高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律重点整備地区とまちづくり整備基準

高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律重点整備地区とまちづくり整備基準

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高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律における重点整備地区

重点整備地区の概要
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法的位置づけ

バリアフリー法に基づき市町村が策定する基本構想で定める地区で、面的・一体的なバリアフリー化を推進

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設定要件

生活関連施設が3以上あり、徒歩圏内に集積している地区で、総合的な都市機能の増進に有効な地区

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実施内容

公共交通機関、建築物、道路、公園等の特定事業を位置づけ、具体的な整備計画を策定

重点整備地区は、高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(以下、バリアフリー法)に基づき、市町村が策定する基本構想において指定される特別な地区です。この地区では、旅客施設を中心とした地区や高齢者・障害者等が利用する施設が集積している地区において、公共交通機関、道路、路外駐車場、都市公園、建築物等のバリアフリー化を重点的かつ一体的に推進することが求められます。
参考)https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/barrierfree/content/001387556.pdf

バリアフリー法第2条第21号では、重点整備地区の要件として、生活関連施設があり、それらの間の移動が通常徒歩で行われる地区であることが定められています。基本方針においては、原則として生活関連施設が概ね3以上あることが示されており、2020年の法改正以降は旅客施設を含まない重点整備地区の設定も可能となりました。
参考)https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/barrierfree/content/001390905.pdf

重点整備地区における整備の特徴は、個別施設のバリアフリー化だけでなく、施設間の移動の連続性を確保する「面的・一体的なバリアフリー化」を実現することにあります。市町村は基本構想の策定を通じて施設管理者相互の連携・調整を行い、移動の連続性の観点から効果的なバリアフリー化を推進します。​

重点整備地区の基本構想策定プロセス

基本構想の策定は、市町村の努力義務として位置づけられており、地域の実情に応じて柔軟に進めることができます。策定プロセスでは、協議会の設置が重要な役割を果たします。バリアフリー法第24条の4第1項に基づく協議会は、市町村、施設設置管理者、高齢者・障害者等の当事者、学識経験者などで構成され、基本構想の内容について協議を行います。
参考)https://www.town.kawai.nara.jp/material/files/group/45/basui1_siryou3betsu-1.pdf

基本構想には以下の事項を記載することが求められます。​

  • 移動等円滑化に係る基本的な方針
  • 重点整備地区の位置及び区域
  • 生活関連施設(3以上)及び生活関連経路の設定
  • 実施すべき特定事業に関する事項(事業内容、事業者、事業実施時期等)
  • バリアフリーマップの作成等に関する事項

生活関連施設とは、高齢者・障害者等が日常生活又は社会生活において利用する旅客施設、官公庁施設、福祉施設等を指します。生活関連経路は、これらの施設相互間の経路を指し、全ての施設相互間の経路が設定できなくても、優先順位が高いものから順次位置づけていくことが重要とされています。
参考)重点整備地区における移動等の円滑化のイメージ

令和2年6月の基本方針改正により、「徒歩圏内」の考え方の目安としての「面積約400ha未満の地区」が削除され、より柔軟な地区設定が可能となりました。これにより、地域の実情に応じた適切な範囲での重点整備地区の設定が促進されています。​

重点整備地区における建築物特定事業の整備基準

重点整備地区内の建築物については、建築物特定事業として具体的な整備内容が基本構想に位置づけられます。建築物特定事業の主な整備内容には、エレベーターの設置等による段差解消、障害者対応型トイレの整備、視覚障害者誘導用ブロックの設置などがあります。
参考)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001426984.pdf

バリアフリー法における建築物の基準には、「移動等円滑化基準」と「建築物移動等円滑化誘導基準」の2種類があります。移動等円滑化基準は、特別特定建築物(不特定多数の者が利用し、又は主として高齢者、障害者等が利用する建築物)の新築等の際に適合が義務付けられる最低限の基準です。
参考)バリアフリー法の概要/大阪府(おおさかふ)ホームページ [O…

具体的な基準の例としては、以下のような項目が挙げられます。​

  • 車椅子使用者と人がすれ違える廊下幅を1.2m以上確保
  • 車椅子使用者用駐車区画の設置
  • 障害者対応型トイレの設置
  • エレベーターの設置(一定規模以上の建築物)
  • 視覚障害者誘導用ブロックの設置

重点整備地区内においては、既存建築物であっても基本構想に特定事業として位置づけられることで、バリアフリー整備の義務化の対象となります。これにより、新築建築物だけでなく既存建築物も含めた面的なバリアフリー化の推進が可能となります。​
建築業従事者にとって重要な点は、重点整備地区内での建築計画においては、基本構想で定められた整備基準や特定事業の内容を十分に確認し、それに適合した設計・施工を行う必要があることです。特に、生活関連経路に面する建築物については、連続したバリアフリー化の観点から、隣接する道路や他の施設との接続部分についても配慮が求められます。​

重点整備地区における道路特定事業と施設間連携

重点整備地区では、建築物だけでなく道路のバリアフリー化も重要な要素となります。道路特定事業には、視覚障害者誘導用ブロックの設置、車道との段差解消、歩道の拡幅などが含まれます。​
施設間連携の重要性は、バリアフリー法の届出制度にも表れています。移動等円滑化促進方針(マスタープラン)を策定した市町村では、生活関連施設である旅客施設や生活関連経路である道路において改修等を行う場合、工事着手の30日前までに市町村に届け出ることが義務付けられています。これにより、旅客施設と道路の境界等において連続したバリアフリー化が確保されるよう、改修内容の調整が可能となります。​
大阪市の事例では、25地区の重点整備地区を設定し、各地区で生活関連施設、主要な経路等のバリアフリー化を具体化した特定事業を実施しています。各事業者は特定事業計画を策定し、計画的に整備を進めています。
参考)大阪市:大阪市交通バリアフリー基本構想 (…href="https://www.city.osaka.lg.jp/toshikeikaku/page/0000178836.html" target="_blank">https://www.city.osaka.lg.jp/toshikeikaku/page/0000178836.htmlgt;交通政策href="https://www.city.osaka.lg.jp/toshikeikaku/page/0000178836.html" target="_blank">https://www.city.osaka.lg.jp/toshikeikaku/page/0000178836.htmlgt;大阪…

