瓦屋根の種類と形状選び方メンテナンス

瓦屋根の種類と形状選び方メンテナンス

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瓦屋根の種類

瓦屋根の主な種類
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粘土瓦

粘土を高温で焼成した耐久性50~100年の瓦。釉薬瓦といぶし瓦に分類される

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セメント瓦

セメントが主成分で耐用年数20~40年。現在は製造されていない

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樹脂繊維セメント瓦

ケイミュー社のルーガなど、軽量性と美しさを兼ね備えた新世代の瓦

瓦屋根は大きく分けて3つの種類に分類されます。それぞれの特性を理解することで、建築プロジェクトに最適な屋根材を選択できます。
参考)屋根の種類【瓦編】

瓦屋根の粘土瓦の特徴

粘土瓦は天然素材の粘土を焼いて形成したもので、日本瓦や和瓦とも呼ばれます。表面の処理方法により、釉薬瓦と無釉薬瓦に大別されるのが特徴です。釉薬瓦(陶器瓦)は表面に釉薬を施して焼き上げているため、ガラス質に覆われてツルツルとした見た目になります。この釉薬がガラス質になることで水分を弾き、水が浸透することはありません。耐久性に優れており、基本的に塗装の必要がないのが大きなメリットです。
参考)一般住宅によく使用されている粘土瓦とセメント瓦の特徴と劣化症…

無釉薬瓦には、いぶし瓦や素焼き瓦が含まれます。いぶし瓦は粘土を形成後、そのまま焼き上げるため、光沢を抑えた仕上がりになります。吸水性があり湿気を吸ってくれるため、夏場は吸水した水が気化することで打ち水のような効果があり、屋根を涼しく保つことができます。ただし、日当たりの悪い場所では瓦の表面にコケが生えやすく、寒い地域では吸い込んだ水分が凍って膨張し、瓦が割れる可能性があります。​
粘土瓦の最大の特徴は優れた耐久性で、瓦によって異なりますが50~100年程度の耐用年数があると言われています。メンテナンスフリーと勘違いされることもありますが、棟の漆喰は劣化するため、漆喰詰め替え工事や棟取り直し工事は必要です。
参考)瓦屋根の寿命はどれぐらい?特徴や修理・メンテナンスについて解…

瓦屋根の産地別の種類

日本の粘土瓦は産地ごとに特徴が異なり、製造地域によっても呼び名が変わります。代表的な産地瓦として3つが挙げられます。
参考)屋根瓦の種類・名称・耐久性について

石州瓦(せきしゅうがわら)は島根県の石見地方で生産されており、鉄を多く含む出雲地方の「来待石(きまちいし)」を釉薬に使っているため独特の赤褐色になります。凍害や塩害に強く、経年変化による変色がしにくいのが特徴です。​
三州瓦(さんしゅうがわら)は愛知県で生産されており、日本の年間瓦生産総数の約60~70%を占めています。いぶし瓦、釉薬瓦、塩焼瓦などさまざまな種類の瓦を製造しており、東京歌舞伎座のいぶし瓦にも使用されています。​
淡路瓦(あわじがわら)は兵庫県淡路地方で生産されています。淡路の気候と風土でしか出すことのできない「なめ土」と呼ばれる粒子の細かい粘土がいぶし瓦を作るのに適しており、いぶし瓦の生産量は全国一を誇っています。いぶし瓦は焼き上げの最後に燻すことで炭素を付着させて銀の色を出す無釉瓦で、釉薬瓦と違って割っても中まで銀色になっているのが特徴です。​

瓦屋根のセメント系瓦の違い

セメント瓦はセメントが主成分の瓦で、耐用年数は20~40年程度です。しかし現在では流通されておらず、既存住宅の屋根でしか見かけることがない瓦屋根となっています。​
樹脂繊維セメント瓦は、セメントに特殊樹脂や気泡を含めた新世代の瓦です。屋根材最大手メーカーであるケイミュー株式会社が開発した商品名ルーガは、セメント瓦の改良版と言い換えられます。見た目の美しさと軽量性から、徐々に人気が高まっている瓦屋根です。粘土瓦に比べて軽量であるため、建物への負担が軽減され、耐震性の向上にも貢献します。​

瓦屋根の形状による分類

瓦屋根の形状は大きく分けて3種類あります。J形、F形、S形の3つで、それぞれ異なる特徴と用途があります。
参考)瓦屋根の形 - J型・F型・S型・M型の違いと特徴について

J形瓦は和瓦や和形とも呼ばれ、緩やかな波型をしているのが特徴です。JはJapaneseの頭文字で、和瓦であることを示しています。この形状は最も水切れがよいとされており、雨天が多い日本の気候に適しています。一般住宅の他に、寺院や神社、城郭といった日本建築の屋根にも多く使用されています。施工価格は1㎡あたり9,000~12,500円で、おおよその屋根材工事設計価格は10,500円/㎡となっています。
参考)J形瓦、F形瓦、S形瓦、瓦の形状について

F形瓦は平板瓦とも呼ばれ、平坦な形をした瓦です。FはフラットやフレンチのFから名付けられました。J型やS型などの凹凸(山と谷)をなくし、平面な形を意味するフラットから、F形瓦と呼ばれています。雰囲気はスレート屋根のようなスッキリとしたデザインでありながら、瓦の美しさや耐久性を兼ね揃えた瓦といえます。西洋の雰囲気やモダンな家屋に仕上がり、施工価格は1㎡あたり7,000~16,000円、おおよその屋根材工事設計価格は8,000円/㎡です。
参考)J・S・F?瓦の形状について

