

建設業界における人手不足は、もはや一時的な課題ではなく、業界の存続を揺るがす構造的な問題となっています。1997年に就業者数が685万人のピークを迎えた後、建設業界は減少の一途をたどり、2024年には477万人まで落ち込みました。これはピーク時と比較して約70%の水準であり、技能者に限定すると464万人から303万人へと約65%まで減少しています。
参考)https://mito-tsumugi.jp/construction-labor-shortage-2025/
建設業界の有効求人倍率は全職種平均を大きく上回っており、2025年4月時点で建設業全体は4.81倍、躯体工事業に至っては7倍超という異常値を記録しています。国土交通省の「建設労働需給調査」によると、2025年6月時点で技能労働者不足率は全国平均で1.1%の不足となっており、主要8職種すべてで人員不足が続いている状況です。
参考)https://www.mlit.go.jp/toukeijouhou/chojou/rodo.htm
人手不足倒産の件数も顕著に増加しており、2023年の建設業界の人手不足倒産は91件で、前年比の約2.7倍という深刻な数字を記録しました。その一方で建設投資額は2010年の42兆円から2022年には約67兆円まで回復しており、需要は増加しているにもかかわらず供給側の人材が不足するという、業界にとって極めて厳しい状況が続いています。
参考)https://conne.genbasupport.com/tips-8487/
建設業界の年齢構成は極めて歪んでおり、55歳以上が約37%を占める一方で、29歳以下はわずか12%という深刻な状況です。この数字は全産業平均の約16%を大きく下回っており、1997年時点では29歳以下が22.0%を占めていたことを考えると、この四半世紀で若年層が約半数にまで減少したことになります。
参考)https://www.nikkenren.com/publication/handbook/chart6-4/index.html
国土交通省の「建設業を巡る現状と課題」によると、2022年段階でフィールドワーカー(現場従事者)の35.9%、つまり約3人に1人は55歳以上です。2021年と比較すると、55歳以上が1万人増加した一方で、29歳以下は2万人減少しており、高齢化と若者離れが同時進行している実態が浮き彫りになっています。10年も経てば、現在の55歳以上のフィールドワーカーの中には引退する方も出てくるため、世代交代が急務となっています。
参考)https://www.topconpositioning.asia/jp/ja/column/work/w-0003/
新規学卒者の建設業への入職者数も減少傾向にあり、2024年には3.8万人と11年ぶりに4万人を割り込みました。厚生労働省のデータによると、高校卒業後に建設業へ就職した人の3年以内離職率は約40%を超えており、全産業平均よりも高い水準となっています。大卒者の場合でも離職率は高く、若手人材の確保と定着が建設業界にとって最大の課題となっています。
参考)https://forward-law.jp/media/resignation-agency/const-industry-away-wakamono-ofcourse/
人手不足は建設業界の経営に直接的な打撃を与えています。帝国データバンクの調査によると、2023年の建設業界における人手不足倒産は91件で、前年比の約2.7倍という急激な増加を記録しました。この傾向は今後も続くと予測されており、人手不足が続けば人手不足倒産は高水準で進むという見通しが示されています。
建設需要が増加している状況にもかかわらず、人材が確保できないために受注を断らざるを得ないケースも増えています。ICT人材不足が受注機会を直撃しており、8割超の企業が受注を断った経験があるというデータも報告されています。これは単なる機会損失にとどまらず、企業の成長戦略そのものを阻害する要因となっています。
参考)https://news.build-app.jp/article/37680/
2024年4月からは働き方改革関連法により時間外労働の上限規制が適用され、従業員が残業できる時間が制限されるようになりました。これにより、これまで長時間労働でカバーしていた人手不足が一層顕在化し、企業の負担が増大しています。中小企業割増賃金率の引き上げも適用されたため、残業代として支払う額が増え、企業の財務状況をさらに圧迫する状況となっています。
参考)https://www.sangyoui.co.jp/useful/useful-5163/
建設業界の人手不足の背景には、他産業と比較して厳しい労働環境があります。2022年の調査によると、建設業における年間労働時間は1,986時間で、調査産業計に比べて約270時間も長い長時間労働となっています。業種別年間休日日数の調査でも、建設業は113日と少なく、建設工事現場で技術者の約4割が4週4休以下で就業している実態が明らかになっています。
