

契約書に印紙を貼っていない場合、本来の印紙税額の3倍の過怠税が課されます。
工事請負契約書は、印紙税法上の「課税文書」に該当します。印紙税法では、一定の取引に関する文書を作成した場合に印紙税が課されると定められており、工事の完成を約束して報酬を受け取る「請負契約」はその対象です。
課税文書とは、印紙税法の別表第一に掲げられた文書のことで、工事請負契約書は「第2号文書(請負に関する契約書)」に分類されます。これが基本です。
建築業に関わる方なら、日常的に多くの契約書を作成します。しかし、どの書類が課税文書にあたるのか、すべてを正確に把握できているケースは多くありません。
課税文書かどうかを判断する基準は「文書の名称」ではなく「実質的な内容」です。たとえば「覚書」や「確認書」という名称であっても、請負の内容が記載されていれば課税文書として扱われます。名前だけで判断するのは危険です。
印紙税は「文書を作成した時」に課税義務が生じます。つまり、紙の契約書に署名・押印した時点で納税義務が発生するため、後から印紙を貼ればいいという考え方は通用しません。
印紙税額は契約金額によって異なります。以下の一覧表で確認してください。
| 契約金額 | 印紙税額 |
|---|---|
| 1万円未満 | 非課税 |
| 1万円以上 〜 100万円以下 | 200円 |
| 100万円超 〜 200万円以下 | 400円 |
| 200万円超 〜 300万円以下 | 1,000円 |
| 300万円超 〜 500万円以下 | 2,000円 |
| 500万円超 〜 1,000万円以下 | 10,000円 |
| 1,000万円超 〜 5,000万円以下 | 20,000円 |
| 5,000万円超 〜 1億円以下 | 60,000円 |
| 1億円超 〜 5億円以下 | 100,000円 |
| 5億円超 〜 10億円以下 | 200,000円 |
| 10億円超 〜 50億円以下 | 400,000円 |
| 50億円超 | 600,000円 |
| 契約金額の記載なし | 200円 |
注意点が一つあります。2014年4月1日から2027年3月31日までの間に作成された建設工事請負契約書については、軽減税率が適用されているため、上記の表の金額がそのまま適用されます(本来の税額よりも低く設定されています)。
たとえば、500万円超〜1,000万円以下の区分では、軽減前の本則税率では20,000円のところ、軽減措置により10,000円になっています。これは使えそうです。
軽減措置が適用されるのは「建設工事の請負に関する契約書」に限られます。物品の売買契約書や業務委託契約書には適用されないため、契約の種類を確認することが条件です。
契約金額が「税込み」か「税抜き」かによって、印紙税の区分が変わる場合があります。消費税額が明記されている契約書では、消費税額を除いた本体価格が契約金額の判断基準になるため、記載方法にも注意が必要です。
参考:国税庁の印紙税額一覧(請負に関する契約書)
国税庁|No.7141 印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで
印紙を貼らなかった場合、または印紙の消印をしなかった場合には、「過怠税」が課されます。これは通常の印紙税額の3倍です。
たとえば、5,000万円の工事請負契約書に本来60,000円の印紙を貼るべきところ貼り忘れた場合、過怠税は180,000円になります。差額は120,000円。痛いですね。
過怠税は、故意かどうかに関係なく課されます。うっかりミスであっても対象になるため、確認作業を習慣化することが大切です。
ただし、税務調査で発覚する前に自主的に申し出た場合は、過怠税が本来の印紙税額の1.1倍(10%加算)に軽減されます。つまり早めの申告が条件です。
消印を忘れた場合も、未貼付と同じく過怠税の対象になります。消印は「使用済み」を示すための手続きであり、印紙を貼るだけでは不十分です。消印は印鑑でも署名でも認められますが、必ず印紙にかかるように押す必要があります。
国税庁|No.7131 印紙税を納めなかった場合の過怠税(印紙税法第20条)
