軒天防火構造と耐火性能の違いや役割

軒天防火構造と耐火性能の違いや役割

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軒天防火構造の基本と役割

軒天防火構造の基本知識
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防火構造とは

建物の外壁や軒裏に一定の防火性能を持たせ、外部からの火災による延焼を抑制するための構造

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求められる性能

火災発生から30分間、建物内部への延焼を防ぐ遮熱性と遮炎性を確保

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法的根拠

建築基準法第2条8号に基づく規定で、特定の地域や建物に義務付けられている

軒天(のきてん)は、住宅の軒を見上げた際の天井部分を指し、「軒裏」とも呼ばれています。日常生活ではあまり目に留まらない部分ですが、建物の防火対策において非常に重要な役割を担っています。

 

軒天防火構造とは、建物の周囲で火災が発生した場合に、外壁や軒裏が延焼を抑制するために一定の防火性能を持つ構造のことです。建築基準法第2条8号に基づいて定められており、「外壁・軒裏防火構造」とも呼ばれることがあります。

 

防火構造の基本的な考え方は、建物の周囲で火災が発生した際に、外壁や軒裏が一定時間(30分間)燃え広がりを抑え、建物内部への延焼を防ぐことにあります。これにより、火災発生時の避難時間を確保し、人命や財産の保護につながります。

 

軒天は建物の外周部で最も突き出している部分であるため、ご近所で火災が発生した場合、最初に火の手が届きやすい場所でもあります。そのため、この部分の防火対策は特に重要視されているのです。

 

軒天防火構造に求められる防火性能の基準

軒天防火構造に求められる防火性能には、主に以下の2つの基準があります:

  1. 非損傷性:火災による加熱を30分間受けても、建物を倒壊させるような損傷を生じないこと
  2. 遮熱性:火災による加熱を30分間受けても、屋内側の温度が可燃物の燃焼温度以上に上昇しないこと

これらの性能を確保するためには、適切な材料選択と施工方法が必要です。建築基準法施行令第108条第2号では、「建築物周囲で発生する通常の火災による火熱が加えられた場合、加熱開始後30分間、屋内の温度が可燃物燃焼温度以上に上昇しないこと」と定められています。

 

また、実際の防火性能を確保するためには、「遮炎性」も重要な要素となります。これは、屋内に火炎を出す原因となる亀裂その他の損傷を生じないことを意味します。

 

軒天防火構造と耐火構造・準耐火構造の違い

防火に関する構造には、防火性能の高い順に「耐火構造」「準耐火構造」「防火構造」の3種類があります。これらの違いを理解することで、軒天防火構造の位置づけがより明確になります。

 

構造の種類 対象となる火災 求められる性能 主な対象部位
耐火構造 内部からの火災 1時間以上の耐久性 間仕切り壁、外壁、柱、床、はり、屋根など
準耐火構造 内部からの火災 45分の耐久性 間仕切り壁、外壁、柱、床、はり、屋根など
防火構造 外部からの火災 30分の耐久性 外壁と軒裏

「耐火構造」と「準耐火構造」は、建物内部で火災が発生した場合に、建物自体の倒壊や周囲への延焼を防ぐための構造です。一方、「防火構造」は建物の周囲で火災が発生した際に、その建物が火災に巻き込まれないようにするための構造です。

 

耐火構造の建物では、外壁や柱、床、屋根などの部位ごとに、最上階からの階数によって耐えられる時間が定められています。一般的な2階建てや3階建ての住宅では、間仕切り壁、外壁、柱、床、はりに関しては1時間の耐久性が求められ、屋根に関しては30分の耐久性が必要です。

 

準耐火構造の建物では、間仕切り壁、外壁、柱、床、はりで45分、屋根や軒裏などは耐火構造と同じ30分の耐久性が必要です。

 

防火構造は外壁と軒裏が対象となり、火災発生から30分の耐久性が必要になります。

 

