

芳香族アミノ酸(AAA:Aromatic Amino Acid)とは、その構造にベンゼン環などの芳香族基を有するアミノ酸の総称です。主な芳香族アミノ酸には、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンの3種類があり、これらは側鎖に芳香環という環状構造を持つことが特徴です。芳香環は安定した平面構造を持ち、この特性がタンパク質の立体構造の安定化に大きく寄与しています。
参考)https://d-aminoacidlabo.com/column/column_02/
フェニルアラニンは必須アミノ酸の一つで、体内で合成することができないため食事から摂取する必要があります。チロシンはフェニルアラニンから体内で合成可能な非必須アミノ酸ですが、芳香族アミノ酸として分類されます。トリプトファンも必須アミノ酸であり、特に神経伝達物質であるセロトニンの前駆体として重要な役割を果たしています。
参考)https://nstudy.info/bcaa-aaa/
芳香族アミノ酸は球状タンパク質の内核部に位置することが多く、タンパク質同士の相互作用や他の分子との結合面において中心的な役割を担います。この構造的特性により、芳香族アミノ酸はタンパク質の機能発現において欠かせない存在となっています。
参考)https://minerva-clinic.or.jp/academic/terminololgyofmedicalgenetics/hagyou/aliphatic-amino-acid/
分岐鎖アミノ酸(BCAA:Branched Chain Amino Acid)とは、骨格が一部分岐した分子構造を持つアミノ酸のことで、バリン、ロイシン、イソロイシンの3種類がこれに該当します。これら3つのアミノ酸は、いずれも体内で合成できない必須アミノ酸であるため、食事から摂取することが必須となります。
参考)https://www.miraio.com/medical/bkanen/vocab/cure/details/cure-028/
分岐鎖アミノ酸の大きな特徴は、その代謝経路にあります。多くのアミノ酸が主に肝臓で代謝されるのに対し、BCAAは筋肉組織で直接代謝される特性を持っています。筋肉中のタンパク質に含まれる必須アミノ酸のうち約35~40%をBCAAが占めており、筋肉の構成成分として極めて重要な役割を果たします。
参考)https://www.ajinomoto.co.jp/amino/about/classified/bcaa.html
運動時にはBCAAが筋肉のエネルギー源として利用され、筋肉のタンパク質分解を抑制する働きも知られています。特にロイシンは、筋肉のタンパク質合成を促進するシグナル分子としても機能し、筋肉量の維持・増加において中心的な役割を担っています。BCAAを多く含む食品には、まぐろ、かつお、牛肉、鶏肉、卵、大豆、チーズなどがあります。
参考)https://www.pharm.or.jp/words/post-27.html
芳香族アミノ酸は、体内で重要な神経伝達物質の前駆体として機能します。トリプトファンは脳内でセロトニンに変換され、気分、不安、恐怖といった多くの行動を制御する神経伝達物質として作用します。セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、精神の安定や睡眠の質に深く関わっています。
参考)https://www.riken.jp/press/2017/20171024_1/
チロシンはドーパミンの前駆体となり、さらにドーパミンからノルアドレナリンやアドレナリンが合成されます。ドーパミンは運動調節、ホルモン調節、学習といった行動の制御に関わり、モチベーションや報酬系の中心的な神経伝達物質です。これらの神経伝達物質の合成には、芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)という酵素が関与しています。
参考)https://www-yaku.meijo-u.ac.jp/Research/Laboratory/chem_pharm/09jugyou/4.%20serotoninmonoamin.pdf
フェニルアラニンは体内でチロシンに変換されることで、間接的にこれらの神経伝達物質の合成に寄与します。このように芳香族アミノ酸は、脳機能や精神状態の維持に不可欠な役割を果たしており、不足すると神経系の機能障害につながる可能性があります。
参考)https://www.nanbyou.or.jp/entry/5446
分岐鎖アミノ酸は筋肉代謝において特別な位置づけを持っています。運動時や肉体労働時には、グリコーゲンや遊離脂肪酸が不足するとBCAAが筋肉のエネルギー源として利用されます。この特性により、長時間の運動や重労働においてもエネルギー供給を維持することができます。
参考)https://www2.kuh.kumamoto-u.ac.jp/gastro/img/kyouiku_kouen_07.pdf
さらにBCAAは、筋肉のタンパク質合成を促進し、分解を抑制する働きを持ちます。特にロイシンは、mTORC1(mammalian target of rapamycin complex 1)と呼ばれる細胞内シグナル伝達系を活性化し、筋肉のタンパク質合成を促進するシグナルとして機能します。この作用により、運動後の筋肉回復や筋肥大が促進されます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8329528/
最近の研究では、BCAA摂取が運動時の脂肪酸化を促進し、運動効率を向上させるとともに、運動後の疲労を軽減する効果も報告されています。建築業のような肉体労働に従事する方にとって、BCAAの適切な摂取は筋肉の維持と作業パフォーマンスの向上に寄与する可能性があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11990590/
芳香族アミノ酸と分岐鎖アミノ酸の血中濃度バランスは、肝機能の指標として臨床的に重要です。肝硬変などの肝疾患では、血中のBCAAが低下し、逆に芳香族アミノ酸(フェニルアラニンとチロシン)が上昇するという特徴的なアミノ酸パターンを示します。
