
ゾーニングとは、空間を機能や用途で区分けすることであり、特に感染対策においては清潔区域と汚染区域を明確に分けることを指します。建築業従事者が医療施設の建設や改修工事を行う際、この概念の理解が極めて重要です。清潔区域は病原体に汚染されていないエリアで、グリーンゾーンとも呼ばれます。一方、汚染区域は感染者がいる、または病原体が存在する可能性があるエリアで、レッドゾーンと呼ばれています。さらに、両者の間には準清潔区域としてイエローゾーンが設定され、個人防護具(PPE)の着脱場所として機能します。
建築現場において、この3色のゾーニングを適用することで、工事区域と診療区域を明確に分離し、患者やスタッフの安全を確保できます。実際の施工では、床に色分けしたテープを貼る、仮囲いを設置する、標識で明示するなど、視覚的にわかりやすい区分方法が採用されています。戸田建設では、新型コロナウイルス感染症対策として、全国72の病院・福祉施設に無償でゾーニング検討を提供し、その知見をもとに具体的な提言をまとめました。
動線計画は、ゾーニング感染対策の成否を左右する重要な要素です。建築施工において、作業員の動線、資材搬入の動線、患者の動線、医療従事者の動線を完全に分離することが求められます。特に医療施設の改修工事では、工事区域と診療区域が隣接するため、動線が交差しないような綿密な計画が必要になります。
外部出入口からエレベーターまでの動線設計が起点となり、病棟全体のゾーニングへと展開していきます。具体的には、感染患者対応個室へのアクセスは専用動線を確保し、他の患者や医療スタッフとの接触を避ける設計が基本です。作業員の入退室管理も厳格化し、汚染区域で作業した後は必ず準清潔区域でPPEを脱衣してから清潔区域に移動するルールを徹底します。
建築現場では、横断歩道の近くに出入口を設け、横断歩道から最も遠い位置に大空間を配置することで、自然な動線を確保する手法が用いられます。この原則を感染対策に応用すると、汚染区域への入口を明確にし、清潔区域からの距離を最大化することで、交差リスクを低減できます。
建築現場での仮囲いや区画の設置は、ゾーニング感染対策の物理的な境界を形成します。工事区域と診療区域を分離する際、防音仮囲い、吸音パネル、簡易パーテーションなどを組み合わせて使用します。これらの設置により、騒音・振動・粉塵の拡散を防ぎながら、感染経路も遮断できます。
仮囲いの設置手順として、まず既設のデスクや設備の寸法を正確に測定し、パーテーションの脚部分を作成します。強度を確保するため、部材の接合部に三角形の合板を貼り付けて補強する工法が一般的です。ビニールカーテンを間仕切りに使用する場合は、室内を陰圧に保つ状態を作り出すことで、ウイルス拡散を効果的に防ぐことができます。
施工管理者は、各ゾーンの境界を床にテープで明示し、色分けすることで作業員全員が一目でゾーン区分を理解できるようにします。赤、黄、緑のテープを使い分け、それぞれ汚染区域、準清潔区域、清潔区域を表示します。掲示物を用いて各ゾーンでのルールを明確にし、変更事項があれば速やかに周知徹底する体制も重要です。
陰圧管理は、空気感染対策において極めて重要な技術です。部屋の気圧を廊下よりも低い状態に保つことで、汚染区域内の空気が清潔区域へ流出するのを防ぎます。建築業従事者が知っておくべき点として、陰圧室では室内の空気が外部に漏れないよう、空調換気システムを適切に制御する必要があります。
簡易陰圧装置は、陰圧病室でない一般病室でも短工期・低コストで室内を陰圧化できる装置です。ダクト工事の必要が最小限で済み、使用しない時は収納可能なため、建築現場での柔軟な対応が可能になります。設置の際は、一般病室に装置を据えて簡易的なダクト工事を行うだけで、陰圧室に変えることができます。
換気計画においては、HEPAフィルターや集塵機の設置、養生シートの二重化により、粉塵と病原体の双方を効果的に除去します。ICUや手術室など静粛が求められるエリアでは、夜間・休日中心の施工とし、換気システムの制御で陽圧・陰圧を調整することで、病原体拡散を防止します。空調設備の管理は施設管理部門が主管し、施工業者との綿密な打ち合わせが必要です。
建築現場の作業員に対する個人防護具(PPE)の適切な管理と教育は、ゾーニング感染対策の実効性を担保します。汚染区域で作業する際は、N95レスピレータの着用が基本となり、眼にウイルスが曝露する可能性がある場合はアイプロテクトも必要です。作業員全員に感染症教育を徹底し、PPEの正しい着脱方法を習得させることが重要です。
PPE着用場所と脱衣場所は明確に指定する必要があります。準清潔区域であるイエローゾーンを脱衣専用エリアとし、汚染されたPPEを着用したまま清潔区域に入ることを厳禁とします。床にテープを貼ってゾーン境界を明示し、PPE着脱の手順を掲示することで、ルール違反を防止します。
入退室管理の厳格化も欠かせません。汚染区域への出入りを記録し、誰がいつどのゾーンにいたかを把握できる体制を整えます。作業員の動線を事前に確認し、PPEを着用していない作業員が曝露しないよう、また清潔区域に汚染が生じないよう各ゾーンを設定します。配置上可能であれば、現場事務所は清潔区域に設置するのが望ましく、汚染リスクを最小化できます。
厚生労働省の宿泊療養における感染対策ガイドラインには、ゾーニングの基本原則と清潔区域・汚染区域の区分方法が詳細に記載されており、建築現場での応用に役立ちます。
戸田建設の感染症対策ゾーニング検討の提言では、外部出入口からエレベーターまでの動線、病棟全体のゾーニング、感染患者対応個室のプランについて具体的なポイントがまとめられています。
山下設計による病院の感染対策資料では、清潔・汚染エリアの明確化と施設設備状況の見える化について、建築設計の観点から解説されています。