
設備稼働率とは、設備の生産能力に対して実際にどれだけ生産できたかを表す指標です。建築業においては、建設機械やプラント設備がどの程度活用されているかを測定する重要な数値となります。
計算式は以下のとおりです。
設備稼働率=(実際の生産量÷本来の生産可能量)×100
例えば、1日に100個の製品を製造できる設備で95個を生産した場合、稼働率は95%となります。建設現場では、クレーンやブルドーザーなどの大型機械の稼働状況を把握することで、機械の配置や作業計画の最適化が可能です。
設備稼働率は市場の需要やオーダー数に左右されるため、需要が高い場合は100%を超えることもあります。一方で、需要が十分でなければ設備の能力を持て余すことになり、稼働率が低下します。
設備利用率は、発電設備における実際の発電量が、仮にフル稼働していた際の発電量の何パーセントであるかを示す数値です。主に発電所や再生可能エネルギー設備で用いられる指標となっています。
計算式は以下のとおりです。
設備利用率=総発電量(kWh)÷(経過時間×設備の出力(kW))×100
具体例として、最大出力が9000kWの太陽光発電設備で、1年間の総発電量が1000万kWhであった場合を考えます。この場合の設備利用率は「1000万kWh÷(24時間×365日×9000kW)×100=約13%」となります。
経済産業省やNEDOが示す指標では、太陽光発電の設備利用率は13%、陸上風力発電が20%、火力発電で80%とされています。これらの指標を活用することで、年間の総発電量を見積もることが可能です。
設備稼働率と設備利用率は混同されやすい指標ですが、測定対象が根本的に異なります。
設備稼働率は「時間」に対する数値です。稼働していた時間だけを対象とするため、発電量の少ない雨の日も発電量の多い快晴の日も、一日中稼働していれば稼働率は100%となります。建設機械であれば、エンジンが動いていた時間の割合を示します。
一方、設備利用率は「発電量・生産量」に対する数値です。実際にどれだけの成果物を生み出したかを測定するため、具体的な発電量や生産量を算出するための計算で使用できます。
風力発電を例にすると、設備利用率は20%~30%程度ですが、稼働率は90%以上あるのが一般的です。これは風が弱い時間帯でも設備は動いているものの、発電量としては少ないことを意味しています。
建築業で設備の効率を総合的に評価する際には、OEE(Overall Equipment Effectiveness:設備総合効率)という指標が有効です。
OEE=時間稼働率×性能稼働率×良品率
時間稼働率は「稼働時間÷負荷時間」で算出され、設備が実際に動いていた時間の割合を示します。負荷時間とは総合時間から計画停止時間(休憩や計画保全)を除いた時間です。
性能稼働率は「(基準サイクルタイム×加工数量)÷稼働時間」で求められ、設備が本来の性能通りに働いた時間を表します。空運転やチョコ停(数秒から数分の短時間停止)があると、この数値が低下します。
良品率は「(加工数-不良数)÷加工数」で計算され、生産した製品のうち良品の割合を示します。建設現場では、施工品質の管理指標として活用できます。
建築業における設備稼働率の低下要因は、大きく8つに分類されます。
故障ロスは設備の故障により時間稼働率が低下することです。建設機械の突発的な故障は作業全体を停止させるため、定期的なメンテナンスと予防保全が不可欠です。
チョコ停は部品の詰まりや充填材料の補充などで数秒から数分間作業が停止することです。頻繁に発生するため、IoT技術を活用した自動監視システムで発生パターンを分析し、事前対処することが効果的です。
段取り・調整は複数の品目を扱う際に治具や材料を切り替える時間を指します。SMED(Single Minute Exchange of Die)手法を導入し、段取り替え時間を最小限に抑えることで改善できます。
立ち上がりロスは設備起動時にかかる時間的損失です。温度や流量などの条件が整うまでの時間を短縮するため、IoTデバイスを用いた遠隔地からの予熱開始が有効です。
速度低下ロスは設備の動作スピードや作業員の作業スピードが低下することです。設備の不具合を早期に検知し、適切なメンテナンスを行うことで防止できます。
