度コンクリートは、その強度によっていくつかの区分に分けられます。

 

  1. 高強度コンクリート(36N/mm²超~100N/mm²未満)
    • 建築分野:設計基準強度36N/mm²超
    • 土木分野:設計基準強度50~100N/mm²
    • JIS規格:呼び強度50、55、60
  2. 超高強度コンクリート(100N/mm²以上)
    • 設計基準強度120N/mm²
    • 設計基準強度150N/mm²
    • 設計基準強度180N/mm²
    • 設計基準強度200N/mm²

特に超高強度コンクリートでは、引張強度を改善するために鋼繊維を含有した超高強度繊維補強コンクリート(UFC:Ultra high strength Fiber reinforced Concrete)や、FRPなど収縮しない人工軽量骨材を使用した低収縮型超高強度コンクリートなどの種類があります。

 

高強度コンクリートの特徴と普通コンクリートとの違い

高強度コンクリートは普通コンクリートと比較して、以下のような特徴があります。

 

  1. 材料配合の特徴
    • セメント量が多く、水が極端に少ない(低水セメント比)
    • 粘性が大きく、材料分離抵抗性が高い
    • 作業性(ワーカビリティ)は低下する傾向がある
  2. 物理的特性
    • 緻密な構造のため、中性化はほとんど進行しない
    • 自己収縮は普通コンクリートより大きくなる
    • 火災時に爆裂を起こしやすい(強度が高いほど危険性が増す)
  3. 施工上の特徴
    • 粘性が高いため締固め範囲が小さくなる
    • ブリーディングが少ないため、上面が急激に乾燥しやすい
    • ポンプ圧送時の負荷が大きく、スランプロスが大きくなる傾向がある

高強度コンクリートの最大の利点は、部材断面を小さくできるため、建築物の重量負担の軽減やスパンの広さを大きく確保できることです。また、低水セメント比で緻密なため、高い耐久性を持つコンクリートとなります。

 

高強度コンクリートの製造方法と使用材料

高強度コンクリートの製造には、普通コンクリートと同様の材料が使用されますが、配合や使用する材料の品質管理がより重要になります。

 

  1. セメント
    • 一般的には普通ポルトランドセメントを使用
    • 設計基準強度60N/mm²以上では、低発熱系の中庸熱ポルトランドセメントや低熱ポルトランドセメントを使用
    • 設計基準強度80N/mm²以上では、シリカヒュームを結合材の一部として使用し、流動性向上や強度増加を図る
  2. 骨材
    • 粗骨材は砂利より砕石の方が適している(セメントペーストとの付着強度が良い)
    • 岩種は安山岩の砕石が石灰岩より強度が高くなる傾向がある
    • アルカリシリカ反応性試験で無害と判定された骨材を使用する必要がある
    • 練混ぜに用いる水は回収水を使用してはならない
    • 水セメント比は極めて低く設定される(超高強度コンクリートでは12.5%程度)
  3. 混和剤
    • 高性能AE減水剤を使用(ポリカルボン酸系が主流)
    • 粘性が大きくても流動性の良いコンクリートを確保するために重要
    • 外気温やコンクリート温度により使用量調整が必要
  4. 空気量
    • 普通コンクリートの空気量は4.5%だが、高強度コンクリートでは2.0~3.0%程度に設計
    • 空気量が1.0%多くなると圧縮強度が4~6%低下するため
    • 凍害を受ける恐れがある場合は、凍結融解作用に対する抵抗性を確保するために空気量4.5%を標準とする

超高強度コンクリート(Fc200N/mm²クラス)の製造では、シリカフュームをセメント量の20%まで増量して使用するなど、特殊な配合技術が用いられています。また、安定した強度を確保するために、高温養生(コンクリート温度80℃以上・72時間以上の保温・加熱養生)などの特殊な方法も確立されています。

 

高強度コンクリートの施工ポイントと注意点

高強度コンクリートの施工には、その特性を理解した上での適切な対応が必要です。主な施工ポイントと注意点は以下の通りです。

 

  1. 運搬・打設時の注意点
    • ポンプ車使用時は圧送負荷が大きくスランプロスが大きくなるため注意が必要
    • コンクリートバケット使用時は打込み速度が遅くなるため、打ち継ぎなどの不具合に注意
  2. 締固め作業
    • 粘性が大きいため締固め範囲が小さくなる傾向がある
    • 高層RC建築物では配筋量も多くなるため、確実に充填できるよう念入りな締固めが必要
    • 振動機の使用方法と挿入間隔に注意する
  3. 表面仕上げと養生
    • ブリーディング水が少ないため上面が急激に乾燥し、均しが困難になる
    • 散水などを行い仕上げる(散水量は50~100g/m²程度が適切)
    • 上面の押さえ完了直後のプラスチック収縮ひび割れを防止するために、散水や養生シートなどによる対策が必要
  4. 火災対策
    • 高強度コンクリートは緻密なため、火災時に水分の逃げ道がなく爆裂を起こす危険性がある
    • ポリプロピレンなどの繊維を混入することで爆裂防止を図る
    • 繊維は高温になると溶け、水分移動の経路を確保する
  5. 品質管理
    • 水セメント比、スランプ、空気量などの品質管理を厳格に行う
    • 温度管理(特に夏期・冬期)に注意する
    • 養生条件の管理を徹底する