過怠税のリスクは税務調査時に発覚します。建築業では大規模な工事を扱うことが多く、1件の見落としが数十万円の損失につながるケースも珍しくありません。契約書管理のフローを社内で統一しておくことが、リスク回避への第一歩です。
電子契約書には印紙税が課税されません。これは印紙税法が「紙の文書」を課税対象としているためで、電磁的記録(データ)として作成・交付される電子契約書は課税文書に該当しないからです。
つまり電子化で節税になるということです。
年間50件の工事請負契約を締結している場合、1件あたり平均20,000円の印紙が必要だとすると、年間で100万円の印紙税が発生します。電子契約に切り替えることで、この全額を削減できる可能性があります。
電子契約で印紙税が非課税になる条件は明確です。
- 契約書の原本が電磁的記録(PDFなど)として作成されていること
- 紙の原本を作成・交付していないこと
- 電子署名または電子認証が付与されていること
注意点があります。電子契約で締結した後に、確認用として紙に印刷して相手方に交付すると、その紙が課税文書とみなされる可能性があります。「電子で締結した控え」であれば問題ありませんが、「原本」として交付した場合は課税対象になり得るため注意が必要です。
建築業向けの電子契約サービスとしては、クラウドサイン、freeeサイン、Adobe Acrobat Signなどが広く使われています。導入コストと年間の印紙税額を比較してから判断するのが現実的です。
工事途中での設計変更や追加工事が発生した場合、変更契約書を作成することになります。この変更契約書にも印紙が必要になるケースがあります。これは意外ですね。
変更契約書の印紙税額の判断は、「変更後の契約金額」ではなく「増額分」をもとに行います。
たとえば、当初の請負金額が3,000万円で、変更後に3,500万円になった場合、増額分の500万円に対して印紙税を計算します。500万円超〜1,000万円以下の区分に当てはまるため、印紙税額は10,000円です。
ただし、変更契約書に「変更後の契約金額(3,500万円)のみ」を記載して、当初金額や増減額が明示されていない場合は、変更後の金額(3,500万円)全体が課税対象とみなされます。差額が大きくなるため、変更金額の内訳を明記することが重要です。
変更額が「減額」の場合は記載金額なしとして扱われ、印紙税額は200円になります。減額変更なら200円が基本です。
追加工事の場合も同様で、追加工事を別の独立した契約書として作成した場合は、その金額に応じた印紙税が課されます。元の契約書とは別に印紙の計算が必要です。
工事現場では「口頭で追加を依頼した」というケースも多いですが、後になって書面で確認する場合には印紙の扱いも確認が必要です。書面作成のタイミングと内容によって課税関係が変わるため、社内の契約管理担当者と連携しておくことが大切です。
工事請負契約では、元請業者と下請業者の間でも印紙税の問題が発生します。しかし、現場実務における印紙の分担ルールは、法律で一律に定められているわけではありません。
印紙税法上の原則は「契約書を作成した者が連帯して納税義務を負う」というものです。つまり元請・下請双方が義務を負います。
実務上は、契約書を2通作成して双方が1通ずつ保管する場合、それぞれの文書に印紙が必要です。しかし、1通のみ作成してどちらかが保管する場合、その文書の保管者側が印紙を貼ることが多いです。
一方、元請業者が作成した下請契約書に印紙を貼らず、その費用を下請業者に転嫁するケースも存在します。これは不当な費用負担であり、「下請法」の観点からも問題になり得ます。国土交通省の建設業法ガイドラインでもこの点は注意喚起されています。
下請業者の立場からすると、契約書の印紙代を差し引かれた形で請負金額を設定されることがあります。これは事実上のコスト転嫁です。金額が小さく見えても、積み重なると無視できない出費になります。
下請け取引での印紙負担を明確にするためには、契約書の作成通数と費用負担を事前に書面で確認しておくことが有効です。「誰が何通作成し、印紙はどちらが負担するか」を確認する、たったそれだけで後のトラブルを防げます。