既存不適格基準時一覧と増改築の判断基準

既存不適格基準時一覧と増改築の判断基準

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既存不適格基準時一覧と増改築判断

既存不適格の基準時と対応ポイント
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基準時の重要性

法改正により既存不適格となった時点を特定し、増改築時の適用法令を正確に判断

🏗️
緩和措置の活用

一定条件下で既存不適格部分の改修を免除し、コストを抑えた増改築が可能

⚖️
違反建築物との区別

建築時適法な既存不適格と違法建築を明確に区分し、適切な対応方針を決定

既存不適格の基準時とは何か

既存不適格の基準時とは、建築基準法やその関連法令の改正により、それまで適法だった建築物が現行基準に適合しなくなった時点を指します。この基準時の把握は、増改築や用途変更を行う際に極めて重要です。
参考)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/001847403.pdf

建築基準法第3条第2項では、法令の施行または適用時に既に存在する建築物で、新基準に適合しない部分については当該規定を適用しないと定めています。つまり、既存不適格建築物は違反建築物ではなく、建築時には適法だった建物として扱われます。
参考)https://www.mkj.or.jp/wp/wp-content/uploads/2022/09/68698d9eb788cee9944ba678d4766285.pdf

基準時を正確に把握することで、どの規定について既存不適格が認められるのか、増改築時にどの程度の緩和措置を適用できるのかを判断できます。特に建築事業者にとっては、工事費用の見積もりや施工計画を立てる上で不可欠な情報となります。
参考)既存不適格建築物とは?リノベ—ションに役立つ「建築確認申請 …

既存不適格の主要な基準時一覧表

建築基準法の主要な改正時期と基準時を把握することで、既存建築物がどの時点で不適格となったかを判断できます。以下に実務で頻繁に確認が必要となる基準時を整理します。
参考)「既存不適格」の判断に役立つ改正時期一覧 href="https://www.teikihoukoku.net/kizonfutekikaku-kaiseiziki/" target="_blank">https://www.teikihoukoku.net/kizonfutekikaku-kaiseiziki/amp;#8211; 定…

耐震基準関連

防火・避難規定関連

  • 昭和44年5月1日:竪穴区画(吹抜、階段、昇降路等)の形成が義務化​
  • 昭和46年1月1日:排煙設備の設置、非常用進入口の設置、非常用照明装置の設置が義務化​
  • 昭和49年1月1日:6階以上の建築物に2以上の直通階段が必要に。防火戸の温度ヒューズから煙感知器連動への基準整備​
  • 平成17年12月1日:防火シャッターに危害防止機構の装着が義務化​

開口部・建具関連

  • 昭和54年4月1日:はめ殺し窓への硬化性シーリング材使用が禁止​
  • 昭和58年10月:延焼のおそれのある部分の開口部で線入りガラスが認定外に​
  • 平成14年6月1日:エレベーター扉に遮煙性能が要求​

その他重要な基準時

  • 昭和46年1月1日:組積造の塀の高さ制限(2.0m以下)、基礎根入深さ(20cm)の規定​
  • 昭和56年6月1日:組積造の塀の高さがさらに厳格化(1.2m以下)、補強コンクリートブロック造の塀の規定整備​
  • 平成12年6月1日:階段への手すり設置が義務化​
  • 平成26年4月1日:特定天井の構造方法の規定(高さ6m超、面積200㎡超、単位面積質量2kg超)​

これらの基準時を把握することで、現地調査時にスマートフォンやタブレットで素早く既存不適格かどうかを判断できます。​

既存不適格建築物の増改築における緩和措置

既存不適格建築物を増改築する場合、原則として建物全体を現行法規に適合させる必要があります。しかし、建築基準法第86条の7では、一定の条件下で既存不適格部分への遡及適用を緩和する規定が設けられています。
参考)【増築】既存不適格の緩和方法まとめ|緩和条文の一覧表も紹介 …

緩和措置が適用される主な条件
増築部分の床面積が既存部分の床面積の2分の1以下の場合、特定の条件を満たせば既存部分の改修が原則不要となります。具体的には以下の通りです:
参考)既存不適格建築物は増築できる?基準の緩和や工事について紹介

