
断面二次モーメントは、構造部材の曲げに対する抵抗力を表す重要な指標です 。この値は部材の断面形状によってのみ決定され、材質とは無関係という特徴があります 。
参考)断面二次モーメントとは|計算方法・公式・単位をわかりやすく解…
建築業界では、梁や柱の設計において断面二次モーメントを用いて部材の強度や剛性を評価します。単位は「mm⁴」または「cm⁴」で表され、値が大きいほど曲げにくい形状であることを意味します 。
参考)断面二次モーメントと慣性モーメントの違いと意外な関係性とは?
断面二次モーメントの基本的な定義式は以下の通りです:I = ∫ y² dA 。ここで、yは中立軸からの距離、dAは微小面積を表します。この式から分かるように、中立軸から遠い位置にある面積ほど断面二次モーメントへの寄与が大きくなります 。
参考)http://jikosoft.com/cae/engineering/strmat11.html
断面二次モーメントの計算には、主に直接積分法と平行軸の定理を用いた方法があります 。複雑な形状の場合は、単純な形状に分割して平行軸の定理を適用することで効率的に計算できます。
平行軸の定理は「I = I₀ + Ad²」で表され、図心軸からd離れた軸に関する断面二次モーメントを求める際に使用します 。ここで、I₀は図心軸に関する断面二次モーメント、Aは断面積、dは軸間距離です。
この定理により、L形やT形などの複合断面でも、各部分の断面二次モーメントを求めて合成することが可能になります 。建築の実務では、H形鋼やI形鋼の断面二次モーメントもこの方法で導出されています 。
参考)断面二次モーメント・断面係数の公式と計算フォーム
計算を行う際は、必ず図心(重心)を通る軸を基準にする必要があります 。基準軸を間違えると、強度や剛性の判断を誤る可能性があります。
また、断面二次モーメントは距離の4乗に比例するため、寸法の変化に対して非常に敏感です 。例えば、長方形断面では高さが2倍になると断面二次モーメントは16倍(2⁴)になります 。この性質を理解することで、効率的な断面設計が可能になります 。
参考)断面係数の計算方法3選|断面二次モーメントの計算方法について…
現代の設計実務では、計算ツールやソフトウェアを活用することが一般的ですが、基本原理を理解しておくことで設計の妥当性を確認できます 。
参考)https://d-engineer.com/unit_formula/sec_moment.html
長方形断面は建築で最も基本的な形状の一つです。その断面二次モーメントは I = bh³/12 で計算されます 。ここで、bは幅、hは高さを表します。
参考)【材料力学】断面二次モーメントについて【たわみに強い断面形状…
この公式から分かる重要な特徴は、高さhが3乗で効いていることです 。つまり、曲げに対する抵抗力を高めるには、幅を広げるよりも高さを大きくする方が効果的です。例えば、100mm×300mmの断面と300mm×100mmの断面では、前者の方が9倍大きな断面二次モーメントを持ちます 。
木造建築や鉄筋コンクリート造の梁設計では、この性質を活用して効率的な断面を選定します。また、せん断スパン比や長期たわみの検討においても、長方形断面の断面二次モーメントは重要な設計パラメータとなります 。
円形断面の断面二次モーメントは I = πd⁴/64 で表されます 。直径dの4乗に比例するため、直径の変化が断面性能に大きく影響します。
参考)円の断面二次モーメントの求め方は?1分でわかる公式、導出方法…
円形断面の特徴は、どの方向に対しても同じ断面二次モーメントを持つことです 。これにより、軸方向が不明確な荷重に対して均等な抵抗性を発揮します。鋼管杭や円形柱など、様々な方向からの荷重を受ける部材に適用されます 。
中空円形断面(パイプ形状)の場合は I = π(D⁴-d⁴)/64 となります 。外径Dと内径dの差が大きいほど、同じ断面積でも大きな断面二次モーメントを得られるため、材料効率の良い構造になります 。この性質は、鋼管構造や鋼管コンクリート構造で活用されています。
H形鋼とI形鋼は建築構造で最も重要な形鋼の一つです。これらの断面二次モーメントは、フランジ(水平部分)とウェブ(垂直部分)の組み合わせによって決まります 。
参考)https://www.fujita-kz.com/pdf/items/jyukasetsu/h-katakoh.pdf
代表的なH形鋼の断面二次モーメント値を以下に示します。
H形鋼の特徴は、強軸(x軸)と弱軸(y軸)で断面二次モーメントが異なることです 。通常、強軸方向の値が弱軸方向の2~3倍程度となります。この性質により、主たる曲げ方向を強軸に合わせることで効率的な構造設計が可能になります 。
参考)https://www.jfe-steel.co.jp/products/building/assets/pdf/binran/binran_chapter05.pdf
実際の設計では、JIS規格やメーカーの断面性能表を参照して適切な断面を選定します 。荷重条件、支点条件、許容たわみなどを総合的に検討し、最適な断面寸法を決定することが重要です 。
参考)https://www.jfe-steel.co.jp/products/building/assets/pdf/shapes/jis_h-danmen.pdf