
建築構造における張力は、ニュートンの第三法則である作用反作用の法則に基づいて発生します。張力とは糸やケーブルなどが物体を引っ張る力のことで、この力は必ずペアで現れる特性があります。具体的には、物体が糸を引っ張る力(作用)が生じると、糸が物体を引き返す力(反作用)が同時に発生し、これらは同じ大きさで反対向きに作用します。
参考)張力ってなに?わかりやすく解説
糸の内部では、微小区間ごとに作用反作用の法則が連鎖的に働いています。右向きに引っ張る力と左向きに引っ張る力が連続して作用し、つりあいが取れた状態を保ちます。この微小区間ごとの張力は互いにつりあっているため、実際の計算では両端を引っ張る力のペアのみを考慮すれば十分です。
張力は応力の一種であり、その定義には局所的な作用反作用の関係が内包されています。糸の内部では局所的に作用反作用の法則が成立しており、糸の端においても、糸に加えた力と張力が作用と反作用の関係になっていることは応力の定義から自明です。建築構造では、この原理を理解することで、ケーブル構造やテンション構造の設計において適切な力の配分が可能になります。
参考)本当は奥が深い「張力」の秘密|物理さんぽ
張力と作用反作用の詳細な解説 - 受験物理の基礎
受験物理の観点から張力と作用反作用の関係を分かりやすく図解で説明しています。
建築構造において、張力と力のつり合いは構造物の安定性を確保する上で不可欠な概念です。力のつり合いとは、2つ以上の力の合力が0になる状態を指し、この状態では物体は静止して移動しません。建築物の部材に荷重が作用する際、その荷重(外力)に対して構造物から反力が生じ、これらがつり合うことで構造物は安定を保ちます。
参考)力のつり合いとは?1分でわかる意味、作用反作用、角度、問題と…
張力が関係する力のつり合いでは、3力のつり合いが重要な役割を果たします。例えば、斜めのケーブルで吊られた構造では、斜め方向に作用する2つの張力と下向きの荷重がつり合う状態を形成します。この際、斜めの力はベクトルを考慮した合力として計算する必要があり、単純な足し算では正確な結果が得られません。
構造設計の実務では、作用力と反作用力をそれぞれ「荷重(外力)」と「反力」として扱います。物体が静止するとき、作用力の合計と反作用力の合計は一致し、この関係を力の釣り合いといいます。建築構造力学では、この力の釣り合いの計算が最も基本的な作業となり、連立方程式を組み立てて各部材に生じる反力を求めます。実際の構造設計では、構造物に作用する目に見えない力を適切に表現し、力の合成や分解を行いながら、全体のつり合いを検証することが求められます。
参考)https://pubdata.nikkan.co.jp/uploads/book/pdf_file4d61c687cc11b.pdf
力のつり合いの詳細解説 - 建築構造の基礎知識
建築構造における力のつり合いの計算方法と、張力を含む具体的な問題の解き方を解説しています。
現代建築では、張力を積極的に活用したテンション構造が広く採用されています。テンション構造とは、ケーブルや高張力ロッドなどのテンション材を使用した構造形式で、体育施設、展示施設、エントランスホールなどの大空間構造に多く用いられます。この構造形式の最大の特徴は、テンション材に強制的に軸力(プレストレス)を導入することで、地震時や強風時にも座屈することなく主要構造部として機能する点にあります。
参考)https://www.nipponsteel.com/tech/report/nsc/pdf/38213.pdf
張弦梁構造は、テンション構造の代表的な形式の一つです。この構造は、曲げ剛性を持つ上下弦材をテンション材により束材を介して結合したもので、低ライズの屋根形態が実現可能となり、下部構造への水平反力も低減されるという利点があります。実際の施工では、地組工法による構造検討を行い、張弦梁以外の梁へのスラスト(水平方向への反力)を減少させることで鉄骨材を均一化させ、施工時の応力状態も考慮した構造計画が立てられます。
参考)https://www.nishimatsu.co.jp/solution/report/pdf/vol30/g030_11.pdf
プレストレストコンクリート構造も、張力の原理を応用した重要な構造システムです。PC鋼材と呼ばれる高強度材料を引っ張り(緊張)、その張力によってコンクリートに圧縮力を与えることで、コンクリートの最大の弱点である引張力への弱さを克服します。この技術により、大きな引っ張る力が作用してもひび割れを自由自在に制御することが可能となり、大スパンの建築物や橋梁の建設が実現されています。テンション材への張力導入により効率的な設計が可能となり、軽量感のある広い空間を演出できることから、現代建築において不可欠な技術となっています。
