ステアリン酸のアボガドロ定数の実験から単分子膜の原理と算出

ステアリン酸のアボガドロ定数の実験から単分子膜の原理と算出

記事内に広告を含む場合があります。
実験プロセスの全体像
💧
単分子膜の形成

ステアリン酸溶液を水面に滴下し、溶媒を蒸発させて分子を1層に並べる

📏
面積の測定

広がった膜の面積を方眼紙や画像解析を用いて正確に計測する

🧮
定数の算出

測定した面積と物質量から、計算式を用いてアボガドロ定数を導き出す

ステアリン酸とアボガドロ定数の実験

物質を構成する原子や分子の個数を表す「アボガドロ定数(6.02×10236.02 \times 10^{23}6.02×1023)」は、化学の教科書に出てくる非常に大きな数字ですが、実は身近な物質であるステアリン酸を使うことで、特殊な顕微鏡を使わずにアナログな実験で推定することが可能です。
この実験は、高校化学の授業や大学の基礎実験でも頻繁に取り上げられますが、その背後には「分子のサイズ」や「界面化学」といった、建設材料や防水技術にも通じる重要な物理化学の原理が隠されています。なぜステアリン酸が選ばれるのか、それはステアリン酸が持つ独特の分子構造と、水面上で見せる面白い挙動に理由があります。
本記事では、この実験のメカニズムを細部まで分解し、なぜ誤差が生まれるのか、そしてこの原理が私たちの仕事である建築・建設の現場でどのように役立っているのかを解説します。

ステアリン酸の実験における単分子膜の形成原理と溶液の滴下

 

この実験の核心は、水面上に単分子膜(たんぶんしまく)と呼ばれる、分子がきれいに一層だけ並んだ膜を作ることです。ここで重要な役割を果たすのが、ステアリン酸分子の「両親媒性」という性質です。


  • 親水基(カルボキシ基): 水になじみやすい部分。水面にくっつこうとします。

  • 疎水基(アルキル鎖): 水を弾く油の性質を持つ部分。水から逃げようとします。

実験では、ステアリン酸をヘキサンなどの揮発性の高い有機溶媒に溶かした溶液を使用します。この溶液をピペットで静かに水面に滴下すると、溶媒であるヘキサンはすぐに蒸発して消えてしまいます。後に残されたステアリン酸分子は、親水基を水中に向け、疎水基を空気中に立てた状態で、まるで満員電車の乗客のように隙間なく整列します。これを「単分子膜」と呼びます。
もしステアリン酸をそのまま固形で投げ込んでも、このような綺麗な膜にはなりません。溶媒に溶かして濃度を調整し、分子が自由に動ける状態を作ってから水面に広げることで、分子同士が重なり合うことなく、理想的な一層の膜を形成させることができるのです。この膜の面積を測ることで、目に見えない分子の数を間接的に数える準備が整います。
参考リンク:[PDF] 単分子膜を用いたアボガドロ定数の測定と発展的考察(東レ理科教育賞受賞作品) - 実験の滴下方法と膜形成の様子が詳細に図解されています
参考)https://www.toray-sf.or.jp/awards/education/pdf/h28_04.pdf

ステアリン酸の密度と面積測定からアボガドロ定数の算出

単分子膜がきれいに形成されたら、次はその面積を測定し、アボガドロ定数を算出するステップに移ります。ここでの計算ロジックは、建設現場で資材の体積や必要数を計算する工程と非常によく似ています。
計算の流れは以下の通りです。


  1. 滴下したステアリン酸の質量を求める
    使用した溶液の濃度と滴下量から、水面に存在するステアリン酸の質量(www [g])を計算します。


  2. ステアリン酸の物質量を求める
    質量をステアリン酸の分子量(M=284.48M = 284.48M=284.48)で割り、モル数(nnn [mol])を出します。
    n=w/Mn = w / Mn=w/M


  3. 単分子膜の総面積を測定する
    水面に広がった膜の輪郭をなぞり、その面積(SSS [cm2cm^2cm2])を求めます。通常、膜を見やすくするために、水面にはあらかじめタルクなどの粉末を散布しておきます。


  4. 分子の数を見積もる
    ここで一つの仮定を置きます。「ステアリン酸1分子が占める断面積(aaa)」を既知の値(約 2.2×1015cm22.2 \times 10^{-15} cm^22.2×10−15cm2)として利用します。総面積を1分子の面積で割れば、そこに並んでいる分子の総数(NNN)がわかります。
    N=S/aN = S / aN=S/a


  5. アボガドロ定数を算出する
    分子の総数(NNN)を物質量(nnn)で割れば、1molあたりの分子数、つまりアボガドロ定数(NAN_ANA)が導き出されます。
    NA=N/nN_A = N / nNA=N/n


