ドルコスト平均法デメリットとリスク:手数料や機会損失の弊害

ドルコスト平均法デメリットとリスク:手数料や機会損失の弊害

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ドルコスト平均法 デメリット

ドルコスト平均法デメリットとリスク
📉
機会損失のリスク

右肩上がりの相場では一括投資に劣る

💸
手数料の負担増

購入回数に比例してコストが嵩む

⚠️
インフレリスク

待機資金の実質価値が目減りする

投資の世界において、初心者からベテランまで広く推奨されている「ドルコスト平均法」。定額積立によって購入単価を平準化し、リスクを低減する魔法のような手法として語られることが多いですが、実はこの手法には構造的なデメリットや、特定の条件下では資産形成の足を引っ張る「弊害」が存在することをご存知でしょうか。特に、資金に余裕がある場合や、将来的なインフレが予測される経済局面において、ドルコスト平均法を盲信することは、知らず知らずのうちに大きな機会損失を生んでいる可能性があります。
建築現場での工程管理において、資材を一括で仕入れるか、分割で搬入するかでコストやリスクが変わるように、投資においても投入のタイミングは最終的な成果(リターン)を大きく左右します。多くのメディアや金融機関は、ドルコスト平均法の「安心感」や「リスク分散効果」ばかりを強調しますが、その裏側に隠れたコスト構造や数理的な不利不利性については、あまり深く語られることはありません。
本記事では、一般的に語られるメリットの影に隠れた「ドルコスト平均法の真のデメリット」について、数値的なシミュレーションや経済学的な視点を用いて徹底的に深掘りします。なぜ一括投資と比較してリターンが劣る場合があるのか、手数料がどのようにボディブローのように効いてくるのか、そしてインフレ時代における現金保有の隠れたリスクとは何か。これらの事実を直視し、正しく理解することは、あなたの資産をより効率的に、そして確実に守り育てるための重要な一歩となるはずです。

ドルコスト平均法の手数料負担とコスト増加リスク

 

ドルコスト平均法を実践する上で、最も見落とされがちでありながら、長期的なリターンを確実に蝕む要因の一つが「手数料(コスト)」の問題です。投資信託や株式投資を行う際、購入ごとに販売手数料や取引コストが発生する場合、購入回数を分ければ分けるほど、その累積コストは膨れ上がります。
例えば、ある金融商品を購入する際に、1回あたり「550円(税込)」の取引手数料がかかると仮定しましょう。もし手元にある120万円の資金を「一括投資」で購入した場合、かかる手数料は1回の550円で済みます。これは投資元本に対してわずか約0.04%のコストに過ぎません。しかし、これを毎月1万円ずつ、10年間にわたって「ドルコスト平均法」で積み立て購入した場合、どうなるでしょうか。

  • 購入回数:120回(12ヶ月 × 10年)
  • 総手数料:550円 × 120回 = 66,000円
  • コスト比率:66,000円 ÷ 120万円 = 5.5%

このように、同じ120万円を投資する場合でも、購入回数を分散させるだけで、コストが100倍以上に跳ね上がる可能性があるのです。5.5%の損失を確定させてからスタートする投資で、市場平均を上回るリターンを出すことは極めて困難と言わざるを得ません。もちろん、近年では「ノーロード(購入手数料無料)」の投資信託が増えていますが、ETF(上場投資信託)や個別株でのドルコスト平均法を検討している場合、この手数料コストは致命的なデメリットとなります。
また、手数料には「定額制」と「定率制」がありますが、最低手数料が設定されている場合も注意が必要です。「約定代金の0.1%(ただし最低手数料は5ドル)」といった設定がある海外ETFなどを少額で積み立てると、手数料負けするリスクがさらに高まります。建築積算において、小さなビス1本の単価差が巨大なビル建設の総工費に影響するように、長期投資における手数料の差は、複利効果も相まって、10年後、20年後の最終資産額に数百万円単位の差を生むことになります。
金融機関がドルコスト平均法を推奨する背景には、投資家にとってのリスク低減だけでなく、金融機関にとっての「安定的な手数料収入の確保」という側面があることも否定できません。我々投資家は、その構造を理解した上で、自身の投資スタイルが「コストに見合ったメリットを提供しているか」を厳しくチェックする必要があります。
以下のリンクでは、ドルコスト平均法における手数料負担が長期投資に与える具体的な影響や、一括投資との比較シミュレーションについて詳しく解説されています。特にコスト計算の具体例が参考になります。
ソニー生命:ドルコスト平均法の手数料負担と一括投資との比較シミュレーション
参考)ドルコスト平均法とは?メリット・デメリットと一括投資との比較…

