
国土利用計画法における規制区域は、土地の投機的取引が相当範囲にわたり集中して行われ、または そのおそれがある場合に、地価が急激に上昇しまたは上昇するおそれがあると認められる区域として、都道府県知事または政令指定都市の長が指定する区域を指します。この制度は1974年(昭和49年)の国土利用計画法施行時に創設され、土地の投機的取引及び地価の高騰が国民生活に及ぼす弊害を除去するとともに、適正かつ合理的な土地利用の確保を図ることを目的としています。
参考)土地・不動産・建設業:土地取引規制制度 - 国土交通省
規制区域に指定されると、その区域内における全ての土地取引について、取引する土地の面積に関わらず都道府県知事または政令指定都市の長の許可が必要となります。この許可制は極めて強力な規制であり、許可を受けずに結んだ契約は法的に無効となるため、取引の自由を大きく制限する措置です。建築業従事者にとっては、規制区域内での土地取得は事実上不可能に近い状況となります。
参考)不動産の重要事項説明書における「国土利用計画法」とはなにか
指定要件は都市計画区域内と都市計画区域外で異なり、都市計画区域内では投機的取引の集中と地価の急激な上昇が要件となります。一方、都市計画区域以外では、このような事態が生じる場合にその事態を緊急に除去しなければ適正で合理的な土地利用が非常に困難になると認められる区域について指定されます。
参考)規制区域(国土利用計画法における~)とは
国土利用計画法の規制区域については、法施行(昭和49年)以来、現在まで指定された区域は全国に一つも存在しません。この事実は建築業従事者にとって極めて重要な情報であり、実務上は規制区域を意識する必要がほとんどないことを意味しています。
参考)国土利用計画法 - Wikipedia
規制区域が一度も指定されていない理由は、この制度が個人の財産権や経済活動への極めて大きな制約となるためです。全ての土地取引に知事の許可が必要となり、許可のない取引は無効となるという厳格な規制は、市場経済における土地取引の自由を根本から否定するものであり、指定には極めて慎重な判断が求められます。
参考)国土利用計画法の許可制とは?宅地取引における規制区域・遊休土…
実際には、バブル期の地価高騰時においても規制区域ではなく、より緩やかな規制である監視区域が活用されました。1993年11月1日時点では全国1,212市町村が監視区域に指定されていましたが、現在では東京都小笠原村のみが監視区域として指定されています。このように、地価対策としては規制区域よりも監視区域や注視区域といった事前届出制が実務的な対応策として機能してきました。
参考)https://www.lij.jp/html/jli/jli_2015/2015winter_p058.pdf
規制区域の指定がない現状においても、制度自体は法律に残されており、将来的に極端な地価高騰や投機的取引が発生した場合の抑止力として機能しています。建築業従事者は、この制度の存在を理解しつつも、実務上は事後届出制や監視区域の規制に注意を払うことが現実的です。
監視区域と注視区域は、いずれも事前届出制が適用される区域ですが、指定要件と届出面積要件に違いがあります。監視区域は、地価が急激に上昇し、または上昇するおそれがあり、適正な土地利用が困難となるおそれがある区域として都道府県知事が指定します。一方、注視区域は地価が一定期間内に相当な程度を超えて上昇し、または上昇するおそれがある区域として指定されます。
参考)https://www.lij.jp/html/jli/jli_2015/2015winter_p065.pdf
届出が必要となる土地面積についても相違があります。注視区域では事後届出制と同じ法定面積(市街化区域2,000㎡以上、市街化区域以外の都市計画区域5,000㎡以上、都市計画区域外10,000㎡以上)が基準となります。これに対し、監視区域では都道府県知事または政令指定都市の長が規則で定める面積以上の土地取引が対象となり、法定面積よりも小さい面積を設定できます。
東京都小笠原村の監視区域では、都市計画区域内において500㎡以上の土地取引を行う際に事前届出が必要とされています。これは法定面積の2,000㎡よりも大幅に小さい面積であり、より広範な土地取引が規制対象となります。建築業従事者が小笠原村で事業を行う場合、通常の事後届出制よりも厳格な手続きが求められることになります。
参考)国土利用計画法に基づく監視区域の指定について
注視区域については、1998年の国土利用計画法改正により創設されましたが、制度創設以来、指定された区域は存在しません。このため、実務上は監視区域のみが現在機能している事前届出制の区域となります。
