退色試験と食品の色褪せ基準が建築材料の品質管理を変える

退色試験と食品の色褪せ基準が建築材料の品質管理を変える

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退色試験と食品の基準が建築業の品質管理に直結する理由

建築材料の退色試験に「食品衛生基準」の考え方が使われていると知ったら、あなたは施工後に食品接触可能素材の確認を怠って損害賠償を請求されるリスクがあります。


この記事のポイント3つ
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退色試験とは何か

退色試験は光・熱・湿度などの環境因子によって材料の色が変化する程度を定量的に評価する試験です。建築材料だけでなく食品パッケージにも適用されます。

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建築業との接点

食品工場・厨房・病院厨房などの施設を施工する際、使用する塗料・内装材が食品衛生法の退色・溶出基準を満たすかどうかが法的要件となります。

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知らないと起こるリスク

適切な退色試験をクリアしていない素材を使用すると、竣工後に是正工事・損害賠償・行政指導の対象となるケースが報告されています。


退色試験とは何か:食品や建築材料における基本的な定義

退色試験(たいしょくしけん)とは、材料や製品が光・熱・紫外線・水分といった環境因子にさらされたときに、どれほど色が変化するかを定量的に測定・評価する試験のことです。


英語では「Fading Test」または「Color Fastness Test」と呼ばれます。染料・顔料・塗料・プラスチックなど幅広い素材に対して実施され、業界によって試験規格が異なります。これが理解の起点です。


食品分野では、食品パッケージに印刷されたインクや着色料が光の当たる環境でどれだけ色落ちするかを評価するために退色試験が行われます。食品包装材が退色すると、消費者が内容物の品質を誤認するリスクがあり、食品表示法上の問題にもつながります。


一方、建築材料分野では、外壁塗装・内装仕上げ材・床材などが紫外線や温度変化にさらされたときの色彩の安定性を確認するために退色試験が実施されます。建築物は数十年単位で使用されるため、退色による美観の低下が問題視されます。


「食品には関係ない」というのが建築業従事者の一般的な認識でしょう。ですが、食品工場・食品加工施設・厨房を含む施設の施工では、使用する素材が食品と接触する可能性があるため、退色試験の基準が交差することになります。つまり、両分野の基準を把握することが条件です。


試験の代表的な方法としては、以下のものが挙げられます。


  • 🌞 キセノンアーク試験(JIS B 7753):太陽光に近い光スペクトルを再現し、屋外暴露に相当する加速試験を行う方法。1,000時間の試験が屋外数年分に相当するケースもあります。
  • 💡 カーボンアーク試験(JIS L 0842):繊維・染料の分野で多用される試験方法。ブルースケール(標準布)との比較で退色度合いを1〜8級で評価します。
  • 🔵 UVウェザリング試験(JIS K 7350):紫外線蛍光ランプを使った促進耐候試験。プラスチックや塗膜の耐久性評価に多用されます。


これらの試験結果は数値化されるため、仕様書や契約書に「退色等級〇以上」といった形で記載できます。数字で管理できるということですね。


食品工場・厨房施工で退色試験が法的に関係する具体的な場面

建築業従事者が食品関連の退色試験と最初に接点を持つのは、食品工場・食品加工施設・飲食店厨房・病院厨房などの施設を施工・リフォームする際です。


この場面では、内装材や塗料が食品衛生法の基準をクリアしているかどうかが問われます。重要な確認項目です。


日本では食品衛生法(2018年改正・2021年完全施行)のもと、食品と接触する可能性のある器具・容器包装・設備の素材には溶出試験や移行試験が要求されます。これらの試験は退色試験と密接に関連しており、顔料や染料が食品に溶出・移行しないかどうかも確認対象です。


具体的に言うと、厨房の壁面に使用するエポキシ系塗料が食品に接触した場合、塗料に含まれる顔料成分が食品に移行するリスクがあります。この移行試験では「蒸発残留物」「重金属」「過マンガン酸カリウム消費量」などが基準値以下であることが求められます。厚生労働省が定める合成樹脂の溶出試験基準が参考になります。


