鉄鉱石種類と製鉄への利用や建築業への影響

鉄鉱石種類と製鉄への利用や建築業への影響

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鉄鉱石種類と特性

主な鉄鉱石の種類
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赤鉄鉱(ヘマタイト)

化学式Fe2O3、鉄含有量70%、還元しやすい性質を持つ主力鉱石

磁鉄鉱(マグネタイト)

化学式Fe3O4、鉄含有量72%、強い磁性を持ち難還元性の鉱石

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褐鉄鉱(リモナイト)

化学式Fe2O3・nH2O、水分含有の二次鉱物、針鉄鉱が主成分

鉄鉱石赤鉄鉱の性質と利用

赤鉄鉱は化学組成Fe2O3で表され、理論上の鉄含有量が約70%に達する最も重要な鉄鉱石です。三方晶系の結晶構造を持ち、赤色から黒色の外観が特徴的で、ギリシア語の「血」に由来する名称が付けられています。
参考)鉄鉱石 - Wikipedia

製鉄プロセスにおいて赤鉄鉱は磁鉄鉱と比較して還元しやすい性質を持つため、高炉での利用に適しています。酸化鉄から酸素を取り除く還元反応では、一酸化炭素COが赤鉄鉱Fe2O3を金属鉄Feに変換します。この還元のしやすさから、世界中の製鉄所で主力原料として採用されており、日本で使用される鉄鉱石の大部分を占めています。
参考)https://www.nipponsteel.com/company/publications/quarterly-nssmc/pdf/2017_18_10_13.pdf

赤鉄鉱は顔料としての用途も持ち、ベンガラと呼ばれる赤色酸化鉄として建築物の彩色や陶磁器の装飾にも利用されてきました。縄文時代から日本でも土器の彩色に使われており、耐環境性に優れた安全な材料として現在も様々な分野で活用されています。
参考)伝統の“ベンガラ”から新規な赤色酸化鉄への研究展開 —備中吹…

新日鐵住金の技術資料:鉄鉱石の生い立ちと赤鉄鉱の還元特性について詳細な解説

鉄鉱石磁鉄鉱の特徴と製鉄での課題

磁鉄鉱は化学式Fe3O4(四酸化三鉄)で示され、理論的な鉄含有量が約72%と赤鉄鉱よりもやや高い値を示します。等軸晶系のスピネル構造を持ち、黒色で金属光沢のある正八面体の結晶として産出されます。比重は5.2、モース硬度は5.5から6.5の範囲にあります。
参考)https://www.jfe-21st-cf.or.jp/jpn/chapter_2/2c_1.html

最大の特徴は強い磁性を持つことで、天然の磁石として機能する場合もあります。日本では砂鉄や餅鉄として自然に採取され、かつてたたら製鉄の原料として盛んに利用されました。現在でも火成岩中に普通に含まれる造岩鉱物の一種として、世界各地で産出されています。
参考)磁鉄鉱 - Wikipedia

製鉄プロセスにおいては、磁鉄鉱は赤鉄鉱と比べて難還元性であるという課題があります。酸化鉄を金属鉄にする還元反応では、より多くの酸素を取り除く必要があるため、高炉での処理に時間とエネルギーがかかります。そのため現在の製鉄では、基本的に全世界で採取可能ですが、商業用に使用するには不純物を取り除く選鉱処理が必要とされています。
参考)302 Found

鉄鉱石褐鉄鉱と針鉄鉱の分類

褐鉄鉱は鉄の酸化鉱物の通称または野外名であり、別名リモナイトやライモナイトとも呼ばれます。化学組成はFe2O3・nH2Oで表され、水分を含んだ酸化鉄として天然の錆の状態で存在します。実際には吸着水や毛管水を含んだ針鉄鉱(ゲータイト)が主成分をなしています。
参考)針鉄鉱 - Wikipedia

