
土壌汚染対策法では、人の健康を守るため2種類の基準を設けています。土壌溶出量基準は、土壌に含まれる有害物質が地下水に溶け出し、その汚染された地下水を毎日2リットル、70年間飲み続けた場合でも健康に影響がない濃度として設定されています。一方、土壌含有量基準は、汚染土壌のある土地に一生涯居住し、子どもが1日200mg、大人が100mgの土壌を摂食しても健康に影響がない濃度を基準としています。
参考)土壌汚染対策法の基準はどんなものなの?
地下水等経由の摂取リスクに対しては、全26種類の特定有害物質について土壌溶出量基準が定められています。土壌に含まれる有害物質が地下水に溶け出し、井戸水などを通じて人体に取り込まれる経路を想定した基準です。特に建築現場周辺で地下水を利用している場合、このリスクへの配慮が重要となります。
参考)土壌汚染対策のしくみ 横浜市
直接摂取リスクに対しては、第二種特定有害物質である重金属類9物質に限定して土壌含有量基準が設定されています。子どもが砂場遊びで土壌を口にしたり、風で飛散した土壌が直接体内に入ることによる健康被害を防ぐための基準です。建築工事で土壌を掘削する際は、作業員や周辺住民への飛散防止対策が求められます。
参考)http://www.jeas.or.jp/dojo/business/promote/booklet/files/05_0/14.pdf
土壌汚染対策法では、26種類の特定有害物質を3つのカテゴリーに分類しています。第一種特定有害物質は揮発性有機化合物(VOC)で12物質、第二種特定有害物質は重金属類で9物質、第三種特定有害物質は農薬類とPCBで5物質が指定されています。
参考)土壌汚染の種類と基準値 - 知識集・事例集 - エコサイクル…
第一種特定有害物質には、クロロエチレン、四塩化炭素、ジクロロメタン、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、ベンゼンなどが含まれます。これらは気化する性質を持つため、土壌ガス調査も実施されます。例えば、ベンゼンの土壌溶出量基準は検液1Lにつき0.01mg以下、トリクロロエチレンは0.01mg以下(令和3年4月改正)と定められています。
参考)土壌汚染対策法における特定有害物質|広島市公式ウェブサイト
第二種特定有害物質では、カドミウム及びその化合物が土壌溶出量基準0.003mg/L以下、土壌含有量基準45mg/kg以下(令和3年4月改正)、鉛及びその化合物が溶出量0.01mg/L以下、含有量150mg/kg以下などと規定されています。六価クロム化合物、シアン化合物、水銀、セレン、砒素、ふっ素、ほう素についても、それぞれ溶出量と含有量の両基準が設けられています。
参考)土壌汚染対策法の基準値一覧について href="https://www.eco-j.co.jp/blog/379.html/" target="_blank">https://www.eco-j.co.jp/blog/379.html/amp;#8211; 解体工事…
環境省「土壌環境基準 別表」には、全特定有害物質の詳細な基準値と測定方法が記載されています
第三種特定有害物質は、シマジン(0.003mg/L以下)、チオベンカルブ(0.02mg/L以下)、チウラム(0.006mg/L以下)、ポリ塩化ビフェニル(PCB、検出されないこと)、有機りん化合物(検出されないこと)の5物質です。これらの農薬類は土壌溶出量基準のみが設定され、含有量基準はありません。
土壌溶出量基準の測定は、環境省告示第18号に基づいて実施されます。検液作成方法は、環境庁告示第46号の付表と同様の手順で行われます。具体的には、採取した土壌を風乾して水分を飛ばし、小石や木片を取り除いた後、2mm目のふるいを通過させます。
参考)https://www.env.go.jp/council/10dojo/y108-03b/900432441.pdf
検液の作成は、測定する物質により異なる手順が適用されます。重金属類や農薬類の場合、風乾した土壌と純水を重量体積比10%の割合で混合し、常温常圧で6時間連続して水平方向に振とうします。振とう後、混合液をろ過して得られた液体が検液となります。揮発性有機化合物については、別の手順で検液を作成します。