河合町の事例では、バリアフリー基本構想策定時に各施設管理者と協議し、「できる限り高齢者、障がい者等を含む町民のニーズを反映した整備を行うことを前提」として、バリアフリー化を行う項目や実施する目標時期について決定し、「実施すべき特定事業」として整理しています。​
建築業従事者が重点整備地区内で工事を行う際には、道路管理者や他の施設管理者との綿密な連携が必要です。特に、建築物の出入口と歩道の接続部分、敷地内通路と公道の接続部分などでは、段差の解消や視覚障害者誘導用ブロックの連続性などに配慮し、利用者にとって切れ目のないバリアフリー動線を確保することが求められます。​

重点整備地区における教育啓発特定事業とソフト施策

令和2年のバリアフリー法改正により、従来のハード整備に加えて「教育啓発特定事業」が新たに創設されました。これは、心のバリアフリーに関するソフト施策を基本構想に位置づけるものです。​
教育啓発特定事業の具体例としては、以下のような取り組みが想定されています。​

  • 小中学校におけるバリアフリーに関する教育(バリアフリー教室)
  • 公共交通事業者における接遇の向上に向けた研修の実施
  • 障害者用トイレ、優先席、エレベーターの適正利用に関する広報啓発
  • 高齢者、障害者等が直面する困難や必要とする支援について理解するための講演会
  • 小学生による公共交通の利用疑似体験

移動等円滑化促進方針(マスタープラン)においても、心のバリアフリーに関する記載事項が追加されました。具体的には、住民や施設の職員等が困っている高齢者・障害者等を手助けすることや、車両の優先席、車椅子使用者用駐車施設等を高齢者・障害者等が円滑に利用できるよう配慮することなど、住民その他の関係者の理解及び協力が必要であることが明記されています。​
建築業従事者にとっては、施設の整備だけでなく、その施設を利用する人々への配慮や、バリアフリーに関する啓発活動への協力も求められる時代となっています。例えば、工事現場での安全対策においても、高齢者や障害者への配慮、わかりやすい案内表示の設置などが重要です。

 

また、建築物の完成後においても、施設管理者に対してバリアフリー設備の適切な使用方法や維持管理についての情報提供を行うことで、ハード整備の効果を最大限に発揮させることができます。重点整備地区では、ハードとソフトが一体となった総合的なバリアフリー化の推進が期待されており、建築業従事者もその一翼を担う存在として認識されています。​

重点整備地区整備における補助制度と財政支援

重点整備地区におけるバリアフリー整備を推進するため、国は様々な補助制度や財政支援を用意しています。これらの制度を活用することで、市町村や施設管理者の財政負担を軽減し、効果的な整備の実施が可能となります。​
基本構想を策定した市町村には、以下のようなメリットがあります。​

  • 既存施設も含めたバリアフリー整備の推進が可能
  • 道路、公園等及び鉄道駅のバリアフリー化事業に対する交付金・補助金の重点配分
  • 公共施設等適正管理推進事業債(ユニバーサルデザイン事業)の活用(充当率90%、交付税措置率30%)
  • 公共交通特定事業計画に係る地方債の特例

公共施設等適正管理推進事業債のユニバーサルデザイン事業では、バリアフリー法に基づく公共施設等のバリアフリー改修事業が対象となります。具体的な改修例としては、車いす使用者用トイレ等の整備(事業費約400万円)、出入口の段差解消(事業費約30万円)、デジタルサイネージの整備(事業費数十万円~数百万円)などが挙げられます。​
基本構想の策定そのものに対しても、地域公共交通確保維持改善事業の一環として、調査経費への補助制度が設けられています。補助対象者は市町村で、補助率は1/2(上限500万円)となっています。補助対象経費には、協議会開催等の事務費、地域のデータの収集・分析の費用、住民・利用者アンケートの実施費用、専門家の招聘費用などが含まれます。​
建築業従事者にとって重要なのは、重点整備地区内での建築物バリアフリー化工事が、これらの補助制度の対象となる可能性があることです。施工計画の段階で、建築主や市町村と連携し、適用可能な補助制度を確認することで、より充実したバリアフリー整備を実現できます。

 

また、道路事業や市街地整備事業、都市公園・緑地等事業等において歩行空間の整備や公園施設のユニバーサルデザイン化を図る場合、基本構想に位置づけられた地区は社会資本整備総合交付金等の重点配分の対象となります。これにより、建築物と一体的に整備される周辺環境のバリアフリー化も促進されます。​
国土交通省が公表している「移動等円滑化促進方針・バリアフリー基本構想作成に関するガイドライン」では、補助制度の詳細や活用事例が紹介されており、建築業従事者も参考にすることができます。​
国土交通省「移動等円滑化促進方針・バリアフリー基本構想作成に関するガイドライン」(重点整備地区の設定要件、特定事業の内容、補助制度の詳細が掲載)
令和2年3月末時点で、全国304市町村が基本構想を作成しており、令和2年6月末時点では8市町村が移動等円滑化促進方針を作成しています。これらの自治体では、重点整備地区におけるバリアフリー化が計画的に進められており、今後も増加が見込まれています。建築業従事者は、自身が活動する地域の基本構想の有無や内容を把握し、適切に対応することが求められます。​