
第一鉄(Fe²⁺)と第二鉄(Fe³⁺)の根本的な違いは、鉄原子から放出される電子の数にあります。第一鉄は鉄原子から2個の電子が失われた状態で、2価の鉄イオンとして存在します。一方、第二鉄は3個の電子が失われた状態で、3価の鉄イオンとして存在します。
参考)鉄の単体・化合物の性質や特徴・製法・イオンの色など
この価数の違いは、イオンの色にも現れます。第一鉄イオン(Fe²⁺)を含む水溶液は淡緑色を示すのに対し、第二鉄イオン(Fe³⁺)を含む水溶液は黄褐色を示します。この色の違いは、建築現場で鉄筋の腐食状態を目視確認する際の重要な手がかりとなります。
参考)https://www.osaka-c.ed.jp/kak/rika1/subj-db/db-36.htm
鉄が固体中で安定な価数は2価と3価であり、すなわち鉄はFe²⁺またはFe³⁺として存在します。第一鉄は比較的不安定で、酸素と反応しやすい性質を持っているため、空気中では容易に第二鉄へと酸化されます。
参考)https://www.maff.go.jp/j/nousin/mizu/sutomane/koukan/attach/pdf/koukan-8.pdf
建築構造物における鉄筋腐食のメカニズムは、第一鉄から第二鉄への酸化反応が中心となります。鉄がイオン化すると、まず水酸化第一鉄Fe(OH)₂が生成されます。この水酸化第一鉄は非常に不安定な物質であり、さらに酸化が進行します。
参考)鋼材(鉄筋)の腐食によるコンクリートのひび割れ
最初にできた水酸化第一鉄は、溶存酸素と結びついて水酸化第二鉄Fe(OH)₃になります。この水酸化第二鉄は、さらに水分を失うことで赤錆(水和酸化鉄、または三酸化二鉄Fe₂O₃)へと変化します。赤錆は鉄の最終的な腐食生成物として、建築構造物の表面に沈積していきます。
この酸化過程において、水酸化第一鉄から水酸化第二鉄への変化は、アノード反応(酸化反応)とカソード反応(還元反応)によって腐食電池を形成します。鉄の錆は体積膨張を伴い、その膨張圧によってコンクリートにひび割れや剥離を生じさせることがあるため、建築物の耐久性に重大な影響を与えます。
参考)重い電車を動かそう!~リニアモーターの原理~ - 工学のトビ…
コンクリート内部の鉄筋腐食において、第一鉄と第二鉄の化学的性質の違いが構造物の劣化に大きく影響します。鉄筋がイオン化するアノード反応(酸化反応)と、酸素が還元するカソード反応(還元反応)で腐食電池を形成し、全反応として最終的に水酸化第二鉄を生じさせます。
コンクリート構造物の設計では、コンクリートの引張強度はゼロと考えられ、圧縮側はコンクリートで構造計算され、引張側は鉄筋で支えると考えます。そのため、鉄筋が腐食してその強度が低下すると、コンクリート構造物には決定的なダメージが発生します。
腐食電池の形成には液状水が必要ですが、コンクリートが湿潤な状態では酸素が少なく、第二鉄イオンの還元反応が重要となります。つまり、乾湿繰返し環境が鉄筋腐食において最も危険な条件となります。かぶり(厚さ)が十分に確保されていれば、乾燥過程における水の移動速度は遅く、水の移動は生じにくくなります。
参考)公益社団法人 日本コンクリート工学会
酸化還元反応において、第一鉄イオン(Fe²⁺)は還元剤として、第二鉄イオン(Fe³⁺)は酸化剤としてはたらきます。この反応は化学式で表すと、Fe²⁺→Fe³⁺+e⁻となり、第一鉄が電子を1個放出して第二鉄になります。
酸化と還元の説明において、金属が「さびる」のが酸化の代表例ですが、これは金属が酸素と結合することです。鉄鉱石の主成分は鉄(元素記号Fe)が酸素と結合した酸化鉄Fe₂O₃であり、これを製錬して金属の鉄を生成する過程が還元反応です。
参考)ビタミンC研究委員会
鉄は鉄鉱石(酸化鉄)を高温(1500℃以上)で製錬(還元)して製造しますが、実は製錬された鉄はエネルギーが高く不安定です。そのため、鉄は安定した元の状態(錆≒酸化鉄)に戻ろうとする性質があります。鉄は単体として存在するよりも、酸素と結合した状態が安定であり、鉄の単体を作るには多量のエネルギーが必要となります。
参考)https://www.j-cma.jp/j-cma-pics/10007295.pdf
建築業従事者にとって、第一鉄と第二鉄の違いを理解することは、効果的な防食対策を実施する上で不可欠です。鉄鋼構造物の腐食反応は、アノード反応とカソード反応の和となるため、水酸化第一鉄Fe(OH)₂が生成されます。この水酸化第一鉄は不安定であり、さらに酸化されて水酸化第二鉄、酸化第二鉄(赤錆)になって沈積します。
コンクリート内の鉄がなぜ錆びるかというと、鉄がイオン化するアノード反応(酸化反応)と酸素が還元するカソード反応(還元反応)で腐食電池を形成するためです。この電気化学的反応によって、最終的に錆である水酸化第二鉄Fe(OH)₃を生じさせます。
💡 防食対策のポイント
電気防食技術の詳細な仕組みと実用事例について解説した技術資料
電気防食は腐食反応を直接的に抑制し、コンクリートでは鉄筋の再不動態化も担います。電流を供給している間は腐食は進行せず、多量の塩分が存在する環境でも所定の防食電流を供給すれば腐食は進行しません。この技術は、建築構造物の長寿命化において重要な役割を果たしています。
参考)https://www.j-cma.jp/j-cma-pics/10007576.pdf
水溶液中で鉄が腐食するのは、鉄が陽イオンとなって溶け出し、放出した電子が腐食電流となって流れるという局部電池作用によるものです。そこで、水中の鉄構造物にアルミニウムなどの電極を取り付けると、鉄よりイオン化傾向が大きなアルミニウムが犠牲陽極となって溶け出すため、鉄構造物の腐食が防止できます。
コンクリート中の鉄筋腐食によるひび割れ対策の実践的な施工方法