参考)https://www.peg.or.jp/lecture/enteral_nutrition/movie/movie03-01_1-slide.pdf
この両者の比率はフィッシャー比(BCAA/AAA比)と呼ばれ、正常では約3.0~3.5の値を示しますが、肝硬変患者では1.8以下に低下することがあります。フィッシャー比が低下する理由は、肝臓でのエネルギー不足を補うためにBCAAが過剰に消費される一方、芳香族アミノ酸は肝臓での代謝能力低下により血中に蓄積するためです。
参考)https://www.pharm.or.jp/words/word00950.html
さらに重要な点として、芳香族アミノ酸と分岐鎖アミノ酸は血液脳関門を通過する際に同じ輸送担体を共有しています。フィッシャー比が低下すると、相対的に多くなった芳香族アミノ酸が脳内に過剰に入り込み、神経伝達物質のバランスが崩れることで肝性脳症などの症状を引き起こす可能性があります。このため、肝疾患患者に対してはBCAA製剤(リーバクト、アミノレバンENなど)が治療薬として処方されます。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%B3%E9%A6%99%E6%97%8F%E3%82%A2%E3%83%9F%E3%83%8E%E9%85%B8
B型肝炎訴訟の分岐鎖アミノ酸解説
肝疾患における分岐鎖アミノ酸の役割と治療について詳しく解説されています。
建築業に従事する方にとって、芳香族アミノ酸と分岐鎖アミノ酸の両方をバランスよく摂取することが健康維持に重要です。肉体労働では筋肉が継続的に使用されるため、BCAAの需要が高まります。筋肉が約1kg当たり約32gのBCAAを含むことを考えると、筋肉量を維持するには十分なBCAA摂取が必要です。
一方、芳香族アミノ酸は精神的な健康維持にも関わります。建設現場でのストレスや不安、恐怖といった心理的負担は作業安全性にも影響を与えるため、セロトニンやドーパミンの原料となる芳香族アミノ酸の適切な摂取も重要です。特にトリプトファンは体内で合成できない必須アミノ酸であるため、意識的に食事から摂取する必要があります。
参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpubh.2023.1226914/pdf
タンパク質を含む食品(肉類、魚類、卵、大豆製品、乳製品など)をバランスよく摂取することで、両方のアミノ酸を適切に補給できます。特に建築業のような重労働では、通常よりも多くのタンパク質が必要となることがあり、食事だけで不足する場合にはアミノ酸サプリメントの活用も検討できます。ただし、極端な偏りは避け、バランスの取れた栄養摂取を心がけることが基本です。
参考)https://sendaigyu.jp/knowledge/qanda/q06/
血液脳関門(BBB:Blood-Brain Barrier)は、脳を保護するための重要な生理的バリアですが、芳香族アミノ酸と分岐鎖アミノ酸には特別な輸送システムが存在します。血液脳関門のL系輸送体は、ロイシンやバリンなどの分枝鎖や環状鎖を持つ大きな中性アミノ酸を主に輸送します。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A1%80%E6%B6%B2%E8%84%B3%E9%96%A2%E9%96%80
興味深いことに、この輸送体は芳香族アミノ酸であるフェニルアラニン、チロシン、トリプトファンの輸送も担っています。さらにパーキンソン病治療薬のL-DOPAもこの輸送体を利用して脳内に入ります。この輸送体は競合阻害を受けるため、血中のアミノ酸バランスが崩れると、脳内への特定のアミノ酸の取り込みに影響が出る可能性があります。
参考)https://www.pharm.or.jp/words/word00964.html
肝疾患でフィッシャー比が低下した状態では、血中の芳香族アミノ酸濃度が相対的に高くなり、輸送体の競合により正常なアミノ酸の脳内輸送が阻害されます。その結果、神経伝達物質のバランスが崩れ、認知機能や精神状態に悪影響を及ぼす可能性があります。このメカニズムの理解は、健康な方にとっても食事によるアミノ酸バランスの重要性を示す一例といえます。
参考)https://www.peg.or.jp/lecture/parenteral_nutrition/02-09.html
日本薬学会の血液脳関門解説
血液脳関門とアミノ酸輸送の詳細について専門的な情報が記載されています。
建築業従事者が作業パフォーマンスを最大化するには、アミノ酸の摂取タイミングも重要な要素です。運動前や作業前にBCAAを摂取すると、筋肉のエネルギー源として即座に利用でき、持久力の向上が期待できます。特にバリン、ロイシン、イソロイシンを含むBCAAサプリメントは、作業開始30分~1時間前の摂取が推奨されることが多いです。
参考)https://style.nikkei.com/article/DGXMZO31253700R00C18A6000000/
作業中の水分補給時にもBCAAを含む飲料を摂取することで、継続的なエネルギー供給と筋肉の分解抑制が可能になります。特に長時間の重労働では、体内のBCAA濃度を維持することが筋肉疲労の軽減につながります。作業後には、筋肉の回復を促進するために糖質とともにアミノ酸を摂取することが効果的です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11220999/
一方、芳香族アミノ酸はタンパク質を含む通常の食事から自然に摂取されるため、特別なタイミングを意識する必要は少ないですが、バランスの取れた食事を心がけることが基本です。朝食、昼食、夕食で肉類、魚類、卵、豆製品などのタンパク質源を適切に組み合わせることで、必要な芳香族アミノ酸と分岐鎖アミノ酸の両方を確保できます。
参考)https://www.orthomolecular.jp/nutrition/amino2/

豆本11、12、13-2、21、22(脂肪族、芳香族、糖、α-アミノ酸