軒天防火構造が必要となる建築物と地域

軒天防火構造が必要となる建築物や地域は、建築基準法によって明確に定められています。主に以下のケースで防火構造が求められます:

  1. 防火地域の一定の付属建築物
    • 防火地域で、平屋建ての付属建築物(延べ面積が50平方メートル以下)を建てる場合
    • 耐火建築物や準耐火建築物にしない場合は、防火構造とする必要がある
  2. 準防火地域の地上1階または地上2階の建築物
    • 準防火地域で、地上1階または地上2階の建築物(延べ面積が500平方メートル以下)
    • 木造等である場合には、外壁・軒裏を防火構造としなければならない
  3. 準防火地域の3階建て建築物
    • 準防火地域で、3階建ての建築物(延べ面積が500平方メートル以下)
    • 「3階建て建築物の技術的基準」に適合する必要があり、外壁と軒裏は必ず防火構造とする
  4. 法22条区域の建築物
    • 法22条区域(都道府県が定める防火地域や準防火地域以外の市街地)では、屋根を不燃材で造るか、不燃材(瓦・鉄)で葺くことが義務化

地域区分による防火規制は、都市の防災性能を高めるために重要な役割を果たしています。特に人口密度の高い都市部では、建物同士の距離が近いため、火災が発生した際の延焼リスクが高くなります。そのため、防火地域や準防火地域では、より厳しい防火基準が設けられているのです。

 

軒天防火構造に適した材料と施工方法

軒天防火構造を実現するためには、適切な材料選択と施工方法が重要です。一般的に使用される材料と施工方法について解説します。

 

1. 主な材料

  • ケイカル板(ケイ酸カルシウム板):最近では軒天の防火構造材料として主流となっています。不燃性に優れ、軽量で加工しやすいという特徴があります。

     

  • モルタル:鉄網モルタル塗りは、防火構造として認められている施工方法の一つです。耐久性に優れていますが、重量があるため構造への負担が大きくなります。

     

  • 石膏ボード:内装用としてよく使われますが、防火性能を持つタイプ(強化せっこうボード)は軒天の防火構造にも使用できます。

     

  • 木材:適切な厚みと防火処理を施した木材も、防火構造として使用可能です。例えば、厚さ30mm以上の木材の面戸板に、厚さ20mm以上のシックイなどで防火被覆を施す方法があります。

     

2. 施工方法の例

  • 鉄網モルタル塗り:厚さ20mm以上のモルタルを鉄網に塗る方法
  • 木毛セメント板張り:木毛セメント板を張る方法
  • せっこうボード張り:せっこうボードを張る方法
  • 木材+シックイ等:厚さ30mmの木材の面戸板の屋内または屋外側に厚さ20mmのシックイ等を施す方法

施工の際は、部材同士の取り合い部分や継ぎ目にも注意が必要です。これらの部分から火が侵入しないよう、適切な処理を行うことが重要です。

 

軒天防火構造のメンテナンスと定期点検の重要性

軒天は建物の外部に位置するため、風雨や紫外線などの影響を受けやすく、経年劣化が進みやすい部位です。防火性能を維持するためには、定期的なメンテナンスと点検が欠かせません。

 

1. 定期点検のポイント

  • ひび割れや欠損:軒天材にひび割れや欠損がないか確認する
  • 雨漏りの痕跡:雨漏りがあると内部の木材が腐食し、防火性能が低下する可能性がある
  • 虫害や腐食:シロアリなどの虫害や腐食がないか確認する
  • 取り付け部の緩み:軒天材の取り付け部に緩みがないか確認する

2. メンテナンスのタイミング

  • 定期的な点検:少なくとも年に1回は目視点検を行う
  • 屋根の修繕・改修時:屋根の修繕や改修を行う際に、軒天まわりの防火性能も点検・補修する
  • 台風や地震の後:大きな自然災害の後は、建物全体と共に軒天の状態も確認する

