残留応力除去と熱処理の基本と実践ガイド

残留応力除去と熱処理の基本と実践ガイド

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残留応力除去と熱処理

残留応力除去と熱処理の基本構成
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熱処理による残留応力除去

適切な温度管理で内部応力を効果的に緩和

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溶接後熱処理(PWHT)

溶接部の品質改善と硬化防止対策

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応力集中低減技術

構造物の設計段階からの品質向上アプローチ

残留応力の発生メカニズムと除去の基本原理

残留応力は、外力が作用していない状態でも物体内部に残っている応力のことです。塑性加工、溶接、鋳造、熱処理などによって発生し、材料の変形や割れの原因となり、寸法精度や疲労強度にも悪影響を及ぼします。
参考)応力除去焼鈍とは?応力除去焼鈍の目的や材質ごとの処理の違いを…

 

熱処理中の温度差による応力発生が主要なメカニズムの一つです。焼入れなどの急冷プロセスでは、部品の表面と内部で冷却速度が異なるため温度差が生じ、材料内部に異なる膨張や収縮が起こって残留応力が発生します。特に大きな断面を持つ部品や複雑な形状の部品では、温度分布の不均一性が残留応力を増大させる要因となります。
参考)熱処理における残留応力とは?

 

フェーズ変態も残留応力の発生に大きく寄与します。鋼の焼入れプロセスでは、オーステナイトからマルテンサイトへの変態が急激に進行し、このときの体積変化が応力を生じさせ、変態の進行が不均一である場合、特定の部分に応力が集中して残留応力が材料内部に残ることになります。

残留応力除去のための熱処理条件と温度管理

応力除去焼鈍は、適当な高温に保持することにより、クリープによる塑性変形の結果として残留応力をほとんど消失させることを目的とする熱処理です。金属は高温になると降伏点が著しく低下し、また降伏点以下でも応力をかけたまま放置すると応力を減ずる方向にクリープして塑性変形を生じます。
参考)https://www.jikkyo.co.jp/material/pdf/web_ni_link/pel_machinery_metal/5/5_web_ni_link.pdf

 

材料の種類によって応力除去焼鈍の適切な温度が異なります。SB材、SM材では約625℃、Cr-Mo鋼で625から700℃程度が適用されています。加熱時間は板厚25mmあたり1から2時間程度が普通で、材料の厚さに応じた適切な処理時間の設定が重要です。
一般的な軟鋼(SS400)では通常溶接後に650℃付近での熱処理を行います。徐々に温度を上げていき、650℃付近で保持、その後徐冷して常温へ戻すことで、溶接により収縮した組織をほぐすようなイメージで処理を進めます。
参考)金属熱処理 応力除去なまし 3台の焼鈍炉で短納期対応

 

溶接後熱処理(PWHT)による残留応力緩和技術

溶接後熱処理(PWHT:Post Weld Heat Treatment)は、溶接完了後の溶接部に発熱体を取付け、電流を流すことにより加熱、温度保持、冷却のサイクルで処理を行うものです。主に結晶粒の微細化による材質の改善、溶接残留応力の除去、溶接部硬さの低減、安定化ステンレス鋼溶接部の安定化などの効果があります。
参考)https://www.toandi.co.jp/media/001/202208/54-%E6%BA%B6%E6%8E%A5%E5%BE%8C%E7%86%B1%E5%87%A6%E7%90%86(PWHT).pdf

 

熱処理方法には大きく分けて炉内熱処理方法と局部熱処理方法があります。誘導加熱、電気抵抗加熱、輻射加熱の3つの加熱方式が採用されており、それぞれ被加熱物の特性や形状に応じて選択されます。
参考)溶接後熱処理部門 ー 京浜コーポレーション

 

PWHT の低減機構について、溶接構造物を昇温して溶接部にクリープ変形を生じさせることにより、溶接残留応力の原因となっている固有ひずみを低減し、熱処理後に残存する残留応力を低減します。溶接後熱処理の施工条件(材質、板厚、加熱温度、加熱速度、保持時間、冷却速度等)は法規・規格により定められています。
参考)https://www-it.jwes.or.jp/qa/details.jsp?pg_no=0010040250

 

建築構造物における応力集中の低減対策

応力集中は切り欠きや円孔などの荷重を受ける部材の形状が急変する部分や、剛性が不連続な部分に高い応力が発生する現象です。応力集中部に発生する高い応力が繰り返し発生することで疲労破壊が起きるため、できるだけ応力が集中しない構造を把握しておくことが重要です。
参考)疲労設計の注意点とは?製品の信頼性を向上させるために設計者が…

 

角部に応力が集中する要因は、外力が発生する凸部と一般部の断面が急激に変化することなので、角部のrを可能な限り大きくすることで応力集中を低減することができます。実際の設計ではrを十分大きくとることができない場合もあるため、形状を工夫することでrを取り、応力集中を低減させる方法があります。
コーナー部にはできるだけ大きなR(Radius,円弧)またはC(Chamfer面取り)を設けるようにし、Rはできるだけ大きな半径に設定する方が、応力集中係数を小さくすることができます。冷却速度を適切に制御し、素材全体の温度分布を均一に保つことが、残留応力を抑える上で有効で、空冷や徐冷を選択することで内部応力の蓄積を軽減できます。
参考)熱処理により発生する応力の除去について解説│熱処理炉図鑑

 

残留応力測定方法と品質管理への応用

溶接残留応力の測定には、大別して、**試験体を切削した際に生じる弾性変形から推定する方法(破壊法)と、X線や光・磁気などに対する試験体の応答から推定する方法(非破壊法)**があります。非破壊法は主に実構造物での残留応力測定に適用されますが、溶接継手の材質不均一への注意が必要で、一般には取扱いの容易さと精度の面から歪みゲージを用いた破壊法が用いられます。
参考)https://www-it.jwes.or.jp/qa/details.jsp?pg_no=0010040150

 

X線残留応力測定は、X線回折(XRD)を利用して、材料表面の残留応力を非破壊で分析する手法です。残留応力のマッピング、三軸応力解析も行うことができ、実際の構造物における残留応力の分布状態を詳細に把握することが可能です。
参考)X線残留応力測定

 

破壊法では分割法、逐次切削法、局部弛緩法などの手法が用いられます。これらの手法により、溶接残留応力は溶接による熱膨張・収縮によって生じた塑性歪みの不均一分布から、弾性力学によって分割前に存在していた残留応力を求めることができます。現場での品質管理において、適切な測定方法を選択することで、構造物の安全性と信頼性を確保することが可能です。