

高粘度エポキシ注入材を「高粘度」と呼ぶだけでは、現場での仕様確認や監理者説明が曖昧になりがちです。そこで拠り所になるのがJIS A 6024で、注入エポキシ樹脂は硬質形/軟質形、粘性(低粘度形L・中粘度形M・高粘度形H)、施工時期(一般用R・冬用W)で区分されます。
JIS A 6024では、注入エポキシ樹脂の用途として「ひび割れの補修」「浮きの補修」「アンカーピンの固定」などが適用範囲に明記され、材料の立ち位置がはっきりしています。
また“高粘度形H”は「主として大きなひび割れ及び浮きの補修に用い、高揺変性(チキソ性)を付与したもの」と区分され、垂直面・天井面でのダレ対策に主眼があることが読み取れます。
高粘度エポキシ注入材が「規格品」であるかを見る時は、製品カタログの“JIS A 6024適合”表示だけでなく、区分記号(例:注入エポキシ樹脂−I−H−Rのような表記)や、一般用/冬用が現場温度帯に合うかまで確認したいところです。
参考)https://www.bond.co.jp/bond/catalog/pdf/download/1000005
特に冬期は硬化が遅れ、注入後の養生・次工程の段取りに影響します。JIS A 6024では施工時期の目安として一般用は10〜35℃、冬用は5〜20℃の気温目安が示されているため、単なる体感で選ばず温度記録とセットで判断するのが安全です。
意外に見落とされやすいのが、JIS A 6024の品質が「粘度」だけではなく、スランプやチキソトロピックインデックスなど“ダレ・保持”に関わる試験で裏付けられている点です。
例えば高粘度形はチキソ性(揺変性)を持つことで、攪拌やせん断が加わると流れ、静置すると止まる性質を狙います。この性質が、浮き注入での空隙充填や、垂直ひび割れでの漏れ低減に効いてきます。
高粘度エポキシ注入材は「とりあえず粘い方が安心」という選び方をすると、逆に未充填や注入ムラを招きます。JIS A 6024の区分が示す通り、高粘度形は“主として大きなひび割れ及び浮きの補修”が中心で、微細ひび割れは低粘度形が主用途です。
つまり、幅が小さいひび割れに高粘度を選ぶと、材料が入り切らず表層だけ塞いで終わる(見た目は直ったが内部が空洞)という失敗が起きやすくなります。これは「材料が悪い」のではなく、対象と粘性のミスマッチが原因です。
一方で、モルタル・タイル・コンクリートの“浮き”は、連続した薄い空隙に材料を行き渡らせる必要があり、垂直面や天井面でも漏れにくいチキソ性が強みになります。
実務的には、打診で浮き範囲をマーキングし、注入口のピッチと配置を先に決める方が、材料選定より効きます(材料が入る「経路」が設計できていないと、粘度を変えても改善しません)。その上で高粘度を選ぶと、漏れとダレを抑えながら空隙に留められます。
高粘度エポキシ注入材のもう一つの王道用途がアンカーピンの固定です。JIS A 6024ではアンカーピン固定には硬質形を用いるとされており、固定用途では“硬化後の剛性・強度”を優先する設計思想が示されています。
つまり「浮き止めアンカーピン+注入」の組み合わせでは、ピン固定(硬質形)と空隙充填(高粘度形)を同一材料で済ませたくなりますが、仕様上の意図は分けて考えるのが基本になります。
高粘度エポキシ注入材の施工で最初に押さえるべきは、材料が“二液形”である場合の混合比と混練の品質です。JIS A 6024では二液形は主剤・硬化剤を製造業者の定めた割合で計量し、直ちに均質になるまで混合・混練して用いると規定しています。
現場で起きやすいのは「混ぜたつもり」でも、容器の隅や攪拌羽根の届かない部分に未混合が残り、硬化ムラが局所的に出るパターンです。高粘度は特に攪拌抵抗が大きく、混練ムラが出やすいので、攪拌時間のルール化と“練り上がり状態の確認”が品質の分かれ目になります。
次に重要なのが、注入圧と注入速度の管理です。自動式低圧注入などは「低圧・低速で連続注入する工法」と説明されており、ひび割れ内部を破壊せずに充填する思想が前提にあります。