事後届出制は、規制区域・監視区域・注視区域以外の全国一般に適用される土地取引規制制度です。建築業従事者にとって最も頻繁に関わる制度であり、一定規模以上の土地取引について、開発行為に先んじて土地の利用目的を審査する仕組みとなっています。
届出が必要となる要件は、①権利の移転・設定があること、②対価があること、③届出面積が一定面積以上であること、の3つすべてを満たす場合です。具体的な面積要件は、市街化区域では2,000㎡以上、市街化区域以外の都市計画区域では5,000㎡以上、都市計画区域外では10,000㎡以上となっています。
参考)「国土利用計画法(事前届出、事後届出)」の重要ポイントと解説…
届出義務者は、契約当事者のうち土地に関する権利を取得することとなる者、すなわち権利取得者(買主)です。届出期限は契約締結の日から起算して2週間以内であり、土地が所在する市町村の長を経由して都道府県知事等に対して利用目的、取引価格等を届け出る必要があります。
参考)兵庫県/国土利用計画法に基づく届出制度
一団の土地の概念も重要です。個々の取引では届出対象面積未満であっても、物理的・計画的な一体性をもって複数の土地に関する権利が取得される場合、一連の取引全体の合計面積で判断されます。例えば、市街化区域内で1,900㎡の土地と200㎡の土地を買う場合、合計2,100㎡となり届出が必要です。建築業従事者が複数の隣接する土地を段階的に取得する場合、最初の契約から届出義務が発生する可能性があります。
都道府県知事は届出内容を審査し、土地の利用目的が公表されている土地利用に関する計画に適合しない場合等には、利用目的の変更について勧告できます。勧告は届出をした日から3週間以内に行われます。勧告を無視しても契約は有効ですが、公表措置が講じられます。
国土利用計画法に基づく届出を怠った場合、厳しい罰則が科せられます。具体的には、6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられることがあり、これは個人だけでなく法人にも適用されます。法人の場合、代表者や担当者が個人の責任として罰せられるだけでなく、法人自体も罰金刑に処せられる可能性があります。
参考)国土利用計画法に基づく届出をしなかった場合に罰則はありますか…
建築業従事者にとって特に注意すべきは、届出義務違反が発覚した場合の企業信用への影響です。法令遵守意識の欠如は顧客からの信頼を失墜させ、事業継続に深刻な影響を与える可能性があります。過去には届出義務を怠ったために業務停止命令を受けた事例も存在しており、企業経営における重要な課題の一つとなっています。
参考)国土利用計画法とは?土地取引における届出の重要ポイントを解説…
罰則以外のリスクとして、届出を怠った場合に土地取引が無効となる可能性も存在します。ただし、事後届出制においては届出がなくても契約自体は有効ですが、規制区域における許可制では許可のない契約は無効となります。このため、万が一将来的に規制区域が指定された場合、無許可での取引は法的効力を持たないという重大なリスクが生じます。
建築業従事者は、土地取引を行う際に以下の点を確認すべきです。第一に、取引する土地の所在地が監視区域に指定されているか確認します(現在は東京都小笠原村のみ)。第二に、取引面積が法定面積以上か判断し、一団の土地に該当しないか検討します。第三に、契約締結後速やかに(2週間以内)届出手続きを完了させます。
社内のコンプライアンス体制を整備し、土地取引担当者に対する定期的な教育研修を実施することも重要です。特に複数の土地を段階的に取得する開発プロジェクトでは、一団の土地の認定により予期せず届出義務が発生する可能性があるため、法務部門や不動産コンサルタントとの連携が不可欠です。
参考になる詳細情報として、国土交通省の土地取引規制制度のページでは、最新の監視区域指定状況や届出手続きフローが公開されています。
国土交通省 土地取引規制制度(規制区域の指定状況、届出手続きフロー、様式のダウンロードが可能)
また、東京都の監視区域指定に関する情報は、小笠原村で事業を行う建築業者にとって必須の確認事項です。
東京都都市整備局 国土利用計画法に基づく監視区域の指定について(小笠原村の監視区域に関する詳細情報と届出様式)
私は建築業従事者向けのブログ記事として、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律 重点整備地区」をキーワードとした記事を作成いたします。