誘電率 比誘電率 違いと電気特性の基礎知識

誘電率 比誘電率 違いと電気特性の基礎知識

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誘電率と比誘電率の違い

この記事のポイント
📊
誘電率の定義

物質が電荷を蓄える能力を示す物理量で、単位はF/m(ファラド毎メートル)

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比誘電率の特徴

真空の誘電率を基準とした無次元の比率で、材料の誘電特性を比較しやすい指標

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建築での重要性

コンデンサ設計、絶縁材料選定、電磁波測定など幅広い用途に応用される

誘電率とは何か

 

誘電率(ε)は、物質が電場の中でどれだけ電荷を蓄えられるかを示す物理量です。電束密度Dと電場の強度Eとの関係を表す係数として定義され、D=εEという式で表現されます。単位はファラド毎メートル(F/m)で、SI単位系における基本的な物理定数の一つとされています。
参考)https://www1.doshisha.ac.jp/~bukka/lecture/quantum/pdftext/pc3-00.pdf

物質中の原子や分子が外部から電場を受けたとき、どのように応答するか(誘電分極の仕方)によってこの値が定まります。誘電率が大きいほど、その物質は多くの電荷を蓄えることができ、コンデンサなどの電気部品において重要な特性となります。
参考)https://www.wonderfulpcb.com/ja/blog/what-is-dielectric-constant/

真空中では特別に電気定数(真空の誘電率)ε₀が定義されており、その値は約8.854×10⁻¹²F/mという物理定数です。この真空の誘電率は、あらゆる誘電率測定の基準となる重要な定数です。
参考)https://www.ushio.co.jp/jp/technology/glossary/material/attached_material_03.html

比誘電率の定義と計算方法

比誘電率(εᵣまたはκ)は、物質の誘電率εを真空の誘電率ε₀で割った無次元量です。計算式はεᵣ=ε/ε₀で表され、この値は使用する単位系によらず一定の値をとります。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AF%94%E8%AA%98%E9%9B%BB%E7%8E%87

比誘電率を用いる利点は、真空を基準(比誘電率=1)として物質の誘電特性を相対的に評価できることです。たとえば、水の比誘電率は約80で、真空の80倍の電荷を蓄えられることを意味します。空気の比誘電率は約1.00059とほぼ1に近く、真空とほとんど同じ特性を示します。
参考)https://www.resonac.com/jp/solution/tech/transmission-loss.html

コンデンサの静電容量Cを計算する際には、C=εᵣε₀S/dという式が使われます。ここでSは電極面積、dは電極間距離を表し、比誘電率が大きいほど静電容量が増加することがわかります。
参考)https://detail-infomation.com/permittivity/

キーエンスの静電容量の求め方ページでは、比誘電率を含む静電容量の計算方法が詳しく解説されています。
参考)https://www.keyence.co.jp/ss/products/static/static-electricity/electrification/capacitance.jsp

誘電率と比誘電率の単位の違い

誘電率と比誘電率の最も基本的な違いは、その単位にあります。誘電率εはSI単位系においてファラド毎メートル(F/m)という次元を持つ物理量です。これは電気容量と距離の関係を表す単位であり、物質固有の絶対的な値として測定されます。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%AA%98%E9%9B%BB%E7%8E%87

一方、比誘電率εᵣは無次元量であり、単位を持ちません。これは真空の誘電率との比として定義されるため、数値そのものが物質の誘電特性を表します。工学分野では比誘電率をDk(ドイツ語のDielektrizitätsKonstanteに由来)やkと表記することもあります。
参考)https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/1707/14/news026.html

実務上は、物質の誘電率そのものよりも比誘電率の方がよく使われます。これは材料間の比較が容易であり、計算も簡略化できるためです。たとえば紙の比誘電率は約2~2.6、ガラスは5.4~9.9、コンクリートは約6.0といった具合に、材料の選定時には比誘電率の数値が参照されます。
参考)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/chousa/kosoku_denryokusen/pdf/050729_2_06.pdf

誘電率の測定における独自視点

建築物や不動産の電磁波測定において、誘電率は思わぬ形で重要性を持ちます。高圧電線下の建築制限を評価する際、コンクリート構造物の比誘電率(約6.0)や木材の比誘電率(約4.0)が電磁波の減衰効果を左右します。
参考)https://lab.iyell.jp/knowledge/realestate/densen/

電力線通信(PLC)信号の減衰を数値解析する研究では、建築物の壁面材料の複素比誘電率が重要なパラメータとなります。コンクリートの誘電正接(tanδ)も考慮に入れることで、30MHz帯における電磁界の減衰効果を正確に予測できます。​
不動産従事者が対象地の評価を行う際、上空に高圧電線が通っている場合、建築材料の誘電特性が土地評価額に影響する可能性があります。建物内部への電磁波侵入を抑制するには、高い比誘電率を持つ材料の選定が有効です。​
コンクリート内部探査用の電磁波レーダーでは、比誘電率の違いを利用してかぶり深さを測定します。この技術は建築物の品質管理や維持管理において実用化されており、誘電率の理解が現場での診断精度向上に直結します。
参考)https://www.key-t.co.jp/resources/rader-tecinfo/rader02/

誘電率と電気容量の関係式

コンデンサの電気容量Cは、面積Sの2枚の導体板を距離dだけ離して平行に配置したとき、C=εS/dという式で表されます。ここでεは誘電率であり、この式から誘電率が大きいほど電気容量が増加することがわかります。
参考)https://www.toyo.co.jp/material/elechem/detail/id=40559

比誘電率εᵣを用いた表記では、C=εᵣε₀S/dとなります。真空の誘電率ε₀は物理定数(約8.854×10⁻¹²F/m)なので、比誘電率が2倍になれば電気容量も2倍になるという直感的な関係が成り立ちます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj/72/4/72_216/_article/-char/ja/

電解コンデンサの設計では、陽極酸化皮膜の比誘電率εᵣを高めることと、電極間距離dを薄くすることが静電容量の向上に直結します。高純度アルミニウム箔の表面を拡面処理して電極面積Sを大きくする手法も広く採用されています。​
実際のコンデンサでは理想的な容量成分だけでなく、損失成分も存在します。複素誘電率ε*=ε'-jε"という表記を用いることで、電荷を蓄える成分(ε')と導電損失に関わる成分(ε")を分離して評価できます。​
東洋システムの誘電率測定概説ページでは、電気容量測定から誘電率を算出する詳細な手法が紹介されています。​
物質ごとの比誘電率の具体例を以下の表にまとめます。

 

物質名 比誘電率 備考
真空 1.0 基準値
空気 1.00059 真空とほぼ同じ
2.0~2.6 絶縁材料として使用
ガラス 5.4~9.9 建材として一般的
コンクリート 約6.0 建築構造物の主材料
80.4 20℃での値、温度依存性が大きい
チタン酸バリウム 約5,000 高誘電率セラミックス

この表は各種材料の誘電特性を理解する上で有用な参考資料となります。​
建築材料や不動産関連での誘電率応用は、今後さらに重要性を増していくでしょう。​