
パーカー処理は、金属表面に化学的にリン酸塩皮膜を生成させる化成処理技術です。この処理では、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸カルシウムなどのリン酸塩処理液を使用して、鉄鋼材料の表面に厚さ1μ〜15μ程度の灰色の不溶解性皮膜を形成します。
この表面処理の最大の特徴は、処理前後における処理物の寸法変化や重量変化が極めて少ないことです。化学反応により対象のワークの表面に膜を生成する技術であるため、複雑で入り組んだ形状でも、膜の厚さや重量を均一に保ちやすいという大きなメリットがあります。
処理温度は通常100℃を超えることがなく、処理を行う金属に熱による物理的な変化を与えません。この特性により、精密部品や寸法公差の厳しい工業製品にも安心して適用できます。
パーカー処理には主に3つの種類があり、それぞれ異なる特性を持ちます。
リン酸マンガン被膜
リン酸亜鉛被膜
リン酸カルシウム被膜
これらのリン酸塩皮膜は、化成皮膜であるため対象の金属から膜だけが剥がれる心配がない点も重要な特徴です。
パーカー処理の防錆効果は、リン酸塩皮膜が金属表面を物理的に保護することで実現されます。処理液に浸漬した際に鉄の表面が溶解し、鉄のまわりの溶液のpHが上昇することで、溶液中の金属イオンが不溶性の塩となって析出し、鉄を被覆する仕組みです。
この処理による耐摩耗性の向上は、特にピストンやカムシャフト等の摺動部品で大きな効果を発揮します。パーカー処理は対象品の表面にある凹凸も化成処理によってある程度ならすことができ、摺動特性を改善します。
また、リン酸塩皮膜処理では、ショットブラストでは得られない均一な表面粗化状態が得られるという特徴もあります。この均一な表面状態により、潤滑性の付与やなじみ向上効果も期待できます。
パーカー処理は、塗装の前処理として非常に優れた特性を示します。リン酸塩被膜が金属表面にあると微細な結晶が金属表面に作られ、塗料との密着力を上げる効果を発揮するためです。
この密着性向上効果により、塗膜の剥離を防止し、傷がついても錆が広がらないようにすることを目的として、自動車をはじめとした工業製品に標準的に採用されています。
特にリン酸亜鉛被膜は塗装下地として最適な特性を持ち、強力な密着力と耐食性能を付与するため、自動車業界や自動車部品業界でも定評のある技術となっています。
パーカー処理には主に2つの処理技法があります。
浸漬法(どぶ漬け法)
スプレー法
建築業界では、鋼材の防錆対策として、特に構造用鋼材や建築金物の表面処理にパーカー処理が活用されています。鋳物にも適用可能であるため、建築用鋳鉄製品の表面処理にも使用されます。
処理工程は以下の順序で進行します。
この表面処理技術は、寸法変化が少なく、脱膜しない、耐摩耗性向上、密着性向上、そして安価という5つの主要特徴により、建築分野でも幅広く活用されています。特に、排水処理等が軽減されるという環境面でのメリットも建築現場での採用に寄与しています。