特に超高強度コンクリートでは、自己収縮によるひび割れを防止する技術の採用や、養生・構造体強度管理(コア強度管理)を含めた総合的な品質管理が重要になります。

 

高強度コンクリートの適用事例と将来展望

高強度コンクリートは、主に以下のような建築物や構造物に適用されています。

 

  1. 高層建築物
    • 超高層集合住宅(高さ200m級、70階建て)
    • 超高層オフィスビル
    • ホテルや複合施設
  2. 土木構造物
    • 橋梁(特に長大スパンの橋梁)
    • ダム
    • 海洋構造物
  3. 特殊建築物
    • 広いスパンを必要とするホールや屋内施設
    • 耐震性能が特に求められる重要建築物
    • 耐久性が要求される構造物

具体的な適用事例としては、「Wコンフォートタワーズ」「シティタワー札幌大通」「六本木ヒルズレジデンスAB」「グランクロスタワー広島」「ベイシティ晴海スカイリンクタワー」などの超高層集合住宅があります。

 

将来的には、さらなる高強度化や施工性の向上、環境負荷低減などの観点から研究開発が進められています。特に注目されているのは以下の点です。

 

  • より高い強度(250N/mm²以上)の実用化
  • 自己収縮の制御技術のさらなる向上
  • 環境負荷の少ない材料(産業副産物の活用など)の使用
  • 施工性と強度のバランスを最適化する配合技術
  • IoTを活用した品質管理システムの導入

高強度コンクリートは、建築物の高層化や大スパン化、耐久性向上などの要求に応えるために、今後もさらに発展していくことが期待されています。

 

高強度コンクリートの建築基準法と大臣認定について

高強度コンクリートを建築物に使用する場合、建築基準法に基づく規制や認定が必要になります。

 

平成12年6月1日に施行された建築基準法の改正により、建築物の基礎、主要構造物、その他安全上重要である部分に使用する指定建築材料は、日本工業規格(JIS規格)のJIS A 5308に適合するもの、または国土交通大臣が指定建築材料として認定したものでなければならないと定められています。

 

JIS A 5308では呼び強度60までが規定されているため、それを超える高強度コンクリートを使用する場合は大臣認定が必要になります。

 

大臣認定取得のプロセスは以下の通りです。

  1. 水セメント比3点以上で実機試験練りを行い、模擬構造体を作成
  2. 模擬構造体からコア供試体を採取し、標準養生供試体の圧縮強度と構造体コンクリートを保証する材齢における圧縮強度の差(S値)を求める
  3. 季節別(夏期、標準期、冬期)に実験を実施
  4. 実験結果をもとに標準配合、S値、使用材料の品質基準値、製造マニュアルなどを含めた申請図書を作成
  5. 認定機関へ提出し審査委員会の承認を受ける
  6. 国土交通省へ申請し審査を受けて承認されれば大臣認定取得

このプロセスは通常、開始から認定取得まで1年半~2年ほどかかります。ただし、現在は官報で告示されたS値を使用すれば、模擬構造体の作成が不要になり季節別の実験を行わなくても認定取得が可能になっています。これにより、実験期間の短縮や模擬構造体の作成費用の削減などのメリットがあります。

 

超高強度コンクリート(Fc200N/mm²クラス)については、一部の建設会社が国土交通大臣の材料認定を取得しています。例えば、戸田建設は晴海小野田レミコン(株)と共同で、設計基準強度(Fc)200N/mm²の現場打込み超高強度コンクリートについて、建築基準法第37条に基づく国土交通大臣の材料認定を取得しています(認定番号:MCON-2585)。

 

このような高強度コンクリートの認定取得は、技術的な裏付けと品質管理体制の確立が不可欠であり、建設会社と生コン工場との共同申請による取得が一般的です。ただし、実績の蓄積とともに、工場単独での認定取得も増えてきています。

 

高強度コンクリートの使用は、建築物の安全性と耐久性を確保するために、適切な認定と品質管理のもとで行われる必要があります。建築従事者は、これらの法規制や認定制度を理解した上で、適切な材料選定と施工管理を行うことが求められます。

 

構造物の高層化や大型化に伴い、高強度コンクリートを使用する割合は年々増加しています。しかし、高強度コンクリートは粘性が大きいことからワーカビリティーが損なわれることがあります。製造面で品質を確保しなければ施工性の低下を招いてしまうため、高性能AE減水剤の使用量調整を最適に行い、流動性が保たれた高強度コンクリートを製造することで施工欠陥を防止することが重要です。

 

建築従事者は、高強度コンクリートの特性を十分に理解し、適切な材料選定、製造管理、施工管理を行うことで、安全で耐久性の高い建築物を実現することができます。