
熱伝導率は物質の熱の伝わりやすさを示す重要な物理量で、建築業界では材料選定の基本的な指標として活用されています 。単位「W/(m・K)」は、厚さ1メートルの物質が両端に1ケルビンの温度差を与えたとき、1平方メートルあたりに1秒間で伝わる熱量を表しています 。
参考)https://www.isover.co.jp/glossary/thermal-conductivity
この数値が大きいほど熱を効率的に伝導し、小さいほど断熱性能が高いことを意味します 。建築用途では一般的に熱伝導率が0.1W/(m・K)より小さいものを断熱材として使用するため、ステンレスは断熱材ではなく構造材として位置づけられます 。
参考)1.断熱材の仕組みとは?
フーリエの法則により、熱流束は温度勾配と熱伝導率の積で決定され、この関係性を理解することで適切な熱設計が可能になります 。
参考)熱伝導率とは? 熱伝達率との違いや求め方、金属の熱伝導率も解…
代表的なオーステナイト系ステンレスであるSUS304とSUS316は、室温(20℃)でともに16.2W/(m・K)の熱伝導率を示しています 。これは炭素鋼の約80W/(m・K)と比較して約5分の1の低い値で、クロムとニッケルが自由電子の動きを制限するためです 。
参考)ステンレス鋼の熱伝導率の説明とチャート - SteelPRO…
フェライト系ステンレスのSUS430は26.1W/(m・K)と、オーステナイト系より約60%高い熱伝導率を持っています 。析出硬化系の17-4PHステンレスは18.3W/(m・K)で、SUS304より若干高い値を示します 。
これらの差異は結晶構造の違いに起因し、フェライト系は磁性を持つ体心立方格子構造により電子移動が容易なため、オーステナイト系より熱伝導性が優れています 。
参考)ステンレスの導電率、透磁率、熱膨張率などの物理的性質について…
ステンレスの熱伝導率は温度上昇とともに増加する特性を持ち、この現象は建築業界での高温用途設計において重要な考慮事項です 。SUS304の場合、室温16.2W/(m・K)から100℃で16.2W/(m・K)、300℃で18.4W/(m・K)、500℃では21.5W/(m・K)まで上昇します 。
参考)「SUS304使用時の温度管理術:熱伝導率の解説付き」 - …
この温度依存性は金属結晶中の自由電子の活動が高温で活発化することに起因し、約30%の増加率を示します 。高温環境での構造設計では、この特性変化を考慮した熱計算が必要です 。
参考)熱伝導率とは?基本から学ぶ熱の伝わり方と驚きの応用例
建築用途では、火災時の耐火性能評価や高温設備周辺の設計において、この温度係数を適切に組み込むことで安全性と効率性を両立できます 。
参考)Fe:FRAME OIKAWA TEKKO
熱伝導率の測定には定常法と非定常法があり、建築材料の性能評価では主に定常法が採用されています 。定常法では試料に一定の温度勾配を与え、温度差と熱流量から熱伝導率を算出します 。
参考)http://ikebehp.mat.iwate-u.ac.jp/measure.html
測定装置にはNETZSCH社のLFA 467レーザーフラッシュ装置などが使用され、-50℃から1000℃の広範囲で正確な測定が可能です 。建築基準における熱性能評価では、JIS A 1412に基づく保護熱板法も広く活用されています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9920995/
これらの測定データは建築物の省エネルギー計算や断熱設計の基礎資料として活用され、BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)などの認証取得にも必要不可欠です 。
建築業界では、ステンレスの低熱伝導率特性を活用した独自の設計手法が確立されています。特に高層ビルの外装カーテンウォールシステムでは、SUS316の耐食性と相対的に低い熱伝導率を組み合わせ、熱橋現象を抑制する設計が採用されています 。
厨房設備では、SUS304の16.2W/(m・K)という特性を利用し、調理機器の適度な保温性と清掃性を両立させた設計が実現されています 。また、地下構造物では、土壌との熱交換を制御するために、ステンレス製防水シートの熱伝導特性を計算に組み込んだ温度管理システムが導入されています 。
最近では、ゼロエネルギービル(ZEB)設計において、ステンレス構造材の熱伝導率データを建物全体の熱収支計算に組み込み、HVAC システムの最適化を図る手法が注目されています 。