ねじ強度と強度区分と締付トルク

ねじ強度と強度区分と締付トルク

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ねじ強度と強度区分

ねじ強度を判断する全体像
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強度区分で材料の上限を読む

「10.9」などの表示は、引張強さ・耐力の目安を規格として読み解けます。

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締付トルクは軸力を作る手段

トルクは目的ではなく、狙った軸力(締付力)を得るための操作量です。

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破壊モードを先に決めて対策

引張破断、ねじ山せん断(ストリッピング)、ねじり破断など、壊れ方で原因も対策も変わります。

ねじ強度と強度区分の見方


ねじ強度を語るとき、最初に押さえるべき入口が「強度区分」です。強度区分は点で区切られた2つの数字で表され、左側が「呼び引張強さ」の1/100、右側が「耐力(呼び下降伏応力または呼び耐力)÷呼び引張強さ」の10倍を意味します。たとえば「10.9」は呼び引張強さが1000MPa(=N/mm²)、耐力がその90%で900MPaを意味します。


ここで重要なのは、強度区分が“何となく強い/弱い”の感覚値ではなく、設計計算の出発点になる規格値だという点です。施工現場では「8.8より10.9の方が強い」だけで終わりがちですが、実務では「どの応力状態に対して」「どの安全率で」「どの断面(有効断面積)で」評価するかが必須になります。


また、強度区分はボルト側だけでなく、ナット側にも“組合せの上限”があることが見落とされやすいポイントです。ナット強度区分には、組み合わせて使用できるおねじ部品(ボルト等)の最大強度区分が整理されており、低い強度区分のナットを高強度ボルトと組み合わせると、締め過ぎ時にナットのねじ山がせん断破壊(ストリッピング)を起こしやすい、という考え方が明記されています。つまり「ボルトだけ高強度にすれば安心」ではなく、相手側(ナット・めねじ・母材)まで含めて強度区分を見なければ、破壊モードがボルト破断ではなく“ねじ山が持っていかれる事故”になり得ます。


参考:強度区分「10.9」の意味(引張強さ1000MPa・耐力900MPa)と、ナット側のストリッピングに関する説明
鋼製ボルト・小ねじ及び鋼製ナットの強度区分の表し方(参考書PDF)

ねじ強度と引張荷重と有効断面積

ねじ強度の基本計算で頻出なのが、軸方向の引張荷重に対する考え方です。引張荷重は「許容応力×有効断面積」で評価し、許容応力は降伏応力を安全率で割って求める、という形が基本になります。技術資料では、引張荷重 \(Pt\) を \(Pt=σt×As\) とし、有効断面積 \(As\) は谷径(有効径)から算出する説明が示されています。


ここでの現場的な落とし穴は、「呼び径(M10など)」の断面積で見てしまうことです。実際に引張荷重を受け持つのは、外径ではなく、ねじ谷の細い部分を含む“有効断面積”側です。したがって、同じMサイズでもピッチやねじ形状、ねじ部の加工状態によって、破断位置がねじ部になったり、軸部になったりします。


加えて、荷重が静的か、繰返しか、衝撃かで安全率の考え方は変わります。技術情報では材料ごとの安全率の目安(鋼の静荷重・繰返し荷重など)が表で示され、強度区分12.9の例として降伏応力から許容応力を求め、必要な有効断面積を逆算する計算例も掲載されています。建築の締結では、風荷重・地震時の繰返し、温度変化による緩みなど“実質的に繰返しに近い状況”が混ざりやすいため、静荷重の感覚でギリギリを狙うのは危険です。


参考:引張荷重 Pt=σt×AsPt=σt×AsPt=σt×As と安全率の表、強度区分12.9の計算例
ねじの破壊と強度計算(ねじの基礎)

ねじ強度とせん断とねじ山せん断

ねじ強度の破壊で、建築・設備・金物の現場で特に厄介なのが「せん断」と「ねじ山せん断(ストリッピング)」です。せん断はボルト軸に直角方向の荷重で起きるだけでなく、締結体の形状や偏心で“見かけは引張でも局所的にはせん断が発生する”ことがあります。さらに、ボルトが耐えても、相手側のめねじ(タップ部・ナット・母材)が先にねじ山せん断で壊れるケースは少なくありません。


意外に知られていないのが、規格の思想として「締め過ぎなど過大負荷時には、ナット側の完全負荷能力を確保し、ボルト破断の方が“破損の明らかな目印になるよう意図された設計”」という記述がある点です。つまり、適切な組合せでは、最悪でも“ボルトが切れて分かる”方向に寄せる考え方が背景にあります。ところが現場でナット高さが不足していたり、低ナット(スタイル0)を使ったり、母材側タップのねじ山かかりが浅いと、この思想が崩れてストリッピングが先行し、気づきにくい破損(トルクはかかったのに保持できない)が発生します。


