超撥水と建築で型枠コンクリートの美観向上技術

超撥水と建築で型枠コンクリートの美観向上技術

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超撥水と建築の技術革新

超撥水技術が建築にもたらす革新
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美観向上

気泡痕や色むらのない美しいコンクリート表面を実現

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施工性向上

型枠の離型性が高まり、脱型時の剥落防止と再利用が可能

🛡️
耐久性向上

水分や汚れの侵入を防ぎ、建築物の長寿命化に貢献

超撥水の原理とコンクリート型枠への応用

超撥水とは、水を著しくはじく性質を持つ表面状態を指します。一般的に、水滴が表面と接する角度(接触角)が150°以上になると超撥水と定義されます。この状態では、水滴がほぼ完全な球形を保ったまま表面上を転がり落ちる特徴があります。

 

この超撥水性を実現する鍵となるのが、表面の微細な凹凸構造です。自然界ではハスの葉がよく知られた例で、葉の表面にある無数の微細な凹凸が水滴との接触角を約160°に保ち、水をはじく性質を生み出しています。

 

建築分野、特にコンクリート型枠への応用では、この原理を人工的に再現することで革新的な効果を生み出しています。清水建設と東洋アルミニウムが共同開発した「アート型枠」は、型枠表面に超撥水層を付与することで、気泡痕や色むらのない美しく高品質なコンクリートを実現する技術です。

 

型枠の表面に蓮の葉の表面構造に似た微細な凹凸を人工的に付与し、型枠表面とコンクリートの接触角を150°以上とすることで超撥水を実現しています。これにより、コンクリート打込み時に巻き込まれた気泡が型枠との界面に残ることなく、浮力によって外部に抜けていくため、脱型後のコンクリート表面の気泡痕を大幅に抑制できるのです。

 

超撥水剤の種類と建築現場での選び方

建築現場で使用される超撥水剤には、様々な種類があります。それぞれ特性や用途が異なるため、適切な選択が重要です。

 

  1. フッ素系樹脂タイプ
    • 特徴:非常に高い撥水性と耐久性
    • 用途:長期間の効果が求められる外壁など
    • 注意点:比較的高価で、環境負荷の懸念がある
  2. シリコーン系樹脂タイプ
    • 特徴:良好な撥水性と透湿性
    • 用途:コンクリートやモルタル外壁
    • 注意点:フッ素系に比べて耐久性がやや劣る
  3. シラン・シロキサン系タイプ
    • 特徴:浸透性が高く、下地との密着性に優れる
    • 用途:タイル外壁やコンクリート部分
    • 例:「ナノスーパーWR 建築用」などが市場に出ている
  4. ハイブリッドタイプ
    • 特徴:複数の成分を組み合わせ、各々の長所を活かした製品
    • 用途:様々な建築素材に対応

超撥水剤を選ぶ際のポイントは、以下の点を考慮することです。

 

  • 耐久性: 紫外線や風雨にさらされる環境での持続性
  • 施工性: 塗布のしやすさや乾燥時間
  • 基材との相性: コンクリート、木材、金属など素材に適した製品選択
  • 環境への影響: VOC(揮発性有機化合物)の含有量など
  • コストパフォーマンス: 初期コストと維持コストのバランス

特に注目すべきは、清水建設と東洋アルミニウムが開発した「アート型枠」用の超撥水剤です。この製品は下地層と超撥水層を形成する2種類のコート剤で構成されており、下地剤(TSコート#27)と超撥水剤(YSコート7%)を組み合わせて使用します。1セットで40~60m²の型枠表面に塗工可能で、264,000円(税抜)で販売されています。

 

超撥水型枠「アート型枠」の施工方法と効果

「アート型枠」は、水を著しくはじく超撥水層を型枠表面に付与することで、気泡痕や色むらのない美しく高品質なコンクリートを構築する革新的な技術です。特に木目調コンクリートの施工において、その効果を発揮します。

 

施工方法

  1. 下地層の形成
    • TSコート#27と希釈溶剤(酢酸エチル)を同量混合
    • 型枠面に均一に塗布
    • 十分に乾燥させる(目安:20℃で約30分)
  2. 超撥水層の形成
    • 乾いた下地層の上にYSコート7%を重ね塗り
    • 均一に塗布し、微細な凹凸構造を形成
    • 完全に乾燥させる(目安:20℃で約1時間)
  3. 型枠の設置とコンクリート打設
    • 通常の施工手順に従って型枠を設置
    • コンクリートを打設し、適切に締め固め
  4. 脱型
    • 通常より容易に型枠を剥がすことが可能
    • 型枠に付着するコンクリートが少なく、再利用が容易

効果

  1. 気泡痕の抑制
    • 型枠表面の超撥水層により、コンクリート打込み時に巻き込まれた気泡が型枠との界面を滑るように外部に抜けていく
    • 結果として、脱型後のコンクリート表面の気泡痕を大幅に抑制
  2. 色むらの防止
    • 型枠とコンクリートの界面における水分の挙動が均一化
    • 色むらの原因となる水分の偏りを防止
  3. 脱型時の剥離性向上
    • コンクリートのセメント分が型枠表面に付着しづらくなる
    • 脱型時の剥落を防止し、コンクリート表層の肌荒れも抑制
  4. 型枠の再利用性向上
    • 脱型後の型枠にコンクリートが付着しにくい
    • 型枠の清掃が容易で、再利用回数が増加

「アート型枠」は、これまでに40件を超える構造物(施工面積は7,000㎡超)に適用されており、特に杉板型枠を使用した木目調コンクリートの品質向上・美観向上に大きな効果を発揮しています。施工性の向上にも寄与するため、建築現場の生産性向上にも貢献する技術といえるでしょう。