参考)https://process.uchida-it.co.jp/itnavi/info/c20250620/
厚生労働省のデータによると、高校卒業後に建設業へ就職した人の3年以内離職率は約40%を超え、全産業平均の35.9%に対して建設業は42.2%と約6%も高くなっています。若者が建設業を離れる理由として、長時間労働、休日の少なさ、賃金水準の低さ、そして建設業に対する負のイメージなどが挙げられます。
参考)https://marugotoinc.jp/blog/kensetsu_wakamonobanare/
建設業への就業を避ける若者の中には、「きつい」「汚い」「危険」という「3K職場」のイメージを持つ人が多く、このイメージが業界への参入障壁となっています。実際の現場では屋外業務がつきものであり、炎天下や厳寒の中での作業を避けられないため、他業種以上に労働環境の改善が求められています。技能訓練施設の減少や高齢労働者から若手への技能継承不足も、若手技術者の育成を遅らせる要因となっています。
参考)https://one.andpad.jp/magazine/13055/
建設業界の人手不足解消の切り札として注目されているのが、ICT技術を活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進です。国土交通省が推進する「i-Construction 2.0」では、深刻化する人手不足に対応し、建設現場での働き方を抜本的に変革することを目的としています。ICT技術の導入により、少ない人手でも高い生産性を維持することが可能になります。
参考)https://construction-dx.unlmtd.co.jp/labor-shortage/
主要なICT技術の活用領域としては、ドローンやレーザースキャナーによる3次元測量技術、BIM/CIMを活用した設計・施工・維持管理の一元化、ICT建設機械による自動制御システム、そして遠隔監視システムによるリアルタイムな進捗管理などが挙げられます。クラウドを活用すれば、図面や工程管理データをリアルタイムで共有でき、どこからでもアクセス可能になるため、現場とオフィスの情報共有がスムーズになります。
参考)https://www.beingcorp.co.jp/column/construction-cost-management-guide/20250929/
AIやロボット技術を活用することで、これまで人の手で行っていた作業の一部を自動化できます。AIによる施工管理の自動化で工程管理の効率化が進み、ロボットによる塗装や組立作業の支援、ドローンを活用した測量による作業時間の短縮と精度向上などが実現されています。ある建設会社では、AIを活用した工程管理システムを導入し、作業時間を約30%削減することに成功し、作業の属人化が解消されてスムーズな工程管理が実現しました。
鹿島建設はICT建設機械の導入に積極的に取り組み、重機の自動化や遠隔操作技術を活用して省人化を推進しています。ICT建設機械とは、GPS・センサー・通信技術を組み合わせた建設機械のことで、人の手を介さずに精密な施工が可能になるため、熟練技術者の不足を補う有効な手段となっています。書類作業の削減により事務負担を軽減し、ミスや手戻りを減らすことで作業時間を短縮できるため、ICT導入は人手不足解消の実効性のある対策として期待されています。
参考)https://twostone-s.com/columns/dx/construction/1900/
建設業界の人手不足を補う手段として、外国人労働者の活用が進んでいます。国土交通省が公表している資料によれば、建設業界で働く外国人の数は2012年から2021年までの10年で10倍近くまで増加しました。2022年時点において、建設業界で活躍する外国人労働者数は約11万人にのぼり、これは全産業の約6.4%に当たる数値です。
参考)https://iezukuri-business.homes.jp/column/recruitment-00022
外国人労働者を受け入れる直接的なメリットは、安定した人材確保につながる点です。国内だけを見れば労働力は着実に減少しており、採用競争はますます厳しくなっています。転職の一般化などによって、採用しても早期離職されてしまうリスクも高くなったため、外国人労働者にも採用の目を向けることで、人材確保の可能性が大きく広がります。
外国人労働者を受け入れることで、若い労働力を確保できる点も大きなメリットです。国内では建設業界への新規就業者が減少していることから、建設業界の高齢化が進んでいますが、外国人労働者の多くは若年層であるため、業界の若返りにも貢献します。国土交通省では「建設分野における外国人材の活用に係る緊急措置について」として資料をまとめ、外国人労働者の受け入れ強化を図る方針を示しています。
参考)https://www.ductnet.com/news/128/
