
耐火構造とは、建築基準法第2条第7号に定められている構造で、通常の火災が終了するまでの間、建築物の倒壊および延焼を防止するために必要な性能(耐火性能)を持つものを指します。この耐火性能に関する技術的基準は、建築基準法施行令第107条に詳細に規定されています。
耐火性能の技術的基準は主に3つの観点から定められています。
これらの性能は、建築物の主要構造部(柱、梁、床、屋根、壁、階段など)ごとに、また建築物の階数に応じて要求される耐火時間が異なります。例えば、5階から14階の建物の柱や梁には2時間の耐火性能が求められますが、最上階から4階までは1時間の耐火性能で十分とされています。
耐火構造の構造方法は、平成12年建設省告示第1399号(最終改正:平成30年国土交通省告示第472号)に詳細に定められています。この告示では、主要構造部の部位ごとに具体的な構造方法が規定されています。
告示1399号の構成は以下のようになっています。
例えば、鉄筋コンクリート造の壁の場合、厚さや鉄筋のかぶり厚さなどの具体的な数値が定められています。壁の厚さは一般的に10cm以上必要とされ、鉄筋のかぶり厚さは2cm以上(遮熱性を要求される場合は3cm以上)とされています。
また、木造の耐火構造も規定されており、適切な耐火被覆を施すことで耐火構造として認められます。例えば、木造の柱や梁を石膏ボードで覆う場合、その厚さや施工方法が詳細に定められています。
国土交通省:耐火構造の構造方法を定める告示(第1399号)の詳細
耐火構造における主要構造部は、建築物の階数に応じて定められた耐火時間を確保する必要があります。建築基準法施行令第107条に基づく主要構造部ごとの耐火時間は以下のとおりです。
壁(間仕切壁・外壁)の耐火時間
最上階からの階数 | 耐力壁(非損傷性) | 耐力壁(遮熱性) | 非耐力壁(延焼のおそれのある部分・遮熱性) | 非耐力壁(その他の部分・遮熱性) | 非耐力壁(延焼のおそれのある部分・遮炎性) | 非耐力壁(その他の部分・遮炎性) |
---|---|---|---|---|---|---|
1~4階 | 1時間 | 1時間 | 1時間 | 30分 | 1時間 | 30分 |
5~14階 | 2時間 | 1時間 | 1時間 | 30分 | 1時間 | 30分 |
15階以上 | 2時間 | 1時間 | 1時間 | 30分 | 1時間 | 30分 |
柱・はりの耐火時間
最上階からの階数 | 柱(非損傷性) | はり(非損傷性) | はり(遮熱性) |
---|---|---|---|
1~4階 | 1時間 | 1時間 | 1時間 |
5~14階 | 2時間 | 2時間 | 1時間 |
15階以上 | 3時間 | 3時間 | 1時間 |
床・屋根・階段の耐火時間
部位 | 非損傷性 | 遮熱性 | 遮炎性 |
---|---|---|---|
床 | 階数による | 1時間 | なし |
屋根 | 30分 | なし | 30分 |
階段 | 30分 | なし | なし |
これらの耐火時間は、建築物の安全性を確保するために必要最低限の基準として定められています。実際の設計・施工においては、これらの基準を満たすよう適切な材料選定と施工方法を選択する必要があります。
耐火構造と準耐火構造は、火災に対する性能レベルが異なります。それぞれの特徴と選定基準について理解することが、適切な建築計画を立てる上で重要です。
耐火構造の特徴
準耐火構造の特徴
選定基準
法令上の要求がない場合でも、建築主の要望や建物の重要度に応じて、より高い耐火性能を持つ構造を選択することもあります。特に、重要な設備や貴重な資料を保管する建物などでは、法令の最低基準を上回る耐火性能を確保することが望ましいでしょう。
耐火構造には、告示で定められた仕様に適合する方法と、国土交通大臣の認定を受けた構造方法(大臣認定品)を用いる方法があります。大臣認定品は、告示の基準に適合しない新しい材料や工法でも、耐火性能が確認されれば使用できるというメリットがあります。
大臣認定品の特徴
施工上の注意点
大臣認定品を使用する際は、製品メーカーの技術資料や施工マニュアルを熟読し、不明点があれば事前にメーカーに確認することが重要です。また、施工者は定期的に講習会などに参加し、最新の技術情報や施工方法を習得することが望ましいでしょう。
一般財団法人 日本建築センター:耐火構造等の大臣認定に関する情報
近年、木材利用促進の観点から、耐火構造に関する告示も改正され、木造建築物への適用範囲が拡大しています。2024年4月に施行された改正建築基準法では、木材利用促進等に係る防火規制の合理化が追加されました。これにより、木造建築物でも適切な耐火被覆を施すことで、より高層の建築物を建設することが可能になっています。
最新の改正ポイント
これらの改正により、木造建築物の可能性が広がり、中高層の木造建築物も実現可能になっています。特に、CLT(直交集成板)などの新しい木質材料を活用した建築物の設計・施工が増えています。
施工者としては、これらの新しい規定や材料に関する知識を習得し、適切な設計・施工を行うことが求められます。また、木造耐火構造は従来のRC造や鉄骨造とは異なる施工上の注意点があるため、専門的な知識と経験が必要です。
日本木造住宅産業協会:耐火・準耐火構造に関する情報
耐火構造に関する規定は、建築技術の進歩や社会的ニーズの変化に応じて今後も改正される可能性があります。施工者は常に最新の情報を収集し、適切な設計・施工を行うことが重要です。
以上、耐火構造と告示に関する基本知識から最新の動向まで解説しました。建築物の防火・耐火性能は人命と財産を守るための重要な要素であり、適切な設計・施工が求められます。施工者は関連法令や技術基準を十分に理解し、安全で信頼性の高い建築物の実現に貢献しましょう。