 

超撥水建築材料の耐久性と維持管理方法

超撥水処理を施した建築材料の耐久性は、使用環境や材料の種類、施工方法によって大きく異なります。一般的に、超撥水性能は時間の経過とともに徐々に低下する傾向がありますが、適切な材料選択と維持管理によって長期間の効果を維持することが可能です。

 

耐久性に影響する要因

  1. 紫外線曝露
    • 太陽光に含まれる紫外線は超撥水層を劣化させる主要因
    • 特に南面や西面など日射量の多い箇所では劣化が早い
  2. 物理的摩耗
    • 風雨や砂塵による摩耗
    • 人や物との接触による表面の損傷
  3. 化学的劣化
    • 酸性雨や大気汚染物質による化学反応
    • 洗浄剤などによる超撥水層の損傷
  4. 微生物による影響
    • カビや藻類の発生による超撥水性能の低下

耐久性向上のための技術
最新の研究では、酸化亜鉛を活用した超撥水材料が注目されています。酸化亜鉛は4つの針を持ったテトラポット状の微細構造を形成し、これを柔らかなシリコーン樹脂に練り込むことで、耐久性に優れた超撥水材料を作り出すことができます。この構造は表面が傷ついても、すぐに別の針が現れてデコボコ構造が保たれるため、超撥水性が持続します。

 

維持管理方法

  1. 定期的な点検
    • 撥水性能の確認(水滴の転がり具合で簡易チェック)
    • 表面の汚れや損傷の確認
  2. 適切な洗浄方法
    • 中性洗剤を使用した優しい洗浄
    • 高圧洗浄機の使用は避ける(超撥水層を損傷する恐れあり)
  3. 再塗布のタイミング
    • 撥水性能の低下が見られたら再塗布を検討
    • 一般的に3~5年程度で再塗布が推奨される場合が多い
  4. 部分補修の方法
    • 損傷部分のみの再塗布も可能
    • 元の塗布材料と同じものを使用することが望ましい

超撥水処理を施した建築材料の維持管理においては、予防的なアプローチが重要です。定期的な点検と適切なタイミングでのメンテナンスにより、超撥水性能を長期間維持し、建築物の美観と耐久性を保つことができます。

 

酸化亜鉛を活用した耐久性の高い超撥水材料に関する詳細情報

超撥水技術が建築の未来に与える影響と可能性

超撥水技術は、単に建築物の美観を向上させるだけでなく、建築業界全体に革新的な変化をもたらす可能性を秘めています。今後の発展と応用範囲の拡大により、建築の未来はどのように変わっていくのでしょうか。

 

エネルギー効率の向上
超撥水処理された外壁は水分の浸透を防ぐため、建物の断熱性能が向上します。これにより、冷暖房効率が高まり、エネルギー消費量の削減につながります。特に寒冷地では、外壁の乾燥状態を維持することで熱損失を抑制し、暖房効率を大幅に向上させることが期待できます。

 

また、超撥水性を持つ窓ガラスの開発も進んでおり、雨天時の視界確保だけでなく、汚れの付着を防ぐことで日射透過率を維持し、照明エネルギーの削減にも貢献します。

 

メンテナンスコストの削減
超撥水処理された建築表面は汚れが付着しにくく、雨水によって自浄作用(セルフクリーニング効果)が期待できます。これにより、外壁清掃の頻度を減らすことができ、長期的なメンテナンスコストの削減につながります。

 

特に高層建築物では、外壁清掃に多大なコストがかかるため、超撥水技術の導入によるコスト削減効果は大きいと言えるでしょう。

 

環境負荷の低減
従来の防水処理には環境に有害な化学物質が使用されることがありましたが、最新の超撥水技術では環境負荷の少ない材料開発が進んでいます。バイオミミクリー(生物模倣)の観点から、ハスの葉などの自然界の超撥水構造を模倣した環境調和型の超撥水材料の研究が活発化しています。

 

また、建物の長寿命化により建て替え頻度が減少することで、建設廃材の削減にもつながり、循環型社会の実現に貢献します。

 

新たな建築表現の可能性
超撥水型枠「アート型枠」のように、コンクリート表面の品質を向上させる技術は、建築家やデザイナーに新たな表現の可能性を提供します。従来は難しかった繊細な木目調や模様の転写が可能になり、意匠性の高い建築物の実現に貢献します。

 

さらに、超撥水性と他の機能性(例:光触媒、抗菌性など)を組み合わせたマルチファンクショナルな建築材料の開発も進んでおり、建築物の付加価値を高める新たな選択肢となっています。

 

災害対策としての応用
超撥水技術は、水害対策としても注目されています。建物の基礎部分や低層部に超撥水処理を施すことで、洪水時の水の浸入を抑制する効果が期待できます。また、凍結防止効果もあるため、寒冷地における凍害対策としても有効です。

 

今後は、気候変動に伴う極端気象への対応策として、超撥水技術の応用範囲がさらに拡大していくでしょう。

 

課題と展望
超撥水技術の普及に向けては、耐久性のさらなる向上やコスト削減が課題となっています。特に屋外環境での長期耐久性の確保は重要な研究テーマです。

 

また、施工技術の標準化や品質管理方法の確立も必要です。超撥水性能を正確に評価する統一基準の整備や、施工者向けの技術教育プログラムの充実が求められています。

 

これらの課題を克服することで、超撥水技術は建築分野における標準的な技術として広く普及し、より持続可能で快適な建築環境の創出に貢献することでしょう。

 

清水建設の超撥水型枠「アート型枠」の詳細技術情報