

建築模型をスチレンボードで手作りすると、1件あたり数日分の人件費が消える。
FDM(熱溶解積層)とは、「Fused Deposition Modeling」の略称で、日本語では「熱溶解積層方式」または「熱溶融積層法」と呼ばれる3Dプリンターの造形方式です。フィラメントと呼ばれる糸巻き状の熱可塑性樹脂を加熱ノズルで溶かし、プリントベッドの上に1層ずつ積み重ねることで立体物を造形します。1層の厚みは一般的に0.1〜0.3mm程度で、高さ10cmのオブジェクトなら最大で1,000層以上を積み重ねて完成します。はがきの横幅ほどの高さ(約10cm)を作るのに最低数時間の印刷時間がかかる計算です。
造形の流れを簡単に整理すると、次の3ステップになります。
建築業においてFDMが注目される背景には、2009年にストラタシス社が保有していたFDM方式の特許が切れたことがあります。それ以降、多数のメーカーが参入し、装置価格が急落しました。現在では10万円以下の機種から購入でき、建築事務所や中小の工務店でも導入のハードルが下がっています。これは費用面の恩恵です。
建築業の担当者がFDMを正しく理解するうえで重要なのは、「造形方向による強度差」という特性です。FDM造形物は積層方向(Z軸方向、つまり縦方向)に対して垂直な引っ張り・曲げ強度が弱くなる傾向があります。建築模型の展示用途であれば問題ありませんが、実際に力がかかる現場治具や部品を作る場合は、造形の向きを事前に設計段階で考慮することが重要です。造形方向の設計が条件です。
ストラタシス・ジャパン:FDM 3Dプリンタ技術の概要(造形方式・材料・活用領域を詳細解説)
建築業の現場で最も導入事例が多いFDMの活用先は「建築模型の制作」です。従来、建築模型はスチレンボードやアクリル板を手作業でカット・貼り合わせて制作するのが一般的でした。熟練したスタッフが1棟分の住宅模型を完成させるのに、段取りから仕上げまで数日かかることも珍しくありませんでした。
FDM方式の3Dプリンターを使えば、CADデータさえ用意できれば、プリント中はほぼ無人で造形が進みます。外注に頼った場合でも早ければ2〜3日で手元に届き、社内で設備を持てばその日のうちに出力を開始できます。人が作業にかかりきりになる時間が大幅に減るため、人件費の節約につながります。これは使えそうです。
建築用途でFDMが特に力を発揮するのは、曲線や複雑な外形形状の模型です。従来の手作業では曲面形状を正確に再現しようとすると非常に手間がかかり、コストも跳ね上がっていました。FDM方式は材料を積み上げる構造上、曲面・R形状を得意とします。顧客向けの打ち合わせや設計レビューで、完成建物をイメージしやすい立体模型をスピーディーに用意できることは、提案力の向上に直結します。
日本の建築3Dプリンター企業「株式会社Polyuse」は、群馬県内の倉庫施工で国内初となる建築基準法に準拠した3Dプリンター建築物を2022年2月に完成させています。使用したのはFDM方式と同原理のモルタル積層技術です。12個の建築部材に分割して出力し、従来のコンクリート壁に要求される基準値以上の強度を達成しています。建築分野でもFDMの応用は、模型の枠を超えて施工そのものに広がりつつあります。
FlashForge Japan:建築業界での3Dプリンター活用事例(建築模型・施工短縮・コスト削減の具体例を紹介)
FDMで使用するフィラメントには複数の種類があり、建築業での用途によって最適な材料が異なります。つまり材料選びが品質を左右します。代表的な種類と特徴を以下に整理します。
| フィラメント種類 | 主な特徴 | 建築業での活用場面 |
|---|---|---|
| PLA(ポリ乳酸) | 植物由来・低コスト・造形しやすい・耐熱性低め | 展示用建築模型・コンセプトモデル |
| ABS樹脂 | 耐熱性・耐衝撃性が高い・加工しやすい | 現場確認用モデル・機能パーツ試作 |
