
企業が所有する不動産を売却する際、株主総会の特別決議が必要となるケースは明確に定められています。最も重要な判断基準は、売却予定の不動産が「重要な財産」に該当するかどうかです。
重要な財産の判断基準として、以下の要素が総合的に考慮されます。
実務上は、総資産額の1%を基準とする考え方もありますが、より重要なのは事業への影響度です。会社の経営する事業に「成果をあげることができないほどの影響を及ぼす」場合は、株主総会の特別決議が必要となります。
不動産売却の承認手続きは、売却の規模や性質によって取締役会決議と株主総会決議に分かれます。
取締役会決議で足りるケース:
株主総会決議が必要なケース:
特に注意すべきは、売却価格が資本金の1/10を超える場合です。この場合、取締役会議事録の作成と法務局への提出が必要となり、手続きが複雑化します。
株主総会で不動産売却が承認された場合、議事録の作成は法的義務となります。議事録には以下の事項を必ず記載する必要があります。
必須記載事項:
不動産売却特有の記載事項:
議事録は株主総会終了後10年間の保存義務があり、税務調査や法務監査の際に重要な証拠書類となります。
取締役や関連会社への不動産売却は利益相反取引に該当し、特別な承認手続きが必要です。この場合の株主総会では、以下の点が重要となります。
利益相反取引の承認要件:
実際の判例では、適正価格での売却であっても、取締役の個人的利益を図る目的での廉価売却は背任行為として厳しく判断されています。1株2,556円の適正価格の株式を1株100円で売却した事例では、取締役の任務懈怠責任が認められました。
不動産売却においても同様に、適正な価格査定と客観的な売却理由の説明が不可欠です。特に、以下の対策が重要となります。
不動産売却の株主総会承認後、税務署への届出と登記手続きが必要となりますが、これらの連携で見落としがちなポイントがあります。
税務手続きでの注意点:
登記手続きでの注意点:
特に見落としがちなのが、売却決議から実際の引渡しまでの期間中の管理責任です。株主総会で売却が承認されても、所有権移転までは売主である会社に管理責任が残ります。この期間中の火災や事故等のリスク管理も重要な検討事項となります。
また、売却代金の使途についても株主総会で明確にしておくことが望ましいです。特に、売却代金を新たな不動産取得や設備投資に充てる場合は、その計画も併せて承認を得ることで、後のトラブルを防止できます。
不動産売却に関する株主総会の手続きは、単なる形式的な承認ではなく、会社の将来を左右する重要な意思決定プロセスです。適切な手続きを踏むことで、法的リスクを回避し、株主の利益を最大化することが可能となります。