

チオ硫酸イオン \(\mathrm{S_2O_3^{2-}}\) の半反応式は、四チオン酸イオン \(\mathrm{S_4O_6^{2-}}\) への変化として扱われるのが標準的です。[2][3][1]
代表的な半反応式は、チオ硫酸側から見ると生成物側に電子が現れる形になり、このことからチオ硫酸イオンが還元剤として振る舞うことが分かります。[11][2]
半反応式を組み立てるときは、酸化還元反応全般と同様に「原子数の保存」と「電荷の保存」を順番に満たしていく手順が推奨されています。
参考)チオ硫酸ナトリウムの半反応式の作り方
具体的には、まずチオ硫酸イオンが何に変化するか(ここでは四チオン酸イオン)を決め、その後に硫黄と酸素の個数が左右でそろうように係数を調整し、最後に電子数で電荷バランスを合わせる流れです。
参考)【還元剤】チオ硫酸ナトリウムNa2S2O3の半反応式の作り方…
意外と受験参考書でも強調されないポイントとして、「係数の 2」と「失った電子が 2」という数字を混同しやすい点があります。
参考)チオ硫酸イオンの価数 うっかり2をかけてしまいがち|『高校物…
チオ硫酸イオンが 2 個関与する半反応式では、電子は 2 個動いていますが、1 個あたりが失う電子は 1 個なので、価数変化としては「1」の変化に相当するという整理が必要です。
建築従事者の視点では、半反応式そのものを丸暗記するよりも、「電子がどちら側に書かれているか=酸化剤か還元剤か」という判定ができることが重要です。
参考)半反応式の覚え方と作り方|酸化剤・還元剤の半反応式の一覧
youtube
安全資料や薬品 SDS を読む際に、「チオ硫酸ナトリウムは還元剤として扱う」と理解しておくと、他の酸化性薬品との組み合わせリスクを感覚的につかみやすくなります。
参考)チオ硫酸ナトリウム - Wikipedia
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[12]
[9][10][15]
参考:チオ硫酸ナトリウムの半反応式を含む一覧と導出の考え方。
酸化剤と還元剤の半反応式一覧(やまたくサイエンス)
チオ硫酸イオンの半反応式は、ヨウ素滴定(ヨウ素還元滴定)での計算に直結します。[16][4]
ヨウ素滴定では、酸性条件下で残留塩素や溶存酸素などをヨウ化物イオンでヨウ素に変え、そのヨウ素をチオ硫酸ナトリウム標準溶液で滴定して量を求めます。[5][17][4]
国土交通省の試験方法でも、残留塩素や溶存酸素の測定にヨウ素滴定法が位置付けられており、滴定の段階でチオ硫酸ナトリウム溶液が使われることが明記されています。
参考)https://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/common/100081767.pdf
この時、チオ硫酸イオンはヨウ素から電子を受け取る還元剤として働き、半反応式のストイキオメトリがそのまま「ヨウ素 1 モルに対してチオ硫酸イオンが何モル必要か」という計算条件になります。
参考)ヨウ素滴定の解説(チオ硫酸イオンとは何か、ヨウ素デンプン反応…
建築の実務でも、以下のような場面でヨウ素滴定とチオ硫酸が関わります。
参考)https://www.city.nagoya.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/034/657/kentikubututebikir6.4.pdf
[5][18]
[19][17][5]
[19][6]
半反応式の感覚を持っていると、例えば「残留塩素が多いほどヨウ素が多く生成し、それを還元するためにチオ硫酸ナトリウムを多く消費する」といった定性的なイメージが掴みやすくなります。
参考)https://www.ps.toyaku.ac.jp/~yanagida/bunsekiPDFs/13th1222.pdf
また、滴定値から逆算して「何 mg/L の塩素に相当するか」を式に落とし込むときも、反応式に基づくモル比を意識しておくと計算ミスを減らせます。
| 対象物質 | 前処理での反応 | チオ硫酸による滴定のイメージ | 建築分野での典型的な場面 |
