

溶接作業のリスクアセスメントは、作業現場に存在する危険性や有害性を漏れなく特定することから始まります。金属アーク溶接などの作業では、複数の危険要因が同時に存在するため、体系的な特定が重要です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001411590.pdf
主な危険性として、高電流による感電や漏電のリスクがあります。溶接棒は高電流が流れる導体であり、素手で触れると深刻な感電事故を引き起こす可能性があります。また、数千度に達する高温による火傷や、スパッタ(飛散する溶融金属粒)による負傷も頻繁に発生します。
参考)https://www.anzen-pro.com/blog/column/postid_6558/
有害性については、溶接ヒュームの吸入による健康被害が深刻です。溶接ヒュームに含まれるマンガンは、感覚障害や著しい疲労感、不眠等の神経機能障害を引き起こします。さらに、長期的な暴露により気管支炎、肺炎、じん肺を発症するリスクもあります。
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/risk/yousetsu04_6_2.html
| リスク分類 | 具体的な危険源 | 想定される被害 |
|---|---|---|
| 電気的危険 | 感電、漏電、絶縁不良 | 重篤な傷害、心停止 |
| 熱的危険 | 高温母材、スパッタ、火災 | 火傷、衣服への着火 |
| 光学的危険 | 紫外線、赤外線、アーク光 | 眼障害、皮膚障害 |
| 化学的危険 | 溶接ヒューム、有害ガス | じん肺、神経障害 |
危険性を特定した後は、リスクの大きさを評価し優先順位をつけます。リスク評価では、発生可能性(頻度)と被害の重大性を組み合わせて判断します。
参考)https://safeworklab.com/yousetsu/
発生可能性は、作業頻度や過去の災害事例、ヒヤリハット情報などから評価します。例えば、湿潤環境での溶接作業は感電の発生可能性が高く評価されます。被害の重大性は、想定される傷害の程度や影響範囲で判定します。
参考)http://genba-sigoto.com/wp/images/rsheet.pdf
リスクマトリクスを活用すると、客観的な評価が可能になります。発生可能性を1~5段階、重大性を1~5段階で評価し、両者を乗じた数値でリスクレベルを算出します。この数値が高いほど優先的に対策を講じる必要があります。
リスク評価の結果に基づき、適切な低減措置を検討します。対策には優先順位があり、本質的対策から順に検討することが原則です。
最優先は本質的対策で、危険源そのものを除去または代替する方法です。溶接作業では、危険性の低い溶接方法への変更や、自動溶接機の導入による人的暴露の削減などが該当します。次に工学的対策として、換気装置やヒュームコレクターの設置、防護柵の設置などがあります。
参考)https://www.akamatsudenki.co.jp/blog/1870/
管理的対策は、作業手順の明確化、教育訓練の実施、立入禁止措置などです。個人用保護具の使用は最後の砦として位置づけられ、他の対策と組み合わせて実施します。
参考)https://vinypro.com/mamechishiki/yosetsu-anzen
実際の現場では、溶接ヒューム対策として全体換気装置の常時稼働や、溶接遮光用ビニールシートによる周囲への影響遮断などが効果的です。火災予防には、スパッタシートの設置や可燃物の除去が重要となります。
参考)https://vinypro.com/sheet/hibanasheet
2021年4月1日の特定化学物質障害予防規則改正により、溶接ヒュームが特定化学物質(第2類物質)に追加されました。この改正で、金属アーク溶接等作業を行う事業者には新たな義務が課されています。
参考)https://joshrc.net/archives/8936
屋内外を問わず、金属アーク溶接等作業を行う場合は、特定化学物質作業主任者の選任が必要です。作業主任者は「特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者技能講習」を修了した者から選任しますが、2024年1月からは溶接業務に限定した1日間の講習も創設されています。
参考)https://www.akamatsudenki.co.jp/blog/1464/
個人ばく露測定の実施も義務化されました。測定は作業ごとに2人以上を選出し、サンプラーを呼吸域(溶接面の内側)に装着して実施します。測定対象時間は、溶接作業だけでなく準備や片付けを含む全作業時間です。
参考)https://fujisanso.co.jp/smart-factory/column/fume_mesure/
測定結果が基準値(マンガンとして0.05mg/㎥)を超える場合、換気装置の増強や呼吸用保護具の着用が必要となります。また、年1回のフィットテストの実施も求められています。
参考)https://jm-sokki.com/column/info/welding-fume/
厚生労働省の特定化学物質障害予防規則改正に関する詳細情報(法令の全体像と事業者の義務を確認できます)
一般的なリスクアセスメントに加え、溶接作業特有の安全管理システムを構築することで、より高度な安全性を実現できます。デジタル技術を活用した作業記録システムの導入は、リスク管理の効率化に有効です。
作業前点検のデジタルチェックリストを導入すると、点検漏れを防止し、設備の異常を早期に発見できます。QRコードを活用した溶接機器の管理システムでは、定期点検履歴や修理記録を一元管理し、機器の安全性を担保します。また、ヒヤリハット情報をデータベース化し、類似事例の検索や傾向分析を行うことで、予防的な対策立案が可能になります。
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/risk/yousetsu04_8_1.html
作業環境の可視化も重要な取り組みです。溶接ヒューム濃度のリアルタイムモニタリングシステムを導入すると、危険な状態を即座に検知し作業者に警告できます。さらに、作業者の健康管理データと環境データを連携させることで、個人の暴露リスクを正確に把握し、適切な健康管理につなげることができます。
参考)https://jsite.mhlw.go.jp/okayama-roudoukyoku/content/contents/001247441.pdf
不動産業界では、建設現場や改修工事での溶接作業が頻繁に発生します。元請企業として、協力会社の安全管理状況を統一フォーマットで評価し、優良事業者の選定基準として活用することが効果的です。このような取り組みにより、工事全体の安全レベルを底上げし、事故リスクを大幅に低減できます。
職場のあんぜんサイトの溶接作業リスクアセスメント事例集(具体的な危険源と対策事例が豊富に掲載されています)