参考)https://www.env.go.jp/council/10dojo/y109-04b/900432486.pdf
土壌含有量基準の測定は、環境省告示第19号に準拠します。採取した土壌を風乾し、2mm目のふるいを通過させた後、土壌と1mol/Lの塩酸を重量体積比3%の割合で混合します。この試料液を常温常圧で2時間、連続して水平方向に振とうし、ろ過して得られた検液を分析します。ふっ素、ほう素、シアン化合物については、より適切な溶媒抽出方法が用いられます。
参考)土壌汚染対策法(環告18・19号)全項目検査 - 土壌分析.…
土壌分析サービスでは、環境省告示に基づく全項目検査の詳細な手順を確認できます
建築事業者が最も注意すべきは、3,000㎡以上の土地の形質変更を行う場合の届出義務です。工事着手の30日前までに、形質変更の場所、着手予定日などを都道府県知事に届け出る必要があります。届出を受けた都道府県知事は、土地が汚染されているおそれがあると認めるときは、土地所有者等に対し土壌汚染状況の調査・報告を命じることができます。
参考)土壌汚染調査の調査義務について href="https://www.eco-j.co.jp/blog/250.html/" target="_blank">https://www.eco-j.co.jp/blog/250.html/amp;#8211; 解体工事なら…
特定有害物質を製造・使用・処理する施設(有害物質使用特定施設)を廃止した場合も、調査義務が発生します。これは土壌汚染対策法第3条に基づく調査で、土地の所有者が指定調査機関に依頼し、その結果を都道府県知事に報告する義務を負います。過去に工場やクリーニング店、ガソリンスタンドなどが操業していた土地では、特に注意が必要です。
参考)土壌汚染の調査義務が生じる場合とは?弁護士が土壌汚染対策法を…
都道府県知事が土壌汚染により健康被害が生ずるおそれがあると認める場合(第5条調査)にも、調査義務が生じます。この場合、土地所有者は行政の命令に従い、速やかに調査を実施しなければなりません。調査の結果、基準値を超過した場合は「要措置区域」または「形質変更時要届出区域」として指定され、台帳に記載されて公示されます。
参考)土壌汚染指定区域情報/加古川市
建築事業者にとって重要なのが、土地利用履歴調査の実施です。過去に工場や事業場として使用されていた土地では、特定有害物質による汚染のおそれがあるため、古い地図や航空写真を用いた履歴調査が推奨されます。地図製作会社から過去の地図を購入したり、航空写真で土地の変遷を確認することで、汚染リスクを事前に把握できます。
参考)https://www.pref.ehime.jp/uploaded/attachment/10468.pdf
指定区域となった土地で掘削・盛土・建設などの工事を行う場合、着手の30日前までに都道府県知事への届出が必要です。形質変更時要届出区域では、届出内容に基づき知事が計画変更命令を出すことがあります。要措置区域では、直ちに盛土や封じ込めなどの対策が必要となり、知事の指示に従って措置を実施する義務が生じます。
参考)土壌汚染対策法についてわかりやすく解説!対象や届出に関しても…
汚染土壌を区域外へ搬出する際は、事前(14日前まで)に都道府県知事に届け出るとともに、許可を受けた汚染土壌処理業者に委託しなければなりません。建築確認申請前の手続リストに土壌汚染対策法の届出を追加したり、年間工事予定表を作成して届出漏れを防ぐなど、社内体制の整備が重要です。自主調査で土壌汚染を発見した場合でも、自ら規制対象区域への指定を申請することで、適切な管理が可能となります。
参考)https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/032100/dojo/index_d/fil/todokedetirasi.pdf
経済産業省「今すぐ始める土壌汚染対策」では、事業者向けの実務ガイドが提供されています