|---|---|---|---|
| 残留塩素 | 塩素がヨウ化物イオンを酸化してヨウ素を生成 | 生成したヨウ素をチオ硫酸イオンが還元し、量から塩素濃度を計算 | 上水設備管理、プール水・浴槽水の水質確認 |
| 溶存酸素 | マンガン塩を介してヨウ素を放出するウィンクラー法 | 遊離したヨウ素をチオ硫酸ナトリウムで滴定 | 河川・地下水調査、地盤・護岸計画の環境調査 |
参考:ヨウ素滴定とチオ硫酸ナトリウムを用いる水質試験法の詳細。
参考)https://www.mlit.go.jp/river/shishin_guideline/kasen/suishitsu/pdf/s03.pdf
河川等の水質試験方法(国土交通省)
銀塩写真の現像プロセスでは、未露光のハロゲン化銀を溶かして画像を固定する「定着液」にチオ硫酸ナトリウム(俗称ハイポ)が古くから使われています。[20][13][9]
チオ硫酸イオンは銀イオンと錯体を形成して水に溶ける形に変え、露光して金属銀に変わった部分だけを残すことで画像を安定させます。[21][22][9]
文化財分野の資料でも、写真フィルムや銀塩写真の保存において、チオ硫酸ナトリウムを適切に用いた定着と十分な水洗が長期安定性の鍵だとされています。
参考)写真の保存と保護のための写真の基礎
建築分野では、施工写真や竣工写真がすでにデジタル化されている現場が多い一方で、長期保存義務のある古い紙焼き写真やネガが未だに保管棚に眠っているケースも少なくありません。
こうした銀塩写真は、過去にどのようなチオ硫酸処理を受けたかによって、現在進行形での劣化リスクが変わってきます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/photogrst/79/1/79_65/_pdf
定着不足でチオ硫酸が残存していると、銀とハロゲン化物の残渣がゆっくり反応し、画像が黄変したり退色したりすることが知られています。
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[22][9]
[22]
チオ硫酸 半反応式そのものは銀塩写真の教科書ではそれほど前面に出ませんが、「チオ硫酸イオンが還元剤である」「金属銀との錯形成で安定化する」という性質は、写真保存の議論の裏側に常に存在しています。
参考)写真の現像(ハロゲン化銀の利用)
デジタル全盛の今だからこそ、紙焼きの施工記録が失われたときのリスクを考え、銀塩写真の化学的な脆弱性を踏まえてアーカイブ計画を見直す価値があります。
参考:銀塩写真の感光から定着までの原理とチオ硫酸塩の役割。
光と放射線による銀塩写真の感光の原理
下水道や汚水処理施設のコンクリート腐食では、硫化水素ガスが気相で酸化されて硫酸となり、それがセメント水和物と反応してエトリンガイトなどを生成しながら躯体を激しく劣化させることが知られています。[23][24][25][7]
硫酸腐食のメカニズムを詳しく調べた研究では、硫黄酸化細菌が硫化水素だけでなく、チオ硫酸塩などの中間的な硫黄化合物も酸化し、結果として強い酸を生み出すことが示されています。[8][26][27]
建築・土木の視点で見ると、チオ硫酸自体を現場で大量に扱うことは多くありませんが、「チオ硫酸を含む硫黄系イオンが好気性細菌の代謝で硫酸へと酸化される」という事実は、下水道施設の腐食リスク評価で重要なヒントになります。
参考)https://bic.gr.jp/wp-content/uploads/2018/12/File.49.pdf
特に、硫黄酸化細菌用の培地にチオ硫酸塩を含めてコンクリート片を培養し、培地の pH 低下やコンクリート表面の変化から腐食感受性を評価する実験も報告されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/38/5/38_5_330/_pdf
| ステップ | 主な化学種 | コンクリート側の影響 |
|---|---|---|
| 1. 硫化水素の発生 | 下水中の硫化物・有機物が嫌気的に分解され硫化水素ガスに | 気相部に硫化水素が滞留しやすい構造でリスク増大 |