3. 補修方法

  • 部分的な補修:軽微な損傷の場合は、同等の材料で部分的に補修する
  • 全面的な取り替え:広範囲に劣化が見られる場合は、全面的な取り替えを検討する
  • 防火性能の向上:補修の機会に、より高い防火性能を持つ材料への交換も検討する

軒天のメンテナンスは、見落とされがちですが、建物の防火性能を維持するために重要です。特に古い建物では、建築当時の基準と現在の基準が異なる場合があるため、リフォームや改修の際に防火性能を見直すことをおすすめします。

 

軒天防火構造の施工事例と費用相場

実際の軒天防火構造の施工事例と、一般的な費用相場について紹介します。これから防火対策を検討している方の参考になるでしょう。

 

1. 施工事例
事例1:木造住宅の軒天改修

  • 既存の木製軒天をケイカル板に交換
  • 面積:約30㎡
  • 工期:3日間
  • 特徴:既存の垂木はそのまま活用し、軒天材のみを交換することで費用を抑えつつ防火性能を向上

事例2:京町家の防火改修

  • 伝統的な意匠を残しつつ防火性能を向上
  • 化粧垂木や化粧野地板を活かした防火改修
  • 工期:1週間
  • 特徴:文化的価値を損なわずに現代の防火基準に適合させる工夫

事例3:3階建て住宅の新築時の防火対策

  • 準防火地域における3階建て住宅の新築
  • 外壁と軒裏の一体的な防火設計
  • 特徴:設計段階から防火性能を考慮し、意匠性と防火性能を両立

2. 費用相場
軒天の防火構造化にかかる費用は、使用する材料や施工方法、面積によって大きく異なります。一般的な相場は以下の通りです:

  • 材料費
    • ケイカル板:3,000円〜5,000円/㎡
    • 強化せっこうボード:2,000円〜4,000円/㎡
    • 木製(防火処理済み):6,000円〜10,000円/㎡
  • 施工費
    • 新築時:2,000円〜4,000円/㎡
    • 改修時:4,000円〜8,000円/㎡(既存材の撤去費用を含む)
  • 総工事費の目安
    • 一般的な住宅(軒天面積30㎡程度)の場合
    • 新築時:15万円〜27万円
    • 改修時:21万円〜39万円

    これらの費用は、地域や施工業者によっても異なります。また、足場が必要な場合は別途費用がかかることがあります。複数の業者から見積もりを取り、比較検討することをおすすめします。

     

    防火対策は建物と人命を守るための重要な投資です。初期費用はかかりますが、火災による被害を最小限に抑えることができれば、長い目で見れば大きなメリットとなります。

     

    軒天防火構造の最新技術と今後の展望

    建築技術の進歩に伴い、軒天防火構造にも新しい技術や材料が導入されています。ここでは最新の技術動向と今後の展望について解説します。

     

    1. 最新の防火材料

    • 新世代ケイカル板:従来のケイカル板よりも軽量で、加工性と防火性能を向上させた新世代の製品が登場しています。施工の効率化とコスト削減が期待できます。

       

    • 木質系防火材料:木材に特殊な防火処理を施すことで、木の風合いを残しながら高い防火性能を実現する技術が発展しています。伝統的な木造建築の防火改修に適しています。

       

    • 複合防火材料:異なる素材を組み合わせることで、軽量性、意匠性、防火性能を高次元で両立させる複合材料の開発が進んでいます。

       

    2. 施工技術の進化

    • プレファブ化:工場で事前に加工された部材を現場で組み立てる方式が増えています。精度の高い施工が可能になり、防火性能の信頼性が向上します。

       

    • 非破壊検査技術:既存建物の防火性能を非破壊で検査する技術が発展しています。改修の必要性を正確に判断できるようになります。

       

    • 3Dスキャンと施工シミュレーション:建物を3Dスキャンし、防火