針鉄鉱は化学組成FeO(OH)で示される水酸化鉱物の一種で、斜方晶系の結晶構造を持ちます。黄鉄鉱、菱鉄鉱、磁鉄鉱などが酸化することによって生じる二次鉱物であり、水中の沈殿物としても形成されます。黒色、赤色、褐色、黄色などの色を呈し、水晶の中に針状や毛髪状、繊維状の内包物として出現することが多いのが特徴です。​
製鉄原料としては、褐鉄鉱は赤鉄鉱や磁鉄鉱と並んで日本で使用される主要な鉄鉱石の一つとされています。ただし水分含有量が多いため、高炉に装入する前の焼結工程において、水分除去と品位向上の処理が必要となります。鉄品位の理論値は赤鉄鉱や磁鉄鉱より低いものの、世界各地に豊富に存在するため、選鉱技術の向上とともに利用が進められています。
参考)https://www.jisf.or.jp/knowledge/manufacture/genryo.html

腐食防食協会:鉄鉱石の生成過程と褐鉄鉱の特性に関する解説資料

鉄鉱石品位と不純物の影響

鉄鉱石の品位とは鉄分の含有量を示す指標であり、製鉄プロセスの効率性を大きく左右します。高品質の鉄鉱石は鉄分含有量が50%から65%の範囲にあり、世界に約2,000億トン存在すると推定されています。日本で使用される鉄鉱石は鉄分含有率60%前後のものが主流となっています。
参考)https://www.jisf.or.jp/kids/shiraberu/01.html

実際の鉱石には鉄分以外に、2%から6%のシリカ(SiO2)と1%から3%のアルミナ(Al2O3)が含まれています。これらの脈石成分は製鉄プロセスにおいて不純物として作用し、高炉の生産性やエネルギー原単位を悪化させる要因となります。そのため原料段階での品位向上が強く求められており、物理的分離方法を用いた選鉱プロセスが広く採用されています。
参考)https://www.kobelco.co.jp/r-d/technology-review/dumm/__icsFiles/afieldfile/2025/03/19/232_008-013.pdf

近年、中国やインドなどの新興国を中心に鉄鋼生産が大幅に拡大した結果、世界的に鉱床の品位が低下しています。既存鉱山では長年の採掘により、簡単な整粒のみで高品位鉱石を製造することが難しくなってきており、低品位鉱石の活用技術が重要性を増しています。低品位鉱石のグレードアップには重力選鉱、磁力選鉱、浮遊選鉱などのより広範な選鉱プロセスが必要となり、粉砕や磨砕といった粒径を小さくする工程も不可欠です。
参考)href="https://www.prominetech.com/ja/news/what-are-the-key-challenges-in-processing-low-grade-iron-ore/" target="_blank">https://www.prominetech.com/ja/news/what-are-the-key-challenges-in-processing-low-grade-iron-ore/amp;#20302;href="https://www.prominetech.com/ja/news/what-are-the-key-challenges-in-processing-low-grade-iron-ore/" target="_blank">https://www.prominetech.com/ja/news/what-are-the-key-challenges-in-processing-low-grade-iron-ore/amp;#21697;href="https://www.prominetech.com/ja/news/what-are-the-key-challenges-in-processing-low-grade-iron-ore/" target="_blank">https://www.prominetech.com/ja/news/what-are-the-key-challenges-in-processing-low-grade-iron-ore/amp;#20301;href="https://www.prominetech.com/ja/news/what-are-the-key-challenges-in-processing-low-grade-iron-ore/" target="_blank">https://www.prominetech.com/ja/news/what-are-the-key-challenges-in-processing-low-grade-iron-ore/amp;#3744…

また、鉄鉱石の品位は粒度分布によっても変化し、一般に粒度が小さいほど鉄分が低下し、脈石成分のSiO2やAl2O3、CaOが増加することが知られています。このため選鉱工程では鉱石を細かく粉砕して不純物を分離しますが、その結果として製品鉱石はより細かくなる傾向があります。
参考)https://tetsutohagane.net/articles/search/files/92/12/KJ00004412116.pdf