参考)https://www.bond.co.jp/bond/common/pdf/shirinda_EkoG03-28.pdf
高粘度材は押し出しに力が必要なので、つい圧を上げたくなりますが、圧を上げるほど“別の弱点(浮き層の剥離拡大、シール破れ、漏れ箇所からの噴き)”が顕在化します。圧を上げる前に、注入口間隔・シール材の厚み・漏れ止めの処理を見直す方が再現性が高いです。
施工手順の現場用チェックとしては、次のように“観察できる事実”に落とすと管理しやすくなります。
🧰チェック例(入れ子なし)
最後に養生です。JIS A 6024では試験体養生の条件が細かく設計されており、温度と時間が性能に影響することを前提にしています。
現場でも同様で、冬期は“冬用”の材料選定だけでなく、注入後に何時間・何日で次工程へ進めるかを、メーカーの仕様と現場温度記録で裏付ける運用が事故を減らします。
高粘度エポキシ注入材の失敗は、だいたい「入らない」「固まらない」「漏れる」の3系統に分類できます。これらは作業者の腕だけでなく、材料区分(一般用/冬用、硬質形/軟質形)と現場条件(水・温度・下地状態)が噛み合っていないと起きやすくなります。
「入らない」は、対象が微細ひび割れなのに高粘度を選んだ、または注入口ピッチが粗い、あるいは内部が粉化・汚れで詰まっているケースが典型です。対策は“粘度を下げる”だけでなく、ひび割れ内部の状態(脆弱層の有無)を見立て、必要ならVカット・Uカットや清掃で通り道を作る、浮きなら端部から順に充填経路を設計する、といった前段で効きます。
「固まらない」は、混合比ズレや混練不足、低温による硬化遅延、湿潤条件での接着不良などが主因です。JIS A 6024でも接着強さ試験に湿潤条件・乾湿繰返し条件があり、水分が性能に影響する前提が見えます。
対策は、SDSや施工要領に沿った保護具と換気を確保しつつ、混合比は計量で管理し、冬期は冬用材料の採用と可使時間・硬化時間の見直しを同時に行うことです。
「漏れる」は、シール材の施工不良、クラックの分岐や貫通、浮き空隙が想定より広い、など“漏れる理由”が複数あります。高粘度は漏れに強いと思われがちですが、漏れの原因が「シール破れ」「別経路」なら粘度では止まりません。
対策は、漏れ箇所をその都度塞ぐのではなく、最初に端部処理(止水・シール)を強化し、注入口配置を見直して、低圧・低速で“流れを作ってから留める”運用に寄せることです。
検索上位の解説は「ひび割れ幅に応じて粘度を選ぶ」「施工手順を守る」に寄りがちですが、現場の生産性と品質を同時に上げる鍵は、実は“温度帯で段取りを切り替える”発想です。JIS A 6024は施工時期を一般用(10〜35℃目安)と冬用(5〜20℃目安)に分け、温度帯を材料選定の前提に置いています。
この区分を現場段取りに落とすと、同じ高粘度でも「午前は日陰で硬化が遅い」「午後は直射日光で可使時間が短い」といった日内変動を扱いやすくなります。
そこでおすすめなのが、朝礼時点で“今日の温度帯想定”を一枚で共有する運用です。
🌡️共有テンプレ(例)
可使時間は製品データに依存しますが、JIS A 6024でも“表示項目”として可使時間を容器等に表示すべき項目として扱っており、時間管理が品質要素であることが分かります。
この運用を入れると、ありがちな「夕方に慌てて大鍋練り→硬化が進んで押し出し不能→無理に注入圧を上げる→シール破れ」の連鎖を止めやすくなります。
JISの区分や試験の考え方(粘度・チキソ性・スランプ等)を理解している監理者ほど、“温度と時間で管理しているか”を見ます。材料の名前やメーカーだけでなく、温度記録・混練記録・注入量記録を残すのが、現場評価にも直結します。
規格(区分・試験・表示・取扱い注意)がまとまっている参考:JIS A 6024:2015 建築補修用及び建築補強用エポキシ樹脂(種類区分・品質・表示・取扱い)
低圧・低速で連続注入する工法の概要参考:ボンドシリンダー工法(低圧・低速の連続注入という考え方)
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