ドルコスト平均法の一括投資と比較した機会損失

ドルコスト平均法の最大の弱点とも言えるのが、「機会損失(オポチュニティ・ロス)」の発生です。これは特に、投資対象が長期的には右肩上がりで成長することを前提とした場合に顕著に現れます。世界経済や主要な株価指数(S&P500やオール・カントリーなど)への投資は、長期的には成長し続けるという期待に基づいて行われます。もし「明日より明後日の方が価格が高い確率が高い」のであれば、論理的な正解は「可能な限り早く、多くの資金を市場に投入すること」になります。
手元にまとまった資金(例えば1000万円)があるにもかかわらず、リスクを恐れて毎月10万円ずつ市場に投入する場合、全額が投資されるまでに100ヶ月(約8年強)もの時間がかかります。この間、市場に投入されていない待機資金(キャッシュ)は、市場の成長による利益を享受することができません。

一括投資とドルコスト平均法の資産推移イメージ(右肩上がり相場)
比較項目 一括投資 ドルコスト平均法
資金投入タイミング 初日に全額投入 長期間かけて徐々に投入
市場への露出度 最初から100% 徐々に増加(初期は低い)
上昇相場の恩恵 最大限享受できる 投資済み分のみ享受
平均取得単価 開始時点の価格 上昇に伴い徐々に高くなる

市場が初期の段階から急激に上昇した場合、一括投資であればその上昇益を資産全体で受け取ることができますが、ドルコスト平均法では、まだ投資していない現金の割合が多いため、資産全体の増加率は限定的になります。さらに、相場が上がれば上がるほど、次回の購入単価が高くなってしまうため、「安く買う」というドルコスト平均法のメリットが逆に「高く買わされる」というデメリットに転じてしまいます。
この現象は、数学的にも証明されており、過去のデータを用いた多くのバックテストにおいて、長期的な資産形成の総額では、一括投資がドルコスト平均法を上回るケースが約6〜7割であるという研究結果もあります。リスクを分散しているつもりで、実は「利益を得る機会」そのものを放棄してしまっている可能性があるのです。
特に、退職金や相続などでまとまった資金を得た場合、慎重になりすぎてドルコスト平均法を選択する人が多いですが、これは「時間をかけることでリスクを減らしている」のではなく、「リスクをとる時期を先送りにしている」だけに過ぎません。市場に資金を晒す時間が長いほど、複利効果は最大化されます。その時間を自ら削ってしまうことは、資産形成のスピードを意図的に遅らせていることと同義なのです。
以下の記事では、楽天証券が解説するドルコスト平均法の弊害として、機会損失について詳しく述べられています。特に「十分な資金がある場合の分散投資の非効率性」についての指摘は重要です。
トウシル:ドルコスト平均法で起こりうる「機会損失」の具体的なメカニズム
参考)ドルコスト平均法で起こりうる3つの弊害

ドルコスト平均法の上昇相場におけるリターン低下

「平均取得単価を下げる」というドルコスト平均法の最大のメリットは、相場がボックス圏(横ばい)や下落トレンドにある時にのみ発揮されます。逆に言えば、相場が一貫して上昇を続ける「強気相場(ブルマーケット)」においては、ドルコスト平均法はパフォーマンスを低下させる要因となります。
株式市場の歴史を振り返ると、長期的には上昇トレンドを描いている期間の方が、下落している期間よりも長いことが一般的です。このような環境下でドルコスト平均法を行うことは、いわば「値上がりしていく商品を、わざわざ高い値段になるのを待ってから買い足していく」ような行為になります。
具体的な数字で考えてみましょう。基準価額が10,000円の時に一括で購入すれば、その後の値上がり益は全て利益になります。しかし、翌月に11,000円、その翌月に12,000円と順調に値上がりした場合、ドルコスト平均法で購入を続けると、平均取得単価は10,000円よりも確実に高くなってしまいます。


  • 一括投資の場合:取得単価は常に10,000円。現在値が15,000円になれば、差額5,000円×口数分が利益。

  • ドルコスト平均法の場合:取得単価は10,000円、11,000円、12,000円…と上昇していくため、平均取得単価は例えば12,500円になる。現在値が15,000円になっても、差額2,500円×口数分しか利益が出ない。

このように、上昇相場においては「安く買う」ことができず、平均取得コストが押し上げられてしまうため、投資効率(ROI)が著しく低下します。投資の基本原則である「安く買って高く売る」に対して、ドルコスト平均法は上昇相場で「高く買い続ける」ことを強制するシステムとも言えるのです。
もちろん、未来の相場がどうなるかは誰にもわかりません。しかし、「長期投資なら世界経済は成長する」と信じて投資をするのであれば、その前提と「上昇相場に弱い」ドルコスト平均法の性質は、論理的に矛盾を抱えています。一貫した上昇を信じるならば、早めの資金投入が合理的であり、ドルコスト平均法はあくまで「相場の迷い」や「心理的な不安」を埋めるためのツールであることを認識すべきです。
上昇相場におけるドルコスト平均法の弱点については、松井証券の解説記事でも触れられています。右肩上がりの相場で一括投資に劣る理由が明確に示されています。
松井証券:右肩上がり相場におけるドルコスト平均法のリターン劣後リスク
参考)ドルコスト平均法とは?メリットデメリットや意味ないと言われる…