さらに小規模な増築として、増築面積が既存部分の床面積の20分の1かつ50㎡以下で、増築によって全体の振動への抵抗力が低下しない場合も、現行基準の適用が緩和されます。​
用途地域不適格の場合の緩和
用途地域の変更により既存不適格となった建築物については、以下の範囲内で増改築が認められます:
参考)既存不適格建築物の制限緩和(用途地域不適格)について - 高…

  • 増築後の面積が基準時の面積の1.2倍を超えないこと
  • 用途地域に適合しない部分の面積が基準時の1.2倍を超えないこと
  • 用途の変更を伴わないこと
  • 基準時における敷地内での増改築であること​

これらの緩和措置を適切に活用することで、建築主の負担を軽減しながら既存建築ストックの有効活用が可能となります。
参考)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/001847401.pdf

国土交通省「既存建築物の緩和措置に関する解説集」では、具体的な適用条件と計算方法が詳細に解説されています

既存不適格と違反建築物の決定的な違い

建築事業者として最も重要なのは、既存不適格建築物と違反建築物を正確に区別することです。この2つは外観上似ている場合もありますが、法的な扱いは全く異なります。
参考)既存不適格建築物とは? 違法建築物との違いやリスクを解説

既存不適格建築物の特徴

  • 建築当時は建築基準法などの関連法令に完全に適合していた
  • その後の法改正や都市計画の変更により、現行基準に適合しなくなった
  • 違法ではないため、そのまま使用を継続することが可能
  • 是正措置命令を受けることは基本的にない

    参考)既存不適格と違法建築物の違い

違反建築物の特徴

  • 建築時点から法律に違反する形で建てられた
  • または、建築後に無許可で増改築を行い法律に適合しなくなった
  • 建築確認申請を怠った、完了検査を受けていない、検査不合格をそのまま放置した状態
  • 行政から是正命令や使用禁止命令を受ける可能性がある​

実務上の判断ポイント
既存不適格か違反建築かを判断するには、以下の資料を確認します。
✓ 建築確認済証:建築当時の建築確認申請が適法に行われたか
検査済証:完了検査を受け合格しているか
✓ 建築時期:どの法令が適用される時期に建築されたか
✓ 増改築履歴:建築後の改変が適法に行われたか
参考)http://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000293221.pdf

建ぺい率を例にすると、建築当時は建ぺい率60%の地域で敷地100㎡・建築面積60㎡で合法に建てられた建物が、その後の都市計画変更で建ぺい率50%に引き下げられた場合、この建物は既存不適格となります。しかし建築時は適法だったため、違反建築物ではありません。​
この区別を誤ると、増改築計画や費用見積もりに大きな影響が出るため、建築事業者は慎重に判断する必要があります。
参考)既存不適格と違反建築物の違い

既存不適格建築物の現況調査手順と実務対応

既存不適格建築物の増改築や用途変更を行う際には、現況調査が不可欠です。国土交通省が令和7年3月に公表した「既存建築物の現況調査ガイドライン(第2版)」では、具体的な調査手順が示されています。
参考)「既存建築物の現況調査ガイドライン」の概要 - 建築物・不動…

現況調査の基本的な流れ

  1. 図面・書類の収集

    建築確認済証、検査済証、建築計画概要書、確認申請図書などを収集します。これらの書類から建築時期と適用された法令を特定します。​

  2. 基準時の特定

    収集した資料を基に、どの時点でどの規定について既存不適格となったかを判断します。直近の建築工事の着手時以降に改正された規定に不適合となった部分が「既存不適格」となります。​

  3. 現地調査の実施

    図面と現況の照合を行い、建築基準関係規定への適合状況を確認します。調査の結果は「適合」「不適合(既存不適格)」「不適合(その他)」「不明」に分類します。​

  4. 緩和措置の適用可否判断

    現況調査の結果を基に、建築基準法第86条の7に基づく緩和措置が適用できるかを判断します。
    参考)建築:既存建築物の活用の促進について - 国土交通省

実務上の注意点
建築事業者が特に注意すべきは、既存不適格調書の作成です。この調書には以下の情報を含めます。
📌 基準時以前の建築基準関係規定への適合を示す図書
📌 現況の調査書とチェックリスト
📌 既存不適格となった規定の一覧
📌 緩和措置を適用する根拠
参考)https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg3/chiiki/150130/item1-1-2.pdf