不良ロスは不良品や部品の不具合により稼働率が低下することです。品質管理を徹底し、工程内で不良を検出する仕組みを構築することが重要です。
部品ロスは必要な部品が予定通り入荷されない場合に発生します。サプライチェーン管理を強化し、在庫の適正化を図ることで防げます。
ネック工程ロスは前工程の作業終了を待つ待機時間です。工程ごとのリソース配分を見直し、バランスの取れた生産ラインを構築することで解消できます。
建設現場では、GPSや通信網を使った稼働管理システムの導入が進んでいます。機械から発信される稼働状況や位置情報、メンテナンス情報をリアルタイムに確認できるシステムです。
コマツの「Komtrax」やコベルコ建機の稼働機管理システムなど、各メーカーが独自のソリューションを提供しています。これらのシステムでは、建設機械の稼働時間、生産量、サイクルタイム、エラー情報などを自動収集し、クラウド上で一元管理します。
センサーを設置することで、建設機械が稼働すると自動的にデータがクラウドに送信され、管理者はWebアプリ上で稼働状況を把握できます。これにより、以下のメリットが得られます。
データの見える化により、ボトルネックとなっている要因を効率的に特定し、改善策を立案できます。
建設機械の稼働率向上には、IoTやAI技術を活用した予防保全が効果的です。従来の人の勘や経験による保全では、まだ使用できる部品も交換してしまったり、限界を迎えた設備をそのまま使用してしまうケースがありました。
IoTセンサーで設備の状態を連続的に計測・監視し、劣化状態に応じて部品交換や修理を行う予防保全により、以下の効果が得られます。
異常の早期検知:振動や温度、圧力などの異常をリアルタイムで検知し、故障前に対処できます。機械学習を活用した異常検知ソリューションでは、従来の閾値ベースの管理では発見できない障害や故障予兆を検知可能です。
メンテナンスの最適化:設備のメンテナンス頻度や時期をデータ化し、適切なタイミングで保全作業を実施できます。過剰なメンテナンスを防ぎながら、突発的な故障を最小限に抑えられます。
稼働状況の可視化:工場内の設備や建設現場の機械の稼働状況をリアルタイムで監視し、データを収集・可視化します。加工中、段取り中、停止中、電源オフなどの状態を正確に把握できます。
データ分析による改善:蓄積した実績データの集計・分析を通じて、ボトルネックとなっている要因を効率的に特定できます。ロスの量、発生時間、発生頻度、関連パラメータなどを分析し、効果的に問題の原因を究明します。
建築業における設備稼働率の管理には、他の製造業とは異なる特徴があります。
現場の移動性:建設機械は工場の固定設備と異なり、現場間を移動します。そのため、移動時間や待機時間も含めた総合的な稼働管理が必要です。GPS機能を活用し、機械の位置情報と稼働状況を連携させることで、効率的な配置計画が立てられます。
天候の影響:屋外作業が中心の建築業では、天候による作業中断が避けられません。気象データと稼働データを組み合わせて分析することで、天候パターンに応じた最適な作業計画を立案できます。
多様な機械の連携:クレーン、ブルドーザー、ミキサー車など、多種多様な建設機械が連携して作業を進めます。各機械の稼働状況を統合的に管理し、全体最適を図ることが重要です。
安全管理との両立:稼働率を上げるために安全性を犠牲にすることは許されません。IoTセンサーで作業員の位置情報や機械の稼働状態を監視し、安全性と効率性を両立させる管理が求められます。
一般的に設備稼働率85~100%が適切な数値とされていますが、建築業では現場条件により変動が大きいため、過去データとの比較や同種工事との比較が有効です。
日本建設機械施工協会「建機の稼働状況見える化システム」
機械の稼働情報を自動取得し、全現場での稼働状況を一元管理できるサービスの詳細が解説されています。
設備稼働率の算出方法から低下する要因・対策法の詳細解説
製造業における設備稼働率の計算方法と8つの低下要因、具体的な対策法が網羅的に説明されています。
OEE(設備総合効率)の計算方法・改善要因・改善方法
時間稼働率、性能稼働率、良品率の詳細な計算方法とMES導入による改善効果が紹介されています。