
アーク溶接は、電極と母材の間にアーク放電という電気現象を発生させて金属を接合する方法です。電極に電流を流した状態で接触させてから引き離すと、約5,000〜20,000℃という超高温のアーク放電が発生します。一般的な鉄の融点が約1,500〜2,800℃であることを考えると、金属を溶かして接合するには十分な温度です。
参考)アーク溶接の種類と原理
アーク溶接では、この高温により母材と電極が溶け込んで混ざり合い、冷却後に強固な接合部を形成します。特にティグ溶接の場合、アーク中心部の温度は約16,000℃に達し、外周部でも約10,000℃を維持します。この高温による速い溶け込みが、アーク溶接の最大の特徴といえるでしょう。
参考)https://www.zentokyo.or.jp/kyozai/pdf/arc-welding.pdf
また、アーク溶接では溶接中に金属が空気に触れると酸化や窒化を起こすため、シールドガスやフラックス(被覆材)を使用して溶接部を保護します。この保護により、溶接不良を防ぎ高品質な接合が実現できます。
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ガス溶接は、可燃性ガス(主にアセチレンガス)と酸素を混合して燃焼させ、その火炎の熱で金属を溶かして接合する方法です。アセチレンガスと酸素による火炎温度は約3,300℃で、他の可燃性ガスと比較しても最も高温を発生させます。ただし、アーク溶接の5,000〜20,000℃と比べると温度は低めです。
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ガス溶接の大きな特徴は、ガスの供給量を調整することで火炎の温度や大きさを容易にコントロールできる点です。この調整のしやすさにより、熱感受性による割れを発生しやすい金属や薄板、溶融点の低い金属の溶接に適しています。
参考)ガス溶接とアーク溶接
また、ガス溶接は電気を使用しないため、電源が確保できない場所やアースが取れない場所でも作業が可能です。機器の構造もシンプルで、ガスボンベ、レギュレーター、ホース、トーチという基本的な構成となっています。この手軽さも、建築現場や配管工事でガス溶接が重宝される理由のひとつです。
参考)アーク溶接とガス溶接の違いは何ですか?
作業効率の面では、アーク溶接が圧倒的に優れています。高温による速い溶け込みにより、短時間で効率的に作業を進められるためです。特に被覆アーク溶接やCO2アーク溶接は、複数台の溶接機を同時に稼働させることで生産性を大幅に向上できます。一方、TIG溶接のような精密な作業が求められる場合、ガス溶接と比較して5〜10倍の時間がかかることもあります。
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ガス溶接は溶接速度が遅く、金属の溶け込みに時間がかかるというデメリットがあります。しかし、溶接部を都度確認しながら作業でき、火花が飛び散らないため、溶接不良や欠陥が発生しにくいという利点もあります。火炎の調整が容易なため、薄板や複雑な形状の溶接では、むしろガス溶接の方が効率的な場合もあります。
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コスト面では、アーク溶接は溶接機本体が比較的安価で、ホームセンターでも入手可能です。CO2ガスと混合ガスのコスト比較では、混合ガスを使用することで約27%のコストダウンが可能というデータもあります。ガス溶接は機器がシンプルで初期投資が少なく済みますが、ガスボンベの充填や交換が必要なため、ランニングコストを考慮する必要があります。
参考)ガス溶接の基本的な手順やコツを解説!
以下の表で、アーク溶接とガス溶接のコスト・効率を比較します。
参考)https://www.shinto.co.jp/industry/pdf/welding-cost.pdf
比較項目 | アーク溶接 | ガス溶接 |
---|---|---|
溶接速度 | 速い(高効率) | 遅い(時間がかかる) |
初期投資 | 中程度(溶接機が必要) | 低い(シンプルな構造) |
ランニングコスト | 電気代・消耗品 | ガスボンベの充填費用 |
作業環境 | 電源が必要 | 電源不要(場所を選ばない) |
アーク溶接は、大型の輸送機器や鋼材の溶接に広く使用されています。具体的には、鉄骨、船舶、航空機、自動車などの製造現場で活躍しており、特に厚板や強度が求められる構造物の接合に適しています。高温による深い溶け込みと速い作業効率により、大規模な建築プロジェクトや製造ラインで欠かせない技術となっています。
一方、ガス溶接は融解点が低い金属、薄板で割れやすい金属、高耐熱性のない材料の溶接に向いています。建築業では、エアコンの配管工事や給排水管の接合など、繊細な作業が求められる場面で重宝されます。また、電源が確保できない現場や屋外での作業にも適しており、修理・補修作業でも活用されています。
