膜タンパク質と輸送タンパク質の違いや分類と機能

膜タンパク質と輸送タンパク質の違いや分類と機能

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膜タンパク質と輸送タンパク質の違い

この記事のポイント
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膜タンパク質とは

生体膜に埋め込まれたタンパク質の総称で、物質輸送・情報伝達・細胞接着など多様な機能を担う

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輸送タンパク質とは

膜タンパク質のうち、細胞膜を介した物質輸送を担う専門的なタンパク質群

主な違い

膜タンパク質は広義の概念で、輸送タンパク質はその中の特定機能を持つサブカテゴリー

膜タンパク質の基本構造と特徴

膜タンパク質は、細胞膜や細胞小器官の生体膜に存在するタンパク質の総称です。生体膜はリン脂質の二重層から構成されており、この膜にモザイク状に分布するタンパク質が膜タンパク質と呼ばれます。膜タンパク質は、生体膜を貫通する内在性膜タンパク質と、膜表面に結合する外在性膜タンパク質に大別されます。
参考)受動輸送と能動輸送、チャネルとポンプの違いは?【生体物質と細…

内在性膜タンパク質の中でも、膜を完全に貫通しているものは膜貫通型タンパク質と呼ばれ、その膜貫通部位はβバレルまたはαヘリックス構造をしています。膜貫通回数により、一回膜貫通型タンパク質と複数回膜貫通型タンパク質に分類されます。これらのタンパク質は疎水性が非常に高く、水中では凝集しやすい性質を持っています。
参考)膜貫通型タンパク質 - Wikipedia

膜タンパク質は物質輸送だけでなく、シグナル伝達、細胞接着、酵素活性など多様な機能を担っています。リン脂質とともに流動的に動いており、この様子は流動モザイクモデルと呼ばれます。
参考)【高校生物基礎】「細胞膜の構造と機能」

輸送タンパク質の定義と分類の基準

輸送タンパク質は、膜タンパク質のうち生体膜を貫通し、物質の移動に関わるタンパク質の総称です。単に輸送体、輸送担体、またはトランスポーターとも呼ばれます。親油性の低い物質や濃度勾配に逆らった物質移動など、自発的には進行しない輸送を司る特殊な膜タンパク質です。
参考)膜輸送体 - Wikipedia

輸送タンパク質は機能的な分類として、エネルギーを必要としない受動輸送を行うものと、エネルギーを利用する能動輸送を行うものに大別されます。受動輸送では濃度勾配に従って物質が高濃度側から低濃度側へ移動しますが、能動輸送では濃度勾配に逆らって低濃度側から高濃度側へ物質を輸送します。
参考)細胞膜の構造と働きを徹底解説!受動輸送・能動輸送をマスターし…

受動輸送を担う輸送タンパク質にはチャネル担体があり、能動輸送を担うものにはポンプなどがあります。これらはそれぞれ決まった物質を輸送する働きを持っており、輸送のエネルギー源には膜を介したイオンの電気化学的勾配やATPが用いられます。
参考)細胞膜の構造と3つの膜タンパク質の働き

膜タンパク質における輸送タンパク質の位置づけ

輸送タンパク質は膜タンパク質の一部であり、特に物質輸送という特定の機能に特化したサブグループです。膜タンパク質全体の中で、輸送タンパク質以外にも受容体タンパク質、接着タンパク質、酵素タンパク質など様々な機能を持つものが存在します。
参考)膜タンパク質|一般社団法人 日本生物物理学会

具体的には、細胞膜を構成する膜タンパク質のうち、チャネル、ポンプ、担体などの物質移動に直接関わるものが輸送タンパク質として分類されます。これらは生体膜を貫通し、細胞の内と外での物質のやりとりを制御する重要な役割を果たしています。​
輸送タンパク質は細胞のエネルギー代謝や情報伝達に不可欠であり、例えばナトリウムポンプは細胞内外のイオン濃度差を維持し、神経伝達や筋収縮などの生命活動を支えています。このように、輸送タンパク質は膜タンパク質の中でも特に生命維持に重要な機能を担う存在といえます。
参考)膜輸送・膜透過|一般社団法人 日本生物物理学会

膜タンパク質の機能分類と輸送機能の特殊性

膜タンパク質は機能により、輸送機能、受容体機能、接着機能、酵素機能、構造支持機能などに分類されます。このうち輸送機能は細胞の恒常性維持に直接関わる重要な役割です。
参考)細胞膜の表面にどのようなタンパク質がありますか?

輸送機能を持つ膜タンパク質は、単なる物理的な通路ではなく、特定の物質を選択的に輸送する高度な分子装置です。輸送体は輸送基質に対して特異的な結合部位を持ち、この結合部位が細胞膜の外側と内側に交互に露出する構造変化を起こすことで物質を輸送します。
参考)膜輸送タンパク質の分子機構の構造基盤 : ライフサイエンス …

この輸送メカニズムは酵素と同様の速度論的性質を示し、基質を結合した中間体を経て輸送すると考えられています。そのため透過酵素またはパーミアーゼとも呼ばれることがあります。近年では輸送体の結晶構造解析も進み、原子レベルでの構造情報をもとに機能メカニズムが議論されるようになっています。​
日本生物物理学会による膜輸送・膜透過の詳細解説(輸送体の単離精製と再構成技術について)

膜タンパク質と輸送タンパク質の研究手法の違い

膜タンパク質の研究は、その疎水性の高さから技術的に困難な点が多く存在します。抽出には界面活性剤や非極性溶媒が必要であり、βバレル型では変性剤を用いることもあります。​
輸送タンパク質の機能メカニズムを調べるには、細胞から単離精製し、人工膜に再構成する必要があります。最近では目的の輸送体のみを大量に細胞に作らせる技術が進歩し、解析用サンプルの準備が容易になりました。これにより、従来困難であった輸送体の結晶構造解析が次々と成功し、原子レベルでの構造情報に基づく機能メカニズムの議論が可能になっています。​
膜タンパク質全般の構造解析では、X線結晶構造解析や極低温電子顕微鏡法が用いられます。特に輸送タンパク質では、輸送基質との複合体構造の解析が重要であり、これにより輸送の分子機構が明らかになりつつあります。また、生物物理学の様々な手法を用いて再構成輸送体を調べることで、個々の輸送メカニズムに迫ることができます。
参考)膜タンパク質構造解析は「オワコン」化するのか?

膜タンパク質構造解析の最新動向(日本生物物理学会誌)