
石油化学工業協会(東京・中央)が発表する月次統計によると、2025年8月のエチレン設備稼働率は81.9%となり、好不況の目安とされる90%を37カ月連続で割り込みました。この数字は、1999年以降のデータで最長期間の低迷となっています。2025年7月には77.7%まで低下し、6カ月連続で70%台の稼働率にとどまりました。
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エチレンは自動車や家電などの耐久消費財、日用品、そして建築資材に使われる合成樹脂の原料として重要な位置を占めています。石油化学工業協会の統計は、国内12基のナフサ分解炉(エチレン製造プラント)の生産実績を集計したもので、業界全体の動向を示す信頼性の高い指標となっています。
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日本のエチレン生産能力は年間616万トン(定期修理実施年ベース)で、実質的な年間生産能力は650万トン程度と推計されています。しかし、稼働率が80%程度にとどまっているということは、能力の20%が未稼働状態にあることを意味します。
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エチレン稼働率の低迷には、中国での設備増強による過剰供給が大きく影響しています。中国では不動産不況に対する製造業振興政策により、2020年から2024年の間に少なくとも43社のエチレン製造プラントの新設・増設計画が進展し、2024年時点でのエチレン生産能力は5,174万トンに達しました。
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中国のエチレン生産量は3,493万トンで、稼働率は70%を切っており、過剰に生産されたエチレンがアジアを中心にだぶついている状況です。この過剰供給により、日本の石油化学製品の価格競争力が低下し、国内エチレン設備の稼働率低下につながっています。
参考)見えてきた第4次エチレンプラント再編 href="https://www.link-wise.com/%E8%A6%8B%E3%81%88%E3%81%A6%E3%81%8D%E3%81%9F%E7%AC%AC%EF%BC%94%E6%AC%A1%E3%82%A8%E3%83%81%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%88%E5%86%8D%E7%B7%A8/" target="_blank">https://www.link-wise.com/%E8%A6%8B%E3%81%88%E3%81%A6%E3%81%8D%E3%81%9F%E7%AC%AC%EF%BC%94%E6%AC%A1%E3%82%A8%E3%83%81%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%88%E5%86%8D%E7%B7%A8/amp;#8211; Lin…
石油化学工業協会の幸田幸広会長(旭化成社長)は、「80%台に回復したとはいえ、厳しい状況は変わらない。在庫水準がやや高く、生産稼働率が上昇して安心できるわけではない」と述べています。国内需要の減少と過剰生産能力という構造的な問題に直面している中で、稼働率の回復が期待される状況ではありません。
エチレンから製造される誘導品は、建設業界で幅広く使用されています。ナフサ分解炉で生成されたエチレンは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)などの合成樹脂に加工されます。
参考)ナフサ分解工場|石油化学工業協会
建設現場で使用される主なエチレン誘導品には以下のようなものがあります。
参考)エバフレックス href="https://www.mdp.jp/product/eva.php" target="_blank">https://www.mdp.jp/product/eva.phpamp;reg;
ポリエチレンは世界で最も生産量が多いプラスチックで、水より軽く、防水性が高く、耐薬品性・耐油性・耐候性に優れているため、建築土木分野での使用に適しています。プラスチック敷板などの工事現場で使われる資材にも、ポリエチレンが広く採用されています。
石油化学工業協会の統計資料
エチレン生産実績や主要石油化学製品の月次・年次統計データを確認できる公式ページです。最新の稼働率データや生産動向を把握するための参考資料として活用できます。
エチレン稼働率の変動は、建設資材のコストに直接的な影響を及ぼします。稼働率が低下すると、設備の固定費負担が相対的に増加し、製品単価の上昇圧力となります。一方、中国からの安価な石油化学製品の流入により、価格競争が激化している側面もあります。
参考)https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/emissions_trading/benchmark_wg/pdf/001_05_00.pdf