ドルコスト平均法のインフレ局面での現金保有リスクと資産価値の目減り

これはあまり多くの記事で強調されていませんが、現在の経済環境において極めて重要かつ危険な視点です。それは、ドルコスト平均法を実践している間の「待機資金(未投資の現金)」が抱えるインフレリスクです。
ドルコスト平均法は、時間を分散して投資を行うため、投資期間中は常に一定割合の「現金」を手元に保有し続けることになります。もし、世の中がデフレ(物価下落)であれば現金の価値は相対的に上がりますが、インフレ(物価上昇)局面においては、現金の価値は日々目減りしていきます。
例えば、インフレ率が年3%で推移している経済状況を想像してください。銀行預金に置いている1,000万円は、額面こそ変わりませんが、その購買力(実質価値)は1年後には970万円相当に低下します。ドルコスト平均法で5年かけて1,000万円を投資する場合、平均して約半分の500万円程度は常に現金として保有されている状態になります。この500万円は、投資によるリターンを生み出さないばかりか、インフレという「見えない税金」によって確実に資産価値を削られ続けているのです。

  • 投資中の資産:市場変動リスクに晒されるが、インフレヘッジ(物価上昇に伴う資産価値上昇)の効果も期待できる。
  • 待機中の現金:市場変動リスクはないが、インフレによる確実な価値減少(購買力低下)のリスクに100%晒されている。

特に近年のように、原材料価格の高騰や人件費の上昇により、世界的にインフレ圧力が強まっている状況下では、現金を遊ばせておくこと自体が大きなリスクとなります。建築業界で例えるなら、資材価格が毎月高騰している状況で、「リスク分散のために」と言って鉄骨の購入を毎月少しずつ先延ばしにするようなものです。結果として、最初にまとめて買っておけば安く済んだものを、高値で掴まされるだけでなく、予算内で買える量が減ってしまう(資産の実質的価値が減る)ことになります。
「現金は安全資産である」という常識は、インフレなき世界でのみ通用するものです。インフレ局面において、ドルコスト平均法による「ゆっくりとした投資」は、安全策どころか、資産の実質価値を毀損し続ける「座して死を待つ」戦略になりかねないという独自の視点を持つことが重要です。

ドルコスト平均法の短期運用における不向きな理由

最後に、ドルコスト平均法が決定的に不向きなケースとして「短期運用」が挙げられます。ドルコスト平均法の核心は、長い時間をかけて価格変動の波(ボラティリティ)を平準化することにあります。したがって、投資期間が短い場合、その効果を発揮するための十分な「試行回数」を稼ぐことができません。
統計学的にも、サンプリング数が少ないと平均値は安定しません。ドルコスト平均法において、購入回数が数回〜十数回程度では、たまたまその期間が「高値圏」であった場合、高値掴みをした状態で投資期間が終了してしまいます。
例えば、1年後に結婚資金や住宅購入の頭金として使う予定の資金を、12ヶ月のドルコスト平均法で運用しようとするのは非常に危険です。もし投資期間の後半に暴落が起きた場合、ドルコスト平均法の効果である「安値でたくさん買う」フェーズに入る前に、損失を抱えたまま現金化の期限を迎えてしまうからです。


  1. 時間軸の欠如:価格のサイクル(上昇・下落・回復)を一巡するには、通常数年単位の時間が必要です。短期では単なる「下落の一方通行」に巻き込まれるリスクがあります。

  2. リカバリー不能:長期投資であれば、暴落時に安く仕込んだ分が将来の回復期に大きな利益となりますが、短期運用では「回復を待つ時間」がありません。

投資の世界には「ランダムウォーク理論」があり、短期間の株価の動きは予測不可能であるとされています。予測不可能な短期相場において、ドルコスト平均法はリスクヘッジとして機能しません。むしろ、中途半端に資金を投入することで、現金の流動性を失い、必要な時に引き出せなくなる(あるいは損切りを強要される)リスクを高めてしまいます。
短期的に利益を出したい、あるいは近い将来に使う予定のある資金に関しては、ドルコスト平均法のようなリスク資産への積立投資ではなく、元本保証のある定期預金や個人向け国債などで確実に保全することが、建築で言うところの「基礎工事」として何よりも重要です。
以下の記事では、ドルコスト平均法が短期投資に向かない理由について、期間とリスクの関係性から解説されています。
三菱UFJ銀行:短期的な投資には向かないドルコスト平均法の特性
参考)本当にローリスク?積立投資法「ドルコスト平均法」を知ろう

 

 


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