この計算の面白さは、マクロな測定値(面積や質量)から、ミクロな定数(アボガドロ定数)を導き出せる点にあります。ただし、この計算は「分子が隙間なく垂直に並んでいる」という理想的な状態を前提としているため、実際にはさまざまな要因でズレが生じます。
参考リンク:[PDF] アボガドロ定数の導出(岐阜県立恵那高等学校) - 実際の計算手順と数値データの扱いが詳しく記載されています

参考)https://school.gifu-net.ed.jp/ena-hs/ssh/R05ssh/sc2/22331.pdf

ステアリン酸実験でアボガドロ定数に生じる誤差の主な原因

この実験は教育現場で人気がありますが、実は正確な 6.02×10236.02 \times 10^{23}6.02×1023 を出すのが非常に難しい実験としても有名です。プロの現場でさえ、精密な管理が必要です。なぜ誤差が生じるのか、その原因を知ることはデータ分析のスキルアップにもつながります。
主な誤差の要因は以下の通りです。



  • 溶媒(ヘキサン)の揮発による濃度変化
    実験中にもピペット内の溶液からヘキサンが揮発し続けます。これにより溶液の濃度が当初の計算よりも濃くなってしまい、滴下したステアリン酸の量が想定より多くなる(=算出されるアボガドロ定数が小さくなる)という誤差が頻発します。


  • 単分子膜の隙間と重なり
    計算上は「隙間なく一層で並んでいる」と仮定しますが、実際には分子の熱運動により隙間ができたり、一部で分子が乗り上げて二層(ミセルに近い状態)になったりします。これにより測定される面積 SSS が真の値とずれてしまいます。


  • 分子の配向(傾き)
    ステアリン酸分子は常に水面に対して垂直に立っているわけではありません。斜めに傾いて存在している場合、1分子あたりの占有面積が計算値よりも大きくなるため、結果に影響を与えます。


  • 水面の汚れ
    わずかな埃や皮脂が水面に浮いているだけで、単分子膜の展開が阻害されます。実験器具の洗浄不足は致命的な誤差を生みます。


これらの誤差要因を一つ一つ潰していくプロセスは、建設現場における品質管理(QC)の活動と全く同じです。「理論値と実測値なぜ違うのか?」を突き詰める思考力は、どのような技術職にとっても不可欠な能力と言えるでしょう。
参考リンク:ステアリン酸単分子膜の実験での誤差原因についての議論 - 実際に実験を行った人々の生の声と解決策が参考になります

参考)https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11220006691

ステアリン酸の疎水性とコンクリート防水材への応用

最後に、この実験で扱った「ステアリン酸」が、実は私たちの建設業界でどのように使われているか、少し視点を変えて解説します。実験で確認した**「水面で疎水基(水を弾く部分)を外に向けて並ぶ」**という性質は、コンクリートの防水技術に直結しています。
コンクリートは多孔質であり、そのままでは水を吸い込んで劣化してしまいます。そこで、ステアリン酸カルシウムなどの「金属石鹸(ステアリン酸塩)」をコンクリートに混ぜ込んだり、表面に塗布したりする技術が使われています。
この際のメカニズムは、先ほどのアボガドロ定数の実験と酷似しています。


  1. 細孔内での整列
    コンクリートの微細な隙間(細孔)の表面に、ステアリン酸の親水基側が吸着します。

  2. 疎水バリアの形成
    実験の水面上と同じように、疎水基(アルキル鎖)が空間側(空気側)に向かって立ち並びます。

  3. 水の侵入阻止
    外部から雨水が入ってきても、林立したステアリン酸の疎水基が水を弾き返し、コンクリート内部への浸透を防ぎます。

これを「撥水(はっすい)」と呼びます。単に膜で覆う「防水」とは異なり、コンクリートの通気性を保ちながら水だけを弾くことができるのが特徴です。実験で見た「水の上にプカプカと膜を作る現象」は、実は巨大な建造物を雨や塩害から守るための最先端技術の縮図でもあるのです。
このように、基礎科学の実験を「仕事道具の原理」として捉え直すと、現場で見かける材料の挙動がより深く理解できるようになります。もし現場で「ステアリン酸系」という文字を見かけたら、あの水面上の実験を思い出してみてください。
参考リンク:[PDF] ステアリン酸の特性に着目した塗布型撥水材のコンクリート構造物への適用 - 実際の建設現場での応用研究論文です
参考)https://www.kyugikyo.com/pdf/h29/05.pdf

 

 


ステアリン酸 1kg 【 国内メーカー品 キャンドル キット 材料 手作り 】