

図面や仕様書で最も頻出する面粗さパラメータはRaとRzですが、まず重要なのは「同じ記号でも、規格の世代で意味が変わった経緯がある」点です。COTECの解説では、Rzは旧JIS(1982/1994)では十点平均粗さを指していた一方、2001年版JISでは最大高さを表す記号として用いられる、と整理されています。つまり、過去図面の「Rz」を現行の意味で受け取ると、評価指標そのものがズレる可能性があります。
さらに紛らわしいのが、便宜上「Rz(JIS)」「RzJIS」と書かれるケースです。これは旧JISの十点平均を現行のRz(最大高さ)と区別して扱いたい、現場の必要から生まれた表現だと説明されています。実務では、支給図にRzが書かれていたら、(1)発行年、(2)図面の表面性状の注記、(3)発注側の検査票の欄(Ra欄なのかRz欄なのか)までセットで確認し、トラブルを未然に潰すのが安全です。
参考:Rzの意味の変遷(旧JISと2001年版の違い)
https://www.cotec.co.jp/coatingEquipment/j/cotec/guidance04.html
Raについては、COTECの表で「1982年版では中心線平均粗さと呼ばれていたが、1994年版以降は算術平均粗さとしてRa表記」と説明されています。Raは凹凸の絶対偏差の平均で、ピークが少し立っても平均化されやすく、見た目の“ザラつき”感と一致しないことが起こります。逆にRz(最大高さ)は局所的な山と谷の差に引っ張られやすく、摺動・シール・当たり面など「局所突起が致命傷になり得る」部位で効いてきます。
そのため、設計意図としては「平均の粗さ(Ra)で加工法の目安を決め、局所の危険(Rz系)で不具合を塞ぐ」という使い分けが理にかないます。とはいえ、測定条件の前提が揃っていないと、RaでもRzでも議論が噛み合いません。次のH3では、測定の“条件差”を具体的に詰めます。
面粗さは「測った数値」がすべてではなく、「どう測ったか」まで含めて品質になります。KEYENCEの解説ページは、触針式表面粗さ測定機の測定手順を整理しており、現場で手戻りが起きやすい“測定の段取り”を標準化する入口として使いやすい資料です。まず、測定方向(加工目に対して直角か平行か)で出る値が変わり得るため、図面要求が摺動方向を意識しているなら、測定方向も揃える必要があります。
また、触針式は「段差・バリ・打痕・スケール」に強く影響を受けます。仕上げ面の一部にバリ取り痕が残ったり、測定位置に微小な傷があったりすると、Rz(最大高さ)系は特に跳ねやすいです。よって、測定前に外観で“測るべき面”を確定し、測定位置を複数箇所に分ける運用が有効です(「一発測定で合否」だと、偶然の傷で不合格になり、現場が荒れます)。
さらに、規格側にはフィルタや評価長さといった前提があり、装置側にもカットオフや設定があります。ここがズレると「加工は同じなのに測定値だけ違う」状況が起きます。発注側が検査成績書を要求する場合は、数値だけでなく測定条件(装置種別・カットオフ・評価長さ等)を合わせて提出・合意するのが実務的です。
参考:触針式の測定手順(現場の測定段取りの確認に有用)
https://www.keyence.co.jp/ss/products/microscope/roughness/line/procedure.jsp
図面の面粗さ指示で重要なのは、(1)数値(例:Ra 1.6)、(2)加工の可否(除去加工の有無)、(3)測定・評価の前提(必要なら注記)をセットで決めることです。MISUMIの技術資料では、工業製品の表面粗さを表すパラメータとしてRa、Ry、Rz、Sm、tpなどが定義され、表面粗さは対象面からランダムに抜き取った部分の算術平均値として扱う、と説明されています。つまり、図面にRaだけ書くと「どの程度の範囲を、どんな考えで平均化するか」を暗黙に含むため、重要面ほど指定が雑だと揉めやすいです。
近年の現場では、三角記号の等級感よりも「数値を直書き」が主流になっていますが、等級目安を知っておくと、設計・見積・加工の会話が早くなります。Rexレンタルの記事では、Ra値による大まかな分類例として、Ra 0.8μm以下が精密研削、Ra 3.2μm以下が一般研削、Ra 6.3μm以上が切削…といった整理が紹介されています。もちろん材料・機械・工具で幅はありますが、「その数値、切削で本当に出すのか?研削前提か?」の一次判断に使えます。
実務でよくある落とし穴は、図面上はRaだけ指定しているのに、発注側の検査がRz系で見ている(あるいはその逆)ケースです。前述の通りRzは意味の変遷があり得るため、図面の表面性状欄に「JIS B 0601:XXXXに従う」などの明示があるか確認し、なければ発注側に問い合わせた方が結果的に速いです。
参考:粗さパラメータの定義(Ra/Rz等の位置づけ確認)
https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/technical_data/td01/a0185.html
