

幾何公差におけるデータムの優先順位は、公差記入枠の左から右へ優先度が高い順に記入されます。この優先順位は単なるアルファベット順ではなく、部品の組立順や加工機への取り付け順などを考慮して決定されます。設計者は一般的に優先度の高い部位から順にデータムのアルファベットを決めるため、特に理由がない限りアルファベット順に優先度が高くなるよう図面指示されます。
参考)https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/0905/14/news089_2.html
データムの優先順位設定は、設計意図を明確に伝えるための重要な手段です。例えば、くさび形の部品において、データムがA、B、Cの順で記入されている場合、部品が相手部品に対してA→B→Cの順番で組み付けられることを設計意図として表現しています。この優先順位の設定次第で、同じ形状の部品でも検査の合否が変わってくる可能性があります。
参考)https://www.kabuku.io/case/plan/gt-u_03/
三平面データム系では、互いに直交する三つのデータム平面によって構成されるデータム系において、その優先順位に従ってそれぞれ第一次データム平面、第二次データム平面、第三次データム平面と呼ばれます。第一次データムは部品の姿勢の基礎となり、安定性、機能性、接触点の3つの重要な特性によって選択が決まります。
参考)https://foundry.jp/bukai/wp-content/uploads/2013/03/f041e8324a79b718179f6832f71bd4ac.pdf
データムの優先順位は、加工機への取り付け順序や部品の組立順序と密接に関連しています。製造現場では、この優先順位に従って部品を固定し、加工や測定を行うことで設計者の意図した精度を実現します。
参考)https://www.cybernet.co.jp/sigmetrix/learning/kikakousa/geometric_tolerance/
加工プロセスにおいて、第一次データムは部品を最初に固定する基準面として機能します。この面は平らで安定した接触を提供する必要があり、通常は最も大きな平面が選ばれます。第二次データムは、第一次データムに固定した後に位置決めを行う面であり、回転方向の自由度を拘束します。第三次データムは、残りの自由度を拘束し、部品の完全な位置決めを完成させます。
参考)https://firstmold.com/ja/guides/datum/
測定においても同様に、データムの優先順位に従って部品をブロックゲージや定盤などの治具に当て付ける順序が決まります。この順序を誤ると、測定結果が設計意図と異なる可能性があるため、検査者は図面指示に従った正確な測定手順を実施する必要があります。
参考)https://www.cybernet.co.jp/sigmetrix/learning/download/035/
データムの表記方法と公差記入枠の詳細(ITmedia MONOist)
データムの優先順位が測定値に与える影響は極めて大きく、特に振れの測定では顕著な差が現れます。例えば、面基準をデータムA、原点をデータムBとした場合、AB基準なのかBA基準なのかで第一優先が変わるだけで、測定値が大きく異なるケースが多く見られます。
参考)https://3d-souken.jp/?p=368
これは基準座標系が優先順位によって変化するためです。細い円筒部の振れを測定した場合、この違いは特に顕著に表れます。測定者は、図面に指示されたデータムの優先順序に細心の注意を払い、正確な測定を実施する必要があります。
三次元測定機を使用する場合も、データムの優先順位に従って部品と設計形状(設計モデル)との位置合わせを行います。まずデータムAを合わせ、次にデータムBを合わせるという手順を守ることで、設計者の意図した測定が実現されます。
参考)https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/1607/06/news026_3.html
| データム優先順位 | 測定手順 | 影響する自由度 |
|---|---|---|
| 第一次データム | 最初に固定する基準面 | 3自由度(並進1、回転2) |
| 第二次データム | 第一次に続く位置決め面 | 2自由度(並進1、回転1) |
| 第三次データム | 最終的な位置決め面 | 1自由度(並進1) |
設計者がデータムの優先順位を設定する際には、いくつかの重要な留意点があります。まず、データム形体自体がばらつく可能性があることを考慮に入れておく必要があります。データム参照について留意すべき点は、仮に製品でデータム形体が傾いていた場合、それを参照している幾何公差の公差域も連動して傾く場合があることです。
データム記号を図面に指示する際には、記号を配置する場所にも注意が必要です。表面形体(表面、母線)と、サイズ形体から導かれる誘導形体(中心点、中心線、中心平面)では、データム記号の配置方法が異なります。表面や母線にデータムを指示する場合は、該当する形体の寸法線とは距離を置き、形状線上または寸法補助線上にデータム記号を配置します。
参考)https://marketing.ipros.jp/contents/basics/basic-geometric-tolerance-4/
一方、中心点、中心線、中心平面にデータムを指示する場合は、該当する形体の寸法線の延長線上にデータム記号を配置します。このように、データムの指示位置によって対象となる領域が異なるため、設計意図を厳密に表現するためには適切な位置にデータムを指示することが重要です。
参考)https://www.keyence.co.jp/ss/products/measure-sys/gd-and-t/basic/datum.jsp
公差記入枠の正しい書き方(キーエンス)
データムの優先順位を最適化するためには、製品の機能要件と製造プロセスの両面から検討する必要があります。組立性を重視する場合は、実際の組立手順に合わせてデータムの優先順位を設定することで、製造現場での作業効率が向上します。
特に複雑な形状を持つ部品では、データムの選定が測定精度に大きく影響します。例えば、円筒形状の部品において軸線をデータムとする場合、その円筒の真直度や円筒度が悪いと、データム自体の精度が低下し、それを基準とする他の幾何公差の測定精度にも影響を及ぼします。
近年では、三次元測定機の普及により、複雑なデータム系の測定が容易になっています。ハンディタイプのプローブを使ったコンパクトで移動可能な三次元測定機も開発され、現場での測定が可能になっています。これにより、データムの優先順位に従った正確な測定がより迅速に実施できるようになりました。
参考)https://microvu.jp/geometric-tolerances/
設計段階でデータムの優先順位を適切に設定することは、製造コストの最適化にもつながります。必要な機能を確保しつつ、過剰な精度要求を避けることで、加工コストを抑えながら品質を維持することが可能になります。データムの優先順位は、設計思想を製造現場に正確に伝える重要なコミュニケーションツールとして機能します。
参考)https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/1906/03/news009_2.html