| 2. 硫黄酸化細菌による酸化 | 硫化水素やチオ硫酸塩などが段階的に酸化され硫酸へ | コンクリート表面近傍の pH が極端に低下し、表層劣化が進行 |
| 3. セメント水和物との反応 | 硫酸と Ca(OH)₂・C-S-H などが反応し石膏・エトリンガイトを生成 | 組織が粗くなり、膨張やひび割れ・鉄筋腐食を誘発 |
一方、設備やプール・浴槽の管理現場では、過剰な塩素を中和する薬剤としてチオ硫酸ナトリウムが市販されており、「塩素中和剤」「ハイポ」などの名称で広く利用されています。
参考)次亜塩素酸ソーダの中和について(Q&A)|製品情報|新着情報…
製品情報では、水中の有効塩素 1 g を中和するのに必要なチオ硫酸ナトリウムの質量が具体的に示されており、プール水や浴槽水の塩素濃度調整に欠かせない薬剤として案内されています。
参考)https://yamato-chemi.co.jp/shohin/pdf/jiaen_noudo.pdf
漏えいした次亜塩素酸ナトリウム溶液の処理方法としても、一定倍率で希釈した後に結晶チオ硫酸ソーダを添加して中和する方法が、薬品メーカーの技術資料で推奨されています。
参考)https://www.aandt.co.jp/jpn/medical/tree/vol_6/
ここでも、チオ硫酸イオンが還元剤として振る舞い、次亜塩素酸の酸化力を落として安全な状態に近づけるという意味で、半反応式の考え方がそのまま背景にあります。
参考)http://www.eonet.ne.jp/~again/2006/aqua_kiso/ensocyuwa.htm
[8][26][7]
[32][10][28]
[33][25][7]
参考:下水道施設コンクリートの硫酸腐食モデルと防食技術の概説。
参考)https://www.jswa.go.jp/jigyou/pdf/enjo/enjo2412.pdf
硫酸腐食環境下でのコンクリートの劣化予測モデル(日本コンクリート工学協会)
チオ硫酸 半反応式は、教科書では一見マニアックに見えますが、「還元剤の代表例」として酸化還元反応のトレーニングに使われることが多い題材です。[11][1][3][2]
実務者教育では、半反応式を単に暗記させるのではなく、「ヨウ素滴定」「塩素中和」「コンクリート腐食」といった自分の現場に近いキーワードと結び付けて説明すると、理解の定着がかなり違ってきます。[10][4][25][5]
例えば、社内勉強会で以下のような流れを組むと、化学に苦手意識のある技術者でもついてきやすくなります。
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[6][4][5]
[1][3][2]
また、ヨウ素滴定や塩素中和では、実務的には「必要量の計算」が重要になるため、半反応式からモル比を読み取る練習を盛り込むのがおすすめです。
薬品メーカーの技術資料には、「残留塩素濃度×排水量×係数=必要なチオ硫酸ソーダ量」といった簡便式が紹介されているので、その式の背景にある半反応式を逆に説明してみると、机上の化学と現場計算が一本の線でつながります。
参考)チオ硫酸ソーダ(俗名ハイポ)による塩素処理
意外な活用として、若手にコンクリート腐食の写真を見せながら、「この裏でどんな酸化還元反応が連鎖しているのか」をディスカッションしてもらう方法があります。
硫化水素の生成からチオ硫酸などの中間体、最終的な硫酸生成とセメント水和物の分解までを、簡単な模式図と半反応式で整理させると、材料・環境・維持管理が一体となった見方を育てることができます。
最後に、チオ硫酸 半反応式は「ただの受験知識」ではなく、水処理・防食・写真保存といった建築の周辺領域をつなぐ「共通言語」として使える道具だと捉えると、学び直しのモチベーションも上がります。
自分の担当業務に最も近い応用例(プール管理、排水処理、下水道施設など)を一つ選んで、そこから逆算して半反応式を学ぶスタイルを意識してみてください。
参考)【塩素中和君】 ※スプーン付】塩素中和剤 チオ硫酸ナトリウム…