2025年7月の主要4樹脂(低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン)の出荷量では、食品フィルムに使用される低密度ポリエチレンと、ごみ袋に利用される高密度ポリエチレンが前年同月を下回りました。これは建設業界を含む国内需要全体の減少を反映しています。
石油化学業界では、エチレンプラントの稼働率が好不況の目安となる90%を下回り、直近では80%を割り込む低水準が続いていることが課題となっています。この状況は、建設業界にとって資材の安定調達や価格予測の難しさにつながる要因となっています。
業界では、千葉地区で三井化学と三菱ケミカルグループの3社が、西日本で運営する2つの設備を1つに統合することを検討しており、2026年度以降には段階的に生産能力が減少する見込みです。こうした再編の動きは、長期的には供給体制の最適化につながる可能性がありますが、短期的には供給不安を招く懸念もあります。
参考)https://www.idemitsu.com/jp/news/2024/241009.pdf
日本国内のエチレンプラントは全国8地域12基に分散しており、地域によって稼働率に差があります。四日市の東ソー、徳山の出光興産、大分のレゾナック(クラサスケミカル)のエチレン製造装置は、他のプラントよりも比較的高い稼働率を維持していると報告されています。
参考)https://www.meti.go.jp/press/2024/12/20241227006/20241227006-3.pdf
定期修理(定修)のタイミングも稼働率に大きく影響します。2024年は定修の集中年にあたり、需要不振と相まって、エチレン生産は3年連続での減少となりました。定修がない月でも、誘導品の定修シーズンに備えた増産が散見されるなど、生産調整が行われています。
参考)https://www.jpca.or.jp/files/statistics/monthly/memo/202412_memo.pdf
現在、エチレンプラントの定修は数年間隔で実施するケースが多く、各社の定修サイクルを考慮すると、年間生産能力の算定には注意が必要です。米国では春と秋に定修が多く実施されますが、温暖な地域では冬場にも定修を行っており、シェールガス由来のエタンクラッカーの新増設の影響で、技術系工事従事者の取り合いが起き、工賃の急上昇を招いた例もあります。
参考)主要石油化学製品のメーカー別生産能力|石油化学工業協会
日本では、操業開始から50年を超える装置が増えており、2022年には全体の過半の装置が50年を超え、補修費の増大や運転効率の低下が課題となっています。老朽化したプラントの維持管理コストの増加は、最終的に建設資材価格に転嫁される可能性があります。
参考)https://www.jpca.or.jp/files/activities/env_maint-07.pdf
経済産業省 化学産業の現状と課題
石油化学産業の構造的課題や世界のエチレン供給能力の実績・予測データが掲載されています。グローバルな視点から日本の石油化学産業の位置づけを理解するための資料です。
石油化学工業協会の統計から見えてくる今後の展望として、業界再編の加速が挙げられます。エチレンプラントの集約検討が進んでいるのは、関東と関西のエチレンプラントが密集している地域で、企業間の連携がしやすい環境が整っています。
中国の過剰生産による低価格攻勢と輸出攻勢は今後も続くと予想されており、日本企業は高付加価値製品へのシフトや海外企業との統合など、新たな生き残り策を模索しています。建設業従事者にとっては、こうした業界動向が資材調達の安定性や価格に影響する可能性を認識しておくことが重要です。
参考)https://www.rolandberger.com/ja/Insights/Publications/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E5%8C%96%E5%AD%A6%E7%94%A3%E6%A5%AD%E3%81%AE%E7%8F%BE%E7%8A%B6%E3%81%A8%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%81%B8%E3%81%AE%E7%A4%BA%E5%94%86.html
日本の石油化学企業の関係者からは、「この先やっていけるのはあと4〜5年」という声が聞こえてきており、海外企業、特に韓国企業との統合が選択肢として浮上しています。このような再編が進めば、サプライチェーンの変化により、建設資材の供給元や価格体系にも変動が生じる可能性があります。
参考)「リサイクルと中国企業の脅威から見る日本と韓国の石油化学産業…
建設業従事者が押さえるべきポイント。
石油化学工業協会が毎月発表するエチレン稼働率データは、建設資材市場の先行指標として活用できます。稼働率の推移を定期的にチェックすることで、資材調達の最適なタイミングを判断する材料となります。
参考)実績概要メモ|石油化学工業協会
石油化学工業協会 実績概要メモ
毎月の生産動向やエチレン稼働率の詳細分析が掲載されています。建設業従事者が資材調達計画を立てる際の参考情報として有用です。