

シリンダ推力計算の出発点は、パスカルの原理に基づく「(理論)推力F=受圧面積A×使用圧力P」です。これは空気圧シリンダでも油圧シリンダでも共通で、どのメーカー解説でも最初に示される基本式です。参考としてミスミの技術情報でも、エアシリンダの(理論)推力は「受圧面積×使用圧力」で算出できると整理されています。
参考(基本式と実推力への考え方):
ミスミ:エアシリンダの推力計算(F=A×P、効率μの考え方)
ただし建築設備・現場の計算でつまずきやすいのが「単位の混在」です。油圧・空気圧では圧力の単位としてMPaがよく使われ、1MPa=1,000,000Paで、さらに目安として1MPa≒10.2kgf/cm²(≒10kgf/cm²)という換算が示されています。ダイキンの油圧講座では、圧力と力と面積の関係を P(MPa)=F(N)/(A(cm²)×100) の形で例題付きで説明しており、単位換算の指針として実務的です。
参考(MPa、N、cm²の関係と計算例)。
ダイキン油機:油圧使用単位と計算例(P(MPa)=F(N)/(A(cm²)×100)等)
実務でのおすすめ手順は次の通りです。
・📌「どの単位系で揃えるか」を先に決める(例:P=MPa、A=mm²、F=N)。
・📌面積Aは図面寸法(内径D、ロッド径d)から確実に算出する。
・📌最後に必要ならkgfへ換算(1kgf=9.8Nの目安が便利)。
シリンダ推力計算では「押出側(ロッドが出ていく方向)」と「引込側(ロッドが戻る方向)」で有効面積が異なる点が重要です。ミスミの解説でも、前進時と後退時で受圧面積が違い、後退時はロッド断面積分だけ小さいため推力が弱くなる、と明確に述べられています。つまり、同じ圧力Pをかけても、引込側は「面積が小さい→推力が小さい」という構造的な制約が必ず発生します。
代表的な考え方(複動シリンダのイメージ)は次の通りです。
・📌押出側:受圧面積A=ピストン面積(内径Dから算出)
・📌引込側:受圧面積A=ピストン面積-ロッド断面積(ロッド径dから算出)
この差が、工程の戻り動作で「思ったより戻らない」「復帰が遅い」「途中で引っ掛かる」などのトラブル要因になります(特にスライド機構やガイド抵抗が大きい場合)。
現場で意外に効く小技として、戻り側(引込側)の負荷が大きい機構は、最初から「戻り側推力」で成立チェックするのが安全です。押出側推力だけで設計を通すと、立上げ時に戻りが不安定になり、調整工数が増えることがよくあります。ミスミの資料が述べる通り、往復で推力差が出るため、絞り弁の調整にも差を付けて作動状態の違いを減らす、という発想が有効です。
シリンダ推力計算で出るのは原則「理論推力」であり、実機で得られる推力はそれより低下します。ミスミは、シリンダ内部部品の摺動抵抗や、連結した駆動部の摩擦抵抗により推力が下がり、その低下度合いを「シリンダ推力効率μ」として扱う、と説明しています。したがって実務では、実推力=A×P×μ として、μをどの程度で見込むかが設計品質に直結します。
ここで重要なのは、摩擦は「一定」ではなく、条件でブレることです。ミスミでも、推力効率μは駆動運転状態により変化する、とされています。つまり机上の一発計算で終わらせず、以下の要素をチェックしておくと「実推力が足りない」事故を減らせます。
・🧩配管・レギュレータ・バルブによる圧力降下(末端圧が想定より下がる)。
・🧩シールの馴染みや温度で摺動抵抗が増える(初期は特に重いことがある)。
・🧩ガイド・リンク・ピンのかじり、偏心荷重で機械摩擦が増える。
さらに、停止精度を要する用途で「加速域・減速域」を使うと安定しにくい、という指摘もミスミにあります。等速域の範囲を使う、という話は一見速度の話に見えますが、推力計算の実務にも効きます。加速・減速時は必要推力が増え、同時に摩擦や圧力変動の影響も出やすいからです。
ここでは建築従事者の設備・治具検討でも使いやすいように、単位を揃えた「即算」型の考え方を紹介します。まず、基本は F=P×A です(ミスミで明示)。次に、ダイキンの資料が示すように、F(N)・A(cm²)・P(MPa)の間には P(MPa)=F(N)/(A(cm²)×100) の関係があり、逆に言えば F(N)=P(MPa)×A(cm²)×100 として扱えます。
例として、受圧面積Aが20cm²で、圧力Pが5MPaなら、F=5×20×100=10,000Nという計算になります(ダイキンの例題と同形)。この「×100」が混乱ポイントになりやすいので、よくある単位パターンを表にします。
| 揃える単位 | 推力の式(覚え方) | ポイント |
|---|---|---|
| P=MPa、A=cm²、F=N | F=N = P×A×100 | ダイキンの式変形で整理できる。Aがcm²なら×100が付く。 (P(MPa)=F(N)/(A×100)より) |
| P=Pa、A=m²、F=N | F = P×A | SIで最も素直だが、Paが大きい桁になりがち。 |
| P=MPa、A=mm²、F=N | F = P×A×10⁻³ | 1MPa=1N/mm²なので、実は「MPa×mm²=N」が直感的。 (MPaをN/mm²とみなす) |
※上表のうち「P=MPa、A=mm²」は、実務では最も計算ミスが少ない組み合わせです。圧力計の表示がMPa、図面寸法がmmで揃うため、換算の段数が減ります。
検索上位では「推力=圧力×面積」の式紹介が中心になりやすい一方で、立上げ・調整の現場で効くのが「推力差を前提にした絞り弁(スピードコントローラ)調整」です。ミスミは、前進と後退で受圧面積が違うために推力差が生じ、その差分だけ絞り弁の調整に差を持たせて往復の作動状態の違いを少なくするのが勘所だと述べています。つまり推力計算は、単にシリンダ径を決めるだけでなく「調整の設計」まで含めて考えると、手戻りが減ります。
ここでの意外なポイントは、「速度を合わせる調整」が結果として“実推力不足の発見”にもなることです。なぜなら、引込側(有効面積が小さい側)で同等の動きを出すには、摩擦・負荷・圧力降下の影響が表面化しやすいからです。往復の調整を詰めていく段階で、引込側だけ極端に絞りを開かないと動かない/停止が暴れる、という症状が出たら、推力計算の前提(末端圧、摩擦、偏心)を疑うサインになります(ミスミの推力差・絞り弁調整の説明から導ける実務観点)。
設計段階でできる対策は次の通りです。
・🛠️戻り負荷が大きいなら、戻り側推力(引込側)で成立確認を先に行う。
・🛠️推力効率μは固定値とせず、条件変動を想定して余裕を見る(ミスミはμが運転状態で変化すると説明)。
・🛠️「等速域を使う」前提で工程を組み、加速・減速で無理に仕事をさせない(ミスミが等速域の使用を推奨)。
この視点を入れておくと、単純な推力計算だけでは見落としがちな「調整で吸収できない差」を早期に潰しやすくなります。