外国人建設就労者の受け入れでは、とびが最も多く、鉄筋施工、型枠施工と続いています。技能実習制度、特定技能制度、そして育成就労制度という3つの制度を通じて、外国人材の活用が可能になっています。ICTの活用によって業務効率化が進めば、結果として外国人労働者にとっても働きやすく、定着しやすい環境を整えることにもつながるため、DX推進と外国人材活用を組み合わせた戦略が効果的です。
参考)https://www.sumitomokenki.co.jp/power/report/139/
建設業界の人手不足を解消する新たな可能性として、女性の活躍推進が注目されています。建設業に従事している人のうち、女性の割合は非常に低く、国土交通省が2024年に実施したアンケート調査では、建設業で働く26万8234人のうち、女性は17%の4万4854人と少数派でした。しかし近年は、女性社員にやりがいを持って長く働き続けてほしいと、女性の就業支援に力を入れる企業が増えています。
参考)https://www.yomiuri.co.jp/otekomachi/20250424-OYT8T50048/
女性が活躍できる場を設けることで、人手不足の解消につながります。現在、建設業全体で深刻な人手不足に陥っており、その理由は過酷な労働環境ゆえに就業者数が減少していること、若手不足、従事している人の高齢化など、複数の要因があります。このような人手不足を背景に、女性人材の獲得・定着に力を入れる建設関連会社が増えています。
参考)https://conne.genbasupport.com/tips-9716/
家事や子育てで培った女性視点の細やかな気配りの経験を業務に取り入れることで、新たな変化を期待できる可能性があります。効率的なスケジュール管理、小さな危険も見逃さない安全管理、設計・インテリアなどの業務が向いていると考えられており、細部まで注意を払うことができる人材を採用することで、顧客満足度アップや建設現場の労働環境の改善、安全性向上につながると期待できます。
建設業での女性採用には、女性向け設備や制度の整備不足、男性社員からの理解不足など多くの課題がありますが、女性採用を前向きに考えている企業や人事、採用担当者が増えています。少子高齢化の影響で労働力不足が深刻な建設業において、女性の入職が増加傾向にあり、女性が安心して働ける環境があれば、入職者も増え、労働力不足の解消につながると期待されています。都市再開発による建設ラッシュだけではなく、バブル時期に建設されたインフラの多くが寿命を迎えることや、災害による復興の需要も高まっているため、このような多くの需要があるなか、人手不足の問題を解消するひとつの解決策として、女性採用が注目されています。
参考)https://www.talent-clip.jp/media/construction-industry-woman
建設業界の人手不足を根本的に解決するには、労働環境の改善が不可欠です。年間休日の増加や長時間労働の是正などの労働環境の改善は、人手不足を解決する方法のひとつとして重要性が高まっています。社会保険への加入を徹底することも重要であり、労働者を社会保険へ加入させることは社員を守るためにも必須です。
参考)https://global-saponet.mgl.mynavi.jp/know-how/24547
国土交通省が推進する「建設業働き方改革加速化プログラム」では、週休2日制、適切な工期設定、育児・介護休暇などを考慮した柔軟な働き方などの施策がまとめられています。働き方改革を推進することで労働環境の改善につながり、人材確保と定着につながることが期待できます。建設工事現場で技術者の約4割が4週4休以下で就業している現状を考えると、理想は週休2日が確保される4週8閉所の定着ですが、実現まではまだ時間がかかるでしょう。
参考)https://www.topcon.co.jp/media/infrastructure/labor_shortage_2025/
若手就業者の離職を防ぐためには、給与面の改善も重要な要素です。仕事内容や労力、そして能力や保有資格に賃金が見合っていないと感じる若手も少なくありません。政府の賃上げの方針を受けて、建設現場で働く技能労働者の賃金もあらゆる職種で軒並み上昇しており、納得感のある給与体系への見直しは差し迫った課題です。長く働いてもらうためにも、モチベーションを高めるキャリアプランを明示する必要があります。
労働時間では、2022年の調査で建設業における年間労働時間は1,986時間、調査産業計に比べて約270時間の長時間労働となっているため、これを是正することが急務です。2024年4月からは時間外労働の上限規制が適用され、これまで長時間労働が常態化していた建設業界では大きな転換期を迎えています。会社全体で残業時間を減らしながらも生産性を維持するために、ICT技術の導入と労働環境の改善を両輪で進めることが求められています。屋外業務がつきものである建設業では、炎天下や厳寒のなかでの作業を避けられないため、従業員の安全のためにも他業種以上に勤怠管理が重要になります。
参考)https://minagine.jp/media/management/work-style-reform-construction2024/