

モータートルクの計算で最初に押さえるべきは、「回転の仕事率=トルク×角速度」という関係です。小野測器のFAQでは、定格出力HkWと回転速度Nr/minとトルクTN・mの関係として、H=T×(2πN/60)÷1000 を示しています。つまり、回転数が上がれば同じ出力でもトルクは小さくなり、回転数が下がれば同じ出力でもトルクは大きくなる、という直感がそのまま式になっています。
現場では、発注書や仕様書に「出力(kW)」と「回転数(rpm)」は書かれているのに「トルク(N・m)」が明記されていないことが多いです。そのとき役立つのが、上の式をトルクに変形した形です。小野測器のページでは、T=(60000/2π)H÷N として同じ内容を別形で示し、例として 1800 r/min、1 kW なら 5.3 N・m と計算しています。
さらに、計算サイトkeisanでも「出力(kW)=2π×トルク(N・m)×回転数(rpm)/60/1000」という同等の式が整理されています。式の形は違って見えても、同じ単位系(rpm→rad/s、W→kWなど)に直せば一致します。
・参考リンク(出力・回転数・トルクの基本式と具体例の根拠に使用)
小野測器 - トルクメータFAQ モーター定格からトルクを求…
・参考リンク(P=2πTN/60のkW換算を含む、式の再確認に使用)
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設計や見積の場面で頻出するのが、いわゆる「9550の式」です。多くの技術記事では、トルクTN・m、出力PkW、回転数nrpmとして、T=9550×P/n の形で示されます(これは先ほどの H=T×(2πN/60)÷1000 を整理しただけです)。実務ではこの形が便利で、電動機の定格出力(kW)と定格回転数(rpm)が分かれば、定格トルクを即座に概算できます。
ここで重要なのは、「9550は魔法の数」ではなく、単位換算と2πが折りたたまれているだけ、という点です。rpm(1分あたり回転数)をrad/s(毎秒の角速度)に直すときに 2π/60 が出てきて、W→kWの換算で/1000が出てきます。小野測器が示す T=(60000/2π)H÷N は、まさに「9550の逆側」をそのまま書いた形で、60000/2π≒9549…なので、現場では9550として扱う、という理解が最も安全です。
注意点として、同じ「トルク」でも、定格トルク・最大トルク・加速トルク(必要トルク)・負荷トルクが混在すると、9550の式を当てても意味がずれます。9550の式で求まるのは基本的に「定常状態での出力から逆算したトルク(平均的な値)」なので、起動・停止・頻繁な加減速がある設備では、この値だけで選定すると痛い目を見ます。
モータートルクの計算での事故原因として多いのが、単位の混在です。特に「N・m」と「N・mm」を混ぜるミスは、桁が1000倍ずれても気づきにくく、軸径やキーの設計まで巻き込んで破綻します。現場の帳票では、トルクがN・mmで書かれていることもあるため、必ず単位を一度“声に出して確認”する運用が有効です。
また、回転数も「rpm」「r/s」「rad/s」が混ざります。小野測器の式はNをr/min(rpm)として扱う前提で、2πN/60 によって角速度へ変換しています。式をコピペして使うだけだと、Nをr/sで入れてしまい、60倍の誤差を生むので注意してください。
さらに「出力」も、電動機では入力電力(電気的)と出力(軸出力)が混同されがちです。カタログの定格出力は通常“軸出力”ですが、インバータの入力kVAや電源容量と混ぜて議論すると、9550の式で出るトルクが現場感と合わなくなります。計算前に、Pが何の出力か(軸出力なのか、入力なのか)を決めるだけで、議論が早く終わります。
モータートルクの計算を設備設計に使うなら、損失(効率)を入れない計算は“計算していないのと同じ”になりがちです。実際の伝達系には、ギヤ、ベルト、チェーン、カップリング、軸受、シールなどが入り、それぞれで損失が出ます。さらに、現場ではグリスの状態や芯出し、張力、温度で損失が変化し、「設計時の効率」と「据付後の効率」は一致しません。
考え方としてはシンプルで、負荷側で必要なトルクT_loadが分かっているなら、モータ側で必要なトルクは T_motor=T_load/η_total(総合効率)で割り戻します。逆に、モータの定格トルクが分かっているなら、負荷側で取り出せるトルクは T_out=T_motor×η_total で、損失分だけ小さくなります。
意外に見落とされるのが「効率は一定ではない」という点です。低速域・小トルク域は摩擦の割合が増えて効率が悪化しやすく、インバータで低周波運転すると冷却が弱くなり、連続で出せるトルク(許容電流)が下がることもあります。つまり、9550の式で求めた“理想的な定格トルク”をそのまま現場に当てはめると、低速で焼けたり、保護動作が頻発する、という形で露呈します。
モータートルクの計算で、検索上位では触れられにくいのに現場で効くのが「トルクの時間波形」を意識することです。定格出力や定格トルクは“平均的な連続値”として便利ですが、実際の建築設備(昇降、巻上、搬送、開閉、ポンプの起動など)は、ピークと谷がはっきりした負荷になりやすいです。平均で見れば余裕でも、ピークで軸やキーが先に負けたり、ギヤの歯面が先に傷むことがあります。
そこで有効なのが、トルクを「連続」「短時間」「瞬時(衝撃)」に分け、どの部品がどの領域で支配されるか整理するやり方です。例えば、モータは短時間の過負荷に耐える設計でも、減速機は“許容入力トルク”や“瞬時最大トルク”が別枠で規定されることが多く、ここを超えると歯欠けやベアリング損傷が先に起きます。小野測器も「モーターの回転−トルク(N-T)特性を確認するのが確実」と述べており、単発の計算式ではなく特性確認が重要であることを示唆しています。
もう一つの現場テクとして、「電流からトルクを推定」して、据付後の実負荷を“計算に戻す”方法があります。設計段階で不確実な摩擦や据付誤差があるなら、運転電流のログを取り、ピーク時の余裕がどれだけあるかを見るだけでも、次案件の選定精度が上がります。トルク計測器の選定も「最大トルク値で選定」と小野測器が注意している通り、ピークを見誤ると計測自体が成立しません。
最後に、意外と効くチェックとして「単位の次元解析」をおすすめします。式の数字を信じる前に、(N・m)×(rad/s)=W になっているか、rpmを入れているなら/60がどこに入っているか、kWなら/1000が入っているかを確認すると、現場の“なんか変だ”を早期に潰せます。これは新人教育にも効き、トラブル報告書の再発防止策としても書きやすい、地味ですが強い方法です。