対策としては、次の観点で「せん断・ねじ山せん断」を先回りで潰すのが有効です。


  • ボルト強度区分とナット強度区分の“組合せ上限”を守る。
  • ねじ山のかかり長さ(母材厚・ナット高さ)を確保し、薄板や短いめねじではインサート等も検討する。
  • 偏心荷重が出る形状(片持ちブラケット等)では、単純な引張計算だけでなく、せん断・曲げが混ざる前提で締結点配置を見直す。

「強いボルト」に交換するだけで安全にならないのは、破壊モードがボルト破断ではなく“相手側のねじ山破壊”に移るからです。ここを押さえると、ねじ強度のトラブル再発率が一段下がります。


参考:締め過ぎ時にナット側のストリッピングが起こる予測、設計思想(ボルト破断を明確な目印にする)
鋼製ボルト・小ねじ及び鋼製ナットの強度区分の表し方(参考書PDF)

ねじ強度と締付トルクと軸力

ねじ強度を現場でコントロールする実務操作が「締付トルク」です。ただしトルクは“強度”そのものではなく、ボルトに軸力(締付力)を発生させるための入力に過ぎません。資料では、トルク法による適正締付けの考え方として、規格耐力(下降伏点)の70%を最大とする弾性域で締付け軸力を決める、という説明が示されています。


ここでの重要ポイントは、同じトルクをかけても軸力が一定にならない、という現実です。理由は摩擦で、ねじ面・座面の摩擦係数や潤滑状態、相手材の表面状態でトルクの大半が摩擦に吸われ、軸力に変換される割合が揺れます。つまり、トルクレンチを使っていても、摩擦条件がバラつけば軸力もバラつき、結果として「強度(破断・降伏・緩み)」が不安定になります。


現場で効く“再現性”の工夫は次の通りです。


  • 座面の当たり面を安定させる(ワッシャ、座金、座面の面粗度管理など)。
  • 潤滑の有無をルール化する(乾式か、指定潤滑剤かを統一)。
  • 同一締結部を一度緩めて再締結する場合、面状態が変わり軸力が変化し得る前提で管理する。

建築では「締めた感触」だけで合わせる文化が残る現場もありますが、ねじ強度の観点では“狙うべきはトルク値ではなく軸力”です。トルクは軸力の代理指標でしかない、と割り切ると、仕様書の読み方も施工管理のポイントも整理しやすくなります。


参考:トルク法の適正締付け軸力(規格耐力の70%を最大とする弾性域)
締付けトルク(計算式)

ねじ強度と破壊モードと再発防止(独自視点)

検索上位の解説は「強度区分」「引張」「せん断」「トルク計算」までが中心で、現場の事故が減らない原因になりやすい“再発防止の設計”は意外と薄い傾向があります。そこで独自視点として、ねじ強度トラブルを「破壊モードの固定」と「検知性(壊れたと気づける)」で設計する考え方を紹介します。これは前述の規格思想(過大負荷時にボルト破断を明確な目印にする)と整合し、施工・点検の現実に寄せたアプローチです。


まず、ねじ強度トラブルの代表パターンを“壊れ方”で分類します。


  • ボルトが伸びて戻らない(塑性域に入る):締付け過多、耐力超過、熱影響など。
  • ボルトが破断する:過大引張、疲労、応力集中、締付け不足による繰返し荷重増など。
  • ナット・めねじのねじ山が飛ぶ(ストリッピング):ナット強度不足、かかり長さ不足、母材タップの弱さなど。
  • 緩みが進行して脱落:軸力不足、座面なじみ、振動、温度変化、締結体の沈み込みなど。

次に“再発防止”として、どの破壊モードを最終防護にするかを決めます。例えば、点検で発見しやすいのは「ボルトの破断」や「頭が飛ぶ」ですが、発見しにくいのは「ねじ山が半分舐めて保持力が落ちる」状態です。だからこそ、安易な混在(高強度ボルト×低強度ナット、薄いタップ、低ナット)は避け、過大負荷時の壊れ方を“見える側”に寄せる設計・調達・施工ルールが効果的になります。


実装のコツを、現場のチェックリストとしてまとめます。


  • 強度区分を「ボルト・ナット・めねじ(母材)」でセット管理し、単品最適(ボルトだけ高強度)をしない。
  • 締付トルクは“値”より“条件”を固定する(潤滑、座面、再締結の扱い)。
  • 再発が起きる箇所は、破壊モードの仮説を立ててから対策する(例:緩み→トルク増しではなく、軸力の安定化や座面対策へ)。

ねじ強度は計算で終わらず、破壊モードを設計し、点検で検知できる形に落とすところまでが実務です。この視点を入れると、同じ「ねじ強度」の話でも、上司のレビューで“現場で使える記事”として評価されやすくなります。




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