硫化水素硫酸違いと建築現場の腐食対策

硫化水素硫酸違いと建築現場の腐食対策

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硫化水素硫酸違い

硫化水素と硫酸の主な違い
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化学式と状態

硫化水素(H₂S)は気体、硫酸(H₂SO₄)は液体で、分子構造が根本的に異なる

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危険性の種類

硫化水素は毒性ガスとして吸入による中毒、硫酸は強酸として接触による腐食が主な危険

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建築現場への影響

硫化水素が酸化されて硫酸となり、コンクリート構造物の腐食劣化を引き起こす

硫化水素の化学式と特徴

硫化水素は化学式H₂Sで表される、硫黄原子1個と水素原子2個からなる無機化合物です。常温常圧下では無色の気体として存在し、最大の特徴は腐った卵のような強烈な臭気(腐卵臭)を放つことです。この特徴的な臭いは、わずか0.02ppm程度の低濃度でも人間の嗅覚で感知できるため、硫化水素の存在を早期に察知する手がかりとなります。
参考)硫化水素 - Wikipedia

硫化水素は空気よりも重く(比重1.19)、水に溶けやすい性質を持っています。水に溶解すると硫化水素イオン(HS⁻)と水素イオン(H⁺)に電離し、弱酸性を示します。この弱酸としての性質は、pH滴定による酸解離定数がpKa=6.89程度であることから確認されています。
参考)【高校化学】「硫化水素の性質」

化学的には還元剤として働き、金属イオンを含む水溶液と反応して金属硫化物の沈殿を生じる特性があります。また、空気中で燃焼すると水と二酸化硫黄(SO₂)を生成し、二酸化硫黄との反応では単体硫黄と水が生じます。温泉地や火山地帯で銀製品や銅製品の持ち込みが制限されているのは、硫化水素がこれらの金属と反応して腐食や変色を引き起こすためです。
参考)硫黄の単体と化合物の性質・製法

硫酸の化学式と性質

硫酸は化学式H₂SO₄で表される強酸性の液体で、硫化水素とは分子構造が大きく異なります。無色で粘性のある油状の液体であり、水よりも重く、反応性と腐食性が非常に高い物質です。硫酸は水と混ざり合う際にかなりの量の熱を放出するため、取り扱いには細心の注意が必要となります。
参考)硫酸 - 生產、特性和用途

硫酸の強酸としての性質は、0.1mol/L程度の濃度で電離度αが限りなく1に近い値を示すことから確認されています。これは塩酸(HCl)、硝酸(HNO₃)と並んで代表的な強酸の一つとされる所以です。硫酸は2価の酸であり、電離によって2個の水素イオン(H⁺)を生じる特徴があります。
参考)強酸と弱酸まとめ・見分け方

産業用途では肥料製造に最も多く使用されており、特に硫安や過リン酸石灰などの肥料原料として大量に消費されています。その他にも鉱物処理、石油精製、廃水処理、化学合成など幅広い分野で重要な役割を果たしています。化学製品の製造では、洗剤、顔料、染料、合成繊維の原料として、また塩酸やリン酸など他の無機酸を製造する際の触媒や反応剤としても使用されます。
参考)硫酸 - Wikipedia

硫化水素発生源と建築現場での生成メカニズム

建築現場や関連施設で硫化水素が発生する主な要因は、硫酸塩還元菌による嫌気性発酵です。硫酸塩が存在し、かつ十分な酸素が供給されない嫌気性環境下では、硫酸塩還元菌による有機物分解が促進されます。この分解過程で硫酸塩が硫化物イオンへ還元され、硫化水素が生成されるのです。
参考)https://www.amita-oshiete.jp/qa/entry/014888.php

下水処理施設では、し尿中に含まれる硫黄を含む有機化合物が細菌により分解される過程で硫化水素が発生します。排水処理場では排水中の硫化物が塩酸などの作用により硫化水素として遊離し、また排水中に硫酸塩が存在すれば硫酸還元菌により硫化水素が生成されます。
参考)硫化水素の発生源 - 硫化水素除去フィルター コルライン

