

斜線制限とは、建築物の高さを道路境界線や隣地境界線からの距離に応じて制限する規制です。この制限は、道路や隣地に十分な採光・通風を確保し、圧迫感を軽減することを目的としています。
参考)https://nikko-trust.co.jp/column/%E5%BB%BA%E7%AF%89%E5%9F%BA%E6%BA%96%E6%B3%95%E3%81%AE%E3%80%8C%E6%96%9C%E7%B7%9A%E5%88%B6%E9%99%90%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F/
斜線制限には3つの種類があります。道路斜線制限は全ての用途地域に適用され、道路境界線を起点として建物の高さを規制します。隣地斜線制限は隣地境界線から20mまたは31mの高さを起点として適用され、第一種・第二種低層住居専用地域では適用されません。北側斜線制限は、低層住居専用地域と中高層住居専用地域に適用され、北側隣地の日当たりを確保するための規制です。
参考)https://magazine.sbiaruhi.co.jp/0000-6084/
日影規制とは、中高層建築物が周辺に落とす影の時間を一定以下に制限する規制です。冬至の日を基準として、真太陽時8時から16時まで(地域により9時から15時まで)の時間帯で測定されます。
参考)https://www.needs-p.jp/howto_use_land/
日影規制の測定には「測定線」と「測定面」を使用します。測定線は敷地境界線から5m、10mなどの距離に引かれ、測定面は平均地盤面から1.5m、4m、6.5mのいずれかの高さに設定された水平面です。「3時間-2時間」のような表記は、敷地境界線から5m超10m以内の範囲では3時間まで、10m超の範囲では2時間までの日影が許容されることを意味します。
参考)https://a-kamioka.com/column/sky-factor/sunshade-calculation/
日影規制は建築基準法第56条の2に基づき、各地方公共団体が条例で具体的な対象区域や日影時間を指定します。そのため、同じ用途地域でも自治体によって規制内容が異なる場合があります。
参考)https://tsukuru-ai.co.jp/innovation/shadow-regulation-ordinance
用途地域によって適用される規制が大きく異なります。以下の表で比較してみましょう。
| 用途地域 | 道路斜線 | 隣地斜線 | 北側斜線 | 日影規制 |
|---|---|---|---|---|
| 第一種・第二種低層住居専用地域 | × | ○ | △(条例指定) | |
| 第一種・第二種中高層住居専用地域 | ○ | ○ | ○ | △(条例指定) |
| 第一種・第二種住居地域 | ○ | ○ | × | △(条例指定) |
| 商業地域 | ○ | ○ | × | × |
| 工業地域・工業専用地域 | ○ | ○ | × | × |
第一種・第二種低層住居専用地域では、絶対高さ制限(10mまたは12m)が設けられているため隣地斜線制限は適用されません。一方、北側斜線制限と日影規制は併用される可能性があり、その場合はより厳しい方の規制に従う必要があります。
参考)https://www.housingstage.jp/topics/topics-69689
商業地域、工業地域、工業専用地域では日影規制は原則として指定されません。これらの地域は、商業活動や工業生産を優先する性格があるためです。
斜線制限には複数の緩和措置が用意されています。最も重要なのが天空率と後退距離です。
参考)https://kakunin-shinsei.com/sky-factor-road/
後退距離(セットバック)は、道路境界線から建築物までの最短距離のことで、この距離分だけ道路幅員を広くみなすことができます。建物が道路から離れているほど採光や通風が確保されるため、高さ制限が緩和される仕組みです。後退距離は一つの道路に対して1ヶ所のみ定めるという点に注意が必要です。
参考)https://kakunin-shinsei.com/retreat-distance/
天空率による緩和では、敷地境界から後退距離を設けることで、計算上の天空率が一定の数値を満たせば、斜線制限の適用が緩和されます。この手法を活用することで、従来の斜線制限では実現できなかった建築計画が可能になる場合があります。
参考)https://www.pivot.co.jp/product/iarm/recommend/0023.html
高さ制限の基本概念と緩和措置について詳しく解説されている参考資料
実務において、斜線制限と日影規制が同時に適用されるケースは珍しくありません。特に第一種・第二種低層住居専用地域では、北側斜線制限と日影規制の両方が設定される可能性があります。
参考)https://www.housingstage.jp/topics/topics-61138
両方の規制が適用される場合、より厳しい方の制限に従って建築計画を立てる必要があります。例えば、北側斜線制限で高さ8mまで可能でも、日影規制の計算結果によっては高さ7mに抑える必要が生じることがあります。
計画段階では以下の手順で確認を進めます。
✅ 用途地域と各種規制の適用有無を確認する
✅ 各規制の具体的な数値(斜線勾配、日影時間など)を自治体条例で確認する
✅ 斜線制限による高さ制限を計算する
✅ 日影規制による日照時間をシミュレーションする
✅ 両方の結果を比較し、より厳しい制限を採用する
日影計算は専用ソフトウェアで行われ、冬至の日における建物の影を時刻ごとに計算します。日影図を作成し、各測定面での日影時間が規制値以内に収まっているかを確認します。
不動産業界向けの斜線制限と日影規制の詳細解説
実務で見落としがちな重要ポイントがいくつか存在します。
まず、市街化調整区域では隣地斜線制限が規制除外となります。用途地域の指定がない地域では、一般的な規制とは異なる取り扱いになる点を理解しておく必要があります。
日影規制の測定時間帯も地域によって異なります。一般的には8時から16時ですが、一部の地域では9時から15時となっており、この1時間の違いが計画に影響を与える可能性があります。日影規制は真太陽時で計算されるため、標準時との時差も考慮が必要です。
参考)https://tsukuru-ai.co.jp/innovation/shadow-regulation-timing
また、既存建築物のリフォームや増築の際にも注意が必要です。現行法では適合していない既存不適格建築物であっても、増築部分は現行の斜線制限と日影規制の両方に適合させる必要があります。増築によって全体の日影が規制値を超える場合は、既存部分の減築や形状変更も検討しなければなりません。
天空率を使った緩和措置を適用する際も、後退距離の算出方法が誤っていると、確認申請で指摘を受けるケースがあります。後退距離は斜線を検討する部分ごとではなく、一つの道路に対して1ヶ所で算定する原則を守る必要があります。
参考)https://www.epcot.co.jp/pdf/adscomvol24.pdf
さらに、敷地が複数の用途地域にまたがる場合の取り扱いも複雑です。原則として、それぞれの用途地域に属する部分ごとに該当する規制を適用しますが、敷地全体に対して最も厳しい規制を適用する自治体もあります。このような運用の違いは条例や取扱基準で定められているため、事前確認が不可欠です。