
公営住宅における家賃滞納への行政対応は、公営住宅法第32条第1項第2号に基づき、3ヶ月以上の滞納で明渡し請求が可能となります。しかし、実際の対応は段階的かつ慎重に行われています。
国土交通省の「公営住宅の管理の適正な執行について」(平成元年管理適正化通知)では、以下の手順が示されています。
特に注目すべきは、単純な督促だけでなく、入居者の置かれている状況に応じた個別対応が重視されている点です。これは民間賃貸とは大きく異なる行政ならではのアプローチといえます。
町村レベルでの具体的な対応マニュアルでは、滞納発生から15日以内の催促状送付、3ヶ月滞納時の個別催告、複数回の納付指導を経て最終催告に至る流れが標準化されています。
家賃滞納問題に対する行政支援の中核となるのが住居確保給付金制度です。この制度は、収入減少により家賃支払いが困難になった世帯に対し、国が直接大家へ家賃を支払う画期的な仕組みです。
制度の特徴。
大阪市の例では、単身世帯で月額84,000円+家賃額(上限4.0万円)以下の収入基準が設定されており、地域により基準額が異なります。
コロナ禍以前は「離職後2年以内」「熱心な求職活動」など厳格な要件により利用が限定的でしたが、要件緩和により爆発的に利用が増加しました。現在では収入減少者も対象となり、より幅広い層が活用できる制度となっています。
さらに、求職者支援制度との併用により、最大6ヶ月間の職業訓練を受けながら月10万円の給付を受けることも可能です。
公営住宅管理における重要な特徴として、民生部局との密接な連携があります。これは民間賃貸管理では見られない行政特有の包括的アプローチです。
連携の具体的内容。
国土交通省通知では、「所得が著しく低額又は病気等により著しく多額の支出を要する等により、家賃負担が著しく過大となり、やむをえず家賃を支払えない状況にある者」に対しては、家賃減免措置と併せて民生部局との連携を十分にとることが明記されています。
この連携により、単純な督促・回収業務を超えた、入居者の生活再建を目指した総合的な支援が可能となります。特に高齢者や障害者、ひとり親世帯などの社会的弱者に対しては、福祉制度との連動により効果的な支援が展開されています。
公営住宅における家賃滞納への法的対応は、民間賃貸と基本的な流れは同様ですが、行政特有の慎重な手続きが特徴的です。
法的手続きの段階。
民事執行法第168条に基づく「不動産の引渡し等の強制執行」では、執行官が債務者の占有を解いて債権者に占有を取得させる方法により実行されます。
強制執行の実際の流れでは、まず執行官が物件を訪問し、入居者に対して「明渡しの催告」を行います。この段階で自主的な退去を促し、応じない場合に強制的な明渡しが実行されます。
公営住宅管理者は、強制執行申立て前に複数回の納付指導(目安は3回以上)を実施し、最終納付催告及び明渡し請求予告を行う必要があります。この慎重な手続きにより、入居者の権利保護と適正な管理運営の両立が図られています。
行政による家賃滞納対策の特徴として、予防的アプローチへの注力があります。これは民間賃貸管理では実現困難な、行政ならではの包括的な取り組みです。
予防的取り組みの具体例。
特に注目すべきは、収入認定時の詳細な生活状況把握です。公営住宅では年1回の収入申告が義務付けられており、この機会を活用して家計状況の変化を早期に察知し、必要に応じて支援制度への橋渡しを行っています。
また、高齢者施設との連携では、医師の関与不足が課題となっていることが研究で明らかになっています。この知見を活用し、かかりつけ医を中心とした多職種連携により、医療・介護・住宅の包括的支援体制の構築が進められています。
さらに、デジタル技術を活用した早期発見システムの導入も進んでいます。家賃納付状況のデータ分析により、滞納リスクの高い世帯を事前に特定し、予防的な支援を提供する取り組みが各自治体で展開されています。
これらの予防的取り組みにより、滞納発生率の低下と入居者の生活安定の両立が実現されており、民間賃貸管理においても参考となる先進的な事例として注目されています。
公営住宅管理における家賃滞納対応の詳細な手順と法的根拠について
https://www.soumu.go.jp/main_content/000527736.pdf
住居確保給付金制度の申請方法と支給要件について
https://www.city.osaka.lg.jp/fukushi/page/0000501083.html
町村担当職員向けの公営住宅家賃滞納対応の実務マニュアル
https://www.sasaki-law.jp/works/work3_1.html