清掃工場では、ゴミに含まれる硫黄分(ゴム類、たんぱく質、石膏など)が燃焼することで発生する硫化物、硫酸塩、亜硫酸ガスが残灰に含まれており、残灰をピットなどで沈殿貯留すると硫酸還元菌により硫化水素が発生します。特に注意すべき点は、硫酸塩還元菌は自然界に普通に存在するため、硫酸塩が存在する環境で酸素が十分に供給されないという条件が揃えば、硫化水素の発生は珍しい現象ではないということです。​
安定型産業廃棄物最終処分場に埋め立てられた石膏ボードが硫酸イオンの供給源となり、硫化水素ガスが発生して悪臭や黒い水などの問題を引き起こした事例も報告されています。
参考)https://www.jesc.or.jp/Portals/0/center/library/shoho/H20shoho4.pdf

硫化水素の毒性と濃度別の健康被害

硫化水素は極めて強い毒性を持つ気体であり、濃度と曝露時間により人体への影響が大きく異なります。低濃度での曝露でも深刻な健康被害をもたらす可能性があるため、建築現場では厳重な管理が求められます。
参考)硫化水素中毒になるとどうなる?濃度の数値や症状・防止対策を解…

5~10ppm程度の濃度では悪臭を感じる程度ですが、10ppmが眼の粘膜の刺激下限値となる許容濃度とされています。20~50ppmになると目に炎症が起き、気管支炎、肺炎、肺水腫などの呼吸器障害が発生し始めます。
参考)硫化水素中毒の防止対策とは?発生原因から対処法まで詳しく解説

50~150ppmでは頭痛、めまい、吐き気といった中毒症状が現れ、150~200ppmになると悪臭により嗅覚が麻痺し、臭気を感じなくなるため危険を察知できなくなります。この嗅覚麻痺は硫化水素中毒の特に危険な側面であり、高濃度環境にいることに気づかず被曝し続けるリスクがあります。​
300ppm以上では亜急性中毒が起こり意識不明となり、350ppm程度で生命の危機に直面します。700~800ppmでは臭気を感じられずに意識不明となり、30分で生命の危機になります。1,000~2,000ppmという高濃度では、失神、けいれん、呼吸停止が起こり死に至る可能性が非常に高くなります。
参考)夏場に急増する硫化水素中毒・酸素欠乏事故「自社でも対策を」と…

700ppm以上になると体内での解毒作用が追いつかず、神経細胞を破壊して意識喪失や呼吸麻痺に至る危険があり、こうした症状は短時間の曝露でも命に関わるため、濃度の数値を正しく把握し、事故防止・早期退避を徹底することが重要です。​

硫化水素から硫酸への変化と建築構造物への影響

建築現場で特に問題となるのは、硫化水素が酸化されて硫酸に変化し、コンクリート構造物の腐食を引き起こすメカニズムです。硫化水素は空気中の酸素と反応することで、硫酸や硫黄の形で排出されます。この酸化反応により生成された硫酸が、コンクリートや金属の腐食を引き起こす主要な原因となるのです。
参考)硫化水素から硫酸へ:腐蝕や劣化の影響と防蝕ライニングによる管…

下水処理施設や工業廃水処理施設など、密閉された環境の構造物で廃液や排水を管理している設備では、硫酸塩還元菌が原因で硫化水素が発生し、それに伴う硫酸腐蝕によってコンクリートは早いスピードで劣化が進行します。この劣化は構造物自体の耐久性に大きな影響を及ぼし、場合によっては構造物の寿命を大幅に短縮させる可能性があります。
参考)硫化水素が原因の硫酸腐蝕対策と、コンクリート防蝕RSJ#10…

重要な点として、内容液のpHが中性であっても硫化水素が原因で硫酸が発生し、pHが低下することでコンクリート腐蝕が進行するという事実があります。つまり、単純に液体のpHを管理するだけでは不十分であり、硫化水素の発生そのものを抑制する対策が必要となります。​
硫化水素による硫酸腐蝕が多い代表的な施設として、下水処理施設(有機物の分解による硫化水素の生成)、工業廃水処理施設(硫酸塩を含む廃水の処理による硫化水素の生成)、排水管やマンホール(市街地の排水システム内での硫化水素の生成)、沼地や湿地(酸素が少ない自然環境における硫化水素の生成)などが挙げられます。これらの施設や環境では硫化水素が生成されやすく、それが硫酸となってコンクリート構造物に腐蝕を引き起こすリスクが高まります。​
硫化水素から硫酸へ:腐蝕や劣化の影響と防蝕ライニングについて詳しく解説
硫化水素が原因の硫酸腐蝕対策と、コンクリート防蝕工法について