資料が不足している場合でも、既存建築物に関する入手可能な資料を持参して特定行政庁の建築指導課に相談することが推奨されます。​
2025年法改正への対応
2025年4月施行の建築基準法改正では、4号特例の縮小により、これまで建築確認が簡略化されていた木造2階建て住宅なども、より厳格な審査対象となります。既存不適格建築物のリフォーム・増改築を検討する場合は、改正前後で要件が大きく変わる可能性があるため、早めの調査と計画立案が重要です。
参考)2025年法改正後の既存不適格リフォーム【徹底解説】

国土交通省「既存建築物の現況調査ガイドライン(第2版)」では、調査の具体的な手順と記載例が詳しく解説されています

建築事業者が知るべき既存不適格対応の実践ポイント

建築事業者として既存不適格建築物に対応する際、コスト管理とコンプライアンスの両立が求められます。実務で活用できる独自の視点として、段階的改修計画の立案方法を解説します。

 

段階的改修によるコスト最適化
既存不適格建築物の全面改修は多額の費用がかかるため、建築主の負担が過大になるケースがあります。そこで、緩和措置を最大限活用した段階的な改修計画が有効です。

 

第一段階として、増築面積を既存床面積の2分の1以下に抑え、構造上分離することで既存部分への遡及を回避します。この際、新耐震基準への適合を耐震診断で証明できれば、大幅なコスト削減が可能です。​
第二段階では、建築主の資金計画に合わせて、将来的な追加増築や大規模修繕のタイミングで段階的に現行基準への適合を進めます。この方法により、一度に多額の改修費用を負担する必要がなくなります。

 

エクスパンションジョイントの活用
あまり知られていない手法として、エクスパンションジョイントによる構造分離があります。増築部分を50㎡未満に抑え、エクスパンションジョイントで既存部分と完全に分離すれば、耐震補強が不要となるケースがあります。この方法は、小規模な店舗や事務所の増築で特に効果的です。
参考)既存不適格 - Wikipedia

用途変更における遡及範囲の把握
用途変更を行う場合、確認申請が不要な規模(200㎡未満かつ類似用途間の変更)であっても、既存不適格部分は原則として現行法に適合させる必要があります。ただし、建築基準法第87条第3項の適用により、用途変更する階以外の部分については遡及が緩和される場合もあります。
参考)用途変更時に気を付けるべき既存不適格の物件とは

例えば、1階のみを物販店舗から飲食店に用途変更する場合でも、上階の階段に既存不適格部分があれば原則現行法適合が必要です。しかし、避難経路として機能を果たしており、安全上問題がないと判断されれば、特定行政庁との協議により一部緩和が認められることもあります。
参考)用途変更の確認申請不要な建物の既存遡及の考え方とは?改正建築…

発注者への適切な説明
建築事業者として最も重要なのは、発注者に対して既存不適格の状況と対応オプションを明確に説明することです。以下の3つの選択肢を提示し、費用対効果を比較検討できるようにします。
💰 オプション1:緩和措置を最大限活用し、既存不適格部分を残したまま増改築
💰 オプション2:既存不適格部分を段階的に改修し、将来的な法適合を目指す
💰 オプション3:建物全体を現行基準に適合させる全面改修または建替え
これらのオプションごとに概算工事費、工期、将来的なリスク(売却時の影響など)を示すことで、発注者の意思決定をサポートします。
参考)ちゃんと知れば怖くない! 「2025年建築基準法改正」と既存…

国土交通省「既存建築物の活用の促進について」では、緩和措置の具体的な適用事例が紹介されています
既存不適格建築物への対応は、法令知識と実務経験の両方が求められる専門性の高い業務です。基準時の正確な把握、緩和措置の適切な活用、そして発注者への丁寧な説明により、既存建築ストックの有効活用と安全性確保を両立させることができます。