有害物質一覧と建築事業における管理規制

有害物質一覧と建築事業における管理規制

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有害物質の一覧と分類

建築現場で注意すべき有害物質
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建材由来の化学物質

アスベスト、ホルムアルデヒド、VOCなど建材から発散される有害物質

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重金属類

カドミウム、鉛、六価クロム、水銀など土壌や建材に含まれる重金属

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法規制対象物質

労働安全衛生法や化審法で管理が義務付けられている640物質

建築事業で取り扱う有害物質は、化審法により「人の健康を損なうおそれ又は動植物の生息・生育に支障を及ぼすおそれがある化学物質」として幅広く定義されています。これらの物質は性状や用途に応じて複数の分類方法があり、適切な管理のためには各分類の特徴を理解することが重要です。
参考)https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/about/about_index.html

毒物及び劇物取締法では、保健衛生上の見地から必要な取締を行うため、毒物と劇物を指定し規制しています。職場のあんぜんサイトでは、安衛法に基づいて公表された化学物質を検索できるシステムが提供されており、事業者はSDS作成の参考として活用できます。
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/kag_fnd.aspx

リスクアセスメント対象物については、労働安全衛生法により640物質が指定されており、建設業では塗装作業や接着作業などで対象物質を取り扱う際にリスクアセスメントの実施が義務付けられています。化学物質管理者の選任やばく露濃度の最小化など、事業者が講じるべき措置が詳細に定められています。
参考)https://www.kensaibou.or.jp/safe_tech/leaflet/files/chemical_substance_handling_work_risk_assessment.pdf

GHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)では、化学物質の有害性を物理化学的危険性、健康有害性、環境有害性の3つのカテゴリーに分類しています。健康有害性には急性毒性、発がん性、生殖毒性など10項目が含まれ、各項目について段階的な危険度が設定されています。
参考)https://www.nite.go.jp/data/000156349.pdf

有害物質の主要な種類と健康影響

建築現場で遭遇する有害物質は、その化学的性質により大きく分けて有機化合物と無機化合物に分類されます。有機化合物の代表例としては、揮発性有機化合物(VOC)が挙げられ、トルエンキシレンエチルベンゼンなどが塗料や接着剤の希釈溶剤として使用されています。これらの物質は呼吸器から体内に取り込まれ、頭痛、めまい、吐き気などの急性症状を引き起こす可能性があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11742009/

無機化合物では重金属類が重要な位置を占めており、土壌環境基準で指定される「重金属等」にはカドミウム、鉛、六価クロム、ヒ素、水銀、銅、セレン、フッ素、ホウ素が含まれます。これらの重金属は生体への蓄積性があり、慢性中毒を引き起こす特徴があります。カドミウムについては、建材中に微量含まれることがあり、石灰岩で平均1.39mg/kg、砂岩で0.86mg/kgの濃度が検出されたという研究報告があります。
参考)https://www.city.chitose.lg.jp/fs/5/9/9/9/6/7/_/____.pdf

重金属による健康影響は多岐にわたり、鉛は生体への蓄積性があり慢性中毒を引き起こし、六価クロムは皮膚潰瘍、胃・肺がん、鼻中隔湾曲などを発症させる可能性があります。重金属は必須元素である銅、鉄、マンガンを金属結合部位から置換し、フェントン反応を介して活性酸素種を生成することで、脂質、タンパク質、DNAに損傷を与えます。​

有害物質のアスベストと石綿関連規制

アスベスト(石綿)は、天然に産する繊維状けい酸塩鉱物で、その繊維が極めて細いため飛散しやすく、吸入すると肺がん、中皮腫などの重篤な健康障害を引き起こします。建築基準法では、建築材料への石綿添加とあらかじめ添加した建築材料の使用を禁止し、増改築時の除去を義務付けています。
参考)アスベスト(石綿)に関するQ&A |厚生労働省