JFE技術資料:鉄鉱石の成分と品位、産地による性質の違いについての詳細説明

鉄鉱石製鉄プロセスでの加工形態

鉄鉱石は高炉に装入される前に、粒度や品位に応じて様々な形態に加工されます。現在日本では、高炉に装入される鉄鉱石の比率は塊鉱石が約15%、ペレットが約10%、焼結鉱が約75%となっており、事前処理した鉱石が主体を占めています。
参考)鉄が生まれる現場〈製鉄所〉|JFEスチール 新卒採用サイト

焼結鉱は粉状の鉄鉱石と石灰石を混ぜて焼き固めたもので、5mm以下の粉鉱をある程度均一なサイズの塊にする焼結工程で製造されます。粉状のまま高炉に入れると目詰まりを起こすため、この加工は必要不可欠です。焼結プロセスでは鉄鉱石の整粒で発生する粉鉱を有効活用できる利点があります。
参考)世界トップの環境レベルを誇る日本の製鉄プラント

ペレットは焼結でも使いにくい超微粉を主な原料として製造される球状の固形物です。選鉱プロセスで鉱石を細かく粉砕して不純物を分離すると、必然的に製品鉱石は細かくなるため、ペレット化が重要な技術となります。ペレット化プロセスでは脱水工程を経て、輸送や高炉装入に適した形態に成形されます。
参考)href="https://www.prominetech.com/ja/news/what-are-the-4-critical-steps-in-modern-iron-ore-beneficiation/" target="_blank">https://www.prominetech.com/ja/news/what-are-the-4-critical-steps-in-modern-iron-ore-beneficiation/amp;#29694;href="https://www.prominetech.com/ja/news/what-are-the-4-critical-steps-in-modern-iron-ore-beneficiation/" target="_blank">https://www.prominetech.com/ja/news/what-are-the-4-critical-steps-in-modern-iron-ore-beneficiation/amp;#20195;href="https://www.prominetech.com/ja/news/what-are-the-4-critical-steps-in-modern-iron-ore-beneficiation/" target="_blank">https://www.prominetech.com/ja/news/what-are-the-4-critical-steps-in-modern-iron-ore-beneficiation/amp;#37444;href="https://www.prominetech.com/ja/news/what-are-the-4-critical-steps-in-modern-iron-ore-beneficiation/" target="_blank">https://www.prominetech.com/ja/news/what-are-the-4-critical-steps-in-modern-iron-ore-beneficiation/amp;#3748…

塊鉱石は高品位の鉄鉱石を粒度調整のために破砕したもので、この過程で粉鉱石も発生します。低品位の鉱石は選鉱のために粉砕されるため、さらに細かい微粉鉱石となり、焼結やペレット化の原料として利用されます。​
コークスは石炭をコークス炉でおよそ20時間かけて蒸し焼きにして製造されます。焼き上がったコークスは窒素などのガスで消火・冷却され、このとき暖められたガスの熱は回収されて発電などに利用されます。コークスは高炉内で熱供給や還元、浸炭など重要な諸反応を担っており、製銑プロセスにおいて不可欠な材料です。
参考)低炭素操業指向時の高炉内通気性確保と粉体挙動

鉄鉱石から建築資材への展開

鉄鉱石から製造された鉄鋼製品は、建築業界において極めて重要な構造材料として広範に利用されています。大規模な鉄橋やビルディングの骨組み、住宅の鉄骨や鉄筋といった基礎構造から、装飾用の鉄製品まで、建築のあらゆる場面で活躍しています。
参考)資源を知ろう!