S形瓦は南欧風のスパニッシュ瓦を改良したもので、緩い弓状のアーチにかまぼこのような半円を組み合わせた形状です。SはSpanishの頭文字で、南欧であるスペイン由来であることを示しています。暖かみのある赤土色をしているものが多く、数色の瓦を混ぜ合わせながら葺く「混ぜ葺き」も人気です。洋風のお家にとても似合い、施工価格は1㎡あたり5,000~13,000円、おおよその屋根材工事設計価格は11,000円/㎡となっています。
参考)~瓦はどんな種類があるの? Q038~ 図解 屋根に関するQ…

瓦屋根の施工方法の進化

現在の日本瓦の標準的な施工方法は「瓦屋根標準施工要領書 JKY-2014」に基づいています。この要領書は全日本瓦工事業連盟と全国陶器瓦工業組合連合会が監修したもので、防災瓦タイプ(現在生産している日本瓦の95%以上)、風速38m/s以下の地域、小規模建築物(2階建て以下・木造建築物等)を条件としています。
参考)現在の日本瓦の施工法はこちらをご覧ください。「瓦屋根標準施工…

防災瓦とは瓦同士が組み合わさって耐風性が高くなる瓦の総称で、日本瓦では瓦の凸部と凹部が組み合う方式になっています。瓦の大きさは約30cm×30cmで、屋根1㎡で16枚使用します。​
施工方法の大きな特徴は、土葺きではなく桟木に全数くぎ打ちする引掛け葺きです。防水紙(ルーフィング)の上に瓦桟木(かわらさんぎ)を設置し、桟木に瓦を1枚1枚引掛けて施工します。そのとき、瓦1枚に対してくぎ1本を必ず施工することになっています。昔の土葺き工法とは大きく異なり、くぎ留めされることで瓦屋根の耐風性・耐震性は大幅に向上しています。​
ガイドライン工法では、すべての瓦を釘やビスでしっかりと固定することが地震による瓦のズレや落下を防ぐために特に重要なポイントとなっています。また、防水性や耐震性に優れた資材や下地材を使用し、屋根の土台となる野地板など、決められた強度やサイズをきちんと守って施工することが推奨されています。
参考)瓦屋根のガイドライン工法とは?|義務化の内容や棟部の納まり、…

国の制度のほか、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県などの市区町村ごとに補助金を設けている場合があるため、屋根の葺き替えを検討する際は自治体の公式情報を確認することをお勧めします。​
現在の日本瓦の施工法についての詳細情報 - 瓦屋根標準施工要領書の解説

瓦屋根のメリットとデメリット

瓦屋根には多くのメリットがあります。高い耐久性(50年以上長持ちするものもある)、優れた防水性、遮音性、湿気がこもらず屋根裏にカビが生えづらい、部分補修が可能、塗装不要、色褪せない、燃えにくい、バリエーションが豊かといった特徴があります。
参考)瓦屋根の地震対策:瓦屋根が地震に弱いと言われる理由やメンテナ…

一方でデメリットとしては、他の屋根材より価格が高め(スレート屋根の1.5倍~2倍くらい)、施工に手間がかかる、重量があるので地震に弱い、台風や地震の時に落ちて割れる危険性がある、設計時に瓦屋根に対応した構造計算が必要といった点が挙げられます。​
コロニアルやカラーベストなどのスレート屋根材で工事した場合の初期費用の相場は50万円ほどですが、瓦屋根の初期費用はスレート屋根の倍の100万円程度になります。しかし、瓦は数ある屋根材の中でも耐久性が高く寿命の長い屋根材で、メンテナンスは必要ですが寿命は50年以上と言われています。長期的な視点で考えると、初期投資は高くても維持費が抑えられるため、トータルコストではメリットがあります。
参考)瓦屋根のウソ・ホント| 石川県瓦工事協同組合(屋根工事・専門…

瓦屋根の建築事業者向け選定ポイント

建築事業者が瓦を選ぶ際には、いくつかの重要なポイントがあります。耐久性は屋根に求められる最も基本的な機能で、長持ちする素材の選択が非常に重要です。耐候性に優れている瓦は激しい天候変化にも耐えることができ、風雪や紫外線による劣化も少なくなります。
参考)知っておきたい!瓦を選ぶ際のポイント

耐震性に優れた瓦は、地震が多い日本の気候条件下で特に欠かせません。厳選した質の高い材料を使用し、耐久性にこだわった瓦を選ぶことは、将来のメンテナンスの負担を軽減し、経済的なメリットをもたらします。​
屋根との調和も瓦選びにおいて重視すべきポイントです。屋根の形状、色合い、質感に合った瓦を選ぶことで、全体のバランスが保たれ、建物の美観が格段に向上します。どの屋根瓦を使うか、屋根全体の形が切妻(きりづま)屋根か寄棟(よせむね)屋根か、屋根の勾配がどの位かなどによっても費用が変わるため、最終的に必要となるコストについてはリフォーム会社に確認することが重要です。
参考)屋根瓦の種類・形・価格を比較!リフォーム時期や費用相場は?

和瓦と洋瓦は本体を見ただけでは見分けがつきにくいですが、屋根の造りを見ることで簡単に見分けられます。和瓦の屋根には冠瓦・のし瓦・鬼瓦・軒瓦など洋瓦の屋根には見られない部位があり、瓦がJ形瓦の形をしています。洋瓦の屋根は棟・ケラバ・軒先などが和瓦の屋根とは違い、瓦もF形瓦やS形瓦の形をしています。​
耐久性能、遮音性能、重量的には、どの種類も大きな差はありませんが、施工価格や外観の印象が異なります。建築プロジェクトの目的、予算、建物のデザインコンセプトに応じて、最適な瓦の種類と形状を選定することが、建築事業者にとって重要な判断となります。​
屋根瓦の種類選定の詳細ガイド - 和瓦や洋瓦の特徴まとめ