厚生労働省:食品用器具・容器包装に関する規格基準


退色試験との関係で言えば、塗膜が紫外線や熱で劣化して退色するとき、同時に顔料成分が表面から離脱しやすくなる可能性があります。退色が進んだ素材は溶出リスクが上がるということです。このことを知らずに「見た目が変わっただけ」と判断していると、後々の食品衛生上のクレームにつながりかねません。


厚生省告示第370号(食品、添加物等の規格基準)には、食品に接触する設備・器具に使用できる合成樹脂について詳細な規格が定められています。施工前に素材のデータシートを確認し、これらの基準を満たしているかをチェックする行動が1つで完結します。


  • 🏭 食品工場の内壁塗装:エポキシ・ポリウレタン塗料を使用する場合、食品衛生法適合品であることを確認する
  • 🍽️ 飲食店厨房の床材:防滑タイルや樹脂系床材が食品接触可能か、JIS S 6010等の基準を確認する
  • 🏥 病院・福祉施設の厨房:調理スペースの壁面仕上げ材に食品対応塗料を選定する


これは知っておいて損はありません。


退色試験の測定方法と評価指標:建築業従事者が押さえるべき数字

退色試験の結果を読むうえで、最低限押さえておくべき評価指標があります。数字の意味を理解することが重要です。


最もよく使われる評価指標は ΔE(デルタE) と呼ばれる色差値です。CIE(国際照明委員会)が定めた色空間(L\*a\*b\*)を用いて、試験前後の色の変化量を数値化したものです。


ΔEの目安は次のとおりです。


  • ΔE < 1.0:人間の目ではほぼ識別不能な変化
  • ΔE = 1〜3:色の変化をわずかに感じる程度
  • ΔE = 3〜6:明らかに異なる色として認識されるレベル
  • ΔE > 6:非常に大きな色差。品質上問題になるケースが多い


建築材料の外装塗料では、一般的にΔE < 3を5年保証の基準とするメーカーが多いです。食品パッケージ向けの印刷インクでは、ΔE < 1.5を品質基準とする場合もあります。基準が違うということですね。


ブルースケール(Blue Scale)は染料・繊維分野で多用される退色評価の比較標準です。1〜8の等級があり、数字が大きいほど耐光性が高いことを意味します。等級4以上が一般的な実用基準とされ、等級6以上は高耐光性素材として扱われます。


建築業従事者が現場で確認できる具体的な手順としては、以下の流れが基本です。


  • ① 素材・塗料のデータシートに記載された退色試験の規格・等級を確認する
  • ② 使用環境(屋内/屋外、食品接触の有無)に応じた規格(JIS・ISO・AATCC等)の適否を判断する
  • ③ 食品施設であれば食品衛生法適合性の証明書(試験成績書)を入手する
  • ④ 竣工書類に試験成績書を添付し、発注者に引き渡す


試験成績書の入手は素材メーカーに依頼するのが基本です。入手できない場合は第三者試験機関に依頼することもできます。日本では一般財団法人日本塗料検査協会や一般財団法人化学品検査協会などが対応しています。確認先を一つ持っておくと安心です。


一般財団法人日本塗料検査協会:塗料・塗膜の各種試験サービスについて


食品と建築材料で退色試験の規格が異なる理由:JISとFDA・EU規制の違い

退色試験の規格は、分野・国・用途によって大きく異なります。これが混乱のもとです。


建築・塗料分野での代表的な規格は JIS K 5600シリーズ(塗料一般試験方法) です。このうち耐候性試験に関しては JIS K 5600-7-7 が適用され、キセノンアーク灯を用いた促進耐候試験が規定されています。


一方、食品接触素材の分野では、日本の食品衛生法に基づく厚生省告示基準のほか、アメリカでは FDA(米国食品医薬品局)21 CFR(連邦規則集) が適用されます。EUでは EU Regulation No. 10/2011(食品接触プラスチック材料・製品に関する規制) が規格の根拠となります。