建築資材としての鉄鋼の特徴は、高い強度と粘り強さにあります。建築鉄骨や鉄筋は建物の骨格を支え、地震や風圧などの外力に耐える重要な役割を果たします。鉄は酸素、ケイ素、アルミニウムに次いで地殻に多く存在する元素であり、鉄鉱石の可採埋蔵量は他の金属と比べて桁違いに多いため、安定した供給が可能です。
参考)Fe:FRAME OIKAWA TEKKO

鉄鋼製品は環境面でも優れた特性を持ちます。廃棄される鉄製品は鉄スクラップとして再利用され、資源として何度でも生まれ変わることができます。鉄鋼業界では副産物の再資源化率が99%に達しており、最終処分場に廃棄される量は副産物量のわずか1%です。鉄鋼スラグはセメント原料や建設・土建資材として社会や他産業で有効に活用されています。
参考)鉄鋼環境技術の軌跡 −持続可能な材料としての鉄鋼材料−

建築現場では、鉄鉱石を原料とした製鉄プロセスで生産される高炉法による鋼材と、鉄スクラップを原料とする電炉法による鋼材が併用されています。高炉法は高級鋼材の製造が可能で、建築用の高強度鋼材や特殊鋼材の生産に適しています。一方、電炉法はコークスを用いる必要がなくCO2排出量が少ないという環境上の利点があります。
参考)https://green-innovation.nedo.go.jp/article/iron-steelmaking/

また、製鉄所から発生する鉄鋼スラグは建築分野での利用が進んでいます。鉄鉱石の選鉱で発生する鉄テーリングを補助的なセメント材料として活用する研究も行われており、鉱山固形廃棄物の高付加価値利用がカーボンニュートラルと持続可能な開発の促進に貢献しています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9181601/

経済産業省資源エネルギー庁:水素還元製鉄など最新の環境対応型製鉄技術の開発状況

鉄鉱石選鉱技術と品位向上の最新動向

鉄鉱石の選鉱は鉱石から不純物を取り除き鉄分を高めることで品質と価値を向上させる重要なプロセスです。現代の鉄鉱石選鉱は通常4つの重要なステップから構成されています。第一段階は破砕と粉砕によるサイズ削減で、鉱石を細かく粉砕して鉱物を単体分離します。
参考)https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/old_uploads/reports/resources-report/2013-05/MRv43n1-03.pdf

第二段階は篩別と分類のプロセスで、粒径に応じた鉱石の分級を行います。第三段階の分離と濃縮では、重力選鉱、磁力選鉱、浮遊選鉱などの物理的分離方法を用いて目的鉱物と脈石を分離します。第四段階は脱水とペレット化で、選鉱された鉱石を輸送や製錬に適した形態に加工します。​
近年の技術開発では、水素ガスを用いた鉄鉱石の品位向上方法が注目されています。水分含有量の多い劣質鉄鉱石に対して、H2ガスによる還元処理を行うことで金属化率を高め、その後粉砕と磁選を行うことで鉄品位を効率的に向上させることができます。この方法では脈石成分を効率よく除去しながら、製鉄原料として使用しやすい形態にすることが可能です。
参考)https://patents.google.com/patent/WO2018016292A1/ja

水素還元製鉄技術は環境対応型の次世代製鉄プロセスとしても開発が進められています。従来のコークスによる還元では大量のCO2が発生しますが、水素による還元の生成物はH2Oであり、炭素系還元剤から水素系還元剤への移行はCO2排出削減に大きな効果をもたらします。
参考)多流体高炉シミュレータによる水素吹き込み操業の解析

日本では「革新的製鉄プロセス技術開発(COURSE50)」プロジェクトにおいて、COGガス中の水素利用やCO2回収法の検討が進められています。低品位の鉄鉱石を水素だけで還元する直接水素還元技術の開発も行われており、製鉄業の低炭素化に向けた技術革新が継続されています。
参考)https://www.nedo.go.jp/content/800031455.pdf

選鉱技術の向上により、従来は利用困難とされていた低品位鉱石の活用も可能になってきています。選鉱プラントやペレットプラントの最新技術により、既存鉱山での鉱床品位低下という課題に対応し、持続可能な鉄鉱石供給体制の構築が進められています。​