参考:Raによる粗さ等級の目安(加工法イメージの擦り合わせに便利)
https://www.rex-rental.jp/feature/1161/note/surface_roughness_symbols
面粗さの改善は「工具を良いものに替える」だけで解決しないことが多く、条件・機械・保持・冷却・摩耗の総合戦になります。ニッコーの解説では、送り量を小さくすることが表面粗さ改善の重要策で、衝撃低減や均一な仕上がりにつながること、さらに熱の発生が抑えられ工具摩耗を防ぐ面がある、と述べています。送りは面粗さと直結しやすい“効くレバー”なので、まず現状の送りと目標Raを関連づけて見直すと、対策が体系化しやすいです。
一方で、送りを下げれば万能というわけでもありません。送りを落として加工時間が伸びると、工具摩耗や熱変位が進んで面が荒れたり、寸法が漂ったりします。そこで「荒取り→仕上げ」の二段構えで、仕上げは工具状態が良いタイミングで短時間に終える、といった工程設計が効きます。
長谷川加工所の事例的な解説では、仕上げ専用工具の導入、クーラント最適化、送り速度をやや落として回転数を上げる見直し、バリ取りやチェック体制など、複数の改善策が挙げられています。ここから読み取れる実務のコツは、面粗さを「加工条件の一変数」ではなく「工程全体の成果物」として扱うことです。例えば、同じRaでも、バリが残ってRzが跳ねるならバリ取り工程がボトルネックですし、ビビりが出るなら保持剛性や刃先形状がボトルネックになります。
チェック方法としては、現場で次のような“切り分け表”を作っておくと強いです。
・原因候補と当たりを付けるメモ(例)
- 送り:工具目が粗い/一定周期のうねりが見える
- 摩耗:光沢ムラ、擦れたような面、熱を持ちやすい
- ビビり:縞模様、音、Rzが不安定に増える
- 切りくず:溶着や構成刃先っぽい付着、面がむしれる
- バリ:測定でRzだけ悪化、外観でエッジに返り
参考:送り量と表面粗さの関係(改善の第一手として有用)
https://www.nikkoss.jp/columns/feed_rate_surface_roughness
参考:面粗さ改善の具体策(工具・冷却・条件の整理)
https://hasegawa-kakosho.com/kakoumenn/
検索上位の記事では「Ra/Rzの説明」「測定機の種類」「加工別の目安」に収束しがちですが、現場で意外に効くのが“測定の盲点”を先に潰す運用です。特にRzの意味は規格の版で変遷があるため、「図面にRzとだけある」場合、発注側が想定するRzの定義(最大高さなのか、十点平均をRzJIS相当で見たいのか)を合意しないと、加工が正しくても検査で落ちる危険があります。COTECの説明はこの混乱が起こり得る理由(Rzの定義変更、Rz(JIS)という便宜表記)を明確にしているので、社内教育資料にも転用しやすい観点です。
次に、面粗さは「平均化の数字」なので、接触・密封・塗装・コーティングの不具合を必ずしも予言しません。たとえばRaが基準内でも、局所的な突起が残って相手材を攻撃する、逆に“谷が深くて”汚れや液が残る、といった現象は起こり得ます。MISUMIの資料が示すように、粗さパラメータにはRaやRzのほか、凹凸の平均間隔(Sm)や負荷長さ率(tp)など複数あり、用途によっては「平均の粗さ」以外の情報が効いてくる余地があります。設計・品質・加工の三者が揃う場では、「なぜRaだけで足りると思っているのか?」を一度言語化すると、手戻りが減ります。
最後に、測定の再現性を上げる小技として「測定場所の取り決め」があります。例えば、面の端部はバリ取り・面取りの影響が出やすく、中央部は工具目が素直に出やすい、といった傾向があります。KEYENCEが扱う触針式の測定手順のように“手順”があるなら、社内の検査要領書にも「どこを測るか(測定位置)」「何点測るか(サンプル数)」「加工目に対する方向」を明記して、数値のブレを工程のせいにしない状態を作ることが重要です。
現場向けの運用例(そのまま要領書に落とせる粒度)を置いておきます。
- 測定前:外観で打痕・傷・バリを確認し、測定不能箇所は避ける(避けた理由を記録)
- 測定方向:加工目に直角方向を基本にし、摺動方向がある部位は方向を固定
- 測定点数:最低3点(中央1点+端から一定距離の2点など)
- 合否判定:平均値と最大値の両方を記録し、Rz系が跳ねる場合は原因(傷・バリ・溶着)をコメント化
参考:Rzの定義変更とRz(JIS)の背景(“検査で揉める”の予防線)
https://www.cotec.co.jp/coatingEquipment/j/cotec/guidance04.html
参考:粗さパラメータの広がり(Ra以外の観点を持つための入口)
https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/technical_data/td01/a0185.html