| PETG樹脂 | 耐水性・耐化学性が高い・透明性あり | 屋外展示用模型・水回り部品の試作 |
| ナイロン樹脂 | 柔軟性・耐摩耗性に優れる | 治具・機能部品の内製化 |
| カーボンファイバー複合材 | 軽量・高強度・アルミに匹敵 | 負荷がかかる現場治具・金具代替 |
建築模型に最もよく使われるのはPLAです。1kgあたり2,000〜4,000円程度で購入でき、造形しやすく扱いやすい点が初心者にも向いています。一方、現場で実際に使う治具や金具の代替品を作る場合は、カーボンファイバー複合材やナイロンが候補になります。Markforged社の「Mark Two」シリーズは連続カーボンファイバー補強により、アルミ相当の強度を実現していると公表されています。
フィラメントの管理には注意が必要です。特にPLAやナイロンは湿気を吸収しやすく、吸湿したフィラメントで出力すると気泡が発生し、強度低下や造形失敗につながります。開封後はシリカゲルと一緒に密閉容器に保管するのが基本です。フィラメント管理は必須です。現場での使用頻度が高い場合、専用のドライボックスを用意しておくと安心です。
FDMを建築業で導入する際、事前にメリットとデメリットを正確に把握しておくことが、失敗を防ぐ鍵になります。ここでは現場目線で整理します。
まずメリットから見ていきます。
次にデメリットです。正直に見ておきましょう。
厳しいところもありますね。ただし、展示用建築模型や試作品・現場治具の内製化という用途に限れば、デメリットの多くは許容範囲に収まります。導入前に「何のために使うか」を明確にすることが最も重要です。
キーエンス:3Dプリンタ造形方式別メリット・デメリット比較(FDM・光造形・インクジェット方式の違いを詳細に解説)
FDMの活用といえば「建築模型」が定番ですが、建築業の現場には、ほとんど語られていない有効な使い方がいくつかあります。意外ですね。
型枠・金具の代替パーツ内製化という活用です。建設現場では、コンクリート型枠に使う小型のジョイント部品や、一時的に使う固定治具など、「1〜2個だけ欲しいが発注するとコストが高く、納期も読めない」という場面が頻繁にあります。FDM方式のナイロンやABS樹脂を使えば、こうした部品を社内で当日中に出力できます。Markforged社の事例では、従来1時間かかっていた治具作業が10分に短縮されたと報告されています。これが積み重なると、1ヶ月の作業効率に大きな差が出ます。
施主・顧客向けVRモデルと連動した物理模型の活用も見逃せません。近年、建築事務所ではVRやBIM(建築情報モデリング)を活用したデジタルプレゼンが増えていますが、高齢の施主や空間認識が難しいクライアントには「手で触れる模型」のほうが伝わりやすいケースが多くあります。BIMデータはそのままスライサーソフトへ出力可能なため、RevitやArchicadのデータから建築模型を直接プリントする流れが現実的になっています。デジタルと物理の橋渡しができます。
現場のスタッフ教育ツールとしての活用も実践的です。複雑な接合部や配管の取り回しを3Dプリントした立体モデルで見せることで、図面だけでは伝わりにくい施工手順の理解度が上がります。ベテランの「体で覚えた知識」を可視化・標準化するツールとして、FDM製の現場教育モデルが活用されはじめています。
さらに、建設3Dプリンターの世界では、FDMの原理を大型化した「コンクリート積層方式」が実用段階に入っています。中国の建設会社の一部では、FDM方式を応用した建設3Dプリンターにより、従来工法比で最大70%のコスト削減が実現されたという報告もあります。日本でもPolyuseをはじめ国内事業者による実証が進んでいます。これからの発展が楽しみです。
TRYeTING:アメリカで建設3Dプリンターが進む理由(FDM原理を建設に応用した海外の最新事例を解説)

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