

建築従事者の感覚では「商標=商品名・ロゴ」と捉えがちですが、商標法ではサービスも保護対象で、サービスのことを「役務(えきむ)」と呼びます。特許庁は、商標を「自己(自社)の取り扱う商品・サービスを他人(他社)のものと区別するために使用するマーク」と説明しており、商品だけでなくサービスも同じ枠組みで守る制度だと明示しています。さらに「商標権は、マークと、そのマークを使用する商品・サービスの組合せで一つの権利」とされ、どんなサービスに使うか(指定役務)が権利範囲そのものになります。
参考:特許庁の制度説明(商標・役務・区分の基本)
https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/seidogaiyo/chizai08.html
「サービスマーク」は、役務(サービス)に使う商標を、商品に使う商標(トレードマーク)と区別して呼ぶ言い方です。たとえば「設計事務所のブランド名」「工務店の施工ブランド」「リノベ提案パッケージ名」「点検・保守のサブブランド」などは、モノの販売ではなく役務の提供に結びつくので、サービスマークとしての設計が重要になります。ここでのポイントは、“社名そのもの”ではなく“顧客が目印として認識する表示”が何かを見極めることです。
建築業界では、BtoB・BtoCの両方で提案書、現場の仮囲い、ヘルメット、名刺、Web、SNS、見積書、請求書など、表示の露出点が多いのが特徴です。露出点が多いほど「周知になりやすい」反面、ネーミングが一般的すぎたり説明的すぎたりすると「そもそも登録できない」問題に直結します。商標は“使うほど強い”側面がありますが、スタート地点で登録適格性の壁に当たると、ブランド投資が回収できないリスクが出ます。
商標登録出願では、商標(マーク)に加えて、それを使う「商品又はサービス」を指定し、さらに「区分」も記載する必要があります。特許庁は、区分を第1類~第45類までのカテゴリー分けと説明しており、指定商品・指定役務の記載によって権利範囲が決まるとしています。つまり、建築の現場でサービス名を守りたいなら、「それは何の役務として提供しているのか」を言葉として特定しないといけません。
参考:特許庁の制度説明(区分・指定役務・権利範囲)
https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/seidogaiyo/chizai08.html
実務でよくある失敗は、「現場では通じる言い方」をそのまま指定役務にしようとして、審査実務上の表現と噛み合わないケースです。商標は“良い名前を考える”だけでは足りず、“審査で通り、将来の紛争でも説明できる指定”に落とす必要があります。特許庁は、商品・役務の類否判断は原則として「類似商品・役務審査基準」に従うとも説明しており、指定役務の設計は「似ている扱い」になる範囲まで影響します。
建築サービスの指定役務は、単に「建築」や「設計」と書けば十分…とは限りません。例えば、内装、外装、リフォーム、設備、設計監理、コンサル、積算、点検、保守、BIM関連、教育(研修)など、提供形態が多様で、業務の線引きが曖昧になりやすいからです。ブランドの実態(何を“サービスとして売っているか”)を棚卸しし、将来拡張したい領域も含めて指定役務を検討する、という順番が安全です。
建築従事者が特に注意すべきなのが、「説明として自然すぎる名前」です。特許庁は、商標は自他商品・役務識別のためのものなので、普通名称、慣用されている商標、産地・販売地・品質や「役務の提供の場所、質等」を普通に表示するだけの標章などは登録できないと整理しています。つまり「東京銀座」「外科」のように、役務の提供場所や役務の質を直接示すだけだと拒絶され得る、と具体例まで示しています。
参考:特許庁「出願しても登録にならない商標」(拒絶理由の代表例)
https://www.jpo.go.jp/system/trademark/shutugan/tetuzuki/mitoroku.html
建築だと、例えば次のような命名が“危ない側”に寄りがちです(登録可否は個別判断ですが、リスクの方向性として把握が必要です)。
これらは“マーケ上わかりやすい”のに、“法的には識別力が弱い”という矛盾を抱えやすいので、ネーミングとロゴ化(図形化)をセットで検討するのが現実的です。