参考)NSテンションシステム|日鉄エンジニアリング株式会社
NSテンションシステムの紹介 - 日鉄エンジニアリング
テンション材を活用した大空間屋根架構の実例と技術的特徴について詳しく解説されています。
建築構造設計において、張力は応力の一形態として理解され、許容応力度計算において重要な役割を果たします。応力とは、外力が部材に作用した際に部材内部に生じる内力のことで、張力は引張方向に作用する垂直応力として分類されます。応力度は応力の密度を表す概念で、部材の各点に生じる単位面積あたりの力として定義されます。
参考)https://renewal.5569et.com/inputs/05-03-ouryokudo/
許容応力度計算の流れは、まず建物にかかる外力を設定し、次に建物の形状や材料をもとに構造部材にどれくらいの応力が加わるかを計算します。その後、各構造部材が許容できる応力度を計算し、実際に生じる応力度と許容応力度を比較することで安全性を確認します。具体的には、実際にかかる応力度よりも許容応力度の方が大きければ、その部材は安全と判断されます。
構造力学における応力の理解には、ニュートンの運動法則と作用反作用の原理が不可欠です。作用反作用の法則は「2つの物体間に働く力は、同じ力が同一線上で逆向きに働く」というもので、力は単独では存在せず、常にペアとして存在することを示しています。静止していても力は常に働いており、この静止状態で働いている力を知ることが応力を知るということです。応力は材料力学や構造力学における強度計算に不可欠であり、建築物の安全性を確保するための基礎となっています。実際の構造設計では、地震などの外力により部材内部に生じる応力を正確に計算し、それが許容値を超えないことを確認することで、構造物の長期的な安全性と耐久性を担保しています。
参考)ばね力学用語(3)−応力とは|ばねの総合メーカー|フセハツ工…
許容応力度計算の詳細解説 - 構造計算の基礎
建築構造設計における許容応力度計算の流れと、応力度の概念について実務的な観点から説明しています。
建築構造設計の実務では、張力と作用反作用の正確な理解が構造物の安全性に直結します。作用反作用と力のつり合いを混同しないことが重要で、作用反作用は2つの異なる物体間に働く力のペアであるのに対し、力のつり合いは1つの物体に働く複数の力が釣り合う状態を指します。例えば、天井から糸で吊るされたボールの場合、ボールに働く重力と糸からの張力が力のつり合いを形成し、一方でボールと糸の間、糸と天井の間にはそれぞれ作用反作用のペアが存在します。
参考)Ⅰ構造力学(法則・基本的な考え方) href="https://kenchikuchishiki.com/kouzou/structuredesign/kihon/" target="_blank">https://kenchikuchishiki.com/kouzou/structuredesign/kihon/amp;#8211; 建築士の…
張力の作用点についても注意が必要です。張力とは「糸が物体を引っ張る力」であり、その作用点は糸と物体が接する点のうち物体側となります。一方、張力の反作用である「物体が糸に及ぼす力」を考える際には、作用点は同じ接点のうち糸側となります。このような「どちらがどちらに及ぼす力なのか」という考え方は、ニュートンの運動方程式を適用する際に極めて重要であり、正確な力学的解析には不可欠です。
参考)張力の性質と種々の例題
実際の建築構造設計において、構造物に作用する力は目に見えないため、力の表し方や合成・分解といった力の特性を正確に理解し、力のつり合いについて適切に把握する必要があります。構造設計では、机の上に物を置いた際の作用反作用の考え方を果てしなく発展させたものといえます。建築事業者として実務に携わる際には、これらの基本原理を常に意識し、各部材に生じる応力を正確に計算することで、安全で信頼性の高い構造物を設計することが求められます。特にテンション構造やプレストレスト構造など張力を積極的に活用する構造形式では、作用反作用の原理に基づいた綿密な力学的検討が構造物の性能を左右する重要な要素となります。
参考)構造用語「応力」とは?1分でわかる意味を解説|世界のぽっぽや…
応力の概念と実務での理解 - 構造用語解説
構造設計における応力の概念について、作用反作用の観点から分かりやすく解説されています。