
トイレドアの標準規格サイズは、建築業界において統一された基準に基づいて設定されています27。最も一般的な寸法体系では、有効開口幅が599mm、680mm、703mm、740mmの4段階で構成されており、これらは一般住宅から商業施設まで幅広く採用されています。
標準的な高さ寸法は2030mm前後が主流で、これは日本の住宅事情に最適化された数値です。具体的には以下の規格が頻繁に使用されます。
枠外寸法では、高さ2028mm×幅648mmという規格が建材市場で多く流通しており、これは枠幅95mmを含んだ寸法となっています。この規格は施工性と経済性のバランスが取れているため、多くの建築プロジェクトで採用される基準寸法です。
トイレ空間の標準的な寸法は910mm×1820mm(1帖)が最も一般的で、この空間に対して最適化されたドア寸法が上記の規格群となります。ただし、近年は多様なライフスタイルに対応するため、より柔軟な寸法選択が求められる傾向にあります。
主要建材メーカーであるLIXIL、DAIKEN、YKK APは、それぞれ独自の寸法体系を採用しており、建築実務者はこれらの違いを理解して適切な選択を行う必要があります。
LIXIL(リクシル)の寸法体系
LIXILのTA室内ドアシリーズでは、幅754mm、780mm、824mmという3つの基本サイズを提供しています。これらは呼称幅として06520、0720、0820で表記され、パネルタイプ・カスミガラス・エッチングガラスの各仕様で共通の寸法規格を採用しています。
ラシッサシリーズでは特注寸法対応も充実しており、本体高さ(DH)と本体幅(DW)の組み合わせで幅広いカスタマイズが可能です。ただし、細長比が規定の寸法条件を満たさない場合は製作不可となるため、設計段階での事前確認が重要です。
DAIKEN(大建工業)のハピアシリーズ
DAIKENのハピアシリーズは、片開きドア・トイレドア・親子ドアで統一された寸法体系を採用しています。標準レバーハンドル85デザインでは、扉からの出が47mm、横幅が163mmという詳細な仕様が規定されており、施工時の精密な寸法管理が可能です。
特注サイズオーダーにも対応しており、総合カタログに記載された算出方法に基づいて、現場の要求に応じた寸法調整が実現できます。
YKK APの呼称幅システム
YKK APでは呼称幅W064・073・075・077・082という細かな段階設定を行っており、他メーカーと比較してより柔軟な寸法選択が可能です。famittoシリーズではクロスタイプ(C)と木調タイプ(W)で同一の寸法規格を採用し、意匠性と機能性の両立を図っています。
有効開口幅の選択は、使用環境と利用者の特性を総合的に考慮して決定する必要があります。建築基準法に基づく最低限の要件に加え、実用性とアクセシビリティの観点から最適な寸法を選定することが重要です。
一般住宅における選択基準
一般住宅では、トイレ空間の大きさと使用頻度を基準として選択します。1帖(910mm×1820mm)のトイレ空間では、有効開口幅680mmが標準的な選択となります。この寸法は、成人男性が無理なく通行でき、かつ空間効率を損なわない最適なバランスを提供します。
より余裕を持たせたい場合は703mmや740mmを選択しますが、この場合はトイレ空間自体も1100mm~1365mm幅に拡張することが推奨されます。横壁に手洗い器を設置する場合は、手洗い器の奥行き(最低15cm)を考慮して、110cm程度の幅を確保すると快適な使用環境が実現できます。
バリアフリー対応の基準
バリアフリー対応では、車椅子での通行を考慮して最低でも有効開口幅750mm以上が必要とされます。さらに理想的には、2帖(1820mm×1820mm)のトイレ空間に対して有効開口幅800mm以上のドアを設置することで、介助者同伴での使用にも対応可能となります。
商業施設・公共建築物の基準
商業施設や公共建築物では、不特定多数の利用者を想定した寸法選択が必要です。DAIKENでは一般住宅用と区別して「ハピア パブリック」シリーズを提供しており、より耐久性と安全性を重視した仕様となっています。
標準規格では対応できない特殊な寸法要求に対して、各メーカーは特注対応サービスを提供していますが、製作可能範囲には明確な制約が存在します。
LIXIL ラシッサの特注対応
LIXILのラシッサシリーズでは、23ラシッサ商品カタログの「特注寸法対応」ページに詳細な製作範囲が記載されています。重要な制約として、本体高さ(DH)と本体幅(DW)が製作範囲内であっても、細長比が規定条件を満たさない場合は開閉に支障が生じるため製作不可となります。
この細長比制約は、ドアの構造的安定性と開閉性能を確保するための技術的制限であり、特に高さに対して幅が極端に狭い、または広い場合に問題となります。設計段階でこの制約を考慮しない場合、施工直前での仕様変更を余儀なくされるリスクがあります。
DAIKEN ハピアの特注システム
DAIKENでは総合カタログに特注ページを設け、体系化された寸法算出方法を提供しています。特注サイズオーダー時の扉寸法算出と有効開口寸法算出の両方に対応しており、現場の要求を正確に製品仕様に反映することが可能です。
ただし、特注対応には標準品と比較して納期の延長と価格上昇が伴います。一般的に特注品は標準品の1.5~2倍の納期を要し、価格も20~50%程度の増額となるため、プロジェクト全体のスケジュールと予算への影響を慎重に検討する必要があります。
製作不可となるケース
各メーカー共通の制約として、以下のケースでは特注対応も不可となります。
これらの制約を事前に把握し、設計段階で適切な寸法設定を行うことが、円滑なプロジェクト進行の鍵となります。
建築実務においてトイレドア寸法を選定する際は、技術的要件だけでなく、施工性・メンテナンス性・将来の変更可能性まで考慮した総合的な判断が求められます27。
施工段階での注意事項
実際の施工では、図面上の寸法と現場での実寸に微細な誤差が生じることが一般的です。特にリフォーム案件では、既存開口の実測値が図面と異なる場合が多く、現場での寸法確認は必須となります。
枠外寸法2028mm×648mmの標準品を使用する場合でも、実際の開口寸法には±3mm程度の調整代を見込む必要があります。この調整代を確保するため、開口作成時は計画寸法より2~3mm大きめに施工することが推奨されます。
コスト最適化の手法
トイレドアのコスト最適化では、標準品の活用が最も効果的です。有効開口幅680mmの標準品は最も流通量が多く、価格競争力が高いため、特別な理由がない限りこの寸法を基準とした設計が経済的です。
複数のトイレを計画する場合は、全て同一仕様にすることで大量発注によるコストダウンが期待できます。また、メンテナンス時の部品互換性も確保され、長期的な維持管理コストの削減に寄与します。
将来対応の考慮事項
高齢化社会の進展を見据え、将来的なバリアフリー改修の可能性を考慮した寸法選択が重要です。当初は標準的な680mm幅で計画しても、将来的に740mm幅への変更が必要となる場合があります。
このような変更に備え、設計段階で開口幅を若干大きめに設定し、当初は枠材で調整する手法が有効です。この手法により、将来の改修時にドア交換のみで対応でき、大掛かりな躯体工事を回避できます。
品質管理のポイント
トイレドアは使用頻度が高く、プライバシー確保の重要な役割を担うため、寸法精度と気密性の両立が重要です。特に有効開口幅の実測値は、使用感に直接影響するため、施工完了時の検査項目として必ず確認する必要があります。
表示錠の動作確認と併せて、ドア開閉時の異音や引っかかりがないことを確認し、長期間にわたって快適な使用環境を維持できる品質を確保することが、建築実務者の責務です。