変退色グレースケールで建築仕上塗材の品質を守る判定法

変退色グレースケールで建築仕上塗材の品質を守る判定法

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変退色グレースケールで建築仕上塗材の耐候性を正しく評価する方法

蛍光灯の下でグレースケール判定をすると、3号が4号に見えることがあります。


この記事の3つのポイント
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グレースケールとは?

JIS L 0804に基づく1〜5号・9段階の無彩色比較スケール。建築用仕上塗材ではグレースケール3号以上が合否の基準になります。

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判定の落とし穴

光源・角度・個人差による誤判定が起きやすく、D65光源・斜め45度という規定条件を守らないと結果が変わります。

現場での活用ポイント

耐候性試験後の変退色評価を正確に行うことで、クレームリスクを減らし、施主への品質説明にも説得力が生まれます。


変退色グレースケールとは何か:JIS L 0804の基本を押さえる

変退色グレースケールは、JIS L 0804(2004年版)に準拠した無彩色の色票です。塗膜や建材の表面が試験前と比べてどの程度変色・退色したかを、目視で等級付けするための基準器として使われます。


スケールは1号から5号までの5段階が基本ですが、実際には各段階の中間(4-5号、3-4号など)も設定されており、合計9段階の評価が可能です。つまり、より細かな判定ができるということです。


等級の読み方はシンプルです。数字が大きいほど変退色が少なく良好な状態を意味し、5号は「ほぼ変化なし」、1号は「著しく変色・退色している」を表します。建築用仕上塗材(JIS A 6909)では、耐候性A法の試験後に「グレースケール3号以上」が合否ラインとして規定されています。3号未満だと不合格です。


変退色とはそもそも何でしょうか?変色とは元の色相が変わること(例:白が黄みがかる黄変)であり、退色とは色が薄くなること(色あせ)を指します。変退色はこの両方を含む概念です。仕上塗材においては、紫外線・熱・水分などの外的作用が原因で塗膜中の顔料や樹脂が変質し、変退色が発生します。


グレースケールは製品単体で使うのではなく、試験前の試料と試験後の試料を並べて比較することで初めて機能します。左側(試験前相当)と右側(試験後相当)のコントラスト差が、スケール上のどの等級に最も近いかを目で選ぶ仕組みです。これが基本です。


参考:JIS L 0804(変退色用グレースケール)の規格概要と購入窓口


日本規格協会 | 変退色用グレースケール(JIS L 0804:2004準拠)商品ページ


建築用仕上塗材とグレースケール3号以上の関係:JIS A 6909の要求値

建築現場で最もよく引き合いに出されるのが、JIS A 6909「建築用仕上塗材」です。この規格は、外壁や天井に使用するリシンスタッコ・複層塗材など多様な仕上塗材の品質を定めており、変退色に関しては「耐候性A法」という試験が判定基準の中心となっています。


耐候性A法では、キセノンランプ式促進耐候性試験機によって600時間の照射を行います。屋外暴露の10〜30倍程度の促進倍率とされており、600時間の試験は実際の屋外環境での数年分の劣化を加速的に再現するものと考えられています。試験後の外観変化は「ひび割れ・はがれ・膨れがないこと」「光沢保持率80%以上」、そして「変色の程度がグレースケール3号以上であること」という3条件を同時にクリアしなければなりません。


これは重要な点です。光沢保持率だけよくても、変退色がグレースケール2号以下では不合格になります。逆に変退色が4号でも光沢保持率が80%未満では同様に不合格です。


実際に外装薄塗材E・複層塗材CE・可とう形外装薄塗材Eなど、広く使われている製品はこの規格に基づいて性能表示されています。製品カタログに「耐候性:グレースケール3号以上」と記載があれば、JIS A 6909の耐候性A法を通過した証拠です。施主への品質説明に活用できます。


また、複層仕上塗材については耐候形の区分(耐候形1種・2種・3種)があります。耐候形3種はキセノンランプ600時間、耐候形2種は1200時間、耐候形1種は2000時間とより長時間の試験が課されます。グレースケールの要求値(3号以上)はいずれの種別でも共通です。つまり3号が最低ラインです。


参考:JIS A 6909の耐候性試験規定と変退色判定の関係について


kikakurui.com | JIS A 6909:2014 建築用仕上塗材(日本産業規格の簡易閲覧)


変退色グレースケールの正しい判定手順:光源・角度・個人差の落とし穴

グレースケール判定は「目で見て比べるだけ」と思われがちです。しかし、正確な判定には厳格な条件が必要で、条件を外すと等級が1段階ずれることがあります。これが最大の落とし穴です。


JIS L 0801(染色堅牢度試験方法通則)では、判定時の光源をD65(相関色温度約6500K、昼光に相当)と規定しています。明るさは600〜2150 lxの範囲とされています。オフィスや工場でよく使われる一般的な蛍光灯(色温度4000〜5000K相当)では光の色が異なり、試料の色を正確に評価できません。現場の蛍光灯照明の下で判定するのはNGです。


試料の配置角度も重要です。グレースケールと試験前後の試料を斜め45度の判定台に置き、試験者の目の高さから観察することが規定されています。水平な机の上に並べて真上から見るだけでは、光の反射条件が変わり、コントラストの見え方が変わります。


さらに、目視判定には個人差があります。JIS K 6559-2(摩擦堅牢度試験)の精度規定では「視感法でグレースケールを用いる場合、個人間精度は±半級」と明記されています。つまり、同じ試料でも判定者によって3号と3-4号のように評価が分かれる可能性があります。厳しいところですね。


