
超撥水とは、水を著しくはじく性質を持つ表面状態を指します。一般的に、水滴が表面と接する角度(接触角)が150°以上になると超撥水と定義されます。この状態では、水滴がほぼ完全な球形を保ったまま表面上を転がり落ちる特徴があります。
この超撥水性を実現する鍵となるのが、表面の微細な凹凸構造です。自然界ではハスの葉がよく知られた例で、葉の表面にある無数の微細な凹凸が水滴との接触角を約160°に保ち、水をはじく性質を生み出しています。
建築分野、特にコンクリート型枠への応用では、この原理を人工的に再現することで革新的な効果を生み出しています。清水建設と東洋アルミニウムが共同開発した「アート型枠」は、型枠表面に超撥水層を付与することで、気泡痕や色むらのない美しく高品質なコンクリートを実現する技術です。
型枠の表面に蓮の葉の表面構造に似た微細な凹凸を人工的に付与し、型枠表面とコンクリートの接触角を150°以上とすることで超撥水を実現しています。これにより、コンクリート打込み時に巻き込まれた気泡が型枠との界面に残ることなく、浮力によって外部に抜けていくため、脱型後のコンクリート表面の気泡痕を大幅に抑制できるのです。
建築現場で使用される超撥水剤には、様々な種類があります。それぞれ特性や用途が異なるため、適切な選択が重要です。
超撥水剤を選ぶ際のポイントは、以下の点を考慮することです。
特に注目すべきは、清水建設と東洋アルミニウムが開発した「アート型枠」用の超撥水剤です。この製品は下地層と超撥水層を形成する2種類のコート剤で構成されており、下地剤(TSコート#27)と超撥水剤(YSコート7%)を組み合わせて使用します。1セットで40~60m²の型枠表面に塗工可能で、264,000円(税抜)で販売されています。
「アート型枠」は、水を著しくはじく超撥水層を型枠表面に付与することで、気泡痕や色むらのない美しく高品質なコンクリートを構築する革新的な技術です。特に木目調コンクリートの施工において、その効果を発揮します。
施工方法
効果
「アート型枠」は、これまでに40件を超える構造物(施工面積は7,000㎡超)に適用されており、特に杉板型枠を使用した木目調コンクリートの品質向上・美観向上に大きな効果を発揮しています。施工性の向上にも寄与するため、建築現場の生産性向上にも貢献する技術といえるでしょう。
超撥水処理を施した建築材料の耐久性は、使用環境や材料の種類、施工方法によって大きく異なります。一般的に、超撥水性能は時間の経過とともに徐々に低下する傾向がありますが、適切な材料選択と維持管理によって長期間の効果を維持することが可能です。
耐久性に影響する要因
耐久性向上のための技術
最新の研究では、酸化亜鉛を活用した超撥水材料が注目されています。酸化亜鉛は4つの針を持ったテトラポット状の微細構造を形成し、これを柔らかなシリコーン樹脂に練り込むことで、耐久性に優れた超撥水材料を作り出すことができます。この構造は表面が傷ついても、すぐに別の針が現れてデコボコ構造が保たれるため、超撥水性が持続します。
維持管理方法
超撥水処理を施した建築材料の維持管理においては、予防的なアプローチが重要です。定期的な点検と適切なタイミングでのメンテナンスにより、超撥水性能を長期間維持し、建築物の美観と耐久性を保つことができます。
超撥水技術は、単に建築物の美観を向上させるだけでなく、建築業界全体に革新的な変化をもたらす可能性を秘めています。今後の発展と応用範囲の拡大により、建築の未来はどのように変わっていくのでしょうか。
エネルギー効率の向上
超撥水処理された外壁は水分の浸透を防ぐため、建物の断熱性能が向上します。これにより、冷暖房効率が高まり、エネルギー消費量の削減につながります。特に寒冷地では、外壁の乾燥状態を維持することで熱損失を抑制し、暖房効率を大幅に向上させることが期待できます。
また、超撥水性を持つ窓ガラスの開発も進んでおり、雨天時の視界確保だけでなく、汚れの付着を防ぐことで日射透過率を維持し、照明エネルギーの削減にも貢献します。
メンテナンスコストの削減
超撥水処理された建築表面は汚れが付着しにくく、雨水によって自浄作用(セルフクリーニング効果)が期待できます。これにより、外壁清掃の頻度を減らすことができ、長期的なメンテナンスコストの削減につながります。
特に高層建築物では、外壁清掃に多大なコストがかかるため、超撥水技術の導入によるコスト削減効果は大きいと言えるでしょう。
環境負荷の低減
従来の防水処理には環境に有害な化学物質が使用されることがありましたが、最新の超撥水技術では環境負荷の少ない材料開発が進んでいます。バイオミミクリー(生物模倣)の観点から、ハスの葉などの自然界の超撥水構造を模倣した環境調和型の超撥水材料の研究が活発化しています。
また、建物の長寿命化により建て替え頻度が減少することで、建設廃材の削減にもつながり、循環型社会の実現に貢献します。
新たな建築表現の可能性
超撥水型枠「アート型枠」のように、コンクリート表面の品質を向上させる技術は、建築家やデザイナーに新たな表現の可能性を提供します。従来は難しかった繊細な木目調や模様の転写が可能になり、意匠性の高い建築物の実現に貢献します。
さらに、超撥水性と他の機能性(例:光触媒、抗菌性など)を組み合わせたマルチファンクショナルな建築材料の開発も進んでおり、建築物の付加価値を高める新たな選択肢となっています。
災害対策としての応用
超撥水技術は、水害対策としても注目されています。建物の基礎部分や低層部に超撥水処理を施すことで、洪水時の水の浸入を抑制する効果が期待できます。また、凍結防止効果もあるため、寒冷地における凍害対策としても有効です。
今後は、気候変動に伴う極端気象への対応策として、超撥水技術の応用範囲がさらに拡大していくでしょう。
課題と展望
超撥水技術の普及に向けては、耐久性のさらなる向上やコスト削減が課題となっています。特に屋外環境での長期耐久性の確保は重要な研究テーマです。
また、施工技術の標準化や品質管理方法の確立も必要です。超撥水性能を正確に評価する統一基準の整備や、施工者向けの技術教育プログラムの充実が求められています。
これらの課題を克服することで、超撥水技術は建築分野における標準的な技術として広く普及し、より持続可能で快適な建築環境の創出に貢献することでしょう。