💡実は、ガス溶接は鋼材以外の非鉄金属(銅、アルミニウム、真鍮など)の接合にも優れた性能を発揮します。これは、低温で融解する金属に対して熱のコントロールがしやすいためです。一方、アーク溶接の中でもTIG溶接やMIG溶接は、ステンレスやアルミ合金などの非鉄金属にも対応可能で、用途に応じた使い分けが重要です。
参考)ティグ(TIG)溶接とアーク溶接の違いやメリット・デメリット…
以下の表で、各溶接方法の主な用途を整理します。
溶接方法 | 主な用途 | 適した材料 |
---|---|---|
アーク溶接 | 鉄骨、船舶、航空機、自動車 | 鋼材、厚板、強度が必要な構造物 |
ガス溶接 | 配管工事、薄板加工、修理作業 | 薄板、融解点が低い金属、非鉄金属 |
アーク溶接のメリットは、作業スピードが速く生産性が高いこと、歪みが少なく形状に左右されず溶接できること、そして長時間の連続作業が可能な点です。また、溶接機が比較的安価で、複数台を同時稼働させることでさらに効率を高められます。特に大型構造物や厚板の溶接では、その高温による深い溶け込みが大きな強みとなります。
参考)アーク溶接はどんな溶接方法?メリット・デメリットを解説
アーク溶接のデメリットとしては、感電の危険性があること、溶接後にスラグ処理が必要なこと、そして溶け込み不良による強度劣化のリスクがある点が挙げられます。特に被覆アーク溶接では、作業者の技量によって仕上がりに差が出やすく、習熟が必要です。また、溶接速度は速いものの、被覆アーク溶接は溶け込みが浅く、速度が遅い場合もあります。
参考)被覆アーク溶接の特徴(メリット・デメリット)と電圧別のオスス…
ガス溶接のメリットは、溶接部分が見やすく溶接不良を防ぎやすいこと、薄板鋼材に適していること、そして電気を使わないため電源が不要な点です。火炎の調整が容易で加熱量をコントロールしやすいため、繊細な作業に向いています。また、火花が飛び散らず、ワークの状態を確認しながら作業できるのも大きな利点です。
ガス溶接のデメリットは、作業効率が悪く時間がかかること、余計な部分まで加熱してしまうこと、そしてひずみが発生しやすい点です。溶接温度が低めであるため、厚板の溶接には向いておらず、金属の溶け込みに時間がかかります。また、可燃性ガスと酸素を使用するため、爆発や火災のリスクがあり、取り扱いには十分な注意が必要です。
参考)アーク溶接には資格は必要!アーク溶接特別教育の概要と受講方法…
以下の表で、両者のメリット・デメリットをまとめます。
項目 | アーク溶接 | ガス溶接 |
---|---|---|
メリット | ・作業速度が速い・歪みが少ない・長時間作業が可能 | ・溶接部が見やすい・薄板に適している・電源不要 |
デメリット | ・感電の危険性・スラグ処理が必要・技量による差 | ・作業効率が悪い・ひずみが発生しやすい・火災リスク |
アーク溶接に従事するには、労働安全衛生法に基づく「アーク溶接等の業務に係る特別教育」の修了が義務付けられています。この資格は一般的に「アーク溶接作業者」と呼ばれ、満18歳以上であれば学歴・職歴に関係なく誰でも受講可能です。学科11時間と実技10時間の計21時間を受講することで修了となり、費用は約10,000〜15,000円程度です。
参考)溶接の資格の種類と取り方・難易度・費用~資格なしでも働ける?…
ガス溶接に従事するには「ガス溶接技能講習」の修了が必要で、資格取得者は「ガス溶接技能者」として認められます。講習は学科と実技を合わせて計14時間で、2日間かけて受講し、修了試験に合格する必要があります。費用は約13,000〜18,000円で、可燃性ガスと酸素を用いる作業の危険性を考慮した内容となっています。無資格で作業を行わせた場合、使用者は6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
参考)ガス溶接技能講習
アーク溶接の安全対策としては、溶接マスクや防塵マスクの着用、絶縁性の作業靴や乾いた作業服・手袋の使用、十分な換気の実施、可燃性物質の除去などが重要です。特に、2020年からは溶接ヒュームが特定化学物質に追加され、金属アーク溶接等作業を行う際には「特定化学物質作業主任者」の選任が義務付けられています。
参考)アーク溶接等作業主任者限定技能講習が新設されました
ガス溶接の安全対策では、可燃性ガスと酸素の取り扱いに細心の注意が必要です。酸素の充填圧力は35℃で14.7MPa、アセチレンは15℃で1.5MPaと定められており、これらのガス特性を理解した上での作業が求められます。また、作業場所には消火器を常備し、ガス漏れや逆火の危険性に備える必要があります。
参考)酸素・アセチレンの充填圧力・温度が違うのはなぜ?
労働安全衛生に関する詳しい情報は、厚生労働省の労働安全衛生総合情報サイトで確認できます。
溶接作業におけるリスクアセスメントのすすめ方(厚生労働省)
このサイトでは、アーク溶接やガス溶接における具体的なリスクと安全対策について、詳細な情報が提供されています。
また、日本溶接協会では各種溶接資格の取得方法や講習情報を公開しています。
手溶接(アーク溶接等)資格情報(日本溶接協会)
資格取得を検討している方は、こちらで最新の受験条件や講習日程を確認できます。