輸出入が絡む食品工場の施工では、どの国の規格に準拠するかを事前に確認する必要があります。グローバル案件は要注意ということですね。


日本国内で食品工場を施工する場合でも、発注者が輸出向け食品を製造している場合は、国内基準だけでなくFDAやEU基準も求められるケースがあります。この場合、退色試験を含む溶出試験の報告書が複数の規格に対応している必要が生じます。


EU Regulation No. 10/2011:食品接触プラスチック材料に関するEU規則(英語)


建築業従事者にとって現実的な対策は、発注者から「食品衛生法適合品を使用すること」という仕様書の記載があった場合に、その根拠規格がどの国・どの法令に基づくものかを必ず確認することです。仕様書の「食品衛生法適合」という記載だけでは、どの基準を指すのかが曖昧なことがあります。


確認の際は「どの試験規格のどの等級以上か」を数値で明示してもらうことが重要です。文書に残す習慣をつけておくと、後のトラブル回避に役立ちます。これが条件です。


  • 🇯🇵 日本:食品衛生法・厚生省告示第370号・JIS K 5600シリーズ
  • 🇺🇸 アメリカ:FDA 21 CFR(特にPart 175〜179が食品接触素材に関連)
  • 🇪🇺 EU:EU Regulation No. 10/2011、REACH規則


建築業従事者が見落としがちな退色試験の独自視点:施工後の経年変化と食品汚染リスクの関係

多くの解説記事が見落としている視点があります。それは「施工直後は基準を満たしていた素材が、数年後の退色・劣化によって食品汚染リスクを新たに生じさせる」という問題です。


これは施工業者にとって見落としやすいリスクです。


建築材料は施工時点で食品衛生法適合試験をクリアしていても、使用環境によっては数年で劣化が進みます。特に高温・高湿・油蒸気・洗浄剤の繰り返し使用にさらされる食品工場・厨房では、塗膜や床材の退色・チョーキング白亜化)・剥離が想定より早く発生することがあります。


チョーキングとは、塗膜表面が白く粉状になる劣化現象のことです。塗膜表面の樹脂成分が紫外線や水分で分解されて顔料が露出した状態です。この状態になると顔料の粉末が食品に混入するリスクが生じます。実際に、製造食品への異物混入事例の中に塗膜片・塗料粉が含まれているケースが国内でも報告されています。


食品安全委員会:食品に関する健康影響評価・リスク情報(参考)


このリスクを建築業従事者が施工段階で低減するためには、以下のアプローチが有効です。


  • 🔍 促進耐候試験の結果が5年以上の耐久性を示す素材を選定する:単に「食品衛生法適合」だけでなく、退色試験の耐久性年数まで確認する
  • 📋 定期メンテナンス計画を竣工書類に含める:食品施設の内装は3〜5年ごとの塗り替えを前提にした仕様提案が現実的
  • 🎨 顔料レスまたは低顔料濃度の塗料を選ぶ:内壁・天井の色彩要件が許す範囲で顔料量を最小限にした製品を選択する


特に注目すべきなのは、退色しにくい素材は劣化全般も遅いという相関関係です。退色試験でΔE < 1.5を長期間維持できる素材は、表面の樹脂層が安定しているため、顔料の離脱・溶出リスクも低いことが多いです。つまり退色試験の数値は品質の代理指標として使えます。


建築業従事者が現場で活用できる具体的な行動は、素材選定の段階でメーカーに「施工後5年相当の促進耐候試験における退色等級(ΔEまたはブルースケール等級)と、その時点での食品衛生適合性の継続可否」を問い合わせることです。この質問に答えられるメーカーの製品は、食品施設への採用に適していると言えます。


食品工場・厨房施設の施工は、初期コストだけで素材選定すると後々のメンテナンスコストや是正工事コストが跳ね上がるリスクがあります。退色試験の数値を読む力をつけておくことで、発注者への付加価値の高い提案ができるようになります。これは大きなメリットです。


退色試験の基準と食品衛生の接点を把握しているかどうかが、食品施設施工案件における競合他社との差別化につながります。建築業従事者にとって、この知識は現場で直接生きてくる武器です。知識を現場に活かすことが原則です。


厚生労働省:食品用器具・容器包装の規格基準に関する情報(食品衛生法改正対応版)