労働安全衛生法では、石綿及び重量の0.1%を超えて石綿を含有する全ての物の製造、輸入、譲渡、提供、使用を全面的に禁止しています。昭和50年にはビル等の建築工事における保温断熱目的の石綿吹き付け作業が原則禁止され、平成18年9月からはアスベスト含有建材の製造・使用等が全面的に禁止されました。
参考)【2025年最新版】施行時期や改正内容など法律から学ぶアスベ…

石綿障害予防規則では、建築物の解体等の作業における石綿ばく露防止対策が詳細に定められており、過去に輸入された石綿の大半が建材として建築物に使用されているため、将来にわたって解体・改修工事における対策が必要です。大気汚染防止法では飛散の恐れのある場合の勧告・命令、報告聴取・立入検査などが実施されます。
参考)石綿障害予防規則など関係法令について |厚生労働省

日本では2006年までに段階的にアスベストの使用が制限され、最終的に全面禁止に至りましたが、既存建築物には依然としてアスベスト含有材料が残存しているため、適切な管理と除去作業が求められます。世界的には52カ国でアスベストが全面禁止されていますが、クリソタイル(白石綿)の「管理使用」を認める国も存在します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2920906/

有害物質のVOCとシックハウス対策規制

揮発性有機化合物(VOC)は、建築物の室内空気を汚染する主要な化学物質群であり、シックハウス症候群の原因となります。厚生労働省は健康被害を招く恐れがある13種類のVOCについて室内濃度指針値を定めており、その中で最も有害とされるホルムアルデヒドの室内濃度指針値は0.08ppmに設定されています。
参考)一般社団法人日本バルブ工業会 - 環境関連情報:有害物質規制…

建築基準法によるシックハウス対策では、ホルムアルデヒドとクロルピリホスの2物質が主な規制対象となっています。クロルピリホスは主にシロアリ予防に使われてきた有機リン系VOCで、全面使用禁止とされました。ホルムアルデヒドについては、発散量に応じて建材がF☆からF☆☆☆☆までの4段階に等級分けされ、星の数が多いほど使用面積の制限が緩和されます。
参考)https://yawata-home.co.jp/kenchiku-kijyun/kenchiku-ki.html

ホルムアルデヒドの主な発生源は、合板・パーティクルボードの接着に使用される尿素-ホルムアルデヒド系接着剤や、壁紙用接着剤の防腐剤です。人に対する影響は主に目、鼻、喉に対する刺激作用で、不快感、流涙、くしゃみ、咳、吐き気、呼吸困難などの症状が表れ、動物実験では発がん性も認められています。
参考)東京都健康安全研究センター href="https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/lb_kankyo/room/index-j/s1/" target="_blank">https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/lb_kankyo/room/index-j/s1/amp;raquo; 室内を汚染してい…

その他の規制対象VOCには、アセトアルデヒド(指針値0.03ppm)、トルエン(0.07ppm)、キシレン(0.20ppm)、エチルベンゼン(0.88ppm)、スチレン(0.05ppm)、パラジクロロベンゼン(0.04ppm)、テトラデカン(0.04ppm)などがあり、それぞれ建材、接着剤、塗料、防虫剤などから発生します。建築基準法では、ホルムアルデヒドを含まない住宅でも家具などからの発散に対応するため、24時間365日換気できる常時換気設備の設置が義務付けられています。
参考)【一級建築士監修】揮発性有機化合物(VOC)って何?知ってお…

有害物質の重金属類の環境基準と管理

重金属類は建設工事において自然由来と人為由来の両方から検出される重要な有害物質群です。土壌環境基準では、カドミウムの溶出量基準が0.003mg/L以下、含有量基準が45g/kg以下と定められており、農用地では米1kgにつき0.4mg以下という厳格な基準が設けられています。
参考)https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/region/recycle/d11pdf/recyclehou/manual/shizenyurai2023.pdf

