耐火構造と防火構造の違いと建物の安全性

耐火構造と防火構造の違いと建物の安全性

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耐火構造と防火構造の違い

耐火構造と防火構造の基本的な違い
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目的の違い

防火構造は外部からの延焼防止が目的、耐火構造は建物自体の倒壊防止と内部からの延焼防止が目的

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求められる耐火時間

防火構造は30分の耐火性能、耐火構造は最長3時間の耐火性能が求められる

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適用される建物

防火構造は一般住宅に多く、耐火構造は高層ビルや商業施設などの大規模建築物に多い

耐火構造の定義と基本的な特徴

耐火構造とは、建築基準法に定められた火災に対する安全性能を持つ構造のことで、建物の主要構造部分(壁、柱、床、梁、屋根、階段など)が一定の耐火性能を備えていることが求められます。耐火構造の最大の特徴は、建物内部で火災が発生した場合でも、一定時間は建物の倒壊を防ぎ、火災の拡大を抑制する能力を持っていることです。

 

耐火構造に求められる性能は主に3つあります。

 

  1. 非損傷性:火災時に建物が崩壊しないよう支える能力(最長3時間)
  2. 遮熱性:火災による熱が他の部分に伝わるのを防ぐ能力(最長1時間)
  3. 遮炎性:火炎が他の部分に広がるのを防ぐ能力(最長1時間)

耐火構造の建物は主に鉄筋コンクリート造RC造)、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)、鉄骨造(S造)で両面を耐火被覆したもの、コンクリートブロック造などが一般的です。近年の技術進歩により、木造でも耐火構造への適合が可能になっています。

 

防火構造の定義と外部延焼防止の役割

防火構造とは、建築基準法に定められた建物の防火性能を示す基準の一つで、主に建物の外壁と軒裏に防火性の高い材料を使用した構造を指します。防火構造の主な目的は、建物の周囲で発生した火災による燃え移りを防ぐことです。

 

防火構造に求められる性能は、火災発生から30分間の耐火性能です。これは、隣接する建物から火災が発生した場合に、その火が自分の建物に燃え移るのを防ぐ時間を確保するためです。

 

防火構造では、外壁の屋外側を鉄網モルタル塗りとし、屋内側を石膏ボード張りとする方法などが一般的です。また、防火性の高い塗料を使用することも防火構造の一つの方法となります。

 

防火構造は特に都市部の住宅密集地域において重要で、隣家との距離がほとんどない場所では、一軒で火災が発生すると連鎖的に燃え広がる危険性があるため、防火構造による対策が不可欠です。

 

耐火構造と防火構造の材料と施工方法の違い

耐火構造と防火構造では、使用される材料や施工方法に大きな違いがあります。

 

耐火構造の材料と施工方法

  • 壁・柱・床・梁:コンクリートや耐火性の鉄骨などの不燃材料を使用
  • 屋根:不燃材料で構成され、30分以上の耐火性能が必要
  • 内装材:耐火性能の高い石膏ボードなどを使用
  • 防火区画:大規模な建物では防火壁や防火扉による区画が必要
  • 耐火被覆:鉄骨造の場合、鉄骨部分に耐火被覆を施す

耐火構造の施工では、建物全体の構造部材に対して耐火性能を持たせる必要があるため、施工が複雑で費用も高くなる傾向があります。

 

防火構造の材料と施工方法

  • 外壁:防火性能のある外壁材(モルタル塗り、サイディングなど)
  • 軒裏:防火性能のある材料で覆う
  • 屋根:不燃材料(瓦、金属板など)を使用
  • 開口部:必要に応じて防火シャッターや防火ガラスを使用

防火構造の施工は主に建物の外周部に限定されるため、耐火構造と比較すると施工が比較的簡単で費用も抑えられます。

 

両構造の違いを表で比較すると以下のようになります:

項目 耐火構造 防火構造
主な目的 建物の倒壊防止と延焼防止 外部からの延焼防止
対象部位 建物全体の構造部材 主に外壁と軒裏
求められる耐火時間 最長3時間 30分
主な使用材料 コンクリート、耐火被覆した鉄骨など 防火性のある外壁材、石膏ボードなど
適用される建物 高層ビル、商業施設など 一般住宅など
建築コスト 比較的高い 比較的低い

法規制からみる耐火構造と防火構造の適用場所

建築基準法では、建物の用途や規模、立地条件によって、耐火構造や防火構造の適用が定められています。これらの法規制を理解することは、建築計画において非常に重要です。

 

防火地域と準防火地域における規制
防火地域と準防火地域は、都市計画法に基づいて指定される地域で、火災の危険性が高い密集市街地などに指定されます。

 

  • 防火地域
    • 階数が3階以上または延べ床面積が100㎡を超える建物は耐火建築物にする必要がある
    • それ以外の建物は準耐火建築物にする必要がある
  • 準防火地域
    • 地階を除く階数が4階以上または延べ床面積が1,500㎡を超える建物は耐火建築物にする必要がある
    • 延べ床面積が500㎡を超え1,500㎡以下の建物は準耐火建築物にする必要がある
    • 木造建築物は外壁や軒裏を防火構造にする必要がある

    法22条区域における規制
    法22条区域(都市計画区域内で市街地における防火の目的から指定される区域)では、屋根を不燃材料で造るか葺くことが義務付けられています。外壁についても、延焼のおそれのある部分は防火構造とすることが求められます。

     

    その他の規制

    • 特殊建築物(学校、病院、ホテル、店舗など)は、その用途や規模に応じて耐火建築物または準耐火建築物とすることが求められる場合があります
    • 建物の高さが13m以上または軒の高さが9m以上の建築物は、その主要構造部を耐火構造とするか、または不燃材料で造ることが求められます

