

平ヤスリの「荒目」は、荒取り(荒仕上げ)に寄せた目の粗さで、削れる量が多い代わりに表面のキズは深く出やすい領域です。ツボサンも、溝と溝の間隔が広いほど溝が深くなり「研削は早いが研削表面は荒れます」と整理しており、荒目はその性格を最も強く持ちます。
ここで見落としがちなのが「荒目=一律ではない」点です。モノタロウの解説では、目数はJISで「25mmの長さにおける目の数」で表し、同じ荒目でも呼び寸法によって目数が変わる(=実質的な粗さが変動する)と説明されています。つまり、現場で「荒目を買ったのに思ったより食わない/食いすぎる」が起きるとき、原因が“腕”ではなく“長さと目数の取り合わせ”にあることが珍しくありません。
✅ 押さえるポイント(目数の感覚づくり)
・荒目は呼び寸法100mmで上目数36、200mmで25、250mmで23、350mmで18と、長くなるほど粗くなる(=同じ「荒目」表記でも切れ味の出方が違う)
・荒目→中目→細目→油目の順に細かくなるので、仕上げ品質が必要なら段階を飛ばさない
意外に効く小技として、荒目の平ヤスリを「短め」にして、作業者のストロークを短くしてでも狙い面を安定して作り、その後に中目へつなぐと、結果的に手戻りが減ることがあります。荒目は“削り量”より“次工程へつなぐ面の作り方”で評価すると失敗しません。
「JISの原典」を確認したい場合は、鉄工やすりの目の種類・目数(25mmあたり)を規定する規格も参照すると、カタログ表記の意味が腹落ちします。
目の種類・目数の根拠(25mmあたりの目数の考え方)
https://kikakurui.com/b4/B4703-1966-01.html
平ヤスリ荒目を語るとき、「粗さ(荒目)」と「目立て(複目・単目・波目など)」は別軸です。モノタロウの解説では、単目は一方向の溝、複目は上目・下目が交差し、上目が切削、下目が切屑排出に寄与すると整理されています。ここが分かると、同じ荒目でも「切れるのに詰まる」「詰まらないが荒れる」などの症状を理屈で切り分けできます。
材料別の定番は次の通りです(建築現場の“あるある”寄りに調整)。
・鋼・鋳鉄:荒仕上げには複目の荒目が有効(波目は食い込みが小さく能率が悪い)
・アルミ:荒取りは波目が有効(目づまりが発生しない/しにくい狙い)
・銅・黄銅:波目より複目が基本、仕上げ面を重視するなら単目
・プラスチック:角欠けを抑えるなら単目が有効
ここでの実務的な判断基準は「削り粉が“切粉”として出るか、“練りカス”になって居座るか」です。アルミや樹脂で複目荒目を振り回すと、削れているように見えて実際は“詰まりながら擦っている”状態になり、面が焼けたり、角が崩れたり、次工程のパテ・塗装に悪影響が出ます。荒目は万能ではなく、目立ての種類で“排出のさせ方”を設計する感覚が重要です。
目立ての種類と、斜め掛け(食いつき改善・共振防止)などの基本動作を一通り確認したい場合は、工具メーカー側の解説が分かりやすいです。
斜めに動かす理由(共振防止・食いつき)と、複目・単目・波目の考え方
https://tsubosan.co.jp/support/support_points/
平ヤスリ荒目が「突然切れなくなった」ように感じる原因の多くは、刃先の摩耗より先に“目詰まり”です。ツボサンは、切粉が詰まったらワイヤーブラシで落とし、複目の場合は上目・下目とも線に沿ってブラシがけすると明記しています。ここを雑にやると、詰まりが残った状態で押し付け力だけが増え、面は荒れ、作業者は疲れ、ヤスリの寿命も縮みます。
現場で効く「目詰まり復旧」の手順(道具箱に入れておくと得)
意外な盲点は「引き戻しで力を入れている」ケースです。ツボサンは一般的なヤスリは“押す時のみ切削できる”ため、引く時は力を入れないのが長持ちの秘訣と説明しています。引きで押し付ける癖があると、切粉を目に噛ませて“栓”を作り、詰まりが加速します。
また、荒目は切粉が大きく出やすいので、目詰まりが起きた時の面の荒れ方も大きくなりがちです。だからこそ「詰まったら即ブラシ」が、荒目を使いこなす最低条件になります。
平ヤスリ荒目は、動かし方ひとつで“荒れ方”と“狙い寸法”の出方が変わります。ツボサンの説明では、ヤスリは材料に対して斜めに動かし、端から順に削って反対端まで行ったら次は交差方向に削ることで、研ぎ目が交差して筋状キズが相殺され、凹凸も見えやすくなるとされています。荒目はキズが深い分、この「交差」の効果が特に効きます。
使い分けの目安(工程設計の考え方)
・直進:仕上げ面が比較的きれいに作れる(ただし荒目では“きれい”にも限界)
・斜め:切削量が多く、荒取りに適する
・横向き(横方向のかけ方):幅の狭い長物の仕上げ、面取り、目を揃える用途
建築現場の金物や治具調整だと、最終的に「塗装・溶融亜鉛めっき・パテ・コーキング」など後工程が控えることが多く、深いヤスリ目が残ると密着不良や見た目のムラにつながります。荒目は“寸法を合わせるための削り”に徹し、見える面・触れる面は中目以降で“目を消す”設計にすると、手戻りが減ります。
さらに、ツボサンが触れている「斜めにする理由=共振防止・食いつき改善」は、薄板や長物で特に効きます。薄板を直進でゴリゴリやるとビビりが出て、荒目のキズが“波打つ”ように入ることがありますが、斜め+交差にするとビビりの癖が分散し、結果として面が読みやすくなります。
検索上位で語られがちな「選び方・使い方」に加えて、現場の生産性に直結するのが“荒目の寿命管理”です。荒目は切削量が大きいぶん、使い方が雑だと一気に「当たりの偏り」が出ます。すると、同じストロークでも削れる場所と削れない場所が生まれ、面が“意図せずテーパー”になって、建具・金物の合わせでハマりが悪くなります。
荒目を長持ちさせつつ、面を安定させる管理の要点
・押す時だけ切削、引く時は力を抜く(切削の原理に逆らわない)
・ヤスリの両端を水平に持ち、仕上げに近づくほど中央を押して密着させる(面の平衡度を崩しにくい)
・荒目は“削る道具”であって“仕上げる道具”ではない、と役割分担を固定する
・材料に合わせて目立てを変える(アルミや樹脂を複目荒目で粘らない)
意外に効くのが「荒目の運用を1本に寄せない」ことです。荒取り専用の平ヤスリ荒目を決め、その後の“目消し”用に中目(場合により単目)を別に確保しておくと、荒目を仕上げに使う誘惑が減り、結果的に両方が長持ちします。
また、切粉が詰まった状態で押し続けると、ヤスリは削れず、ワーク表面だけが荒れていきます。これは作業者が「削れていない不安」を力で補ってしまう典型パターンで、最後にパテや研磨で帳尻を合わせることになりやすい。荒目は“力を入れれば進む”道具に見えますが、実は「詰まり管理と工程分離を守るほど速い道具」です。