カドミウムは常温で銀白色の柔らかい金属で、地球の地殻に広く分布し、通常は亜鉛を精錬する際の副産物として生産されます。用途としては、ニッケル・カドミウム蓄電池が需要のほとんどを占めるほか、メッキの原料、合金の成分、塩化ビニル樹脂の安定剤、プラスチック・ガラス製品の顔料などに使われてきました。日本では鉱山から排出されたカドミウムに汚染された地域でイタイイタイ病が発生した歴史があります。
参考)カドミウム及びその化合物(第二種特定有害物質)について|土壌…

環境中へ排出されたカドミウムは、大部分が土壌粒子や水底の泥などに吸着され、一部が水に溶けると考えられます。土壌のpHが高いと土壌粒子へのカドミウムの吸着性が大きくなり、植物への吸収が抑制されます。水田では出穂3週間前から収穫10日前までの期間に還元状態を保つことで、カドミウムが水に溶けにくくなり、米への吸収を低減できることが確認されています。​
その他の重金属として、鉛は鉛蓄電池、鉛管、ガソリン添加剤など用途が広く、生体への蓄積性があり慢性中毒を引き起こします。六価クロムは化学工業薬品・メッキ剤などに用いられ、皮膚潰瘍、胃・肺がん、鼻中隔湾曲などを発症させる可能性があります。セメント産業では、原材料の違いにより鉛とカドミウムの投入量が異なり、これらの重金属の大気への排出が懸念されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8387992/

有害物質のリスクアセスメント実施体制

建設業における化学物質管理では、平成26年6月の労働安全衛生法改正により、640物質を対象としたリスクアセスメントの実施が義務付けられました。事業者は化学物質管理者と保護具着用管理責任者を選任し、リスクアセスメント対象物について労働者のばく露濃度を最小限度にする必要があります。
参考)https://www.shimakenkyo-ohda.jp/wp-content/uploads/2025/06/c7504b3661aacb6efd2815679cae5aaa.pdf

リスクアセスメントの実施には、危険性・有害性の特定、リスクの見積もり、リスク低減措置の検討という一連の流れがあります。有害性のリスク見積もりには、作業場の気中濃度を測定してばく露限界値と比較する実測法、または気中濃度を推定する推定法が用いられます。実測が難しい場合は、コントロール・バンディングという簡易的手法も認められています。
参考)職場のあんぜんサイト:化学物質:化学物質のリスクアセスメント…

リスクアセスメント結果とばく露濃度低減措置の内容は、関係労働者に周知するとともに記録を作成し保存する必要があります。リスクアセスメント結果は最低3年間保存が必要で、ばく露濃度低減措置の内容も3年間(がん原性物質については30年間)の保存が義務付けられています。
参考)https://www.okumuragumi.co.jp/partner/news/partner_user/data/%E5%88%A5%E8%A1%A8%EF%BC%91%EF%BC%9A%E6%9C%89%E5%AE%B3%E5%8C%96%E5%AD%A6%E7%89%A9%E8%B3%AA%E3%81%AE%E7%AE%A1%E7%90%86%E3%81%A7%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E8%80%85%E5%8F%8A%E3%81%B3%E5%B7%A5%E4%BA%8B%E6%89%80%E3%81%8C%E5%BF%85%E8%A6%81%E3%81%AA%E6%8E%AA%E7%BD%AE.pdf

労働者への周知方法としては、①取り扱う各作業場の見やすい場所に常時掲示または備え付ける、②従事する労働者に書面を交付する、③電子データとして記録し閲覧可能にする、のいずれかの方法が認められています。濃度基準値を超えてばく露したおそれがあるときは、速やかに医師等による健康診断を実施し、健康診断結果を5年間(がん原性物質については30年間)保存することが求められます。​
建設業労働災害防止協会「建設業における化学物質取扱い作業のリスクアセスメント」
リスクアセスメントの具体的実施方法と事例が詳しく解説されています。

 

厚生労働省「石綿障害予防規則など関係法令について」
石綿関連の法令と事業者が講じるべき対策の全体像が確認できます。

 

環境省「石綿に関する法令等」
建築基準法、大気汚染防止法など石綿規制の法体系が整理されています。