
細長比とは、柱の座屈に対する安全性を評価するための重要な構造指標です。計算式は「λ=Lb÷i」で表され、λは細長比、Lbは座屈長さ(有効座屈長さ)、iは断面二次半径を示します。
参考)有効細長比とは|木造の柱の有効細長比の求め方【わかりやすく解…
この値が大きいほど柱は座屈しやすくなり、構造的に危険な状態となります。建築基準法では構造耐力上主要な部分の細長比に明確な制限を設けており、木造建築物の柱では150以下、鉄骨造の柱では200以下、柱以外の圧縮材では250以下とする必要があります。
参考)細長比を理解しよう!細長比の基本と設計実務重要なポイントを解…
細長比の計算を適切に行うことで、圧縮力を受ける柱が突然横方向に曲がる座屈現象を防止し、建物全体の安全性を確保できます。特に建築事業者にとって、設計段階での細長比チェックは必須の業務となっています。
参考)【2025年法改正】木造 初めての壁量計算⑥-1(柱の有効細…
鉄骨造における細長比計算の実例を見てみましょう。柱の長さが6m、両端ピン支持条件、H形鋼で断面二次半径が5.0cmの場合、座屈長さLb=600cm、断面二次半径i=5.0cmとなり、細長比λ=600÷5.0=120と計算されます。この場合、鉄骨柱の制限値200以下を満たしているため、構造的に問題ありません。
参考)細長比とは
木造の柱では計算式が異なり、「柱の有効細長比=√12×横架材相互間の垂直距離の最大値÷柱の小径」で求めます。例えば横架材間距離が273cm、柱の小径が12cmの場合、√12×273÷12=78.9となり、150以下の基準を満たします。
断面二次半径iは「i=√(I÷A)」で算出され、Iは断面二次モーメント、Aは断面積です。この値は部材の太さや細さを表す指標であり、弱軸まわりの値を使用する必要があります。なぜなら柱は最も弱い方向に座屈するため、弱軸まわりの断面二次半径で評価することが重要だからです。
参考)有効細長比 λ とは
座屈長さは柱の実際の長さとは異なり、座屈時に弧を描く長さを意味します。この値は両端の支点条件によって大きく変化するため、設計者は境界条件を正確に評価する必要があります。
参考)鉄骨造の座屈設計における実務上の注意点
両端ピン支持の場合は座屈長さLb=L(柱の実長)となりますが、両端固定の場合はLb=0.5L、一端固定・他端ピンではLb=0.7L、一端固定・他端自由ではLb=2.0Lとなります。支点条件を工夫することで、同じ柱でも細長比を大幅に変えることが可能です。
例えば実長6mの柱を両端固定とすれば座屈長さは3mとなり、両端ピン支持の場合と比較して細長比を半分に低減できます。このように拘束条件を適切に設定することが、経済的で安全な構造設計につながります。
吹き抜けに面した木造の通し柱では、壁方向には胴差が設けられるため座屈長さは土台から胴差まで、吹き抜け方向には拘束がないため土台から軒桁までの全長となり、方向によって座屈長さが異なる点に注意が必要です。
限界細長比Λは、弾性領域と非弾性領域の境界を示す重要な値です。鉄骨造における限界細長比は「Λ=√(π²E÷0.6F)」で計算され、Eはヤング係数(鋼材では205000N/mm²)、Fは基準強度(SS400材では235N/mm²)となります。
参考)許容圧縮応力度と細長比の関係【建築士試験】|ゼロ所長【ゼロ所…
細長比λが限界細長比Λより小さい場合と大きい場合では、許容圧縮応力度の計算式が異なります。λ<Λのときは降伏応力度を基準とした式を、λ≧Λのときはオイラーの座屈理論に基づく式を使用します。
参考)許容圧縮応力度とは
圧縮材の許容圧縮応力度は、細長比が大きくなるほど小さくなります。これは細長い部材ほど座屈しやすく、材料が本来持つ強度を発揮できないためです。設計者は細長比に応じた許容応力度の低減を正確に考慮する必要があります。
参考)https://d-engineer.com/zairiki/zakutu.html
H-100×100×6×8、座屈長さ6m、SS400材の場合、弱軸まわりの断面二次半径iy=24.9mm、細長比λ=6000÷24.9=240.9、限界細長比Λ=119.7となり、Λ<λであるため座屈応力式による許容圧縮応力度の算定が必要です。
許容圧縮応力度の詳細な計算方法については、こちらで細長比との関係を含めた実務的な算定手順が解説されています
細長比を基準値以下に抑えるための対策は複数あります。最も基本的な方法は柱の断面寸法を大きくすることで、断面二次半径iが大きくなり細長比が減少します。例えば木造で柱の小径を10.5cmから12cmに変更すれば、有効細長比は約14%低減できます。
参考)【わかりやすい構造設計】鉄骨造の基本を知る~鉄骨造の弱点「座…
座屈長さを短くする方法も効果的です。木造では横架材間距離を短くする、鉄骨造では中間階で梁を設置するなどの方法により、座屈長さを物理的に短縮できます。部材が短いほど座屈荷重は大きくなり、安全性が向上します。
参考)座屈現象について
支点条件の改善も重要な対策です。柱の両端をピン支持ではなく固定条件とすることで、座屈長さが短くなり細長比を低減できます。ただし実際の拘束条件を過大評価すると、設計不備による座屈破壊の危険性があるため、境界条件は慎重に評価する必要があります。
補剛材の設置も有効な手段です。鉄骨造では横補剛材やブレースを一定間隔で配置することで、座屈拘束効果を高めることができます。座屈拘束ブレースは圧縮荷重を受けた際の座屈現象を防止するために設計された補強材として、実務でも広く採用されています。
参考)座屈拘束ブレースとは?役割、機能、種類、施工方法を解説
断面形状の変更も検討すべきです。H形鋼よりボックス形や円形など弱軸がない断面を採用すれば、断面二次半径が大きくなり細長比を効果的に低減できます。
鉄骨造における座屈対策の具体的な方法について、こちらでは横座屈や局部座屈への対応も含めた総合的な補強方法が説明されています
細長比計算においては、細長比と幅厚比を混同しないことも重要です。細長比は座屈長さ÷断面二次半径で求めますが、幅厚比は板幅÷板厚で求める別の指標であり、局部座屈の評価に使用されます。両者は異なる座屈現象を評価する指標として、正確に使い分ける必要があります。
参考)一級建築士独学diary 構造 ~鉄骨造(S造)幅厚比・細長…
実務では過去の失敗事例から学ぶことが重要です。拘束条件を過大評価した結果、長柱が座屈破壊した事例が報告されています。一方、補剛材の効果的配置や角形鋼管の採用により、経済性と安全性を両立した成功事例も多数あります。設計段階での細長比管理と施工段階での精度管理を徹底することで、座屈に強い構造を実現できます。
座屈計算ツールを使用すれば、アングル、チャンネル、H鋼などの座屈荷重や座屈応力を効率的に計算できます
建築基準法に基づく細長比の制限値を遵守し、適切な計算と対策を実施することが、安全で信頼性の高い建築物を実現するための基本となります。