また、特許庁は「ただし、使用をされた結果、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」なら登録を受けられる場合がある(商標法第3条第2項)とも説明しています。ここは意外に見落とされがちで、長年使ってきた名称で“識別力がない”と判断されそうでも、使用実績の立証で道が残ることがあります。ただし、これは「最初から狙う裏技」ではなく、広告・実績・期間・地域などの証拠が必要になるため、初期段階は“識別力が立つ設計”を優先した方がコストが読みやすいです。
建築の現場は、受注前に提案書・パース・Web・SNSでサービス名を先に出してしまいがちです。しかし特許庁は、日本は「先に出願した者に登録を認める先願主義」を採用しており、先に使っていたかどうかにかかわらず先願が基本になると説明しています。さらに、商標登録を受けないまま使用していると、先に他社が同じような商標の登録を受けていた場合に侵害になる可能性がある、と注意喚起しています。
参考:特許庁の制度説明(先願主義・未登録使用のリスク)
https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/seidogaiyo/chizai08.html
このルールは、建築従事者の業務フローに直撃します。たとえば「新しい断熱改修パッケージ名」「点検サブスクの名称」「法人向けBIM運用支援の名称」を、営業資料やLPで公開した時点で、第三者が同一・類似を先に出願する“横取り”のリスクが理屈として生じます(現実に起こる頻度は別として、構造上の弱点です)。特許庁が言う通り「商標権は日本全国に効力が及ぶ」ので、一度登録されると、商圏が地域限定の工務店であっても影響が大きくなり得ます。
現場の運用としては、少なくとも次を社内ルール化すると事故が減ります。
建築は関係者が多いので、「勝手にロゴが増殖する」「現場ごとに表記が揺れる」問題が起きやすく、結果としてブランドの識別力や一貫性を落とします。商標の観点では、表記統制は“法務”というより“施工品質の管理”に近いテーマです。
検索上位の一般的な解説は「商標=名称・ロゴの登録」に寄りがちですが、建築業界では“図面やBIMデータに付く表示”がブランドの接点になる点が独自です。例えば、図面枠、BIMテンプレート、ファミリ名、施工要領書、検査チェックシート、維持管理台帳のフォーマットに、サービス名やロゴを入れる運用は珍しくありません。ここで起きる問題は、商標そのものより「役務の提供における使用態様」がバラけて、顧客の認識が分散することです。
特許庁は商標の役割を、商品やサービスを選ぶ際の「目印」として説明し、商標に信用が蓄積されることでブランドイメージが形成されるとも述べています。建築の“目印”は、広告だけでなく、引渡後に何年も残る維持管理資料や、改修時に参照される図面にも現れます。つまり、引渡後のフェーズ(保守・改修・更新)まで含めてサービス名が露出し続ける設計にすると、信用の蓄積が起こりやすい一方、名称が説明的すぎると「誰でも使える言葉」になって差別化が崩れます。
参考:特許庁の制度説明(商標が信用を蓄積する考え方)
https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/seidogaiyo/chizai08.html
意外に効く現場寄りの工夫は、「サービス名(商標)」と「仕様説明(一般語)」を混ぜないことです。例えば、チェックシートのタイトルを「〇〇点検(サービス名)」とし、本文で「外壁打診・シーリング確認・雨漏り確認…」のように仕様を説明する、という分離を徹底します。こうすると、サービス名が“目印”として反復され、説明文がどれだけ変わっても識別の核がブレにくくなります。さらに、BIMテンプレート名やファイル命名規則にまで踏み込むと、協力会社や外注先が変わってもブランド表示が自然に継承され、運用として強い“サービスマークの土台”になります。
また、商標は「マークと、使用する商品・サービスの組合せで一つの権利」なので、設計(役務)だけなのか、施工(役務)も含むのか、保守(役務)まで含むのかを、実態に合わせて“どこまで同じサービス名で束ねるか”を決める必要があります。建築はサービスのライフサイクルが長いので、短期のキャンペーン名を登録するより、長期運用するコアブランド(例:点検体系名、改修パッケージ名)を優先した方が投資対効果が出やすい、という判断になりやすいです。ここは法務だけでなく、設計部・工事部・CS(アフター)を横断して決めると、現場が回ります。