
引きバネの規格は、JIS B 2704-2「コイルばね-第2部:仕様の表し方」とJSMA規格(日本ばね工業会規格)によって詳細に規定されています。これらの規格は、引きバネの品質統一と互換性確保を目的として策定されており、建築業界でも広く活用されています。
JIS規格では、引きバネの寸法や特性に関する表示方法が明確に定められており、線径、外径、自由長などの基本寸法から、ばね定数、荷重特性まで包括的に規定されています。特に建築現場では、このJIS規格に準拠した引きバネを使用することで、安全性と信頼性を確保できます。
引きバネの寸法公差は、ばね指数(D/d)によって3つの区分に分類されます。ばね指数とは、コイル平均径Dを材料直径dで割った数値で、この値によって公差の精度が決まります。
ばね指数4以上8以下の場合:
ばね指数8以上15以下の場合:
ばね指数15以上22以下の場合:
公差は、パーセントと最小値の2種類が定められており、比較して絶対値の大きい方が適用されます。
引きバネの材料選定は、使用環境と要求性能によって決定されます。主要な材料としては、ステンレス鋼線(SUS304-WPB)と硬鋼線(ピアノ線)があり、それぞれ異なる特性を持っています。
ステンレス鋼線の特徴:
硬鋼線の特徴:
材料選定時は、標準線径規格を外すと材料入手が困難になったり、コストが上昇するリスクがあるため注意が必要です。例えば、ピアノ線で線径2.0mmの次に太い標準線径は2.3mmであり、中間サイズを指定すると調達に時間がかかる場合があります。
引きバネの荷重特性は、初張力の存在により押しばねとは異なる計算が必要です。指定長さでの荷重公差は、初張力のバラツキを考慮した特別な計算式で求められます。
荷重公差の計算式。
±{初張力×初張力のバラツキα+(指定長さの荷重-初張力)×たわみに対する荷重のバラツキβ}
初張力のバラツキα:
有効巻数による荷重バラツキβ:
有効巻数3以上10以下:
有効巻数10を超える場合:
ばね定数の公差も有効巻数によって区分されており、有効巻数が少ないほどバラツキが大きくなる傾向があります。
建築現場では、規格品の引きバネを意外な用途で活用する技術があります。特に1m規格品は、現場での緊急対応や特殊用途に重宝されています。
現場での独自活用例:
1m規格品は密着巻きでフックがないため、現場で自由にカットして必要な長さに調整できます。テンパー処理をしていない生地仕上げのため、フック部分の加工も容易で、建築現場の多様なニーズに対応可能です。
規格品を複数組み合わせることで、特注品と同等の性能を実現する技術も存在します。線径0.3mm~5.0mm、外径3.0~46.0mmの豊富なバリエーションから最適な組み合わせを選択し、コスト削減と納期短縮を同時に実現できます。
このような独自活用により、建築現場では規格品でありながら、現場特有の要求に柔軟に対応する解決策を見出しています。規格の理解を深めることで、標準品の可能性を最大限に引き出すことが可能になるのです。