    これらの法規制は地域によって異なる場合があるため、建築計画を立てる際には、必ず当該地域の建築基準法の規定を確認することが重要です。

     

    耐火構造と防火構造のコストとメリット・デメリット

    建物の構造を選択する際には、安全性だけでなくコストやその他のメリット・デメリットも考慮する必要があります。

     

    耐火構造のメリット

    • 火災時の建物倒壊リスクが低減され、避難時間が確保できる
    • 内部で火災が発生しても、他の部屋への延焼を遅らせることができる
    • 火災保険料が比較的安くなる(T構造として扱われるため)
    • 建物の耐久性が高く、長期的な資産価値が維持される
    • 大規模な建物や商業施設では法的に必須となる場合が多い

    耐火構造のデメリット

    • 建築コストが高くなる(防火構造と比較して約1.5〜2倍)
    • 建物の重量が増すため、地盤が軟弱な場合は地盤補強が必要になる場合がある
    • 改修や増築が難しくなる場合がある
    • 施工期間が長くなる傾向がある

    防火構造のメリット

    • 建築コストが比較的抑えられる
    • 外部からの延焼防止に効果的
    • 一般住宅では法的要件を満たすのに十分な場合が多い
    • 木造住宅でも適用可能で、伝統的な日本家屋の雰囲気を保ちながら防火性能を確保できる
    • 施工が比較的簡単で工期が短い

    防火構造のデメリット

    • 内部で火災が発生した場合、耐火構造に比べて延焼や倒壊のリスクが高い
    • 火災保険料が比較的高くなる場合がある(H構造として扱われるため)
    • 大規模な建物や特定の用途の建物では法的要件を満たせない場合がある

    コスト面では、防火構造の方が明らかに有利ですが、建物の用途や規模、立地条件によっては耐火構造が必須となる場合があります。また、長期的な視点では、耐火構造の方が維持管理コストや保険料の面でメリットがある場合もあります。

     

    建築主は自身のニーズや予算、法的要件を考慮して、適切な構造を選択することが重要です。また、防火構造であっても、内部の間仕切り壁や天井に防火性能の高い材料を使用するなど、追加の防火対策を施すことで、より安全性を高めることができます。

     

    耐火構造の木造住宅と最新の技術動向

    従来、耐火構造といえば鉄筋コンクリート造や鉄骨造が主流でしたが、近年の技術革新により木造でも耐火構造の建物を建築することが可能になっています。これは日本の木造建築の伝統を活かしながら、現代の安全基準を満たす新たな選択肢として注目されています。

     

    木造耐火構造の実現方法
    木造で耐火構造を実現する主な方法には以下のようなものがあります:

    1. 燃えしろ設計:木材の表面が燃えても内部の構造が一定時間保たれるよう、必要な断面寸法を大きくする設計手法
    2. 耐火被覆:木材の周囲を石膏ボードなどの不燃材料で覆い、木材が燃えないようにする方法
    3. 木質ハイブリッド構造:木材と鉄骨やコンクリートを組み合わせた複合構造

    これらの技術を用いることで、木造でも1時間から2時間の耐火性能を持つ建物を建築することが可能になっています。

     

    木造耐火構造のメリット

    • 木の温かみや質感を活かした空間デザインが可能
    • 環境負荷の低減(木材はカーボンニュートラルな材料)
    • 国産木材の活用による林業振興や地域経済への貢献
    • 断熱性が高く、省エネルギー性能に優れている
    • 鉄筋コンクリート造に比べて工期が短縮できる場合がある

    最新の技術動向
    木造耐火構造の分野では、さまざまな新技術が開発されています:

    • CLT(直交集成板):厚みのある木材を直交方向に積層接着した大判のパネルで、高い強度と耐火性を持つ
    • 難燃処理木材:木材に特殊な薬剤を注入することで、燃えにくくする技術
    • 木質耐火集成材:内部に耐火層を設けた集成材で、従来の集成材よりも高い耐火性能を持つ
    • 木質耐火被覆材:木材の表面に特殊な耐火被覆を施す技術

    これらの技術の進歩により、中高層の木造建築物も実現可能になってきています。2019年の建築基準法改正では、木造建築物の高さ制限が緩和され、一定の条件を満たせば木造で高層建築物を建てることが可能になりました。

     

    日本では「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行され、公共建築物における木材利用が推進されています。これにより、学校や公共施設などでも木造耐火構造の採用が増えてきています。

     

    木造耐火構造は、日本の伝統的な木造建築の良さを活かしながら、現代の安全基準を満たす新たな可能性を開いています。今後も技術開発が進み、より多様な木造耐火建築物が実現していくことが期待されます。

     

    木材保存協会による木造耐火構造の詳細解説

    省令準耐火構造と防火地域における建築規制

    省令準耐火構造は、完全な耐火構造ではないものの、一定の防火性能を持つ構造として認められている建築形式です。この構造は特に一般住宅において重要な選択肢となっています。

     

    省令準耐火構造の特徴
    省令準耐火構造の住宅の特徴は主に以下の2点に集約されます:

    1. 外部からの延焼防止
      • 外壁及び軒裏は防火構造(30分耐火)とする
      • 屋根は不燃材料を使用する
    2. 各室の防火対策
      • 天井・壁にせっこうボードなどを使用し、防火皮膜を形成する
      • 間仕切り壁や床にも一定の防火性能を持たせる

    省令準耐火構造は、完全な耐火構造ほどの性能はないものの、一般的な木造住宅よりも高い防火性能を持っています。特に、ツーバイフォー工法(枠組壁工法)の住宅は、その構造的特性から省令準耐火構造として認められることが多いです。

     

    防火地域と準防火地域における建築規制
    防火地域と準防火地域は、都市計画