判定条件 規定内容 よくある誤り
光源 D65(約6500K)600〜2150 lx 一般蛍光灯・白熱球で判定
配置角度 斜め45度の判定台の上 水平面に置いて真上から見る
判定者 色覚正常な観察者 色覚特性を考慮しない
観察方向 試験前後を左右または上下に並べる 離れた場所に別々に置いて比較


変退色グレースケールを正確に使いたい場合、D65光源対応の標準光源ブースが有効です。試験室・品質管理室に設置することで、再現性の高い判定が可能になります。Xライト社製のSpectraLight QCのような標準光源ブースを導入している試験機関や研究機関では、D65だけでなくA光・TL84など複数の光源で同一試料を観察できます。費用と精度のバランスを見て、社内検査体制を整えることをお勧めします。


参考:標準光源ブースを用いたグレースケール判定の環境整備について


株式会社DJK | 表面色の比較・変退色用グレースケール(試験機関による判定サービス概要)


変退色グレースケールとΔE(色差)の関係:数値と等級のどちらを使うべきか

変退色の評価には、グレースケールによる目視判定のほかに、測色計を使った色差ΔE(デルタE)による数値評価もあります。どちらを選ぶかは、目的と状況によって変わります。


ΔEはL*a*b*表色系(JIS Z 8781-4)における2色間の距離を示す数値です。ΔE=1は人の目でかろうじて識別できる最小差の目安とされており、ΔEが大きいほど色の差が大きいことを意味します。一般的な色管理では、AAA級許容差はΔE 0.4〜0.8、A級許容差はΔE 1.6〜3.2とされています。


では、グレースケールのどの等級がΔEのどの値に対応するかというと、おおよその目安は以下のとおりです。


グレースケール等級 色差ΔEの目安 変退色の状態
5号 ΔE 0〜0.8 変退色なし(最良)
4〜5号 ΔE 0.8〜1.7 ほとんど目立たない
4号 ΔE 1.7〜3.4 わずかに変化
3〜4号 ΔE 3.4〜4.8 少し変化
3号 ΔE 4.8〜6.8 明らかに変化(合否ライン)
2号以下 ΔE 6.8超 著しい変退色(不合格)


目視判定には個人差や光源条件による誤差がある一方、ΔEは客観的・再現性の高いデータとして記録できます。これは使えそうです。ただし、ΔEだけではどの方向(明度・彩度・色相のどれ)に色が変化したかがわかりにくいという点もあります。


JIS A 6909などの建築系規格では、現在もグレースケールによる目視判定が正式な判定方法として採用されています。試験機関へ依頼する際はグレースケール等級での報告が求められることがほとんどです。ΔEの数値はあくまで参考値・補足情報として活用するのが実務上の基本です。


社内管理や品質記録としてΔEを蓄積しておくと、長期的な塗膜劣化トレンドの把握に役立ちます。ΔEの数値記録と並行してグレースケール等級を記録しておく運用が理想的です。


現場で変退色グレースケールを活用するための独自視点:施主説明と品質記録への応用

建築現場では、グレースケールは「試験機関が使うもの」というイメージが強いかもしれません。しかし、日常の施工品質管理や施主説明の場面でも、グレースケールの概念を活用することには大きな価値があります。


たとえば、外壁塗装の完工後に数年が経過し、施主から「思ったより早く色が変わった」というクレームが入ることがあります。このとき、施工前後の写真記録だけでは色変化の「程度」を客観的に示すことが難しいです。しかし、施工時に標準色板(基準板)を作成しておき、経過ごとにグレースケールで変退色等級を記録していれば、「5年後でも3号以上を維持しており、製品規格の範囲内です」と数字で説明できます。クレームリスクを大幅に減らせます。


具体的な品質記録のフローとして、以下のような手順が参考になります。


  • 施工完了時に、使用した仕上塗材の同ロット・同色番号の塗板を作成し保管する。この塗板が変退色評価の「基準板」になります。
  • 定期点検(1年後・3年後・5年後など)のタイミングで、外壁の一部(日当たりの良い面・北面など複数箇所)から試料を採取または写真で記録する。
  • 基準板と現状の外壁を、D65光源または自然昼光(晴天の北側間接光)の下で比較し、グレースケールの等級を記録する。
  • 記録を竣工書類とともに保管し、定期点検報告書に添付する。


この一連の品質記録は、施主への信頼性向上だけでなく、施工会社としての技術力の証明にもなります。


また、材料選定の段階でグレースケール基準を確認する習慣も重要です。複数の製品を比較検討するとき、同じ「耐候形3種」であっても、試験後の変退色等級の記録が「3号」の製品と「4号」の製品では、現場での長期的な見栄えに差が出る可能性があります。製品仕様書に記載されたグレースケール等級の数字を読む習慣をつけると、材料選定の精度が上がります。


グレースケールの概念を施主説明に使う場合、「5段階のうち3以上をキープするのが規格合格ライン」と伝えると、非専門家にも伝わりやすいです。カードの色見本をそのまま見せながら説明するとよりわかりやすくなります。グレースケール判定の概念を施主と共有することは、信頼関係の構築に直結します。


参考:建築用仕上塗材の耐候性試験と変退色評価についての解説


日本塗料工業会 | 塗膜の変退色の色差測色及び算出方法(JPMS 25-2)(PDF)