
不動産による相続税圧縮の根本的な仕組みは、時価と相続税評価額の乖離にあります。現金や預貯金、有価証券は時価100%で評価される一方、不動産は以下の特殊な評価方法が適用されます。
土地の評価方法 📍
建物の評価方法 🏢
具体的な圧縮効果の例を見てみましょう。時価2億2000万円の収益物件(土地1億2000万円、建物1億円)を購入した場合。
項目 | 時価 | 相続税評価額 | 圧縮率 |
---|---|---|---|
土地 | 1億2000万円 | 4100万円 | 約66%減 |
建物 | 1億円 | 4900万円 | 約51%減 |
合計 | 2億2000万円 | 9000万円 | 約59%減 |
この評価額の差額1億3000万円が、相続税の圧縮効果として働きます。
賃貸物件の取得は、単純な不動産購入以上の評価減効果をもたらします。これは借家権という概念が関係しているためです。
貸家建付地の評価額計算式 🏘️
貸家建付地の評価額 = 更地の評価額 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
貸家の評価額計算式 🏠
貸家の評価額 = 建物の固定資産税評価額 × (1 - 借家権割合 × 賃貸割合)
ここで重要なのは以下の割合です。
実際の計算例を示します。先ほどの物件が賃貸物件として運用されている場合。
土地(貸家建付地)の評価
計算:4100万円 × (1 - 0.7 × 0.3 × 1.0) = 4100万円 × 0.79 = 3239万円
建物(貸家)の評価
計算:4900万円 × (1 - 0.3 × 1.0) = 4900万円 × 0.7 = 3430万円
合計評価額:6669万円(時価2億2000万円に対して約70%の圧縮効果)
小規模宅地等の特例は、相続税圧縮において最も強力な武器の一つです。この特例により、最大80%の評価減が可能となります。
特例の種類と減額割合 ⚖️
宅地の種類 | 限度面積 | 減額割合 | 主な要件 |
---|---|---|---|
特定居住用宅地等 | 330㎡ | 80% | 被相続人の自宅、同居親族が相続 |
特定事業用宅地等 | 400㎡ | 80% | 被相続人の事業用地、事業継続 |
貸付事業用宅地等 | 200㎡ | 50% | 賃貸事業用地、事業継続 |
実際の節税効果
評価額1億円の居住用宅地(330㎡以内)の場合。
ただし、2023年の税制改正により相続開始前3年以内に新たに貸付事業を開始した宅地については、原則として特例の適用が制限されています。この「3年ルール」は相続税対策の安易な駆け込み需要を防ぐためのものです。
特例適用のポイント 📝
マンション投資、特にタワーマンションを活用した相続税圧縮は、これまで富裕層に人気の手法でした。しかし、2026年1月1日から適用される税制改正により、この手法には大きな変更が予定されています。
従来のマンション投資による圧縮効果
区分マンション(時価3500万円)の場合。
さらに賃貸物件として運用する場合。
2026年改正の影響 ⚠️
新しい評価方法では、以下の基準が適用されます。
この改正により、従来の大幅な圧縮効果は制限されますが、適正な範囲内での評価減は引き続き可能です。
改正後の対策ポイント 🎯
不動産を活用した相続税圧縮には、税務否認リスクが潜んでいます。特に以下のような行為は税務調査で問題となる可能性があります。
税務否認されやすいケース 🚨
具体的な否認事例
ある事例では、相続開始1か月前に5億円の現金でマンションを購入し、相続税評価額を2億円に圧縮しましたが、相続後すぐに売却したため「租税回避行為」として否認されました。
税務否認を回避する対策 🛡️
否認されにくい投資パターン ✅
税務当局は「通常の経済人の行動」から逸脱した取引を厳しくチェックします。そのため、相続税圧縮を目的とする場合でも、実質的な不動産投資として成立する内容であることが重要です。
また、生前贈与と組み合わせた対策も有効です。小規模宅地等の特例と併用することで、より効果的な相続税圧縮が可能になります。
まとめ 📋
不動産を活用した相続税圧縮は、適切に行えば大きな節税効果が期待できます。ただし、税制改正や税務否認リスクを十分に理解し、専門家のアドバイスを受けながら長期的な視点で取り組むことが成功の鍵となります。
相続税評価額の専門的な計算方法や最新の税制改正情報について
国税庁:相続税の計算
小規模宅地等の特例の詳細な適用要件について
国税庁:小規模宅地等の特例